ダンジョンゲート 4話
忠告は忘れていない・・・だが、俺は叫んでいた。
叫ぶ俺と剣を振り下ろすマキナの目が合う・・・そして・・・男の首を刎ねた・・・
スローモーションのように、男の首と体が切り離された。
男の首は放物線を描き、俺の方へと飛んでくる。
ドンッ・・・ゴロゴロ
ピチャッ
地面に落ちた際、血が飛び跳ね、頬に付着する。
首は俺の目の前で止まった・・・
その表情は唖然としたままで、自分の死を未だ分かっていないようだ。
「キャーーーー」
「イヤーーーー」
「ひっ・・・しっ・・・しっ・・・」
周囲から悲鳴が上がる。
『このように一撃で死亡状態へ移行致します。
あぁ、静かにお願いしますね。
私は騒がれるのが1番嫌いなんです。』
マキナは俺を見据えたまま、にっこりと笑い、よく響く言葉を頭にぶち込んでくる。
男の体からは鮮血が続き、笑みをたたえたままのマキナを赤く染め上げる。
悲鳴はすぐに沈静化し、誰も話さない。
下手に騒げば次は自分の番だからだ・・・
『死亡したプレイヤーは、一定時間が経つと光となって消え去ります。
この時、肉体の方も死亡致しますのでご注意下さい。』
マキナの声を待っていたかのように、男の首と体は光となって消えた・・・
ご丁寧に血の跡まで綺麗にだ・・・
男の首のあった場所には、一枚のカードが残されている。
『ちょうど良いです。そこの貴方。
そのカードを拾って下さい。』
俺はマキナを見据えたまま、足元のカードを拾う。
ゴクリ・・・
俺は叫んでしまった・・・
ペナルティが発生するのか?
『そのカードはプレイヤーやモンスターを倒すとドロップするカードで、様々なアイテムやスキルが封じられています。
ちなみに何と書かれていますか?』
俺はマキナから目を離し、カードを見る。
カードには短剣の絵が描いてあり、"錆びた短剣"と書いてあった。
「錆びた短剣だ。」
『錆びた短剣ですか、初期装備以下の品ですね。
このように装備やアイテム、スキルはモンスターやプレイヤーから入手できるようになってます。』
モンスターだけでなく・・・人からもドロップが発生?
何故そんな仕様にしたんだ?
『最後に、このゲームからの解放条件です。』
・・・ごく
自然とカードを手にしたまま息を飲む。
先程までとは違った緊張感が場を包む。
『詳細はプレイヤーによって異なりますが、2つの条件をクリアすることにより解放となります。
1つ目は、ダンジョンの主の打倒。
2つ目は、個人毎のクリア条件を満たす事。
個人条件は1人につき、3つあります。
個人条件を満たし、ダンジョンの主を倒せば、無事ゲームクリアとなり、現実に帰れます。
注意点として、ダンジョンの主は一匹のみです。
個人条件を満たせないまま、ダンジョンの主が倒されるとクリア条件未達成として、ペナルティが発生しますのでお気をつけ下さい。』
ボスの撃破とクエストの完了・・・か。
5000人のクリア条件と一匹のダンジョンボス・・・
意地が悪い・・・
長くこの世界にいては脳にダメージが出る可能性がある。
だが、早くボスを倒してはクエストをクリア出来ていない人達が出る。
この二つを両立させなければならないのか・・・
「質問、いいでしょうか。」
中央の方から女性の声がする。
瞬間、人垣の中に穴が出来た。
穴の中央では、女性が手を挙げてぽつんと立っている。
高校生だろうか?遠目で詳しくは見えないが、制服から判断できる。
ずっと俺から目を離さなかったマキナだが、その声に反応したように目を離す。
『良いですよ。
手順を踏んで質問する分には答えます。』
「それではお聞きします。
先程、本気で参加する意思のあるものだけがここにいる。と言いましたが、意思を示さなかった人達は解放されたのでしょうか?」
女子高生の問いに、マキナは満足そうに笑みを深める。
『良い質問です。
知らないまま進んだ方が面白かったのですが、今の質問で"自分達だけが囚われた"と錯覚する人も出ますのでお答えします。
不公平の無いよう、招待した5000人全てがこのゲームに参加しています。
ですが、真剣にゲームに参加する意思の無い方は、他の方の足を引っ張る可能性があります。
なので、真剣になって頂けるよう、相応しい措置を取らせていただきました。』
どういうことだ?
