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言っちゃダメだよ?

続きです!読んでください!

レディースフロアへ向かうエスカレーターに乗ると、さっきよりも空気が軽くなった気がした。色味も明るさも香りも違う。


「浅倉くんは月にどのくらい服買うの?」

段差に揺られながら、木南が後ろを振り向く。


「え、年に数回レベルだけど……」

「少なくない?」

「まあ……今までの積み重ねとかあるし」

「なるほどね〜。でもデートの時は服被っちゃダメなんだよ?」

木南は軽い調子で言ったのに、その単語がやけに耳に残った。


「別にデートなんか……する相手もいないよ」

できるだけ自然を装って返す。


「え〜。莉子とか誘ったら来てくれると思うけどな〜」

「え!?」

声が裏返った。エスカレーターの機械音に紛れないレベルの大声。木南がきょとんと俺を見る。


「え、どしたの浅倉くん」

「ごめん……」

心臓が一気に跳ね上がる。急に莉子ちゃんとかいうなよ……。っていうか俺が誘ったら来てくれるのか……!?


頭の中で木南の言葉がぐるぐる回る。


「そ、それじゃあさ」

慌てて話題をずらす。


「き、木南はデートする時とか、被らないようにしてるってこと?」

必死に誤魔化したのが自分でも分かる言い方だった。


「え〜?デートとかしたことないから分かんないやっ」

あっけらかんと笑う木南。


「木南って……彼氏とかいないの?」

「いないよ〜!いたことない!」

「そうなの?モテるのに……断ってるんだ」

思ったまま口から出た。木南は目を丸くして、それからくすっと笑う。


「あははっ!モテるとかはっきり言うんだね」

「あっ、ごめん……嫌だった?」

「ううん。全然大丈夫」

木南は少しだけ視線を逸らして、手すりに指を添えた。


「告白とかはしてもらえるけどさ……なんか違うなーって思っちゃうんだよね」

「違う?」

「違うっていうか……私、話したこともないような人に告白されることが多いから」

「レベルが違うな……」

大変だな木南も。よく分からない男に告白されるって怖いよな。


「ちゃんとお互いを知ってからお付き合いとかしたいな〜って」

「なんか……意外かもな。木南は勢いで行く感じだと思ってた」

「ふふっ、確かに恋愛以外はそうかもね〜」

このショッピングモールだけで何人もの男が通り過ぎる時に木南を

見ていたかは数えきれない。木南も恋愛の面では悩むこともあるのかな。


「……その方がいいよ」

俺は立ち止まって、ぼそっと呟いた。


「え?」

木南もちょっと前で立ち止まってから俺を見る。


「木南はいい人だからさ。ちゃんとした人と付き合ってほしいよ」

「えっ……」

木南の目がほんの少しだけ見開かれる。そのまま、数秒。時間が止まったみたいに何も言わない。


やばい。俺、とんでもなく恥ずかしいこと言ったかも。

頭の中で、さっきの自分のセリフがそのままリピート再生される。


『木南はいい人だからさ。ちゃんとした人と付き合ってほしいよ』


なんだその保護者みたいな台詞。しかもボケとかじゃなくて真顔で言ってるし……距離感おかしいだろ……!


急に顔が熱くなってくる。


「いや……!あの、違くて」

慌てて言葉を足す。


「なんかその……ほら木南って誰にでも優しいし、変なやつに引っかかったら嫌だなっていうか」

どんどん墓穴を掘ってる気がする。木南はまだ俺を見ている。

でもさっきと違って、少しだけ困ったような、柔らかい表情。


「浅倉くんってさ」

静かに言う。


「たまにすごいことサラッと言うよね」

「……ごめん」

「なんで謝るの?私は嬉しいよ」

少しだけ視線を逸らして、手すりに触れたまま続ける。


「そういうこと言ってくれる人、あんまりいないから」

「……別に深い意味はないけどな」

「分かってるよ。浅倉くん、そういうの計算じゃ言えない人だもんね」

少しニヤニヤしながら話す木南。見抜かれてるな。


「でもね、浅倉くん」

木南は俺を見たまま、一歩近づいてくる。


「他に好きな子がいるのに、そう言うことは言っちゃダメだよ?」


「え……」

「早く行こ!」

ぱっと空気を切り替え、木南は前を向いて走り出した。


「ちょ、木南!? 今の……」

思わず声をかける。振り向くと、木南は軽い調子で手だけひらひら振って、


「なんでもない!忘れて?」

なんでもないわけ……ないでしょ。


俺は一人、木南の背中を眺めながら立ち尽くす。さっきの言葉が頭の中でぐるぐる回って離れない。


『他に好きな子がいるのに、そう言うことは言っちゃダメだよ?』


……木南にもバレてる?

いや……まさか。そんな分かりやすいか?俺。でも木南の言い方は、推測とか冗談とか、そういうのじゃなかった。


俺は慌てて木南の後を追う。


レディースフロアの明るい照明の中で、木南はもう一軒目の店の前で立ち止まっていた。さっきまでの話なんてなかったみたいに、ショーウィンドウを覗き込んでいる。


「浅倉くん!これかわいくない?」

声のトーンも、表情も、いつもの木南。


「……あ、うん」

俺だけがまださっきの会話を引きずってる。木南は店に入って、ラックから服を何着か取り出す。ハンガーをくるくる回しながら、色味を見たり、素材を触ったりしている。


その横顔を見ながら、俺は考えていた。


木南は俺が莉子ちゃんのことが好きだと気づいてるのか?


俺が莉子ちゃんの名前であんな反応したことも、俺が変なタイミングで話題逸らしたことも。さっきの「ちゃんとした人と付き合ってほしい」なんて台詞も。


木南には全部繋がって見えてるのかもしれない。


「ねえ浅倉くん」

ラックの向こうから顔だけ出してくる。


「どっちが似合うと思う?」

ベージュのワンピースと、淡いブルーのスカートを掲げる。


「えっ……」

急に現実に引き戻される。


「えっと……そっちの、青いほうかな」

「ほんと?じゃあ試着してくるね!」

木南はぱっと笑って試着室の方へ歩いていった。


「……うん」

返事をしながら追いかけようとして、俺は一度足を止めた。さっきの会話がまだ頭の中で引っかかっていた。


もし木南にバレてたとして……木南は莉子ちゃんに言うようなやつじゃないよな……?ていうか、別に隠すようなことでもないし、木南に知られたところで終わってしまうわけでもないだろ。


『他に好きな子がいるのに——』

あれ……完全に確信してたよな。


「……分かりやすいのかなぁ」

小さく呟いて苦笑する。バレてるんだったら変に取り繕う方がダサい。木南は気づいても、そんなに踏み込んではこないみたいだし。さっきだって、あれ以上何も言わなかった。

ありがとうございました!

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