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主の正体

挿絵(By みてみん)



宿場町を出発し、しばらく行った分かれ道で、通りすがりの人に来花は道を聞いていた。


「あぁ、湖に行くならこの道だよお嬢ちゃん。」

「おじさん、ありがとうごぜぇますだ。」


「お嬢ちゃん、一人であの村に行く気かい?」

「え?あぁ、そうだ、ちょっと用があるだべ。」


「あの村はやめとけ…」

「なんでだ?」


「噂で聞いたんだか、あの村では、おなごを生贄にするって話しだ、お嬢ちゃんあぶないよ、やめとけ。」

「おじさん、湖に何か棲んでるって聞いたことあるだか?」


「さぁ、湖の噂は知らねぇな、とにかく村に行くのはやめとけ。」

「おじさんありがとう、でも用があるのは湖だ、村には近づかねぇよ。」


「そうか、気ぃつけてな…」



『噂になってるようだな。』

「嫌な噂だ、早く退治しねぇと。」


『いいか、湖に着いたら刀先を水に付けろ!そうすれば俺があやかしの妖気を探る。』

妖気を探れば少しは何か分かるだろう…


「うん、分かっただ!」


しばらく山道を歩くと、木々の間から湖が見えてきた。

眼下に広がる湖は周りを山々に囲まれており、確かに何かが棲んでいそうではある。


「龍輝丸、これが湖だべ!」

『ほう…』


「何か分かるだか?」

『いや、こっからじゃ何も…』


誰にも会わないように、少し山道を外れて湖まで降りてきた。

村とは少し離れた湖畔、幸いひとけも無かった。


「じゃあ、やるぞ龍輝丸!」

『いいか来花、今日は調査だ、あやかしが出てきても闘ったりしないからな。』


「分かってるだ!」


来花は鞘から龍輝丸を抜くと、ゆっくり水辺に近づき、刀先を水につけた。


『さて、どんな妖気かな…』



しばらく待つが、龍輝丸の返事は無い…

「集中、してるだか…」



『来花よ…』

やっと龍輝丸が喋った。


「龍輝丸、もうええだか?」

『あぁ、もういいよ…』

来花は刀をしまった。


「龍輝丸!なんか分かっただか?あやかしはどんな奴だ?」


『それがだな…』

「どうしただ?そんなにやべぇ奴なのか?」


『分からねぇんだ。』


「…どういうことだべ?」


『分からねぇ、いや、正確には何もいねぇ…』


「何もいねぇって?今はあやかしがいないんだか?」


『あぁ、多分いない…』


「留守か?あやかしはどっか行ってるだか?」


『いや、そうじゃない…』


「どっか行ってるわけじゃねぇのか?」


『そもそもいないんだ。』


「そもそも?まさか誰かが退治したんだか?あれから数日しか経ってないのに、もう誰かが退治しただか!」


『いや、そうじゃなくてだな…』


「龍輝丸、どういうことだべさ!」


『来花、よく聞けよ。』

そう言って龍輝丸は話しはじめた。


妖気ってのはそう簡単に消えるものじゃない…

だから刀先でも水につければ、ある程度は分かるはずなんだ。


でもここには妖気がない、まったくないんだ。

これは少なくとも、百年間はそういった妖魔やあやかしが棲んでいなかったことになる。


『つまり来花、最初からここには主様なんていなかったことになる。』




『おい来花、聞いてるのか?』


「まさか…」


『来花!おい来花!』


「じゃ、じゃあ今までの巫女は?ミウ姉はなんで死んだんだ?どうして儀式をやってたんだ…」


『災いなんて、たまには起こるからな、贄とか湖の主とかが原因じゃなかったんだよ。』


「は、早く知らせねぇと…」


『知らせる?誰に?』


「村のみんなは知らねぇだ!湖には何もいねぇってこと知らねぇだよ!」


『おい来花!ちょっと待て!』


「みんな信じきってるだよ!早く知らせねぇと!」


『だからちょっと待てって!』


その時後ろから声がした。


「誰だお前は!そこで何してる!」

振り向くと男女の2人がこちらを向いて立っていた。

来花の顔を見ると驚く2人…


