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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase final:rheotaxis
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第97話 Sky blue ARKHED

 真っ白な病室で生命維持装置に繋がれたままのアリーチェ。彼女は罪を贖えたと思い、安らかな表情で眠りに就いていた。自分が身を投げ打てば苦しめてきたジルベルトを解放できる。そう信じて己の身を顧みずにいたのだが、彼女の想いは彼へ届きはしなかった。

 アリーチェが床に伏している病室がある戦艦ブリューナクは、今現在全ての砲台を絶え間なく行使し続け、敵を討とうとしている。主砲は現在エネルギー充填中で、それは先程敵陣に乗り込むための道を作り出す為に放たれ、もう一度同じ道を作り出そうとしている。


「―――…ん…っ」


 白い室内の白い天井は眩しく、目覚めたばかりのアリーチェは目を細めた。

 ここが何処なのかは説明が無くとも体に繋がれた細いチューブと消毒液の匂いで分かる。


「…結局、生き残っちゃったワケね」


 死ぬ覚悟でいたのに死にきれなかった。それは無様で、恥ずかしくて、皆にとても顔を合わせられそうになくて…。そして観測装置オブザーベイションシステムである少女には、枷が外されていない事が認識できて、情けなくもあった。


「(アタシの想いは弱かった…)」


 今すぐにでも罪を償う為にこの身を引き裂かれても構わない。寧ろそうしなくてはならないと思いもするが、今現在どういう状況なのかが気になる。この場へと縛りつけるようなチューブは外し、よろめきながらも物を伝い、壁を伝って歩くアリーチェ。扉の前に差し掛かった所、彼女は意識を取り戻したと知った医師と鉢合わせになる。


「状況を教えて…っ!今、どうなっているの…!?」




第97話 Sky blue ARKHED




 たった一機で敵陣に飛び込んだ久城。彼はジルベルトの洗脳を解こうとヴァレリーと戦う。他の者の機体よりも大きなARKHED(アルケード)。それは二機を一体化したものであって、ヴァレリーは機体を分離させ、自機ともう一機を巧みに操る。彼の挟撃を上手くかわした久城。過去に共に肩を並べて戦場に赴いたからか、その動きを見切れはするが、相手も同条件であり、こちらの攻撃は全て見切られてしまう。時間稼ぎならば拮抗していても構わないのだが、久城は一刻も早くヴァレリーを討たなくてはならない。

 感情を揺さぶる為の言葉は届かず、戦うしかない状況。左右から攻撃に対し手にした光剣で受け止め、押し返して距離を取り、銃撃を放つ。だがその弾は全て避けられ、ヴァレリーはまたもや挟撃を目論む。攻撃を防いで危機を脱してからの反撃。と言っても久城の反撃はダメージを与えられず、やはりこのままだとただ無駄に消耗するだけで、更には追い詰められてしまう。


「…っ、…無人機が戻り始めたか…っ」


 目の前には敵の居城、小惑星型要塞アドミニストラード。最期の門番たるヴァレリーの元には無人機の黒いARKHED(アルケード)が多く控えていて、ここに至る道も埋め尽くされていた。一旦はブリューナク等の戦艦による砲撃で一掃できたが、それは一筋の道を作り出すだけであって、程なくして陣形は元に戻りつつあり、久城は包囲される形となった。

 ここは一旦退くべきか。そう考えもするが、鳴鳥達に大見得を切った以上、何かしら成し遂げなくては戻れない。

 互角の戦いを繰り広げていた場に多数の無人機が駆け付け、防御に徹するしかなくなってしまった久城。最早勝機は見いだせないかと諦めを感じていた所、手元のモニターに緊急通達が入る。


「フン…。小賢しい真似を…」


 ブリューナクからの援護。再度放たれた極大レーザー砲はヴァレリーの元へと集まりつつあった無人機を蹴散らす。無人機の隊列は崩れ、これでまだ久城は戦えるところだが、安堵は出来ない。この状況を変えるべきだと考えたのは敵も同じで、ヴァレリーは先にブリューナクを沈めるよう無人機に指示を出した。


