2回目のデート
続きです!読んでください!
六月も後半に差し掛かり、教室の空気は少し湿っていた。世間ではもう季節は夏。自然が人を苦しめる時期だ。そんな中、自分の席でスマホを睨みながら真剣に悩んでいた。
「うーん……どうしよっかなぁ」
画面には夏服の写真。モデルが着ているからか、やたらとかっこよく見える。これを着てたら外で偶然莉子ちゃんに会っても――
『北斗くんって……おしゃれだね』
とか言われるんじゃないかと、そんな浅はかな期待が頭の中で膨らんでいる。想像の莉子ちゃんはかわいいけど値段がかわいくない。学生がポチっとするにはちょっと勇気がいる額だ。
「どーしたの?」
ひょい、と視界に影が落ちる。顔を上げると、いつの間にか横に立っていた木南が俺のスマホを覗き込んでいた。
「ん? あー、これ見てよ」
俺は素直に画面を差し出す。
「買おうか迷ってるんだけどさ、高くて」
木南はスマホを受け取り、画面を眺めてからぱっと顔を上げた。
「へー!浅倉くんって洋服とか興味あったんだね。それ似合いそうじゃん!」
「そうかな……」
なんか木南と話すと気分良くなるな。
「でも確かに結構高いね」
「でしょ?だから迷ってんの。ネットだからサイズとか失敗したら嫌だし」
「服は試着した方がいいよ〜。質感とかも分かるし」
木南はそう言って俺にスマホを返した。
「……それも分かるんだけどさぁ」
俺は少し声を落とす。
「なんか服屋って一人で行くの恥ずかしくない?結局どこのブランドがいいとかもあんま分かんないし」
木南は一瞬きょとんとして、それから笑った。
「あははっ。恥ずかしいは分かんないかな〜」
「だって木南は恥ずかしがらなくてもいいもん……」
かわいいっていいな。木南が来たら周りの客と店員さんが緊張し始めちゃうよ。
「うーん……どうしよっかなぁ。服屋でもいいなぁ」
買う買わないに第3の選択肢、服屋が追加されたことで、さらに俺が悩んでいると、木南がぱんっと手を叩いた。
「じゃあ私とお洋服見に行こうよ!」
「……え?」
急な提案に思考が置いていかれる。
「実はさ〜、今日ちょうど放課後に服見に行こうかなって思ってたの!一人だとつまんないなーって思ってたし浅倉くんも行こうよ!」
「え、いや……」
「ちょうどいいじゃん!浅倉くんは服欲しいけど、一人じゃ恥ずかしい。私はちょうど服を見にこうと思っていた。win-winだよ?」
木南はにこにこしながら、もう決定事項みたいな顔をしている。
「winなの俺だけじゃね……」
「細かいことはいいんだよ!」
「……マジで行くの?」
「マジマジ。任せて。ちゃんと似合うかどうか確かめてあげるから」
その言葉に少しだけ胸が軽くなった。正直、めちゃくちゃありがたい。けど同時に頭のどこかで小さな違和感もある。
これ莉子ちゃんのための服なのに、木南と一緒に選ぶのはなんか変じゃないか……?でもそんなこと言ったら話がややこしくなる。
「……じゃあお願いしようかな」
「よし決まり!」
木南は満足そうに笑った。
「木南と放課後にどっか行くって……」
「スタマ思い出すね!」
「またなんか言われないといいけど……」
こうして俺は木南と二回目のデートが決定したのだった。
⭐︎
放課後。駅前のショッピングモールは、学生と会社帰りの人で賑わっていた。
「よし!じゃあ行こっか!」
そう言って木南はズカズカと俺の前を進んでいく。
「うん……」
あぁ……来てしまった。二回目のデートでも気は抜けない。
シュガ男事件があったからな……マジで見つからないようにしないと。
木南の後ろ姿を見失わないように少し早歩きでついていく。
モールの自動ドアを抜けると、冷房の風が一気に体を撫でた。外の湿気が嘘みたいに消えて、思わず「はぁ……」と息が漏れる。
「まずメンズ見よっか!」
「え、先にいいの?」
「もっちろん」
木南は迷いなくエスカレーターへ向かう。俺はその後ろで周囲をキョロキョロしていた。
「浅倉くん?」
「あ、うん。大丈夫」
二階のメンズフロアに着くと、雰囲気がガラッと変わった。マネキンが無表情でキメ顔をしている。なんかもう、場違い感がすごい。
「うわ……帰りたい」
「早い早い」
木南が笑いながら俺の腕を軽く引っ張る。
「ほら、こういうとこは堂々とするの!男の子でしょ?」
