第二章「闇の眷属」二節
「まさか……お前がここまで執念深いとはな。ゴルドー!」
アルバートが言うとゴルドーは怒りが増したのか、鍔追り合ったまま充血した目でアルバートを睨んでいた。それに伴ってカが増しているのか大槌は更にアルバートの剣を押していた。アルバートも後ずさりし始めており、耐えれるかも時間の問題だった。
バキュン!
その瞬間、乾いた破裂音が響いた。それと同時にゴルドーが突然バランスを崩して足を押さえていた。
「今のは……」
「お!当たったみたいね!」
落ちてきていた岩石の方から声が聞こえてきた。
見てみると岩石の上にピストルを構えたルナーが立っていた。さっきまでの麗しいドレス衣装からスタイリッジな海賊の姿に戻っていた。
「助かった。」
アルバートは礼を言うと大剣を横に構え、立ち直ったゴルドーの振りかぶリをかわしつつ一閃を決めてゴルドーの後ろへ駆けた。射撃に加えアルバートの斬撃で体から血を流すゴルドー。だが出血などものともせず、アルバートの方に向いて大槌を振り回しながら突撃してきた。
アルバートは突撃してくるゴルドーを向かえうつべく大剣を構えて踏みこんだ。
「グオオオオっ!」
ゴルトーが咆噂をあげると同時にアルバートの頭上に大槌を振り下ろしてきた。アルバートはその機を見極め、大剣でゴルドーの腕を狙って斬り上げた。ゴルドーの体から先ほどよりも出血がおきる。しかしそれでもゴルドーは倒れる気配が無かった。それどころかゴルドーの暴れる勢いは更に増していった。ルナーも狙いを定めて撃ち込むが、それでもこの怪物の勢いを止めることはできなかった。
「くそ!こいつあの時より頑丈じゃねえか!」
岩石投げ、 大槌…ゴルドーの猛攻を凌ぎながらアルバートとルナーは打開策を考えていたがゴルドーの怪力を抑える術が思いつかなかった。
「何かないかの?何か策は……」
そして、ゴルドーのフルスイングをかわした時だった。
アルバートのポーチから一枚の紙が落ちた。それは昼間女騎士から受け取った手紙と緑の液体だった。アルバートは今一度手紙に記されていたあの詩を思い返しす。
__鋼鉄なる肉体も病牙の前では腐敗の運命を辿るだろう。
「病牙……腐れ…」
「おい!若者っ!」
アルバートが思考を巡らせていると、頼もしい声が正面から聞こえてきた。落石で気を失っていたサムソンがいつの間にか起きて、アルバートにぶちかまそうとしていたゴルドーの大槌を素手で受け止めていた。
「大丈夫かぁ!何か筋肉の活用方法を思いついたのかぁ!!」
「……そうか!」
アルバートはハッとした表情で立ち上がった。サムソンの方を見るどゴルドーとの競り合いで押されそうになっていた。
「ぬおおお…負けるかぁぁぁぁっ!!」
だがサムソンは片手で押していたのをグレートソードを捨てて両手でゴルドーの大槌を掴んだ。そしてゴルドーもろとも放り投げた。
(あ!この距離いけるんじゃね?)
投げた先にはルナーがいる岩石だったが、ルナーはそれを逆手に取り、目の前へ投げられたゴルドーに向けて鉛玉を放った。
「うおおおおっ!?」
至近距離で胴体を撃たれたゴルドーは撃たれた腹部を押さえながらルナーを睨んだ。だがそれでアルバートへのヘートかほとんどなくなった。
「ルナー。ちょうどいいところに傷を作ってくれたな!」
アルバートは勝機が見えたと言わんばかりにゴルドーの傷口を見た。鉛玉によってできたわき腹の血が止まらない傷口は大剣を振り下ろすのに丁度良い高さだった。
「あの詩が正しければ、これは!」
アルバートは手紙に付いていた緑の液体の封を切って、大剣に塗ると、大剣は毒々しい刃と化した。
「おいゴルドー!お前が殺したいのは俺だろ?」
アルバートの声にゴルドーはすぐに反応した。傷口押さえながらゴルドーは片手で大槌を持ち上げて力強く地面を蹴り上げ始めた。
「うおおおお!!」
雄叫びと同時にゴルドーは力強い足音を鳴らして突進してきた。狙いはもちろんアルバートだった。
「今だ!」
目の前までゴルドーが見えた瞬間、アルバートは突撃を紙一重で見切り、わき腹を斬り裂いた。毒の刃がゴルドーの肉を深く抉る。ゴルドーにとってはかすり傷かもしれないが、 これがアルバートの狙いどおりだった。
「おお…おお……」