「…そうはさせな―――」

「貴様の相手は私だろう?」

「…クっ!」


 指揮官であるヘニングが搭乗しているブリューナク。戦艦の中では最大の火力を持つもので、沈められる訳にはいかない。無人機だけで沈められる程、ブリューナクは脆くはなく、艦の前には中型艦も数多く控え、ARKS(アークス)隊もタダでは通さない。だが万が一を考え、この場に在るものだけでも倒してしまおうとするが、久城の行く手をヴァレリーが阻む。

 本陣に向かう数多くの無人機。悪化の一途を辿る状況。焦りからか、額には汗が浮かび、目の前の相手すら集中できずにいる状況。やはり自分には無理であったのか…と、覚悟を決めようとしていた久城。二機による挟撃から一体化したヴァレリーの機体は大剣を構え、斬り裂くのではなく、破壊しつくそうと振るう。


「…っ、剣が…っ」


 攻撃を受けとめようと構えた光剣が容易く破壊される威力。すぐさま飛び退いて難を逃れたが、かつてない高威力の武器を前に、どう攻めるべきか算段を立てる余裕すらなくなりつつあった。


「わが剣の前にひれ伏すがいい…!!」

「…!」


 大剣を構え、大型の機体であるにも拘らず、落ちないスピード。あっという間に距離は詰められ、今度こそは逃しはしないと大剣がコックピット部分に狙いを定め振るわれかけた。


「な…、何だと…!?」

「これは…?!」


 久城を追い詰めていたヴァレリー。二人の間を割る様に降り注いだのは二本のレーザービームで、それは遠隔型の小型機より放たれていた。

 大空のような青い色の遠隔型小型機。それは見た事も無い色でいて、誰がこの場に駆けつけたのか一目では分からず、久城は驚くとともに息を呑む。


「まさか…、どうして君がここに…―――」

「貸しは作りたくない性分なのよ」


 久城の危機を救った小型機と同じ色のARKHED(アルケード)。二足歩行型の機体は隻腕であり、最低限の装甲しかついていない状態であった。そして搭乗者は先の戦いにおいてその身を投げ打って罪を償おうとした者、アリーチェであった。






 洗脳され、自我を失い敵となったジルベルト。彼と対峙する鳴鳥は彼の手にしている光剣を身体で受け止めるように、機体の腹部を貫かれた。コックピットの損壊は免れたが、ARKHED(アルケード)が受けるダメージは搭乗者へ痛みとなって伝わる。脇腹を刺されたかのような痛みに顔を歪め、痛みに喘いでしまうが、ハンドグリップを握る手を緩めはしない。今目の前には大切な者が居て、こんなにも近いのだから放す訳にはいかなかった。


「ナトリさん…!?」

「無事か…っ!?」

「―――…は、はい…、何とか…。それより、今のうちです…っ!!」


 白いARKHED(アルケード)は暴れる黒いARKHED(アルケード)を抱き着くように拘束する。ソフィーリヤとクヴァルは突然の事に驚きはするが、鳴鳥からの応答を受け、すぐさま銃を構え、拘束用のアンカーフックを射出した。

 抵抗の際にミサイルを放とうとした両肩部分はクヴァルによって撃ち抜かれ、更なる拘束をとソフィーリヤは鳴鳥の機体とジルベルトの機体を纏めてアンカーフックでがんじがらめにする。ギシギシと機体が軋む音がするが、どうやら捕縛に成功したようだ。

 猛攻を繰り広げていた者を鎮圧化させてホッと一息を吐くところだが、ここは戦場である。他の者は未だ命を賭して戦っており、ここで落ち着く訳にはいかない。直ぐに気持ちを切り替えた鳴鳥は願い出る。


