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デモンズ・ゲート  作者: 梅
序章
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始まりの光

 少年の家は、畑が広がる町外れにあった。いつもであれば朝日が家を照らす時間になっても、今日はまだ光が差し込まない。

 激しい雨を降り落とす黒く分厚い雲が、空を覆っていたためだ。


 この日の始まりは窓から覗く朝日ではなく。

一つの大きな声だった。


 「アレン! 早く起きて!」


  自分を呼ぶ声に気付き目を開けると、ベットの近くに居たのは幼馴染のマナだった。普段から朝は起こしに来てくれるのだが、家の窓から入る光がいつもより少ない気がする。

 「なんだよマナ? 起こしに来るのが早いんじゃないか?」

 「違うのよ! 大変な事になってるの!」

 「大変な事? ……ああ、外は強い雨が降っているのか」

 

今日は自分達の卒業式なのに、確かにこの雨は残念だな。そう思った時、家の扉を叩く音がした。

 「誰だよ? こんな朝から」

 「も、もう来たの!?」

 マナの表情は怯えていた。

 「どうしたんだよマナ?」


 何者かがもう一度、扉を強く叩いた。古びた木造の家はその衝撃で軋む音を立て、机の上に置いてあった両親の遺影が床へと落下する。

 誰だか知らないが何をやっているんだ?

 一言文句を言ってやろうと、ベットから身を起こし扉へと向かう。だが体が後ろへと強い力で引っ張られた。

 「待って、あれは人じゃないの!」

 「人じゃない? ……何を言ってる」

 言葉を言い切る前にもう一度大きな音がすると、扉が壊され、外にはその犯人と思われる人物が立っている。しかしマナの言う通り、そこに立って居たのは確かに 人では無かった。


 錆色の剣を持った骸骨が、こちらを見ている。あまりにも現実離れした光景に、一つの答えが頭に浮かんだ。


 「そう言う事か。……アンジだろ? マナと一緒に俺を驚かそうとしたのか?」

 そう言って背後のマナを見てみると、今にも泣きそうな顔をしている。随分と熱の入った演技だな。そう感心した時、左肩に衝撃が走った。

 慌てて前に振り返ると、骸骨が自分の三歩ほど前に移動して来ている。持っている剣を振るには丁度いい距離だ。

 動いている、なんだこいつは! イタズラじゃ無くて本物の骸骨、モンスターなのか? 

後ろから響き渡る恐怖に怯えたマナの叫び声と、遅れてやって来た焼ける様な痛みが答えを教えてくれた。


本物のモンスターなら、どうすれば良い!? 武器は魔法学校に置きっ放しで家には無い。いや、何でもいい。とにかく今はこいつを何とかしなくては!

 机の近くに置いてあった椅子が目に入り、掴もうとした時。骸骨の剣は右腕を貫いていた。

 剣は錆び付いて刃こぼれしており、剣と言うよりはノコギリの様になっている。力任せに剣を引き抜かれると、更に腕の肉を抉られあまりの痛みに叫び声を上げた。

 「アレン!」

泣き声でマナが呼んでいる。

そうだ……マナだけでも守らなくてはいけない。6年前に両親が他界した時から、一人の俺を心配して家の面倒を見てくれた。普段は恥ずかしくてまともにお礼なんて言わなかったが、せめてマナだけでも助けなくてはならない。

 