アルバートがふり返ると、血だらけになりながらもゴルドーが次の攻撃を繰り出そうとしていた。念の為アルバートは下りてきたルナーの前で大剣を構えた。サムソンもグレートソードを拾い上げて、いつ向かって来てもいいようにした。そして案の定ゴルドーが怒りに完全支配され、オーラ全快で走ってきた。血を流しながらが向かってくるその姿は荒れ狂う闘牛だった。アルバートも危機感で大きく踏み込んだ。
「ぐっ!?ガァ…!?」
突然ゴルドーが足をもつれさせた。 地を叩き割るはずだった蹄は石の地面に引っかかり、深い息か喉の奥でむせ返していた。雷鳴のような咆哮はくぐもり、赤い瞳にはどす黒い靄が差し込んでいた。
「グアアアア……」
ゴルドーの肩が痙攣し、腕は振り上げていた大槌の重みに耐えられず落とした。腕の血管も紫色に浮かんでいた。
「な、何?どうしたの?」
「やはり、毒だったか。」
緑の刃を見つめたままアルバートは戸惑うルナーに言った。紙に入っていた液体は毒キノコや炭を調合して作ら
れた重毒薬だった。破壊の象徴だった巨体は毒に侵されて屈する事のなかった膝は地面につき、痙攣したまま固まっていた。
「やるなら今しかないな。」
「待て!まさかとは思うが動けない相手を殺るつもりか!?」
諸手の構えで大剣を握り直すアルバートをサムソンは思わず止めようとしたが、アルバートは首を横に振った。
「犠牲者を出す訳にはいかない。」
呻き声を上げ続けるゴルドーにアルバートは大剣の狙いを定めた。
「お…お前も……」
今まさにトドメをトドメを刺そうとした時、ゴルドーが初めて言葉を発した。時き声に混じった言葉にアルバートは思わず動きを止めた
「お前も一緒だ…"あの女"ように知の無い奴を虐げ……抗えば死を下す……それも言い分も聞いてくれずにな…」
「……」
「けど堂々と来てくれると信じてたんだぜ。あの時もお前だけが……己のカで俺と戦い……俺の角を折ったただ一人……お前こそ知なき者たちの希望になるだろう…そう思ったのにな……」
ゴルドーの怒りに満ちていた目は、張り合いたかった戦士への失望にも見えた。
「さあ……トドメを刺めばいい……毒を用いた…その手でな……」
そう言いながらアルバートに不敵な笑みを向けるゴルドー。
「どうする?アルバート。」
ルナーとサムソンが様子を見守る中、アルバートは無言でゴルドーを見つめる。そしてゆっくりと剣を縦に構えた。
「あの世で見さめてもらうぜ。あの女の血を引 く男よ…」
後腐れなさそうに言い放つゴルドー。アルバートは何も答える事もなく、構えられた大剣は牛角の心臓を一直線に貫いた。
「まさか毒を用いたとはいえ、人の身で討ち倒すとはな…」
ゴルドーの死体を見てサムソンはつぶやいた。
「これしか討つ手がなかった。」
アルバートが自責するような言葉を吐いた。
「何気を滅入らせてんの?」
ルナーがアルバートの肩を小突いた。
「アンタは使えるもん使ってこいつをぶっ倒した。自分を責める理由なんてないわよ。」
「ああ……そうだな。」
アルバートは恐ろしい敵を倒したにも関わらず、その顔はもの悲しそうだった。
__お前も、"あの女"と一緒だ。
ゴルドーの言葉が彼の頭の中をずっと行き来していた。闇に堕ちても尚ゴルドーは己の力のみで自分と戦ってきた。だが自分はそれに対して毒を用いて殺した。憎しみの中にあったゴルドーの覚悟を踏みにじってしまった。その気持ちがアルバートに重くのしかかっていた。
「時にお嬢。貴殿、海賊だったのか?」
「え?今更気づいたの?」
サムソンの今更な質問にルナーは呆気に取られたが、すぐにニヤリと笑った。
「いかにも。あたし達は海賊だよ。でもそんなあたし達に仕事を頼んできたんだから……出すもんは出さないとね?」
ルナーは笑顔でサムソンに詰め寄った。
「わ、分かった!この魔族の武具は二人にやる。高値で売れるだろう!」
「うーん…まあいいわ!それじゃあさっさと回収するわよアルバート!」
「……ああ。分かった。」
「それとサムソン!あたしらの事王様とかにチクったら、分かってるよね?」
「ああ、下手に話してプロテインを取られたら嫌だからな…」
違うベクトルで保身を選ぶサムソンはルナーの要求を受け入れた。一方でアルバートはゴルドーの肩当てを手に取って見つめていた。純金でありながら激しい攻撃にも耐え、それでも輝きは失われていなかった。
(こいつは闇に立ちながらも、俺への怒りと闘志を絶やさなかったんだな。だが、俺は……)
角が折れ、それでも立ち上がってきた魔の戦士。だが今は安らかにあってほしい。その気持ちを抱えながらアルバートはゴルドーの腕を彼の胸に組ませるのだった。




