11 魔道具 『風神の腕輪』
【クロ視点】
時間は少し遡る。
『風神の腕輪』は見つかった、直に届けようと箱から腕輪を取りだす。
しかしこの木箱は何だったのだろう、元々二重底の箱に入っていたのだろうか。
二重底の木箱、そしてそれをゴミ捨て場に放置、盗んだ者の意図が読めない、考えても分からなかった。
『風神の腕輪』を手に盗り握る。
木箱はそのまま置いておく事にした。
日も暮れスラムの治安はさらに悪化している、大きい箱を持ち歩いて追いはぎに遭う可能性を少しでも減らしておきたかった。
腕輪は身に付ける事にした、そうすれば丁度外套に隠れるような形なる。
まず腕輪から魔石を外した、こうしておけば身につけても魔道具は発動しない。
『風神の腕輪』を腕に装備する。
腕輪が発動しないことをしっかりと確認してから夜のスラムに足を踏み出す。
探し物が見つかったことで自然と足取りも軽くなっていた。
ふと違和感を感じた。
『風神の腕輪』が一瞬光ったように感じたのだ。不審に思い右腕に付けた腕輪を見てみる、特に変わった様子はない。
気のせいだったと判断しそのまま歩き続けることにした。
夜道を歩く、いつもなら何処かで誰かが揉めている声が聞こえてくるのだが今日はやけに静かだった。
風もいつもより強い、嵐の前触れに雰囲気が似ていた。
それでも早く寝床に帰ればいいと足を進める、だが時間を追うごとに違和感が強くなっていった、そうして普段スラムでは感じない感覚に陥った。
普段はこんな時間まで起きていないから体調でも崩してしまったのだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、視界の端で何かが光った気がした。
右手を見てみる、すると身につけた『風神の腕輪』が淡く光っていた。
魔道具が起動しているようだった、魔石を外しているのになぜ?
疑問を抱いたがすぐに考えを中断した。
前方に複数の人影が現れたからだ。先頭の男が何かを持っているようだがこの場所からは良く見えない。
人数は4人、全員が武装しており頭からは長い角が生えていた。
オークション会場にいた黒角族という種族と特徴が一致している。
「あの子供じゃないか?腕に何か付けているぞ」
「おいそこの子供!ちょっとこっちに来い!」
来いと言われて行く訳が無い、どうみても堅気の人間ではなかった。
瞬時に逃げるルートを考える、入り組んだスラムの路地裏を選択し、黒角族の集団に背を向け走り出す。
「待てガキッ!」
「逃げたぞ!追え!」
走るしかない、追いつかれたら何をされるか分からない。
そうしてスラムの入り組んだ路地を選びながら走り続ける。
だがいつまで経っても黒角族の集団との距離が詰まる気配はなかった。
体が軽かった、走っていても疲れを感じない、いつもより早く走れているような感覚に陥った。
右手を見る、腕輪は先ほどよりもさらに輝いている。それを認識した瞬間自分が踏み込んだ一歩の力強さに驚いた。
先ほどまでとは比べ物にならない速さで景色が流れていく。
「あいつとんでもなく早いぞ!?」
「この速さ、あいつが装備しているのは間違いない、『風神の腕輪』だ!なんとしてでも手に入れろ!」
いける、これなら逃げ切れる。
ためしに軽く飛んでみる、するとどうしたことか屋根の辺りまで跳躍した。
狭く細い道を選んで進む、分かれ道を不規則に進む、それを何度も繰り返すことで黒角族との距離をとる。
暫く走り続けると背後から追いかけてくる気配が無くなった。
確認の為止まって後ろを見る、黒角族が追ってくる気配はない。
どうやら完全に撒けたようだ、ほっとその場で一息つく。
周りを見渡すといつの間にかスラムの境の近くまで来ていたようだ、そちらに足を向けた瞬間。
空気が震えた
はるか後方で何かが、先ほど『風神の腕輪』が起動した時に感じた空気の流れ、それを何倍にもしたような何かが弾けた。
空気の流れは一ヶ所に集まり一つの塊となっているようだった。
そして何かを砕く音がし、それと同時に力の塊がこちらに向かってきている。
逃げなければ!
何かは分からないがこれは絶対に追い付かれてはいけないものだ、追い付かれれば録な事にはならないのは分かる。
スラムの細い道を走る、地の利はこちらにある、『風神の腕輪』によって身体能力は上がっているはずだ。
だがそれでも距離を詰められているように感じる。
息も上がってまともに走れない、入り組んだ路地に入って撒こうかと思ったその時、頭上を先ほど感じた力の塊が追い越していった。
なにかが落ちた衝撃で辺りには土煙が舞っている、煙が晴れるとそこには一つの人影があった。それは人だった、いや正確には人ではないのだろう、なぜならその人物の頭には三本の角が生えているのだから。
黒角族だ。
「子供か、意外だな」
先ほど追い回されたのとは違う別の黒角族だった、
「お前『風神の腕輪』を持っているだろう、渡せ」
「これは僕の知り合いの物だ、お前に渡す理由がない」
その黒角族は巨体だった、あまりにも大きい為握っている剣が小さくみえる。
戦いを生業にしているのだろうか、服の上からでも盛り上がった筋肉が見て取れる。
「そうか、別にお前の許可なぞいらん、殺して奪うだけだ」
逃げよう、そんな事を考える暇も無かった。
気がついたら黒角族の男が眼前に迫り剣を振りかぶっていた。
「死ね」
恐怖から思わず目を閉じる。
どのくらいたったのだろうか、一秒?二秒?
いつまでまってもこない痛みに疑問を感じ目を開ける。
「いきなり斬りかかるとは随分物騒なんだな、スラムってのは」
そこには黒角族と鍔迫り合いをするラントの姿があった。




