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17 魔道具 『竜玉の天秤』

 スラムの薄汚れた道を歩く、道の端には昼間から横になっている者が何人かいた。

 寝込んだ人間を狙い、一人の泥棒が懐を漁っている。

 泥棒の行動を近くで観察する、財布を取り出すと何枚かの硬貨を取り出している、全て盗むのではなく数枚盗むのがコツのようだった。

 これなら人によっては盗まれた事に気がつかないだろう。


 (参考になる、真似する気はないが)

 

 今日は日課のゴミ拾いを休み街を探索するつもりだった。

 街でみすぼらしい格好をしていると衛兵に止められることもある為、服は脱ぎ透明人間として探索していた。


 ゆえに全裸である。


 服や持っている物も透明になればよかったのだがそうではない、クロは不便な自分の能力に思わず溜息をついてしまった。


 街に続く細い一本道を歩く、ここを抜けると歓楽街に着き、やがて街に辿りつく。

 この辺りは集団で追いはぎをするゴロツキが出ることで有名だ。

 わざわざこちらの道を使う者はスラムでもいない。


 だがいつも利用する屋台街はなぜか今日に限って人が多かった。

 人とぶつかる懸念があったので仕方なくこちらの道を選んだのだ。


 道を歩くと地面に寝そべっているものが多数居る。

 そして見かける人殆どが体調が悪そうにみえた。


 (病でも流行っているのだろうか)


 そうして道ゆく人を観察しながら進んでいると前方から二人、綺麗な身なりをしている人物が歩いてきていた。


 (あれは教会騎士か?)


 一人は教会の騎士服を着ている、手に持っているのは懐中時計だろうか。

 もう一人は隻腕の小太りの男だ、こちらは騎士服は着ておらず使用人のような格好をしている。


 教会騎士はスラムにくるような人達ではない。

 彼らは煌びやかな式典や祭典で人前に姿を晒すのが仕事だ。

 戦闘行為も有事の際以外殆どしない。

 ここにくる時点で訳ありだろう、間違いなくトラブルを巻き起こすタイプだ。


 「おいそこの二人止まれ」


 案の定そんな声が聞こえたと思うと建物の影から複数の男達がでてきた。

 教会騎士を囲むようににじり寄っている。


 どうやら噂の追いはぎ集団のようだ、

 隻腕の男は腰に差してある剣に手を掛け男達を威嚇している。

 だが教会騎士は男達には目もくれず時計を凝視していた。 



 「聞いているのかてめぇ、さっきから時計ばっかり見やがって俺達は眼中にないってか?」

 「失礼、少し気になる事があったのでな」

 「まぁいい、ところで教会騎士がスラムに何のようだ?ここはお前らみたいな坊ちゃん達がくるような所じゃないぜ」


 追いはぎ集団はニヤニヤ笑いながら舐めるような視線を騎士達に向けている。

 各々が持っている凶器をチラチラと見せ付け高圧的だった。


 「というか騎士さんよ、お前男じゃなくて女か?女だったら俺達が遊んでやるぜ」

 「私の性別は見ての通りだ、それよりそこを通してくれないか」


 騎士は中性的な顔立ちをしていた。

 服装をみると青みが掛かったズボンを履いている。

 教会騎士の女性はズボンではなく長いスカートを履いている、だからこの騎士は男だ、そうクロは判断した。


 「おっとそうはいかねえ、ここらの治安は俺たちが守っているんでね、見知らぬ怪しい奴を通す分けにはいかないんだ」


 (スラムにそんな善人がいるのか、初耳だ)


 「どうしても通りたいのなら、そうだな、その手に持っている物魔道具だろ?それを通行料として置いていきな」


  「これが無いと探し物ができないのだ、悪いが諦めてくれ、それにここはスラムとはいえ街の一部だ、君たちに通行料を徴収する権利は無いはずだよ」

 「ごちゃごちゃうるせえ、ここじゃ俺達がルールなんだよ、さっさと身ぐるみ置いて帰るんだな」

 「最初から話し合いの余地はなかったようだね、遺憾だが自衛をさせてもらうよ」


 そう言うと騎士は懐から小さな天秤を取り出した。

 天秤は真っ黒に染められ土台に嵌まった赤い魔石が鈍く輝いている。

 中心の支柱には槍をもった竜の装飾がある。


 天秤は片方に振り切れているが皿の上には何も乗っていないように見えた。

 騎士が吊り上がった片方の皿に手を掛ける。



 その瞬間だった。



 視界が一転した。

 地面に叩きつけられ全身に痛みが走る。

 周りにいた人物全てが地面に体を叩きつける形になった。

 騎士に絡んでいたゴロツキ、使用人、そしてクロ。

 全員が地面に縫い付けられている。


 「この天秤は魔道具でね、使用者の周囲に強力な重力を発生させる魔道具なんだ、動けないだろう?スラムのような危険な場所で自衛手段を持っていないわけがないだろう」

 「て、てめえ、やめろ」

 「やめた瞬間君たちは襲いかかってくるだろ?しかしこのままだとじり貧だからね、もう一つ魔道具を使わせてもらうよ」


 騎士は片手で天秤に指を掛けたまま、今度は振り子のような物を取り出した。

 振り子の鉄線の先に鉛のような重りが付いている。

 重りには小さな緑色の魔石が組み込まれていた。



「これは人を眠らせる事ができる魔道具だ。動かない相手に数十秒間使用を続けなければならないが、今のこの状況なら可能だな」


 そう言って騎士は一人のゴロツキの前に振り子をぶら下げる。

 ゴロツキは振り子を見ないように眼を閉じていたが徐々に体から力が抜けていくのが見て取れた。

 

 「おやすみ、スラムでなんの自衛もせず眠ってしまう人間がどうなるかは知らないけど、無事である事を祈っているよ」


 騎士は別のゴロツキの前まで行き振り子を振っている。

 どうやら一人づつ眠らせるようだ。

 ゴロツキ達は抗議の声を上げていたがやがてそれも聞こえなくなった。

 全てのゴロツキを眠らせると地面に貼り付けられていた隻腕の男が声を上げた。


 「ナーデン様、終わったのなら『竜玉の天秤』を解いてくれませんか」

 「分かっている、タナートはせっかちだな」


 ナーデンと呼ばれた騎士が天秤に掛けられていた指を離す、その瞬間体に掛かっていた圧が無くなった。

 (助かった、このまま圧死するかと思った)


 「タナート、こいつらを一箇所に集めたい、手伝ってくれ」


 二人は地面に転がっている男達を引きずり一箇所に集めている。

 ゴロツキの足を持ち顔面は地面にこすれいる。だが彼らは起きる様子が無い。


 「ナーデン様、針はどちらを指していますか?」

 「針は奥を指したままだ、こいつらではなかったようだ。」


 (しかしこいつ危ないな、隻腕の男も見境無しに魔道具で巻き込んでいた。少し離れよう)


 「む?」


 こちらが動いた瞬間、騎士が顔を上げた。

 (なんだ?音を立ててしまったか)


 騎士は不信な顔をしている。手に持った懐中時計とこちらを訝しげな顔をして交互に見ている。


 「ナーデン様?どうかされましたか?」

 「なんでもない、それより出直したほうがよさそうだ。先ほど入口で絡まれたばかりなのにこれだ。この頻度で絡まれたら魔石が持たない」

 「そうですね、一度戻りましょうか」


 そう言って二人は来た道を戻っていった。

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