孤独な獅子、孤独な狼
これは幼い獅子の記憶。魔力も術師の素質も無い獅子は、国賓が来る日や式典の日は市街の外で時間を潰していた。 いつもの事なので獅子は苦に感じる事なく過ごしていた。この日も町外れの深い森の中で一人で遊んでいた。だがいつものように森の中へ入ると、一匹の狼が居た。 その狼は美しい紫色の毛並みに、他の子狼よりも一回り大きかった。だが家族のはずの群れとは距離を置いていた。いや、はぶられていたと言うべき空気が流れていた。現に狼達の目は冷たいものを感じた。
「君も、独りなのか?」
狼を前に、幼い獅子は怯える事もなく話しかけた。恐怖よりも、共通する孤独感が勝った。狼もまた獅子を襲う様子もなく彼を見つめていた。殺意の無い瞳を見て、獅子はゆっくりと近づいてみる。すると狼の方も同じ足取りで彼に歩み寄っていた。
その顔には仲間が居なかった寂しさと同じ境遇の者と出会えた安心感が浮かんでいた。その顔を獅子は優しく撫でた。
「大丈夫。俺も同じだ。」
その日を境に二人は友となった。心を開ける人が居なかった互いにとって始めての友だった。獅子は狼をシルリア (アンシャントの言葉で美しき獣)と呼ぶようになり、祭事の日も、普通の日も一緒の時間を過ごすようになった。共に過ごしていく内にシルリアが多くの魔力を持って生まれてきた事も知った。魔力か少なくて蔑ろにされた獅子と、魔力を持ちすぎて仲間から外された狼。だからこそ互いに心が惹かれた。
だがその日は獅子が十八歳の時に訪れた。彼は母である女王の命令により、遠い国へ外征へと行く事になったのだ。
「そういう事なんだ。ごめんな。」
獅子が申し訳なさそうに話すとシルリアはいつもより強く彼の膝にすり寄ってきて、離れようとしなかった。
「俺も本意じゃないんだ。だけど母上の命令には背けない。」
そう言ってアルバートは背を向けて歩き出す。だがすぐに「シルリア。」と振り向いた。
「約束する。生きて必ず、帰って来るから。」
そう約束を告げると、獅子は森の外へと去って行った。そしてそれが最後の会話となるのだった。忘れたくても忘れられない、雨の日の夜だった。




