18 魔道具 『リードの針時計』
屋台街を歩く、昨日は街へ行こうとしたが途中で思わぬトラブルに巻き込まれしてしまった。
体も痛かったので探索を断念したが今日こそは必ず探索を行うと決めていた。
もちろん透明人間として活動するため仮面と服は寝床に置いてきている。
(昨日の騎士はなんだったのだろうか)
教会騎士はある種の象徴でもある。
煌びやかな鎧を纏い派手な剣を持つ。
人前に出る時も場所も選ぶ人種だ。
見た目は男女ともに見目麗しい者しかなれないという噂すらもある。
そんな教会騎士がスラムに来るだろうか、もし来るとしてもわざわざ騎士服を着てスラムにはこないだろう。
変わった騎士であるのは間違いない。
そして関わるべきではない人種だろう。
その為今日は屋台街から街に向かうことにした。
昨日と同じ道を行くと教会騎士に出くわす気がしたからだ。
屋台街は少し道を外れると薄暗い路地裏が多数ある。
純粋に店の準備をしている者もいるが、暗い路地裏で怪しいことをしている者も多数見られた。
気になったので路地裏に足を向けてみると酒の匂いが充満していた。
何人かが横になり寝息を立てている、朝まで飲んで寝入ってしまったのだろう。
そんな酒に酔いつぶれた者達を介抱している者がいた。
服を捲ったりズボンのポケットに手を入れて忙しそうだ。
(違うなこれ、介抱している訳ではない)
(こいつスリだ。昨日も見た人だな)
スリの顔はフードを深く被っているので良く見えない。その動きは洗練されており昨日今日スリを始めた人間ではなさそうだ。
前回と同じように財布の中身を全て盗るのではなく数枚の硬貨を残して盗んでいる。
これがスリを長く続けるコツなのだろう。
「そこのお前、何をやっている」
ふと背後から声が聞こえた。
振り返るとそこにはなぜか昨日の教会騎士がいた。
(ナーデンという名前だっただろうか?)
その手には昨日と同じく懐中時計がある。タナートと呼ばれていた隻腕の男も後ろに控えていた。
「教会騎士!?なんでこんな所に!?」
盗みがばれたと思ったのだろうか、スリは直ぐに立ち上がり走り去ろうとする。
「待て、止まらなければ攻撃する」
スリは止まる気配は無い、脇目も振らず走り続けている。
それをみた騎士は懐から天秤を取り出した。
(あ、これはまずい)
逃げても間に合わないだろう、せめて騎士と体がぶつからないよう壁際に移動するのが限界だった。
瞬間体に圧が掛かる。
体が地面に縫い付けられる。
昨日体感したものと同じだ。
「逃げれば攻撃すると言っただろう。聞こえなかったのか」
スリは自分がなぜ地面に縫い付けられているのか分からない様子だった。
必死で立ち上がろうとしているが、もがくだけで立ち上がれない。
「なんだこれは!?どうなっている!?」
「盗みとは感心しないな、少し話を聞かせてもらおうか」
「くそっ!放せ放せっ」
何事かと周囲に野次馬が集まってきた。
近くで見ようと近づいて来た者は僕と同じように地面に縫い付けられている。
「お前には聞きたいことがある、少し長くなるぞ」
そう言うと騎士は持っていた時計に目を落とす。
「むっ?」
しばらく時計とスリを交互に見続けていた。
何かを考えるように沈黙している。
だが深い溜息をつくと天秤に掛けていた指をそっと離した。
その瞬間体に掛かっていた圧が消える。
スリに掛かっていた圧も消えたのだろう。驚いたように立ち上がり、騎士を一瞥した後勢い良く何処かへ走り去ってしまった。
「ナーデン様、いいんですか?」
「ああ、どうやら違ったようだ」
騎士は終始手に持っている時計を見つめている。
隻腕の男は集まった野次馬を散らし始めた。
この辺りの人間は比較的大人しいから大丈夫だろうが、奥の方だったら喧嘩になるような対応の仕方だった。
騎士は辺りを見回しながらその場をウロウロしている。挙動不審である。
だが何を思ったのか急に立ち止まり、手に持っている時計をじっと見つめ、動きが止まってしまった。
野次馬も去り辺りには沈黙が訪れている。
だが変化はすぐにやって来た、突然騎士の持つ時計が激しく揺れたのだ。
時計は意思を持っているかのように揺れ、今にも手のひらから飛び出しそうだった。
心なしか時計はこちら側に動いている気がする。
そして
騎士ががこちらをみた。
何も無い、誰もいないはずのクロがいる空間を
騎士はこちらをみながらゆっくりと歩いてくる。
その行動を見た瞬間、即座にその場から去ることにした。
(存在がばれた!?)
(なぜ!?)
もしかしたらバレてはいないかもしれない。偶然こちらに向かってきただけの可能性もある。
だがすぐにその考えを打ち消す。あの動きは何か確信を持ってこちらに向かって来ている様に見えた。
(あの時計のせいか?)
(あれは魔道具なのか?)
(だとしたらどんな効果が?)
走りながら考えるが答えは出ない。
どれだけ走っただろうか、気がつけば寝床まで戻ってきたいた。
あの騎士はついてきていない、なんとか振り切れたようだった。
さすがに距離を取れば大丈夫だろう。
今までもスラムには見えない何かがいると言う噂はあった、だが所詮噂は噂、都市伝説みたいなものだ。
見えない何かの存在など誰も信じていなかっただろう、だが今回あの騎士はこちらの存在を確実に認識しているように思えた。
どこの誰かも分からない騎士に存在を知られたくなかった。
なにか対策を立てないとまずい。
考え事をしていると少し肌寒く感じた。
透明人間として活動するため服は全て脱いでいた。
取り合えず服を着よう、まずは仮面からだ。
そう思い仮面を手に取る。
「仮面が浮いているだと?」
先ほど振り切ったはずの騎士がそこにいた。




