宿場町の宿屋
「あぁ、その湖なら、あっちだよ。」
「ありがとうごぜぇますだ!さ、行くだよ龍輝丸!」
やっぱり方向だけでは無理があった。
来花を助けて屋敷に連れ帰ったんだから、きっと近いんだとタカをくくっていた。
でも思ったより分かれ道があって、人に聞こうにも山道ではほとんど人影はなく、なんだかずいぶん遠回りしてしまった気がする。
半日以上かけて、やっと大きな通りに出てきて、人の往来も多くなってきた。
「龍輝丸!ここ知ってる!来たことあるだよ!」
そこは山里の宿場町、来花は父親に連れられて一度だけ来たことがあると言った。
「ここからならもうすぐだ、道もたぶん分かるだよ。」
「なら、ここを活動の基地にしよう。」
「かつどんのきき?」
「活動の基地だ!ここから湖に通って調査、準備をするんだ!」
「なんでだ?あたいの家に来ればいいだろ?こっからなら、たぶん一刻(約二時間)もかからねぇだ、日暮れまでには着くだよ?」
「来花、お前たしか贄にされたって言ってただろ、生きてちゃマズいんじゃねぇか?」
そうだ、あたいは儀式の巫女、贄だ!
もしあたいが生きてることを知られたら、捕まえてまた贄にされるかもしんねぇ…
もし逃げたら、他の誰か、今度は妹のチヨが贄にされるかもしんねぇ…
「わ、分かっただ!ここをかつどんのききにするだ!」
「あったぞ来花、宿屋だ!」
「宿屋って、あたいお金持ってねぇだよ?」
「金なら心配するな、ここにある。」
龍輝丸は懐からジャラジャラと音のする袋を取り出した。
「なんだべそりゃ、なんで龍輝丸がお金持ってるだべか?まさか凛さんから盗んできただか!凛さんは命の恩人だ!盗っ人みてぇなことはできねぇだ!」
「これは今朝の追いはぎが落として行ったものだ。」
「ほ、ほんとだべか?」
「本当だ!」
「でも、それなら元々は盗んだ金じゃねぇのか?」
「まったく…来花は律儀だな…」
「だ、だって…盗んだ金は使えねぇだよ!」
「来花いいか、確かにこれは奴らが盗んだ金かもしれないが、もう誰のものだったかは分からんのだ!なら追いはぎが使うより、俺達が使った方がよかろう?」
「そう…なのか?」
「そうに決まってる!さ、宿屋に行くぞ!」
本当は盗賊の懐からくすねた物だが、今度も来花を言いくるめることに成功した。
「ふぅ、まぁこの宿場町ならこんなもんだろ、まぁまぁの部屋だ。」
宿屋の二階に通された二人…
八畳一間の部屋には布団が二組敷かれていた。
龍輝丸は入って右手の布団の上であぐらをかいた。
しかし来花は布団には座らず、左の壁際に立ったままうつむいている。
「どした来花、疲れただろ、もっとくつろげ!」
「なぁ…なんで二人で一部屋なんだべ?」
「当たり前だろ、退治には何日もかかるかもしれねぇ、一人一部屋なんて金がもったいないだろ。」
「いや、そうだけど…」
「なんだ、何が不満だ?」
「ほらいちおう…あたい女だし…」
「あ、宿帳には『めおと』って書いといたから大丈夫だ。」
来花は読み書きできないので、龍輝丸が具現化したまま受付けと宿帳の記入をしていた。
「めおとって!いやそうじゃなくて!」
「なんだよ、らしくないな、ハッキリ言えよ!」
「その、着替えとかあるし、いくら龍輝丸でも一緒の部屋は恥ずかしいだよ…」
「何をいまさら…」
「いまさら?」
「ずっと同じ部屋だったじゃねぇか。」
「ずっと?」
「お前、俺の前でも堂々と着替えてたじゃねぇか。」
「へ?あたい龍輝丸の前で着替えなんて……」
「してただろ?」
「まさか!」
「あの女妖刀使いの屋敷で。」
「龍輝丸!あんた刀の時も見えるんだか!」
「見えるとも。」
「じゃあ、ずっとあたいのこと見てただか!」
「見てたとも。」
!!!!!
