ダンジョンゲート 5話
広場は混乱の渦に包まれた。
叫ぶ者。座り込む者。しきりにメニューを開こうとする者。
だが、中には冷静な者も居て、街中へ駆けて行った者や「ヘルプ」と言っている人がいる。
俺は・・・
辺りを見渡す。
あんな事があったというのに、誰も俺を気にしてはいない。
誰もが自分の事で手一杯なんだろう。
・・・そうだな。
俺は街中へ駆ける事を選んだ。
職業もそうだが、クリア条件を調べなければならない。
他の人達も今は混乱しているが、落ち着けばクリア条件を調べる為に神殿へ詰め寄る。
悪目立ちをした後だ。大勢の人がいる場所にはいたくない。
空いているうちに神殿を目指すのは定石だろう。
「あれか・・・」
走る先に教会のような建物が見えてきた。
すでに多くの人が並んでいる。
こんな状態だというのに、きちんと並んでいる辺り、さすが日本人。などと思うのは不謹慎か。
見たところ20人ぐらいが並んでいる。
1列に並んでいるので、最後尾に。
前に並んでいたのは高校生ぐらいの女性。
俺より頭ひとつ小さいことから身長は160cmぐらいか。
一言で言えば美人。
長い黒髪と整った目が印象的だ。
何処かで見た覚えが・・・そうか、先ほどの広場で質問をした少女だ。
彼女も直ぐに神殿を目指したのか・・・
冷静に考えれば誰もが目指す場所だろうが、直ぐに来ていることから彼女も・・・いや、今ここにいる人達は冷静に事態に対処しているのだろう。
・・・そういえば、中に入って行く人はいるが、出てくる人がいない。
どうなっているんだろうか?
・・・並んでいる人達の顔を覚えたり、考え事をしている間に前の少女の順になった。
扉がひとりでに開かれ、中に入って行く。
1分も経たずに扉が開く。次は俺の番か。
中に入ると、扉が閉まった音が響く。
・・・人が出てこなかったのはこういう理由か・・・
中には区分けされたボックスがずらっと並び、その中にタッチパネル式モニターが設置されていた。
まばらに人がボックスに入ってなにやら操作をしている。
これはすぐに来て正解だった。
ボックスの数には制限がある。
今はまだ空いているが、人がなだれ込んできたら待ち時間は相当とられるだろう。
あとは情報保守の精度か・・・
モニターが後ろや横から覗き見られるようでは危ない。
マキナが匂わせていた事の一つ、
『達成を知られると、デメリットが発生する。』
命がかかっている以上、油断をしてはいけない。
空いているボックスを探す振りをしつつ、油断してモニターが見え易くなっている人のモニターを覗く。
・・・見えないな・・・こっちもだ・・・やはり見えない・・・
間違いなく見える位置にいるはずだが、モニターは真っ白にしか見えない。
セキュリティがしっかり取られているようだ。
確認している間にボックスが埋まってきた・・・
締め出されては急いだ意味がない。
慌てて空いているボックスへ入る。
中にはモニターが1台とタッチペン、それと荷物置き場があった。
タッチペンでモニターを叩くとメニューが表示された。
1.預け入れ
2.引き出し
3.掲示板
4.職業
5.クリア条件
気になる項目は多いが、まずは職業の確認だ。
"4.職業"をタップする。
"確認には1000円が預金残高より引かれます。
タナ様の預金残高『100000円』
適性職を選ばれたので、初回利用のみ無料となります。"
画面に文字が表示され、メニューが2つ表示される。
1.職業確認
2.転職
ここは"1.職業確認"だな。
タップすると、画面に俺の職業と何ができるかが表示された。
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職業:シーフ
特性:短剣を基本装備とした前衛職
特技:敏捷度増加、解錠、罠感知、忍び足、暗殺、治療
レベル:1
体力:LV3
魔力:LV3
STR:LV3
AGI:LV5
VIT:LV1
DEX:LV4
LUK:50
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どういうことだ?
説明書で見た職業は4つ。
剣士、魔道士、僧侶、狩人だったはずだ・・・
いや、まてよ。
説明書でも事前告知でも楽しむため、適正判断を、かなり進めていたな・・・
こういう隠し職業があったと言う事か?
シーフと言う名称は微妙だが、スキルは良さそうなものが揃っていそうだ。
スキルの説明が出ないか名称をタップしてみる。
思った通り説明が表示された。
敏捷度増加:AGIに補正値がかかる。
解錠:鍵が必要な場所を開けることが出来る。
罠感知:罠の位置と解除方を知ることが出来る。
暗殺:相手に気付かれず接敵できた場合、即死の一撃を放つことができる。
治療:軽度の傷を治すことができる。部位欠損の治療は不可。
狩人の近距離職、と言う所だろうか。
暗殺はかなり強力だが、気付かれずに近づくのは難しいな・・・
取り敢えず職業は確認できた。
次にステータス。
変動制とは、この事を言っていたのか。
このLVが高いのか低いのかよく分からないが・・・
LUKだけは数値で表示されている。
最大が100なら平均値なんだが、よく分からないな。
次はクリア条件を確認しよう。
「いやったぁ!!」
画面に手を伸ばした時、どこからか男の声が聞こえた。
・・・なんだ?
