夜道の追いはぎ
出発したのは夜が明ける前、丑の刻(午前一時から三時位)だった。
せかしたのは俺だ、あの後すぐに来花に支度させた。
昼間あの女妖刀使いから借りた、紅色の袴を着させた。
来花が持っていた白い着物では、まるで死装束だ。
それに袴の方が動きやすいし、刀を腰にさすこともできる。
あと用意させたのは、替えの襦袢だ。
退治には事前調査や準備を含めると、何日もかかるかもしれないからだ。
ちゃんとお礼と挨拶してから行きたい、という来花を今度も言いくるめ、夜明け前の丑の刻に出発させた。
俺はあの女妖刀使いが苦手なのだ、顔を合わさずに出発したかったのだ。
あの女、具現化できないのだから早く手放せばいいものを、あれやこれやと試し、ずっと俺を持っている。
俺を具現化できる可能性があるのは、声が聞こえるやつだけだ。
女妖刀使いがずっと持ってるから、具現化できる可能性があるやつと出会える機会が減ったんだ。
そんな中「来花」と出会えたのは奇跡と言えた。
俺はあの時、あえて具現化しなかった、知られたくなかったのだ。
もし女妖刀使いに具現化できることを知られたら、今度は「どうすれば声が聞こえるか」を調べはじめるだろう…
だからと言って、具現化を秘密にしたまま出発するには、あの女を避けなければならない。
来花が誰も具現化できない「使えない」妖刀を持って、一人であやかし退治に行くなどと言えば、あの女は行かせはしないだろう。
どっちみち、女妖刀使いに見つかったら厄介なのだ。
だから夜が明けぬうちに、皆が寝ている隙に出発させた。
ザッ、ザッ…
来花は俺様を腰にさして歩いた。
パッと見は、いっちょまえの妖刀使いだな…
月明かりはあるが、ひとけの無い暗い夜の山道だ、屋敷で提灯が見つかったのは幸運だった。
無ければ来花一人では進めなかっただろう…
『ところで来花、』
「なんだべ?」
『方向は合ってるのか?』
「さぁ…」
『さぁって、お前まさか適当に歩いてるのか?』
「凛さんはあたいを『酉の刻の湖のほとりで助けた』って言ってただ、ならそっちに向かえばいいべ。」
酉の刻、西か…
山道なんてほぼ一本道だし、そのうち誰かに聞けばいいか…
「なぁ龍輝丸…」
『どうした?』
「あたいは山育ちだけどな…」
『だけど?』
「やっぱ夜の山は怖ぇだよ!」
『怖いのか?何が怖い?』
「あやかしとか出てくるかもしんねぇじゃねぇか!」
『俺様がいるんだ、心配ない。』
「ホントだべか!大丈夫か?」
『まぁ、走って逃げれば大丈夫だろうよ…』
「走って…逃げる?」
『みっつ数えたら走れ…』
「おい、なになに、何かいるんか!」
『ひとつ、ふたつ…』
『みっつ!さぁ走れ!』
「いゃあー!なんだべー!」
来花は全速力で走った!
「おい、逃げたぞ!」
「追え!」
後ろの暗闇から声がする。
「な、なんだべ!あやかしだべか?」
『いや、人間だ、たぶん追いはぎだろうな。』
「おいはぎ?なんだべそれぇ?」
来花は走りながら半べそだ。
『おいはぎは旅人や通行人を襲う盗賊だ。』
「と、とうぞく?あたい金は持ってねぇだよ?」
『来花、お前は金はないが、若い女だ。』
「そ、そだが、それがなんだ?」
『捕まったら、〈ピーー〉されるだろうな。』
「いーーやーー!!!」
しかし…
「あっ!」
ズテン!
来花は豪快にコケた!
