ダンジョンゲート 3話
「っう・・・」
めまいに襲われ、片膝をつく。
・・・?
地面が先ほどまでと違い、石畳に変わっている?
顔を上げると、目の前には巨大な噴水が立っていた。
「ここは・・・?」
あたりを見回す。どうやらここは広場のようだ。
何人か人が・・・いや、虚空から新たに人が出現している。
名前と職業を決めると、広場へ来るようになっているのか?
だが、俺は職業を決めていなかったはず・・・
なら、何故飛ばされたのだろう?
他の人達も状況を把握できていないのか、大抵の人が困惑した顔で周囲を見渡している。
取り敢えずステータスを確認してみよう。
職業が決まっているのなら表示されるはず・・・
メニューは音声認識。
「ステータス。」
ぼそっと呟いてみるが何も表示されない。
違ったか?
「ステータス!!」
「メニュー!!」
「開けっ!!」
他にも試している人がいるのか、声が聞こえる。
「畜生っ、どうなってるんだ?」
「バグだっ、GM出てこいっ!!」
「運営何やってるの!!」
最初は開こうとしていたようだが、開かない事を知ると口々に騒ぎ出し始める。
いつの間にか広場は人で溢れかえり、大合唱になっていた。
「「「GM!!GM!!GM!!」」」
・・・うるさい・・・
余りにもうるさくなって来たので、人混みから外れように後ろの方へ下がる。
『お静かに。』
人混みの最後尾にたどり着いた頃、静かだが、頭に直接響く声が聞こえた。
声のした方向・・・後ろを振り向くと、噴水の上に女性が立っていた。
その風貌は先ほどあった女性、マキナだ。
存在感からか、先程の声のせいか、いつの間にかGMコールは止まっている。
『まだ、チュートリアルは終わっておりません。』
名前と職業を決めた後のチュートリアルは一斉に行う方式なのか?
「まだ容姿を弄ったりパラメータの割り振りとかしてねーぞ!!」
野次が飛ぶ。
この声は・・・朝、俺の前に並んでいた男か。
男の声を皮切りに次々と野次が飛ぶ。
『お静かに。』
再度マキナの声が響く。
『全て説明しますので、お静かにお願いします。』
2度目の勧告で自然とヤジが収まってゆく。
「納得できねぇ!!俺たちはプレイしてやってるんだ、なんで機械の言う事を聞かなきゃならねぇ!!」
静かになって行く中、野次が入る。・・・あの男だ。
話を聞きたい、いい加減静かにして欲しいが・・・
再度野次が湧くと思われたが、マキナの一言で続く野次は起きなかった。
『ペナルティを付与します。』
マキナが男を指差すと、静かになった。
男は口をパクパク開き、身振りで何かを訴えている。
ペナルティとは、1時的に言葉を封じたということか?
いや、今は分析している場合じゃない。マキナの説明の方が大事だ。
『これから説明をいたします。
まず、容姿変更と言う事ですが、身体における変更はありません。
理由として、ヴァーチャルリアリティ世界といえ、現実と違う体型では距離感を掴むのに時間が掛かります。
リアリティのある戦闘、本気で戦って頂くためには、不要な要素と判断致しました。』
理にかなってはいるのか?
だが、この手のゲームでは匿名で参加したい人も多いと思うのだが?
改めて自分を見る。
中肉中背、少し筋肉質気味。髪は目に入らない程度の長髪で色は黒。顔は・・・鏡を見ないと分からないが、この口ぶりだと変わってないのだろう。
『続きましてパラメーターですが、こちらは各人固定の数値となっております。
体型と骨密度、筋肉の発達具合から、現実と違和感無い身体機能となる数値に。
魔法系のステータスは、先程の受け答えの中から判断させていただいた数値となっております。
各人ばらつきはありますが、装備補正、レベル補正に比べれば微々たる違いです。
もちろんレベルは既存のRPGと違い、各パラメータの変動制となっております。力なら戦いや力仕事、速さなら敵の攻撃をかわしたり一定の距離を走るなど、行動に応じてパラメータがレベルアップしていきます。
また、数値として確認したい方は教会の司祭へ依頼してください。
有料で職業、パラメータを鑑定することができます。
職業を適性診断した方は、適性結果の職業でこの場に移動してきております。
自分の職業が気になる方は神殿でご確認ください。1度だけ無料で鑑定が行えるよう設定してます。』
そうか、俺は適性診断をしたから自動的に適性職業に就いたってことか。
不親切だな、適性を聞いた上で選ぶ事ができるわけじゃないのか。
『ゲームメニューの表示についてですが、こちらは管理者の権限で封印致しました。』
・・・え?
『付随しまして、皆様には本気でゲームに参加して頂くため、幾つか変更点を加えさせていただいてます。』
ザワザワ・・・
周りが、どよめき始める。
・・・どういう・・・ことだ?