「ここは私に任せて下さい…!」

「何を馬鹿な事を…!君の機体も行動不能なのだぞ。どうやってこの場を…―――」

「クヴァル。ナトリさんならきっと大丈夫よ」

「ソフィまで、何を言い出す!?」


 ソフィーリヤが鳴鳥に任せても構わないと言ったのは彼女を信じているからと、そして彼女達の元に一隻の船が到着したからであった。その船の姿を捉えたクヴァルは納得がいったようで、ソフィーリヤと共に単身敵陣に向かった久城の元へと救援に向かう。

 戦艦よりも小回りの利く船。普段は商業船を模している武装船アルヴァルディは激しく交戦を繰り広げる中を掻い潜り、鳴鳥達の元まで駆けつけた。


「ナトリさん!無事っスか!?」

「コンラードさん…!私は大丈夫です。でもあの…っ、身動きが…―――」

「ここは任せて欲しいっス!」


 アルヴァルディと共に現れたのはARKS(アークス)に搭乗するコンラードで、彼は鳴鳥の機体ごと拘束したジルベルト機をアンカーフックで牽引し、アルヴァルディの船内へと収容する。

 ハンガーに降り立つ二機。未だに洗脳が解けていないせいか、今も尚、ジルベルト機は拘束を解こうともがいており、軋む音を立てている。


「セリアさん、機体を任せても良いですか…?」

「ええ。それは大丈夫なのだけれど…。生身の状態でも、今の彼は洗脳状態なのよ。大丈夫…?」

「はい。私はジルベルトさんの事を信じていますから」


 それならばと、まだ不安は拭いされていないセリアだが、コントロールを受け取り、コックピット部分を開かせる。それと同時にセリアはアルヴァルディのブリッジに居るアランと協力し、ジルベルトの機体の操縦権を掌握しようと電子戦を仕掛ける。


「…コントロール、奪取完了です!ナトリさん、充分に気を付けて下さい。コンラードさん、もしもの時は頼みましたよ」

「アランさん、ありがとうございます」

「了解っス。ナトリさんの命は自分が必ず守るっス!」


 アランからの通信に応える二人。コンラードの手には威力を高めにしてある電撃銃が、鳴鳥は緊張の面持ちで対面を果たす。


「ジル…ベルトさん…?」


 機能を停止させた機体。薄暗いコックピットに座るジルベルトはピクリとも動かない。急に機体とのリンクを絶たれたからか、はたまたこれまで抑えることなく力を振るい続けてきたからか、シンと静まり返り、襲い掛かってくる気配はない。ホッと胸を撫で下ろし、緊張の糸が解けたように表情も緩ませる鳴鳥はスッと手を伸ばした。


「ジルベルトさん…。戻ってきてくれたんですよね…?」

「―――…!ナトリさん…っ!離れ―――」


 開かれた瞳。それはいつも通りのものではなくて、暗い光を放っていた。その事に気付いたコンラードは鳴鳥を遠ざけようとするが、一足遅かったようだ。獣のような勢いで立ち上がったジルベルトはコンラードを突き飛ばし、そして鳴鳥へと掴みかかる。


「ジ…ル…ベル…ト…さん…っ」

「…」


 冷酷な瞳。それは敵を見るかのようで、彼の両手は鳴鳥の首にかけられ、彼女の身体を軽々と持ち上げている。機体の上で、足のつかない状態。手を放されてしまえば、鳴鳥の身体は遠く離れた床へと真っ逆さまで、無事では済まないだろう。突き落とされたコンラードは獣人種の機敏性もあってか、上手く着地を出来たようだが、再びここまで戻ってくるには時間を要する。

 苦しみながらも鳴鳥は震える手をジルベルトへと伸ばし、指先は僅かに頬に触れる。本当はその胸に飛び込みたくて、抱きしめて欲しくて。けれども愛しく思う大きな手はか細い首を締め上げ、息の根を止めようとする。


「…っ…。わ…たし……今…でも…」


 掠れた声で最期に想いを伝える。どんなことがあろうとも、愛する気持ちは永遠に変わらないのだと。それでも最後の方は言葉にならず、伝えきれなくて僅かに口を開くだけであった。

