勇者 百分の一
ガヤガヤガヤガヤガヤ
シュラール王国王城。
普段は王と側近数名、さらに謁見を許されたもの1~3名の身が入ることを許される謁見の間。
そこには大勢の男女がひしめき合っていた。
「静かに!!国王の御前なるぞ!!」
広間に集められた大勢の男女が静かになり、壇上を見上げる。
そこには白髪に長い髭を蓄え、豪奢な衣装に身を包んだ男性が溢れる気品を放っている。
この国の王―国王である。
隣には金髪・碧眼、整った顔立ち、均整の取れた肢体、100人中120人が振り返るといっても過言ではない美少女―王女が座っていた。
つい先ほど―1分前までは確かに空席であったその場所に・・・である。
その驚きには、大勢の男女の喧騒などまるで霞のようにふっと消えたのである。
どのようにして曲芸じみた瞬間移動が成されたのかは判らない。
だが、間違いなく1分前に空席だった玉座に現れた事には変わりない。
相手は王族。
集まった男女の中にはその不可思議な現象に気づくものもあったが、すぐに膝を折り頭を垂れた。
その時点で気づき、逃げていれば助かった者も中には居るかもしれない。
しかし、相手はこの世界唯一の王族である。結局は早いか遅いかの違いでしかない。
この場に足を踏み入れた瞬間に、彼等の運命は決まっていたのだから・・・
「皆の者よ、よく集まってくれた。
この謁見の間へこれだけの人が入ってくるなど、前代未聞ではある。
だが、ここに集まったのは、神からの神託を受けた者達。
なれば、我が王国は神の意向に従うのみである。
集ってくれた99人の諸君に礼を言う。
今、我々人類は魔族に蹂躙され、明日をも知れぬ身。
このまま人類は潰えると思っていたが、神の温情があった。
一人一人特殊な能力を与えられ、魔族と互角以上の戦いをすることができる者・・・つまり勇者。
ここに集まっていただいた100人の勇者の力を合わせれば、魔族の王を倒す事が出来ると思っておる。」
100人という言葉にざわつきが起こる。
確かに国王は言った。
「99人の勇者よ」と。
「そうそう、紹介が遅れた。
隣に座るは我が娘であり、勇者の一人だ。」
隣に座っていた王女が優雅な仕草で立ち上がると、呼応して
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~」」」」」」
大勢の男女が国王からの声に歓声を上げる。
「頼もしい雄たけびだ。
さすがは勇者殿たち、その命わが国に捧げてくれるか?」
「「「「「「おう!!」」」」」」
「その言葉、しかと聞いた!!
王女よ、判っておるな?」
国王が王女へ声をかけると、王女は洗練されたしぐさで、
「皆の者、わらわは第三代国王 シェールの娘にして、勇者の一人、エラーなり!!
わらわの力となり、共に魔族と戦おうぞ!!」
と声をかける。
集った男女は興奮の中に歓声を上げる。
「「「「「「おう!!」」」」」
「ありがとう。」
歓声に答えるよう、深々とお辞儀をする。
顔を上げる際に中空をなでるように右手をスライドさせると、そこから漆黒の鎌が出現した。
「これが私の能力【魂食い】。
この鎌で切った人間を傷つけることは出来ないが、能力を奪い事が出来る武器だ!!
宣言どおり、皆のスキル我が物とさせてもらうぞっ!!」
そこに集まった98人の男女はその言葉の意味を理解せぬまま、一人、また一人と王女に切られていった。
そう、王は99人と思っていたが、実際には1人足りなかったのだ。
王女に切られた人間はそのまま意識を失い、床に崩れ落ちていった。
とっさに気づき、抵抗する者、逃げようとする者がいたが、既に遅い。
集まった男女は装備すら王城に入る前に取り上げられているのである。
すでに篭の中の鳥となるしかない。
そして謁見の間は一人の少女が無双する阿鼻叫喚の地獄と化していった。
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太一サイド
「なーなー、神託無視して良かったのか?」
「ってもなぁ?