「木南はいいけどさぁ……俺はこの空間にいるだけで浮いてるんだよ」
「浮いてないって。むしろ浅倉くん小顔でスタイルいいし、全然いけるよ?」
「えぇ……まじ?」
さらっと言うなそういうこと。着いていっちゃうだろ。
「ほらほら!行くよ!」
「うん……」
店に入ると、店員さんが「いらっしゃいませ」と笑顔を向けてきた。それだけで緊張する。木南はまるで自分の家みたいにラックを見始めた。
木南は足を止めると、顎に手を当てて少しだけ真剣な顔になった。
さっきまでのにこにこした雰囲気とは違う。俺のために真剣に選んでくれてる目だ。
「浅倉くんって普段どんなの着てる?」
「え、適当だけど……無地Tにジーパンとか?」
「想像つくな〜。遠足の時もそんな感じだったよね」
即答かよ。
「でもそれならちょっときれいめ寄せたら一気に変わるよ」
そう言って木南が最初に手に取ったのは、ハリのある白のオーバーサイズTシャツ。安っぽいペラペラじゃなくて、厚みのあるやつだ。
「インナーにも一枚でも使える万能。首元もしっかりしてるし」
「詳しいな」
「服好きだもん」
次に選んだのは黒じゃなくて“チャコールグレー”のワイドスラックス。
「黒よりこっちの方が柔らかい印象になるよ。浅倉くんには絶対こっち」
「違い分かんねぇ……」
「分かんなくていいの。私が分かるから」
頼もしすぎる。さらに薄手のネイビーのシャツを重ねる。
「夏でも腕まくりすれば全然いけるし、これ羽織るだけで一気に大人っぽくなる」
気づけば俺の腕にはコーデ一式が乗っていた。
「……え、これ全部?」
「うん。これで完成」
「完成?」
木南は俺に服を当てながら、少し離れて全体を見る。
「うん……やっぱり合う」
その言い方がなんか本気すぎる。周りを見ると、他の男たちがちらちら木南を見ているのが分かる。そりゃそうだ。こんなかわいい子が真剣な顔で男の服を選んでたら目立つに決まってる。
その視線に気づいてるのか気づいてないのか、木南はまったく気にしていない。
「試着してきて!」
「試着?」
「サイズ失敗したくないんでしょ?」
「そっか……」
俺はおとなくしく試着室に入った。
「全身選ばせちゃったけど……大丈夫かな」
「大丈夫だよ!」
「聞こえてんのかよ……」
そうして俺は着替えて、鏡を見た。
「おー……」
なんかちゃんとしてる。いつもの俺じゃないみたいだ。カーテンを開けると、木南がぱっとこっちを見た。
「予想通り。いいじゃん」
近づいてきて、袖の長さや肩のラインをじっと見る。
「サイズも完璧。これ買う?」
「どうしよっかな」
「これ着て外歩いたら、絶対振り向かれるよ?」
その言葉にふと莉子ちゃんの顔が浮かぶ。
『北斗くんって……おしゃれだね』
……言われたい。
「他も着てみよ!」
「まだ着るの……?」
「まだまだ行くよ!」
そうして俺は約1時間ほど木南と服を見ていた。着ては脱いできては脱いでを繰り返し、結局、最初のコーデが一番しっくりきたので俺はそれをレジに持っていった。
「ありがとうございました〜!」
袋を受け取ったとき、妙な達成感があった。店を出て歩きながら、ふとガラスに映った自分たちを見る。制服姿で並んで歩いている俺と木南。
服を選んでもらって、横に並んで歩いてて、楽しそうに話してて――
……なんか放課後にデートするカップルみたいだな。彼氏の服を選ぶ彼女じゃん。
こうやって鏡で見ると、いや……直接見てもそうなんだけど、木南ってめちゃくちゃかわいいし、優しいし、気遣いもできるし、しかもセンスもいい……。完璧だな。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
でも……こんな完璧な木南でも莉子ちゃんには敵わないって思っちゃうんだよな。
「次は私の服ね〜。浅倉くんも手伝ってね!」
木南が楽しそうに言う。
「俺、服はあんまり分かんないけど……」
「忌憚のない意見を伝えてくれるだけいいから!」
「それなら……」
手伝ってもらったのに「もう帰ります」とは言えるわけなくて、俺は再び、木南の後ろをついていった。
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