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デモンズ・ゲート  作者: 梅
第1章
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 「おーい、これは何処に持っていけばいいんだ?」


 「なんだこれメチャクチャじゃないか」


 「どけどけ! 怪我人が通るぞ!」


 慌ただしい声が聞こえる。

夢と現実を行き来する。そんなあやふやな世界に居る感覚だった。


 その中で時折、騒々しい声が耳に入って来る。

 夢の映像が流れず、ただただ暗闇の中で声が聞こえる時は多分現実世界だろう。しかし、目を開く事も言葉を発する事も出来ない。


 遠くに明かりが見えて来た。新しい夢が始まるのだと思う。父さんと母さんの夢であれば起こさないで欲しい。

 そう願うと、また不思議な夢の世界へと引きずり込まれた。




 「何サボってるのアンジ! そんな暇無いわよ!」


 砦の中にある通路の隅っこで、隠れる様に座っているアンジを見つけたマナが注意する。


 「サボってる訳じゃねぇよ。休憩も必要だろうが」


 罰の悪そうな顔でアンジが答える。

気にせずマナは更に畳み掛ける。


 「あんたは昔からサボり魔だから、その話を信用しろと言う方が無理だわ」


 「言い訳する暇があったら、手伝いなさいよ」


 「はいはい、俺が悪かったよ」


 アンジはマナには敵わないと判断し、すごすごと退散した。



 アレン達が暮らす町「ホーストン」

 数日前、謎のモンスターの襲撃による被害は甚大だった。

 多くの人が死に、建物もほとんどが倒壊してしまっていた。砦は何とか半壊でおさまっていた為、当分はここを生き残った住民の暮らす場所として使おうと、瓦礫の撤去や修復が始まっていた。