このスキル【危機回避】で王都は危ないってアラームがなるんだよなぁ・・・」
年齢は20歳前後、黒髪・黒目、身長170cmで細マッチョな青年が、30cmぐらいの緑髪・緑目の少女を肩に乗せ、草原を歩いている。
「何その矛盾・・・?」
「だろ?そもそも、こんなスキルで魔族と戦えってのはおかしいだろ?
ただ危険を回避することが出来るだけだ。この力でどうしろっていうんだよ。」
「何も出来ないんじゃ?」
「だろ?だから神の力を授かった者なんてばらさず、ただの【さまよい人】として、元の世界に戻る方法を見つけるよ。」
この少年の名は西川太一、ごく普通に生まれ、ごく普通に生活し、ごく普通の大学へ授業を受けるところだった。
地球で悪戯し、この世界に返ってこようとしていたフェアリーと偶然出会い、起動していた帰還用魔法陣に飛び込んでしまい、この世界へ移動させられたのだ。
「ごめんね~。まさか帰る時の魔法陣に飛び込んでくるとはねぇ・・・私達の呪文だと、元の世界に戻すのは無理みたいだし、この世界で暮らしていく?」
とも尋ねられたのだが、
「いや、過ぎた事だ、気にする必要は無いよ。
この世界に住むかはこれから決めるとして、とりあえず歩くかな?」
と、あいまいな返事で返す。
フェアリーを責めようともせず、逆に労る様に。
「えへへっ、ありがと、だから太一の事、好きだよ。」
「俺もアリーの事は好きだぞ?」
「ありがとう・・・チュッ」
フェアリーのアリーが爪先立ちで太一のほおにキスをする。
太一の好きは Like
アリーの好きは Love
なのだが、2人が気づく事はない。
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姫サイド
「うふふ、これで勇者は私一人・・・
愛しの魔王様を殺せるのは世界に私だけでいいのよ!!」
「しかし、王女よ・・・
神が遣わしてくれた勇者様を騙し・おびき寄せ、その能力を奪うとは神の怒りがこの国を襲ったりしないだろうな?」
「お父様、目に見えない神と可愛い娘、どちらを信じるのかしら?」
「もちろん、ワシはお前しか信じないさ。愛する我が娘よ・・・」
「そう、なら神など信じなくていいんじゃない?」
「そうじゃな・・・」
国王に見えないよう、生み出していた勇者の能力【猛毒の戒め】を使わずに開放する。
「お前が望む限り、全てをかなえよう。
じゃから、ワシを嫌いにならんでおくれよ?」
国王は気づいていないが、この親バカによって、何度も自分の命を救っていることは知らない。
命を狙うのは、娘である王女しか居なかったが・・・
「私がお父様を嫌いになる必要がありませんわ。
それよりも、愛しの魔王様に早くお会いしとうございますわ♪
信頼している部下を1人づつ目の前で殺していき、最後に自分だけとなったらどのようなお顔をするのでしょう?
最後には魔王様と私の2人っきりで・・・うふっ・・・うふふっ・・・ぐふふふふぅ」
王女はヤンデレであった。
国を守るべき王がこのありさまだが、重臣や兵士達は青い顔でただ地面を見つめるばかりだった。
(俺達は何もみていないし、何もやってない・・・)と。
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太一サイド
「でもさ、国にも居られないんだろ?これからどこを目的地にするの?」
「そうだな、未だに国を向くと、アラームがピーピー鳴る。
相当ヤバイ事になってるんだろうなぁ・・・
・・・よし、アリーの国にでも行って見るか。」
「えっ、僕の親に挨拶に!?うわっ、メッチャ嬉しい♪」
「行っても大丈夫なのか?」
「うん!!絶対来てね!!
あ・・・でも魔族領に故郷があるんだけど大丈夫?」
「俺を誰だと思っている。それに魔属領の方向はどこを見てもアラーム鳴ないしな。」
「わーい、すぐ行こう。」
アリーは太一の手を取ると、強引に走り(飛び?)出した。
こうして太一は魔王城隣にある妖精の庭へと足を向けるのであった。