「どうした来花?」
「信じらんねぇ!」
来花は刀を持ち、勢いよく鞘におさめる。
すると龍輝丸の姿はかき消えた。
『おい、来花?』
そして刀を布団の中に押し込んだ!
『おーい、来花さーん!』
がさがさと音がして、来花は無言のまま部屋を出ていった。
しばらくすると、誰かが部屋に入ってきた。
来花が戻ってきたようだ。
布団をめくり刀を取り出し鞘から抜くと…
「出てこい龍輝丸…」
低い声でとなえた。
「どうした来花、ん?着替えたのか?」
来花は浴衣姿になっていた。
「風呂入ってきただ。」
「そ、そうか…」
なんか怒ってるな…
「龍輝丸…」
「な、なんだ…」
「もう二度と見るな!」
「な、なにを…」
「あたいの着替えをだ!」
ち、ガキのくせにいっちょまえに…
「なんか言っただか!」
「いや、なんも…」
「いいな龍輝丸!」
「分かった分かった…」
「それと…」
「まだなんかあるのかよ。」
「あたいの前で着替えるなよ。」
「は?」
「だから!その姿の時、あたいの前で着替えたりすんでねぇだよ!」
「はいはい…」
やれやれ、おなごはめんどくせぇな、前に相棒だった妖刀使いは男だったからな…
「じゃあ、行ってきていいだ。」
「どこへ?」
「龍輝丸も風呂行ってきていいだよ。」
「あぁ、風呂ね、でもその前に…」
「なんだべ?」
「来花、寝ちまいそうだからな、その前に少し作戦会議だ。」
「さくせん、かいぎ?」
「その湖の主について詳しく聞かせろ。」
「そうか、うん、いいだよ。」
「湖の主ってのは、鯉のあやかしか?」
「…知らねぇだ。」
「知らねぇって、どう言うことだよ。」
「知らねぇもんは知らねぇだよ!」
「だってお前、贄にされるって、そん時に包丁持って行ったって…」
「あぁ、そうだ。」
「まさかお前、相手が何者かも知らずに退治しようとしてたのか?」
「だって…」
「だってなんだ?」
「おっとうもおっかぁも、領主様も教えてくれねぇだ…」
まいったな、こいつ何も知らねぇのか…
あやかしの正体も分からねぇとは…
「まぁいい、じゃあ来花の知ってることをすべて言え。」
「知ってること?」
「その巫女の儀式はいつから始まったんだ?なんで巫女をささげてるんだ?」
「あたいもよくは知らねぇが…」
来花は村の儀式について話し始めた…
巫女の儀式は昔からだそうだ。
少なくともあたいが物心ついた時にはあっただ。
あたい達の村は山の中で田んぼなどは少なくて、山菜と湖で捕れる魚を食べて暮らしてるだ。
その昔、山菜が不作で採れなかったそうだ。
その年は魚もまったく捕れず、村で何人も飢え死にしたそうだ。
昔から湖には主が棲むという言い伝えがあってな、そん時の領主様が、これは主様がお怒りになったせいだと、お怒りをおさめるためには贄が必要だと、そうお告げを受けたんだと。
それで巫女の儀式が始まったそうだ。
巫女の儀式を始めてからは同時に不作になることは無く、それ以来たくさんの飢え死には無いそうだ。
「なるほど…」
「でもおかしいべ!三年ごとにおなごを捧げるなんて!」
「まぁな…」
「そんなん災い以外の何ものでもねぇ!」
「大人達は主の正体を知っているのか?」
「さぁ、子供には何も話してくれねぇから、あたい達には分からねぇだ。」
「なんで子供には話さないんだ?」
「怖がるからでねぇか?主様は村の守り神で、儀式の巫女に選ばれるのは名誉なこととされてるけど、怖ぇだろ?だから巫女になったおなごが怯えて逃げ出さないように、子供には話さないんでねぇかな。」
守り神、なるほど、だから『贄』ではなく『巫女』と呼ばせているのか…
「あたいが知ってるのは、こんくれぇだ。」
「分かった、じゃあ行ってくる。」
「ど、どこに行くだよ…」
「風呂だ風呂!」
つづく
正体不明の湖の主
はたして退治できるのか?