「まさかお前、来花か?」


「おっとう!」


「あなた、来花だわ、来花が生きてる!」


「おっかぁ!すごいことが分かっただよ!もう贄はいらないだよ!」


「なんということだ、来花が生きてるなんて!」


「あぁ、あたいは生きてるだよ、そんでもう贄はいらないだよ!」


「これは…すぐに領主様にお知らせせねば!」

「そ、そうねあなた!すぐに領主様のもとへ行きましょう。」


「うん、領主様に早く知らせてぇだよ!」


主はいない、もう儀式の必要は無い、その事実を知った来花は、いてもたってもいられなかった、すぐに村人達に知らせたかった。


そして村のおさたる領主様に知らせるため、両親に連れられ村に向かった。




領主様と呼ばれるこの村の長。

その屋敷は他の家とは違い、扉付きの大きな門と塀に囲まれた豪邸だった。


両親に連れられ門の前までやって来ると、父親が門番に耳打ちしている。


しばらくすると門が開いた。


庭には数人の使用人と思われる者たち、屋敷の縁側の真ん中に立つ白髪の老婆。


老婆は上等な着物をまとい、使用人たちがひれ伏している態度から、この老婆がこの村の領主だと、龍輝丸にも一目で分かった。


使用人に連れられ入ってきた来花たち三人、庭に通され、来花の右に父親、左に母親が立った。

縁側に立つ領主は、庭の来花達に向かって口を開いた。


「巫女が生きていたとは、どういうことかえ?」


「領主様あのな、もう贄は必要ないんだ!」

来花がそう言うや否や、来花の両側に立っていた両親がひざまずいた。


「おっとう、おっかぁ、どうしただ?」


父親はひざまずき俯きながら、領主に言った。

「領主様、娘の来花が生きておりました!大変申し訳ございません!」

「え、おっとう…」


母親はうなだれながら、残念そうに言った。

「名誉な儀式の巫女に選んでいただいたのに逃げるなんて、生きてるなんて、とんでもない恥です!」

「お、おっかぁ…」


『おい来花、これは…』


「これは我が一族全員の責任です、一族全員で自害し、お詫びさせていただきたい!」

「お、おっとう…な、何言ってるだ、もう贄の必要は…」


「そのほうは逃げた娘を連れ戻してきたのじゃ、自害することはないぞえ。」

「はは!領主様ありがたきお言葉!」


「ただ巫女が捧げられていないのは由々しきことじゃ。」

「りょ、領主様、湖には何もいねぇんだ…だからもう贄は必要ねぇんだ!」


「領主様に口答えするんじゃない!」

父親は、ひざまずきながら来花を睨みつけた!


「来花、こんな娘に育てた覚えは…」

しくしくと泣き崩れる母親。


『逃げろ来花!殺されるぞ!』

龍輝丸が叫ぶが、来花は立ち去ろうとしない。


「しかし巫女が戻ってきたのじゃ、いま一度儀式を執り行い、主様に捧げようぞ!」


「領主様!もう贄の必要はねぇんだ!話を聞いてくれろ!」

『来花逃げろ!コイツらに何を言ってもムダだ!何してる!早く逃げるんだ!』


使用人が領主に進言している…

「しかし領主様、あの巫女、また逃げるやもしれません…」


領主は庭にいる使用人に指示をした。

「巫女を取り押さえよ!」

「はは!」


領主の命により、来花は二人の使用人に両腕、両肩を押さえつけられ、無理やりひざまずかされた。

「い、痛っ…」


「両腕をヒジで、両足はヒザから下を切り落とすのじゃ、さすれば走って逃げることも泳ぐことも出来なかろう…、なに、手足を切ってもすぐに死んだりはせぬ、生きてるうちに捧げればよいのじゃ。」


あの日、巫女になった日から、来花は『村人』から『捧げられる供物』に変わっていたのだ…


そこには、幼い頃かわいがってくれた領主様も、やさしい両親も、もはやいなかった…



つづく



命がけで妹を救おうと思っていた

村のために死ぬ覚悟をしていた

しかし、真実を知ったいま

その覚悟は意味をなさなかった…

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