 遠のく意識の中。ここで命が絶たれたとしても一向に構わないと、死を覚悟もするが、自分が居なくなった後、ジルベルトがどうなるのか、鳴鳥には気掛かりであった。


「(ジルベルトさんは悲しんでくれるのかな…。ううん…。悲しませるくらいなら、忘れたままでいて欲しい。これ以上辛い思いはさせたくない…っ)」


 その想いも届くことは無く、フッと力が抜け、そして意識がプツリと途切れかけた。






 二発目の極大レーザー砲が放たれたそのすぐ後、再び出来た敵陣への道筋を辿って来たのは床に臥していた筈のアリーチェであった。駆けつけた彼女の操作する遠隔型小型機によって窮地を脱した久城。彼は胸を撫で下ろし、助けて貰った礼を言う所であったが、アリーチェの操縦する機体の姿を見て驚く。


「その機体は…」

「見てくれなんて気にしている暇は無いわ。来るわよ…っ!」

「は、はい…!」


 軽量型の域を超えているボディ。最低限の装甲しか無い機体の色は大空を思わせる青色で、アリーチェの搭乗していた機体と異なる。その色は本来の機体の色であって、ここまで駆けつけるにあたって、彼女はコックピット部分しか残らなかった機体を最低限回復させたらしい。操る小型機も通常は六機な所を今は二機であり、戦力は落ちるように思われるが、それは杞憂で済むようだ。

 病み上がりであるのを感じさせない動き。万全でないにもかかわらず、アリーチェはヴァレリーを惑わすように飛び交い、隙あらば攻撃を仕掛ける。


「アリーチェさん、あまり無理をしないで下さい」

「何を言っているの?今、出し切れる力を出さなくてどうするの!?」

「…!そう…ですね…!」


 やはりアリーチェには敵わないと、その強さを目の当たりにさせられて、そんな彼女に負けまいと久城は気を引き締めてかかる。

 拮抗していた戦況。それはブリューナクの援護とアリーチェが駆け付けた事により一変する。追い詰められていた久城は一転して攻める側へ、ヴァレリーは防御に徹する事となる。


「死に損ないめがァ…っ!!」

「その死に損ないに追い詰められる気分はどうかしら?」

「傀儡如きが…っ!クソ…っ!!」


 唸り、喚き散らすヴァレリー。二機を相手となると分が悪いのだろう。大剣を収め、機体は二機に分離させて応戦する。一人で操作する二機と二人がそれぞれ操作する二機。久城が手にした光剣はヴァレリー機のアーム部分を斬り落とし、アリーチェの遠隔型小型機はヴァレリーが直接操る無人機の脚部に風穴を開ける。

 あと少し、もう少しで敵を討てる。そう確信を得る久城とアリーチェだが、ここで急く事は無い。窮地に立たされたヴァレリーはなりふりを構っていられないようで、隊列を崩させて無人機を大急ぎでかき集めるよう指示を出す。


「囲まれた…!?」

「こんなに早いだなんてね…」


 二発目の砲撃となると無人機も学習し、回避行動を取れたのだろう。無人機と言えども、数で押されれば久城達は簡単に敗北を喫する。ここはやられる前にやるしかない。傷つくことを厭わず、攻撃を繰り出すがあと一歩という所で止めを刺すことは叶わない。徐々に敵の包囲網は狭まり、構えた銃が向けられ、放たれようとしたその時、それは彼方より現れ、周囲の敵を蹴散らした。


「クヴァルさん、ソフィーリヤさん…!?」


 彼らの登場と共に、久城の元へブリューナクから通達が入る。ジルベルトの拘束に成功したと。それならばもう焦ることも気負う事も無い。この四人でならば負ける筈がない。

 盾役を任される事の多いソフィーリヤは光剣と銃撃で無人機を次々と沈め、クヴァルの放つ長距離射撃は一発たりとも外さず、次々と敵機を沈めていく。あっという間に周囲は静かに、破壊し尽くされた後の破片が漂うだけとなった。