『お静かに。静かに出来ない方は彼のように声をペナルティを与えます。
ここにいるのは、本気でゲームに向き合うと答えた方のみ。」
今まで、ただニッコリと微笑みながら説明していたマキナの雰囲気が変わる・・・
笑みはそのままだ。ただ、目だけが笑っていない・・・
「大人しく聞いていただけますね?』
ゴクリ・・・
やばいな・・・ここは大人しく聞いた方がいいだろう。
周りの人達も気づいたのかざわめきが静まり、緊張した空気が周囲を支配する
『まず、変更点の一つ・・痛みの解放です。』
・・・!?
『ダメージを受けても、痛みがなければ真剣味は薄れますよね?なので、現実同様の痛みを受けるようにしました。』
嫌な話しが、続く・・・たかがゲームで現実同様の痛みとか、冗談じゃない。
『二つ目、制限時間の撤廃。』
「ひっ・・・」
悲鳴が聞こえる。
・・・くそっ、完全に閉じ込められるのか。
だが、周囲が異変に気づけばあるいは・・・
『ご安心ください。たとえこの世界に何年居ようと、現実では数分しか経過しません。
案内者から話があったと思いますが、今の状態は夢を見ているようなものです。
脳内処理を最大限加速することで、1年がせいぜい1時間程度。
何年でも安心してこの世界に居てくださって結構です。
ただし、人間の脳が加速状態で何年も過ごすと、どのようになるか検証された事はありません。
そう考えると、早めにクリアした方がいいと思いますが。』
最悪だ・・・数時間程度じゃ周囲は何も出来ない・・・
しかも制限時間付きか・・・
『最後に注意事項です。
一部の方はお考えかもしれません。
この世界で死んだらどうなるのか?
お答えしましょう。
この世界での死は、"肉体の死"と繋がります。
死にたくなければ本気で生き残ってください。』
「ひぃっ!?」
「いやぁっ!?」
「たっ・・・助けてくれっ!!」
抑えていたタガが外れた・・・
恐れていた答えを出されたことで、周囲は恐慌状態となる。
俺は・・・頭の中が真っ白になって、ただ突っ立っていた。
なぜ・・・
とうして・・・
なぜ、こんなことになった・・・
そんな言葉だけが頭の中をくるくる回る。
『静かに、と言ったはずです。』
「っぐぅ・・・」
頭に直接響く声で、マキナの言葉が入ってきた。
先程までの響くだけの声ではなく、脳みそをかきまわされるような不快な声に地面に膝をつく。
・・・ぴちょん
なんだ?水の音?
再び静寂の訪れた広場に水の落ちる音が響く。
ぴちょん・・・
音に誘われ上を向くと、マキナの右横に1人の男性が浮いていた。
あれはペナルティを受けた男・・・男の股間が濡れたように変色し、裾から水の様なものがしたたっている。
その音だったようだ。
『それでは、効果を実感して頂くため、ペナルティを執行致します。』
ペナルティの・・・執行?
マキナが右手を上げると、その手に長剣が虚空から実体化する。
そのまま・・・
「ひっ!?」
誰かが息を飲む声が聞こえる。
マキナは男の左足を切り落とした・・・
足を切られた男は、最初は何が起こったか分からなかったようだが、自分の左足を見ると悲鳴を上げるかのように口を開けている。
『失礼、音声を封じたままでした。』
「ぐぁぁぁ、いてぇ・・・いてぇぇぇぇぇ・・・」
マキナの言葉に続いて男の悲鳴が響き渡る。
『このように片足だけでも相当な痛みが走ります。』
涼しい顔のまま、男の悲鳴をBGMに淡々と説明を続ける。
「更にこちらを見てください。』
マキナは男の頭上を指す。
そこにはゲームでよく見る赤と黒のゲージが浮かんでいた。
ゲージは赤が7割、黒が3割というところか?
少しづつ黒の割合が増えて行ってる。
『普段は表示されませんが、ダメージを受けるとこのように残りHPが表示されます。
現在、足を切られたことで3割近いダメージを受け、出血が続いているのでじわじわと減ってきています。』
男の悲鳴や切断面が生々しく、目を逸らしたいが逸らすことはできない・・・
『ゲーム特有ではありますがここに回復薬、ポーションを使用しますと・・・』
いつ剣をしまったのか、何も持っていない右手で虚空を掴む仕草をすると、試験管が現れた。
悲鳴をあげる男の足に向け、試験管の中身を振りかける。
「なっ!?」
切断されたはずの足が元に戻り、頭上のゲージは真っ赤になった。
『このように切断された傷も治り、痛みも消えます。』
男も訳が分からないように呆然としている。
『また、戦い方や攻撃の受け方によってクリティカルダメージというモノを追加しました。』
マキナの右手に剣が握られていた・・・
振りかぶられた剣は、そのまま呆然とする男の首に向かって・・・
まさか・・・
「やめろぉぉぉぉぉ!!」