『詳しく申しますと、モンスターに囚われ、ダンジョン内を彷徨って頂いております。
死の恐怖を味わいあうことで、真剣にゲームに参加していただけるでしょう。
彼等にも 一通りの説明はしてあります。ご納得いただいてますよ。』
モンスターに囚われ、ダンジョン内を彷徨っている?
・・・まさか。
マキナはそれ以上話すつもりがないのか、女子高生から目を離す。
・・・だめだ、まだ聞きたいことが幾つもある。
「「「はいっ!!」」」
他にも同じ事を考えた人が多かったか、何人かが手を上げる。
マキナは笑みをたたえ、それを見渡す。
『いいですね。
プレイヤーの皆さんの真剣さが伺えます。
ですが、あまり情報を開示するのも楽しくありません。
冒険とは、無から一つ一つ探り当ててゆくものですから。』
そう言いながら、視線を俺に合わせて止める。
『なので、貴方で質問は最後にしましょう。』
目が合うと、マキナは口元に笑みを浮かべた。
先程までの営業スマイルではなく、男を切った時の笑みだ。
・・・ゴクリ
背筋が凍る・・・額からは脂汗が流れる・・・逃げたい・・・取り消したい・・・だが、聞かないわけにはいかない。
周囲から人の気配が遠ざかるのが分かる。
「いいか?」
『良いですよ。
手早くお願いしますね。』
手早く・・・この一言に違和感が生じた。
マキナの言う通りなら、制限のある俺たちと違い、時間は無限のはず・・・
なのに何故だ?先程の女子高生の質問を早めに切り上げたり、正規の質問は良いと言っておきながら、すぐに質問を打ち切る・・・
なにか、離れたい訳でもあるのか?
ならば・・・
「質問は・・・いくつまで可能だ?」
その問いにマキナは一瞬笑みが消える。
直ぐに笑みをつくるが、目は笑ってない。
目の中に何か・・・0と1の羅列・・・?が浮かんでいる。
「ぐっ・・・」
不意に目の前のマキナの姿が霞む。
なんだ?息が苦しい・・・
苦しさに胸を抑える・・・
・・・なに?
目の前に・・・俺がいる・・・
表情は・・・見えない・・・
目の前の俺はゆっくりと手を伸ばし・・・俺の首へ・・・
絞められる。と思った瞬間、視界が開けた。
・・・っえ?
周りを見る。
・・・遠巻きに見ている人達と空に浮かんだマキナがいる。
もう一人の俺は・・・いない・・・?
何があったんだ?
『・・・お願い・・・』
かすかに声が聞こえた。
マキナの声?
マキナを見ると、こめかみを抑えている。
さっきの現象と関わりがあるのか?
目が合うと、取り繕った笑顔を作り、先程までと変わらない口調で話し始めた。
『幾つまで・・・ですか。
3つまで許可しましょう。』
「ありがとう。
では、一つ目だ。
モンスターに囚われていると言ったが、それはモンスターを倒せば解放されるものか?」
予想していた質問だったのか、すぐに答えが返ってくる。
『その通りです。
モンスターのみを倒すことが出来れば、解放出来るでしょう。
この答えで充分ですね。』
もったいぶった言い方だ・・・何か裏があると考えた方がいいだろう。
詳しく聞きたいが、質問はあと2つ・・・か。
「2つ目だ。
個人クリア条件は、達成すると分かるものか?