 左手に魔力を溜め、得意である雷の魔法を骸骨に向け放つ。しかし電撃は骸骨に当たったかと思うと、四方に弾かれた。

 「魔法が効かないのか、こいつは!」

 魔法も効かないのであれば、もう他に打つ手が無い。後は素手で殴りかかるか? いや、殴る前に剣に貫かれるだろうな。……覚悟を決めるしかない。

 「マナ! 動けるか? 俺がこいつを押さえてる間に逃げろ!」

 アレンの覚悟の決まった表情を見て、何をするのかを察しマナは「やめて」と口にしようとするが、アレンが動き出す方が早かった。


 体が剣で貫かれても、そのまま押さえ込めばマナが逃げる時間は稼げるはずだ。

 歯を砕けそうなほど噛みしめ、骸骨へ向かって行く。すると予想していた剣での攻撃では無く、頭蓋骨が弾きだされる様に飛んで来て、顔面へと当たり後ろへ倒れ込んだ。


 「お前ら大丈夫か!」

 上体を起こし、新たに家に入って来た人物を確認すると、自分より二回りは大きな体格に筋肉隆々、黒い短髪に馬鹿さがにじみ出た顔。それは同級生のアンジ・グレバーだった。

 手には木の棒を持っている。骸骨の予想外な攻撃は、アンジが後ろから頭蓋骨を殴った事によるものだと分かった。

死ぬかも知れないと思った、悪夢の様な出来事が終わったと思うと肩の力が下りる。


 「助かったよアンジ」

 「礼なんて言ってる場合じゃねぇぞ! 早く砦に逃げるぞ!」

 「状況が良く分からないんだよ。何があったんだ」

 マナが立ち上がり、深呼吸を一つして話し出す。

 「この町に突然、大量のモンスターが襲って来たの。それをアレンに知らせる為に来たんだけど遅かったみたい」

 「マナの言ってる通りだ。家の扉なんて壊されて終いだ。頑丈な砦に逃げるぞ」

 何でそんな事に? と聞きそうになったが、今は話しているより砦に向かうのが先だな。

 家を出ると、町の中心に位置する砦を目指して走りだした。



 町の中心へと向かうほど、恐ろしい事が起きているのだと言う実感が湧いて来た。

 店は少ないが、ここホーストンでは唯一の商店街は死体で溢れていた。死体と言っても無残に引き裂かれ赤黒く染まったそれは、人間なのか動物なのかも分からない。地面は雨と血が混ざりぬかるんで、見た事のない不気味な色になっていた。


 時折、町のどこかで叫び声が上がる。なんの叫び声かは分かっていたが、自分たちの事で精一杯で助けに向かう余裕など無かった。



 しかし一つ、疑問が湧き上がってくる。

 「なぁ、町の……この死体の数にしては、モンスターが少なくないか?」

 「そう言われんとそんな気もするけどよ 、俺もモンスターがどれくらいの数が襲ってきたのかは見て無いから分かんねぇな」

 数がもし少ないとすると、さっきの骸骨より巨大なモンスターとかか? そんなのが居たら砦でも耐えられるのか?

 胸騒ぎがする様な疑問を抱えたまま、砦の正門が見える場所までたどり着くと、俺の感じた疑問の答えがそこにはあった。

 「なんだよ……アレは?」

 アンジはその光景を見ると、震える声で言った。


 正門は崩壊し、砦の庭や外壁にはおびただしい数のモンスターが居るのが見える。その光景を例えるなら、腐乱死体に湧く蛆虫の様だった。

 頼みの綱だった砦はもうダメだと分かる。

俺たちは……逃げる場所を失った。

恐怖と絶望が大きく襲い掛かって来る。



その思いを切り裂く様に、分厚い雲に覆われていた空で何かが光った。


光った空を見上げると、今度は視線の下が明るくなる。恐ろしい程の速さで何かが落ちたのだ。

落ちた光は周囲に拡がり、砦に群がっていたモンスターを破壊していく。砦が吹き飛ばないと言う事は、隕石とかでは無いのだろう。

アレン達の目には悪魔を退治する為、神が落とした光に見えた。



しかし、拡散していた光は一点集まると、突如こちらに向かって来る。


人が死ぬ時、時間が遅く感じると聞いた事がある。先程の骸骨に殺されそうになった時よりも、時間が遅く感じる。

きっとアレがぶつかり死ぬのだろう。冷静にそう悟った。



向かって来る光を良く見ると、おれは……人間だ。光を纏った人間が高速でこちらに向かって来ているのだ。

アンジはゆっくりとこっちを向こうとしながら、手を出そうとしている。

反射的にその手を取ろうとするが、光り輝く人間がぶつかった感触がした。


痛みを感じる事無く、景色が高速で流れて行くのが見える。

いつの間にか、目は何も映さなくなった。

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