足場の悪い暗い夜の山道で走るのは無理があった…
『大丈夫か?』
「いたぞ!あそこだ!」
「とり囲め!逃がすなよ!」
「龍輝丸やべぇ!」
『泣くなよ、とりあえず立って俺様を抜け。』
来花は妖刀を抜いて両手で構えた。
すでに追いはぎ達に囲まれている。
『ひいふう…五人か…』
「ようお嬢ちゃん、こんな夜更けにひとりか?」
「へへへ、不用心だな!」
「ひ、ひぃぃぃ!」
「その刀で俺たちと闘おうってのか?」
「男五人対おなご一人だぞ、へへへ…」
「どうしよう龍輝丸…」
『じゃ、こう言ってやれ…』
「お、お前ら…い、痛い目にあいたくないなら?、えっと、すぐに立ち去れぃ!?」
「はぁ、お嬢ちゃん何言ってんだ?」
「震えちゃって、かわいいな、へへへ…」
「心配すんな、大人しく言うこと聞けば命は取らねぇよ!」
「龍輝丸!やばいじゃん、煽っちゃったべさ!」
『じゃ、俺様を呼び出せ。』
「で、でてこい!龍輝丸!」
グワアァァァ!
「なんだこの光は!」
「くそ!目が!」
龍輝丸は来花の真正面に現れた。
「りゅ、龍輝丸!」
「来花、下がっていろ。」
あれ、なんか最初から龍輝丸出してたらよかったんじゃね?
「なんだコイツは!」
「どこから来やがった!」
「痛い目にあいたくないなら立ち去れって言ったよな。」
「はぁ?俺たち五人とやろうっていうのか!」
「野郎に用はない!殺っちまえ!」
追いはぎ達は刀を抜いて龍輝丸に切りかかる!
「龍輝丸あぶねぇ!」
バサッバサッ!
龍輝丸は追いはぎ達に切られてしまった!
「りゅ、龍輝丸ー!」
…ん?
しかし龍輝丸は倒れず立ったままだ…
…あ、そうか…
「それで終わりか?」
平然と龍輝丸が言う…
「な、なんだコイツ…」
「き、切られてもなんともねぇ!」
「さて、終わりなら、どいつから喰ってやろうか…」
龍輝丸が舌なめずりすると、身体からは青白いあやしい光が放たれた。
「こ、コイツ……あやかしだ!」
「逃げろ!喰われちまうぞ!」
一目散に逃げ出す追いはぎ達!
そう、龍輝丸は妖魔、あやかしの類い、普通の刀では切られないのだ。
ヘナヘナと座り込む来花…
「こ、怖かった…」
「お前が転ぶから…」
「さ、最初から出てきてよ…もう!」
来花は泣きべそかきながら怒っていた。
「もう歩けるだよ、龍輝丸…」
「転んだ時に提灯壊しちゃったからな、明るくなるまでだめだ…」
来花を背負って歩く龍輝丸は、ぼんやりと光って足元を照らしている。
「でも、忘れてただ、龍輝丸は妖魔、あやかしなんだべな…」
「来花はあやかしが怖いのか?」
夜の山はあやかしが出そうで怖いって言ってたし…
「そりゃ、怖ぇさ…」
「なら…」
俺のことも怖いのか?
そう聞きそうになったが、やめた。
「でもな、龍輝丸は大丈夫だ。」
来花が突然そう言うから、まるで心を見透かされたような気になった。
「龍輝丸のことは好きだべ…」
「な、何言ってんだ!」
「だって、ウソついてまで、あたいを守ってくれただ。」
「ウソ?」
「誰から喰ってやろうか…なんて。」
「あぁ…」
「人なんて喰わねぇのに…」
「喰うかもしれないぞ?」
「じゃあ、退治終わったら…」
「ん?」
「あたいのこと、喰うか?」
「何言ってんだ…」
「すぅぅ…すぅぅ…」
背中から寝息が聞こえてきた
「ふん、寝やがって、いい気なものだ…」
すでに夜は明け、朝日が背中を照らしていたが、龍輝丸は来花を起こすことなく、そのまま背負って歩き続けた。
つづく
湖へ出発した来花と龍輝丸
二人は主を退治できるのだろうか?