クリアしたつもりが出来ておらず、最後にペナルティを受ける。なんて事になりたくはない。」
この質問には何か含む所があったのか、答えが返ってくるのに少し間が空いた。
『クリア条件の成功確認ですか。
視覚化した方が分かり易いでしょう。ですが、デメリットも存在します。
神殿で達成確認、進行状況、達成することが不可になった等の閲覧ができるようにします。
この質問にはこれまでです。』
達成が不可になる・・・か。
条件次第ではそう言う事もあり得るのか。
質問はあと1つ・・・
「最後の質問だ。
今、説明のあった部分以外は、全て事前に配られているマニュアルと変わらないんだな?」
最後の質問はマキナにとって拍子抜けだったのだろう。
気がそれる・・・もしくは、見当違いでがっくりくる。というように、視線の中に含まれていた圧力がなくなった。
『その通りです。確認致しますか?』
「あ・・・あぁ。」
『ルール変更点
1.身体は現実に準じる。
2.メニューの封印。
3.痛みの解放。
4.生死が現実とリンクする。
5.プレイヤーからのドロップ追加。
6.解放条件の追加。
以上となります。』
マキナはにっこあと笑い、きびすを返そうとする。
「待ってくれ。」
俺はマキナに声をかける。
マキナは動きを止めるが、俺の方は見ずに答える。
『全ての質問に答えたはずです。』
そう言う訳には行かない。
「この中にはマニュアルを読まないでゲームに参加している奴もいる。
変更していないルールも言って欲しい。
メニューが封印されてしまった以上、ヘルプ機能は使えないからな。
本気でゲームをする以上、現実との差異はきちんと知っておきたい。」
『そのような事・・・』
マキナは面倒そうに口を開こうとする。
だが、何かに思い当たったのか、今度こそ俺の方を向いて笑った。
『くっ・・・あっはっはっはっはっ』
・・・何が可笑しい?
『やはり、面白いプレイヤーでした。
矛盾点をついてきましたか。
少々、見過ごすことが出来ないですね。』
マキナが右手を掲げ、光のエフェクトがあつまってゆく。
瞬間、
ボコッ
俺を中心に地面が陥没する。
「っぐうっ・・・」
息が吸えなくなり、全身が重くなったように立っていられない。
地面に倒れかけるが、ギリギリ踏みとどまる。
目の前が暗くなって・・・
『・・・お願い、私を壊して。』
閉じゆく意識の中、マキナの声が聞こえた・・・
ガツッ・・・
地面に頭を打ち付けたところで目を覚ました。
息が吸える!?
「・・・っぐほっ、ひゅー、ぜはー・・・はー・・・」
息を吸うと、体に酸素が供給される。先程までの苦しみが嘘のようになくなる。
こんな所まで再現されているのか・・・
上を向くと、両手で頭を抑えるマキナがいた。
先程までの取り繕った笑顔ではない。必死に何かに耐える表情だ。
『・・・仕方がない。
幾つかの項目のみ解放します。
"ヘルプ"と念じればゲームのルール、出来る事の一覧を表示致します。
・・・それで良いですね?』
それでも質問にはしっかり答えるんだな・・・
なら、ダメ押しをしなければ・・・
---すうっ
ひときわ大きく息を吸って、上を向いて立ち上がる。
「ゲームのルールに乗っ取り、必ずお前の元にたどり着いて見せる!!
絶対に・・・生き延びてやるからな!!」
光の奔流が視界を包む。
『楽しみにしていますよ。』
頭の中に柔らかな声色でマキナの声が聞こえたような気がした・・・
「くっ!?」
前触れもなく訪れた光に、全てが見えなくなる。
そして光が収まると、マキナの姿はどこにも見当たらなかった。
「今のは・・・」
くしゃっ
強く手を握ると、異物感がある。
見てみると、"錆びた短剣"のカードを握りしめたままだった。
「これは全て現実なんだ。」
呟くように自分に言い聞かせる。
こうして、俺の生き残りをかけたデスゲームがはじまった・・・