声のした方を見ると20前半だろうか?少し遠いので顔は見えない。半袖にジーパンの青年が大声で呼びかけている。
「はーい、皆注目ちゅうもーく。
俺の名前は緒方 一成。21歳の大学生だ。
職業は魔法剣士、戦士と魔道士のいいとこ取り。
俺のクリア条件の一つは50人以上の人間に自己紹介すること。これは難易度Eだ。
二つ目は、必ず6人MAXのパーティーで狩りをすること。これは難易度B。
三つ目は一匹でもいいから階層ボスを倒すこと。難易度Cだ。
ここに最初から居るって事は、危機感を感じているってことだと思う。
俺とパーティを組みたい奴はこっちに来て職業と名前。クリア条件を言ってくれ。」
・・・うん?
この言葉には何かが引っかかった・・・
何が、ではない。何かが・・・ではあるが。
俺の思いとは裏腹に、モニタの前に立っていた何人かが緒方の元へ歩いて行く。
俺は・・・まだ条件を確認していないし、引っ掛かりが気になるので見送ろう。
「性格が悪いな・・・」
隣からボソッとした呟きが聞こえた。
横を見ると、がっちりとした体つきの男性と目が合った。
「あんたもそう思った口か?」
年齢は30は超えているだろうか?
筋肉質でスポーツか土木系の仕事をしていそうだ。
穏やかな表情だが、目は鋭い。
「あ・・・いえ、何かが引っかかりまして・・・」
気圧された訳では無いが、嘘をつく理由もない。ここは素直に答えておく。
「そうか。先程のやり取りから切れると思って居たが・・・
そのカンを大事にするんだな。」
「え?」
男性はボソッとそれだけを言うと神殿の出口へ歩いて行く。
「それはどういうっ!?」
問いかけるが、男性は振り返りもせず神殿から出て行った。
緒方の方を見ると、集まった人達を連れて外へ移動を始めている。
「他、合流する人いない?
いくつかパーティ作るからさ、皆来なよ。
確認中の人は城門前のフィールドで狩りしてるからさ、知り合いも誘って後から合流していいよ。」
大きな声で呼びかけ、ぞろぞろと出て行く。
何人かチラチラ見ている人達は、後で合流するつもりか?
まぁ、良い。
改めて"5.クリア条件"をタップする。
俺のクリア条件は・・・
1:通常プレイヤーとパーティは組めない。6人パーティを1度でも作成する事でクリア。 難易度B
2:パーティメンバー数は到達階層×1以内。最下層6階にたどり着くことでクリア。 難易度A
3:自分、もしくはパーティメンバーが迷宮の主を撃破する。 難易度S
目を疑う・・・再度見ても条件は変わらない。
先程の男性は最高でB難度と言っていた。
それに対し、最低がBとは・・・嫌がらせ、いや、大口を叩いた以上乗り越えて来いということか。
2と3は分かる。だが、1はどういう事だろう?
通常プレイヤーの他にいるプレイヤー・・・
モンスターに囚われているプレイヤーの事か?
「ヘルプ」
呟くと視界の右上に検索バーのようなものが浮かんだ。
どうやら調べたい事を検索する方式のようだ。
確か使い方は・・・
検索バーに右手を合わせ、"プレイヤー 区別"と念じる。
バーが消え、幾つかの項目が目の前に現れた。
その中からプレイヤー種類という項目をタッチすると、別の画面に切り替わった。
説明を読むに、プレイヤーは3つに別けられているようだ。
まず俺たちを通常プレイヤーと呼ぶ。
マキナの質問に本気でゲームをすると答えた人達で、その数3592人。
過半数が該当するようだ。
次に、マキナへ反抗的だったプレイヤー。
魔物に囚われ、救出を待っている。
無事、助け出されればプレイヤーとして復帰する。
名称は救出プレイヤーで、この数は1408人。
最後に、元スタッフ。
5000人とは別に、ゲーム内でのトラブル回避や諸作業をするために150人程ログインしていたようだ。
1部が処分され、過半数が各所に配置されている。
その中でも、望んだ1部の人がプレイヤーとして活動しているようだ。
名称はスタッフ。人数の提示はなかった。
どうやら、俺がパーティを組むことが出るのは救出プレイヤーとスタッフのみ。
救出プレイヤーの魔物に囚われているという状態はどうなっているのだろうか?
助ける為の条件や方法があるのか?
詳しく調べようとさらに念じて見るが、一向にヘルプは開かない。
・・・自分で調べろ、という事か。
少なくとも、1階層はソロで進まなくてはならない。
「情報が欲しいな・・・」
周りを見ると全ての席が埋まっていた。
常に扉から出て行く人と入ってくる人がいる。
いつまでもモニターを占拠しているわけにもいかないな。
情報を求めるためにも、俺はモニターの"終了"をタップし、席を立った。