 背中を任せられるだけでなく、無人機を掃討し終えたクヴァルとソフィーリヤは久城達の援護に回り、今度はヴァレリーが包囲される側となる。


「…っ!貴様らァ…!!!」


 怒り狂ったヴァレリーだが、意外と冷静なようで、自身が突撃を仕掛けることは無い。自機の前に無人機を配し、一番脆そうな者へ、アリーチェの元へと突撃させる。振りかぶった光剣を受けとめたのは駆けつけた久城であるが、すぐさまソフィーリヤが滑り込むように間に入り盾を構える。


「皆…っ!今すぐ退いて…っ!!」


 危機を察知したソフィーリヤが叫ぶが、一足遅かったようだ。ヴァレリーが操る無人機はその身を爆ぜさせた。機体一機分の爆発。何とかソフィーリヤの構える盾で防げたものの、視界は遮られる。レーダーで敵機の反応を探り煙の中を突き進もうにも、配されたデコイで敵機の行方は分からない。

 逃げられてしまった。ここに来てまだジルベルトの洗脳を解くことは叶わないのかと悔やむが、もう一人、この場には頼りになる者が居た。


「終わりだ、ヴァレリー・オルロワ…!」


 敵の居城、小惑星型要塞アドミニストラードに向かうヴァレリー。ステルスまで使用し、欺いたかのようであったが、クヴァルは逃さなかった。立て続けに放った弾は三弾とも命中し、残されていたアームと脚部が全てもがれる様、撃ち抜かれる。


「コックピットは外したか…」


 すぐさま後を追おうとしたが、コックピットだけ残された機体は近くの惑星へ、重力に引き寄せられ、墜落する。たとえ助かったとしてもかなりの損傷を受けた為、暫くは再起不能だろう。そう判断したクヴァルはまだ終わらない戦場を久城達と共に駆け抜ける。






 ジルベルトの拘束、ヴァレリーの撃破。それは戦い続ける者達、ミリアムとラウナにも伝えられ、敵であるデクセスとデクセプの元へも同様の情報が入る。

 元々ミリアム達の方が優勢であったが、吉報は更に彼女達を勢い付けさせ、デクセス達にとっての凶報は彼女達を追い込む事となった。


「ヴァレリーまで…っ。どいつもこいつも…っ!」「アタシ達に逆らうなんて…っ!」


 かなりのダメージを負ったデクセス達。ここは一旦退くべきなのだが、高いプライドからか引くに引けないようだ。平常心が保たれていない彼女達の攻撃は大振りでいて、容易くかわされてしまう。頭に上った血は簡単に戻らず荒い攻撃は外れるばかりで、それでも手を休めることは無い。


「何で届かないのよ…!アタシ達がこいつ等に劣るなんて…っ」「そんな訳ない!下等な者達に肩入れする奴らなんかに負ける訳…無い…っ!!」


 目の前の現実を受け止めきれずにいるデクセス達。彼女らは決して弱くはない。寧ろ戦いにおいては強い方であるが、その信念はミリアム達に敵わないのだろう。誰かを虐げる事に喜びを感じるよりも、誰かを守りたいという想いが勝ったようだ。


「な…っ!」「く…っ!!」

「…これで終わりね」


 武器を持つためのアーム部分は両方とも破壊された。機体が負ったダメージは身体にフィードバックされ、蓄積され、とうに限界を超えていた。追い詰められたデクセスとデクセプだが、まだ屈することは無く、反抗的な態度で喚き散らす。


「何で使命を捨てたアンタ達がアタシ達に勝るの…!?」「こんなの絶対に認められない!アンタ達みたいな出来損ないなんかに!」

「可愛そうな子達ね…」


 光剣をコックピットに突きつけながらミリアムは憐れみの目を向ける。敵となった者達に憐れまれる筋合いはないと、デクセス達は更に怒り狂うのだが、そんな彼女達の姿を見てラウナはポツリと呟き、その言葉は彼女達に深く突き刺さったようだ。


