10 見つかった探し物
ネールという女性がラントがどんな関係だったのかは分からない。
だがその女性が『風神の腕輪』を盗んだと確信しているようだった。
その女性が身につけていたであろうネックレスを握り締めている。
「爺さん、これを持ってきた奴はどんな奴だった」
「客の情報を教えたりはしない、だがそいつらは人殺しをするような奴らではないとだけ言っておこう」
スラムには遺体から金品を剥ぎ取る集団が居る、だが彼らはただ金品を剥ぎ取るだけではない、遺体の埋葬を行うのだ。
遺体は放置すれば疫病の原因にもなる、彼らは遺体を発見次第火葬し埋葬する。
そうして残った遺品を売りに来るのだ、このネックレスはその集団が持ち込んだものだろう。
「くそっ」
スラムにそういう集団がいる事は有名だ、ラントも今の会話で察したようだった。
「爺さん、このネックレス買うわ」
「銀貨一枚だ」
銀貨を持っていなかったのかラントは金貨を渡した、普段お釣りが多く出るような払い方はウルスは断る、だが黙って銀貨でのお釣りを渡していた。
「俺はもう少しスラムを探す、キアラお前は家に帰れ、出口まで送る」
「兄上?」
「クロ、世話になったな。ここまででいい、流石に死人がでている荒事に子供を巻き込むつもりは無い」
そう言ってラントは金貨3枚を渡してきた。
「ラント、お金はもうキアラから貰っているよ、だからいらない」
「いいんだ、受け取ってくれ、これは俺のけじめの問題だ」
「でも」
「じゃあ何か魔道具の情報を掴んだら教えてくれ、情報量の前払いだ」
一度は受け取りを断ろうとした、だが強引に渡された金貨を僕は受け取ってしまった。
「じゃあなクロ、達者でな」
「クロ君、今日は有難うございました。お元気で」
そう言って二人は去っていった。
昔にも同じ事があった気がした。
2人と別れた後はまっすぐ寝床に戻った。
落ち着かなった。
あのまま分かれてもよかったのだろうかと。
(そもそも僕のようなスラムの人間に仕事を与える必要は無かった筈だ)
(キアラと合流した時点で他に人を探すなど他にもやりようは沢山あった)
(オークションの入場料、2人にとっては端金だったのかもしれないが僕の分まで払う必要などなかった。最後に貰った金貨も払う必要など無かった)
(僕を雇ったのは彼らなりの優しさだったのではないか)
心に引っかかる物があった。だが悩み続けたところで答えは出ない。
(やめだやめ!考えても仕方が無い。そもそも人の事を気にかける余裕などないのだ、毎日生きるだけで精一杯なのだから)
まずは手に入れた金貨を隠そうと思った、治安の悪いスラムでそのまま置いて置けば確実に盗まれるだろう。
(どこかに隠さなければ)
物置にしている階段下を漁る、ここの奥に隠して置けばそうそう見つからないはずだ。
置いてある雑貨や衣類をどかしていく、すると奥のほうには先日隠した木箱見えた。
忙しくて存在をすっかり忘れていたゴミ捨て場で拾った木箱だ。
(この中に隠すか?)
そう思い蓋を開ける、先日売却を拒否した指輪が箱の中にポツンと納まっていた。
しかし大きい箱だ、小さな指輪の魔道具一つ入れるのにこんな多きな箱を使うのはいささか不自然に感じた。
そう思い箱を別の角度から見ようとするとゴトゴトと音がした。
(ん?まだ中に何か入っているのか?)
箱を覗いてみるがおかしな所は無い。箱の底面がみえるだけだ、何も無い。
だが良く観察すると不自然なくらい底が浅い、底面にある板は安っぽい木で貼り付けてあるだけのようだった。
底面のカドからは小さな紐がでている。
(これ、もしかして取れるのでは?)
紐を引っ張ってみる、すると箱の底が外れてしまった。どうやら二重底になっていたらしい。
板を取り出して改めて中を見てみる、そこには金色の腕輪が収められていた。
腕輪には細かい細工がしてある、寝床に僅かに漏れている光が反射してとても綺麗にみえた、そして腕輪の中心に大きな魔石が埋め込まれている。
(『風神の腕輪』だ)
*
【ラント視点】
日は完全に沈み辺りは闇に包まれていた。
視界の端ではゴミを漁る小さな生き物のガサガサという音が響いている。
キアラを送る為スラムの出口を目指し歩く。
妹ならば一人で大丈夫だと気持ちはあったが万が一という事がある。周囲を警戒しながらスラムの出口に向かい進む。
「兄上、家に戻る前に護衛の2人を探さなければなりません、気がついたら途中でいなくなっていたのです」
「それってお前……いやなんでもない、一緒に探すか」
護衛の2人……当たり前か、親父が年頃の娘を護衛も無しにスラムに寄越すわけが無い。
この分だとキアラが無理矢理頼み込んだのだろう、そして護衛を付ける事を条件にスラム行きを渋々了承したに違いない。
自分の父親の過保護振りにあきれたが、すぐに思いなおす。
結局護衛とはぐれているし、過保護で丁度良かったのかもしれない。
「キアラ、親父から何か預かっていないか?会話が出来る魔道具や位置を特定する魔道具とか」
過保護な父親なら何か持たせているという考えからの発言だった。
「魔道具ですか?うーんよく分からないアクセサリーなら渡されていますが、身につけると動きが鈍りそうなので着けていません」
そう言ってキアラが取り出したのはペンダントの魔道具だった。
その魔道具に見覚えがあった、所持している者の位置を特定する魔道具だ、自分が小さな頃よく父親に持たされていた物だ。
この魔道具は対になっていて片方の所在をもう一つの魔道具の位置を指し示す、おそらく護衛がもう片方を持っているのだろう。
これは身につけないと効果が発動しない、外している時点でただのアクセサリーだ。
護衛の奴らも大変だな。
「キアラ、それ身につけろ。つけた瞬間護衛が飛んでくるぞ」
「なんと、これはそんなに便利な魔道具なのですか」
そう言ってキアラは手にしたペンダントを身につける。
位置を特定する魔道具だ、護衛を呼び出す魔道具じゃない。
そう思いながら歩き続けるとスラムの出口が見えてきた、護衛と顔を合わせたくなかったのでキアラから少し距離を取る、合流したのを見届けたらスラムに引き返すつもりだった。
もしかしたら荒事になるかもしれない、いや、人が一人死んでいるんだ、荒事になるのは間違いない。
そう思い、『魔炎剣イクリプス』を触る。
この剣を使う必要があるかもしれない。
一歩足を進めスラムと街との境に立つ、だがその瞬間、耳をつんざくような爆音がスラムに響き渡った。