 アンジは瓦礫撤去の作業に回されていた。単純に馬鹿力だからである。


 「復興の為とはいえ、毎日毎日ひたすら瓦礫を運ぶのは嫌になるぜ……」


 瓦礫を入れた袋を担ぎながら、愚痴をこぼすアンジ。


 「危ない!」


 突然の大きな声に驚くアンジ。危ない? 周囲に危険な物は無かったはず。ならばと上を見てみる。

 なるほど! 瓦礫か! と納得したアンジ。瓦礫とは言えない大きさである岩の塊が落ちてきている。


 避けるのは間に合わないと思い、腕で防御の構えを取る。


 すると頭上に、薄く透ける白い壁が出現した。岩はその壁に当たると、衝撃で砕け散った。


 「アンジ、ボケっとすると危ないよ」


 先ほどの魔法の使い手と思われる人物が話しかける。


 「悪いなダートン。助かったぜ」


 笑いながらアンジが礼を言ったのは、魔法学校同期のダートン・グレイス。

 主に防御系統を担当する土の魔法が得意だ。高い身長は170cm後半に迫るほどだが、アンジとは対処的にすらっとした細身の男だ。


 「しかしあれだな! 周りの土や瓦礫を使わずに、魔力だけの壁であれを防げるとは大したもんだな!」


 「いやぁ、そんな事もないよ」


 アンジのベタ褒めの言葉に照れながら返す。


 「ダートンも今日から瓦礫の撤去役になったのか?」


 「そうだよ。この砦を再建しないと町全体の復興が遅れるからね」


 「頼もしい所だか、その貧弱な身体では午前中で退職かな」


 アンジは茶化すように言う。


 「馬鹿言ってないで、早く終わらそうよ」


 アンジの言動からは楽観的な印象を受けるが、実はそうでは無い事をダートンは分かっていた。危機的な状況の時ほどアンジは笑いおちゃらけて、周りの緊張を解すのだ。

 みんな口にはしないが、再びモンスターが現れれば今度こそ全滅だろうと分かっているからこそ、黙々と砦の再建に精を出している。


 カンカンカンカン。と金属を叩く音がする。砦に設置してあった鐘は壊れてしまったので、その代わりに金属を複数回叩いて、集合の合図としているのだ。


 「昼飯の時間かぁ」


 作業を止め、身体を伸しながらアンジが言う。


 「何言ってるんだ。昼の休みまでまだ1時間はある」


 ダートンにそう言われたアンジは、空を見上げ太陽の位置を確認する。まだ真上には遠い位置にある太陽見ると肩をガックリ落とした。


 「じゃあなんの合図なんだよ?」


 「分からない。集合せよと言う事には違い無いから中に行こう」


 砦の中にある広間に向かうアンジ達、広間へと続く廊下を歩いていた時。手で握れるほどの大きさの球状の物体が転がってきた。


 「何だこれ? ボールか?」


 アンジが手に取ろうとしゃがんだ瞬間。破裂音と共に冷気が漂う。ダートンが目をやると、彫刻品の様な芸術的体勢で足元が氷漬けになったアンジが見えた。


 「おいっ! なんだこれ!」


 暴れるアンジ。しかし手と足が氷漬けになっており離れない。そのままバランスを崩し横に倒れた。


 「ハハハッ! 良いリアクションだ」


 拍手をする音と共に、緑髪の男が廊下の脇から現れる。


 「ケイム! お前か!」


 アンジが怒りに任せ氷漬けになった手と足の部分を、床に叩き付け氷を割る。


 ケイム・ホグナー

 アンジ達と同い年だが頭が良く、飛び級で学校を卒業した後は、軍の研究部に入っている。自然の力である魔法を、人間が道具として使う技術「化学」を自らの手で作るのを目標としており、昔から試作品のテストをアンジに行っていた。アンジをターゲットにしていたのは「リアクションが面白い」と言う事だけである。


 「どうだ? 私の新作は? 魔法の玉と書いてまぎょくと言うんだ」


 感想を求めるケイム。


 「こんな玩具ばっか作ってないで、お前もここの再建を手伝えよ!」


 胸ぐらを掴んで怒鳴るアンジ。


 「そうさお前が言ってる様に、これは宴会用の玩具みたいなものだ」


 アンジとダートンは驚いた。今まではどんなに下らない試作品でも、馬鹿にすると激怒していたはずなのに。


 「完成したんだよ化学が。私の目指していた技術が遂にね」


 ケイムは自信満々の表情だった。


 「まぁ、詳しい話は広間の方でしようか」


 そう言うと、広間の方向へと歩きだした。それにアンジ達も続く。

 広間に入ると兵士と軍幹部達がそろっていた。



 声がする。何周したか分からない夢の中に、聞き慣れない声がする気がしていた。初めは雑音だと思っていたが、徐々に鮮明になってくる。


 「よ……」


 ハッキリと聞き取れるのはこの部分だけで、後は何を言っているのか分からない。誰かが呼び掛けているのだろうか? そう考えてみたが夢の世界では良きせぬ事の連続だ。そう自分に言い聞かすと、考えるのをやめた。

 父さんと母さんが見えた。いつもの夢の様だ。今ならこの夢の続きが見れる気がする。


 そう思った矢先、突然夢の世界が明るくなって行く。眩しさが収まってくると、そこはまた暗闇の世界だ。


 今までは開かなかった瞼が、今なら開く様な気がした。瞼に力を入れる。あれだけ開かなかったのが、まるで嘘の様にすんなりと開いた。


 「アレン!」


 声の方向に目をやるとマナが心配そうにこちらを見ている。そのまま周りを見渡すと、アンジ、ダートン、それにケイムが見えた。


 ベットの上にいる。殺風景な部屋で、自分を取り囲む様に皆がこちらを見ている。


 ここはどうやら病室の様だ。


 眠る前の記憶、あの日の事を少しずつ思い出す。高速で進む景色が見えた。そうだ、あの光る人間が自分に当たってからの記憶が無いのだ。

 痛みは無いがあんなものに直撃したのだ、命は助かった見たいだが自分はもう五体満足では無いだろうと思った。


 「どうだ? 私の作った魔法石の感想は? 凄いだろう」


 ケイムが自慢げにマナに話し掛けた。


 「うん、魔法の力が強まったのが分かる」


 魔法石? なんだそれは?

 それを見てみたいと思い、腕に力を入れ体を起こそうとする。

 目を腕に向けると手がある。足も? ある。あれだけの衝撃を受けたのにも関わらず、無傷に見える自分の姿に驚く。


 「アレン、まだ無理しちゃ駄目だよ」


 ダートンが起き上がろうとするアレンを制した。


 「ほほう、アレンも気になる様だな。この魔法石が」


 ニヤニヤした表情のケイムがこちらを向く。あの表情は見覚えがあった。またケイムの目指す「化学」とやらの試作品を持って来たのか。


 「今までの玩具と違って、今回のは本当に凄いぜ」


 アンジが興奮した声でアレンに喋り掛ける。


 その魔法石? と言うのも気にはなるが、あれから町はどうなったのかを知りたかった。声を出そうとするが、喉が掠れているのか声とは呼べない音だけが出る。


 マナがそれに気付き病室から出ていく。恐らく水を持って来てくれるのだろう。

 随分と色々な夢を見ていたので、時間はかなり経っているのだろうと思っていた。人は目が覚めると夢の内容を殆ど忘れてしまう。もう先ほどまで散々見た夢の内容は、ほぼ記憶に無かった。


 ただ頭の中でこだまする様に、1つの言葉の記憶が蘇る。


 「者よ……」



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