19 喋る仮面
手に取った仮面を直ぐに放す、だが仮面が不自然な動きをしていたのは見られてしまっただろう。
「タナート、今のをどう思う?」
「私には仮面が浮いているように見えましたね」
騎士は目の前に落ちた仮面と手に持っている時計に交互に目をやる。
「『リードの針時計』はこの仮面を指している、事件に関わる何かがあるのではないか?」
「見た限り魔石は無いように見えます、魔道具ではないかもしれませんね」
「表面上見えないだけで内部に内臓されている可能性もある、迂闊に触らない方がいい」
二人は仮面を前になにやら話し合っていた、この場を離れる気配は無い。
「どうしますか」
「身につけるという訳にはいかないだろう、装備することで何か体に悪影響があるかもしれない」
従者の男ははしきりに周囲を見回している、床に転がっているフードを手に取り周囲を歩き始めた。
「人が暮らしているような雰囲気がありますね、ここに暮らしている人物の持ち物なのでは?住人の帰りを待つのはどうでしょう」
「スラムに暮らす者は人前に出ることが出来ない者も多い、我々がここにいると姿を現さない可能性もある」
何時も身につけているフードは従者の手にある、予備もあるが身につけて姿を現そうにも二人が邪魔で身につける暇が無い。
「『リードの針時計』で探すのはどうですか?」
「先ほどから同じ位置をずっと示している。この針はいまいち使い勝手が悪くてな、なんというか最善を指し示すのだ、針が持ち主に会う事を最善だと思っていない場合針は持ち主を指し示さない」
(やはりあの時計は魔道具なのか?正直ここに居座られても困る、かといって何か解決手段があるわけではない)
タナートと呼ばれている男が落ちている仮面に手を伸ばそうとする。
「あまり迂闊にさわるなよ、見た目も正直気持ち悪い仮面だ、触ったら呪われるかもしれないぞ」
呪いの仮面、そう聞いてクロはふと思い出した、世の中には被ることで所持者の意思に関わらず喋りだすという仮面型の魔道具があるという事を。
仮面が動いている所は見られている、ならば意思ある仮面の振りをしてどうにかこの場を乗り切れないかと、そう思った。
それに仮面が喋れば驚いて引いてくれるかもしれない、そんな目論見もあった。
落ちていた仮面を拾い上げ顔に装着する。
二人には再び仮面が浮き上がったようにみえるだろう。目の前の二人が驚きながら一歩引くのが目に見えた。
「我、太古の昔から仮面に宿る意思也、人間達よ、何用だ」
急に喋りだした仮面に二人の動きが止まった。
「そこの二人、誰の許可を取ってここに足を踏み入れた、返答によってはタダでは済まさんぞ」
「なっ!?仮面が喋っただと?ナーデン様お下がりください」
従者の男が剣を抜き構える。
(まずい、僕は丸腰だぞ。切りかかられたら死ぬ、短慮すぎたか?)
「待てタナート、剣を下ろせ」
「しかしナーデン様!危険です!」
「くどい!下ろせと言っている!」
騎士はタナートと呼ばれている従者を後ろに下がらせると一歩前に出た。
「失礼しました仮面殿、私は教会騎士のナーデンと申します、後ろに控えている者はタナート、まずは無断であなたの領域に踏み込んだことを謝罪します」
「うむ、その謝罪受け入れよう、そして何ゆえここに足を踏み入れた」
(あぶない、斬られたら終わりだったぞ。話し合いになって良かった)
「実は我らはある事件の捜査をしているのです」
「捜査?」
「はい、詳しくはここで申し上げられないのですが、事件の手がかりを探し出す魔道具を所持しているのです。その魔道具がこの場所を示しており、この場に足を踏み入れることになったのです」
(事件の手がかり?やはりあの時計は魔道具だったのか?それを使ってここに辿り付いたという事か)
「あの、貴方は意思を持った仮面なのですよね、ここで一体何をしているのですか?」
「何をとは?我はここでただ暮らしているだけにすぎない」
「ここで?ですか?」
騎士は辺りを見回した後、少し考えるそぶりをしてからこちらに向き直った。
「あまり事件の事を外で話すのは憚られるのです、もし宜しければ我が家にお越し頂けませんか?色々お話したい事があります」