「貴女達は巡り合えなかったのね…」

「ハァ…?」「何が言いたいのよ…?!」

「私達は、元は同じ使命を持ってこの世界に降り立った」


 けれどもこうして相対している理由。それはこれまでに出逢った者達が違っていて、その者達と言葉を交わしたり、心を通わせることによって変化が生じて。ミリアムはディノスと出逢い、彼を苦しめる枷で使命に疑問を抱き、ラウナもフラヴィオと出逢い、ミリアムと同様に枷で苦しむフラヴィオの姿を見続け、このままではいけないと思っていた。一方でデクセス達はヴァレリーと出逢い、彼の何もかもを破壊し尽くしたいという想いに共感して理想を同じくしていたのだが、それにより、この世界に生きる人々を人として扱うことは無く、虫けらだとしか認識できないでいたようだ。


「その差が、力の差に繋がると言うの…!?」「そんな馬鹿な…っ!」


 認めたくはないが、こうして力として示され、デクセス達はミリアム達の前に屈している。ここまで来れば敗北を認めざるを得ないのだが、やはり素直には受け入れられないようで、彼女達は尚も噛付く。


「フン…。ただ絆されてしまっただけじゃない」「やっぱり、ただの腑抜けよ!」

「貴女達にどれだけ小馬鹿にされようと構わない。私はフラヴィオと出逢えて良かったと思うし、彼から貰った名は大切なものだわ」

「名前…」「…っ」


 ラウナの本来の呼び名は『デク』といい、それは名前というよりも番号であって、10番目という意味である。今の彼女の名はフラヴィオが名付けたものであって、元の呼び名が女の子らしくない名前だと言われ、何の気なしに付けられた名であった。何と呼ばれようが構わない。フラヴィオに対してそう言ったラウナであるが、この名があって、彼が呼んでくれて、自分はただの傀儡で無くなったのだと思えた。

 名を与えられた事。それを大切であると思うのはミリアムも同じで、彼女もまた、ディノスから貰った名を尊く思う。そしてそれはデクセスとデクセプが得られなかったものであり、言葉では強がるものの、羨む気持ちが全くないわけではなかった。


「名前まで変えて…っ、虫けらに成り下がっただけじゃないの…!」「そうよそうよ!名前なんて無くても、アタシ達には使命がある…っ!」

「どこまで行っても、平行線のようね…」


 四肢をもがれても、もう飛べなくても、屈しはしない。デクセス達の心が折れずにいるのは忠誠心の強さで、ミリアム達にはないものであった。けれどもその強い想いもミリアム達には敵わず、デクセス達は意識を手放す事となる。


「…止めを刺さないなんて、全く、貴女は甘いわね」

「どれだけ憎まれて対立しようとも、私達は同じ人の手で作られた姉妹みたいなものじゃない?…彼女達が手駒のままで一生を終えるなんて、私には出来ないわ」

「…そう、ね。もし、私がフラヴィオと出逢っていなければ、彼女達のようになっていたのかも知れない…」


 止めを刺さず、意識を奪うように、コックピットを狙い麻酔弾を撃ち込んだミリアム。彼女の判断を非難したものの、ラウナにも思う所があったようで拘束するのに手を貸す。


「…その、フラヴィオさんは大丈夫なのかしら?何だったら、ここは私に任せて彼の元へ行っても構わないのよ」

「気遣いは結構よ。一人で二機を本陣まで牽引するのは危険でしょう?それに、フラヴィオなら心配する必要は無いわ」


 遠く離れていても不安に思うことは一切無い。彼ならきっと大丈夫であると、きっと無事であるとラウナには信じられた。






 星団連合軍の勢いは止まらない。ジルベルトが拘束された事、ヴァレリーの撃破、そしてデクセスとデクセプも拘束されたと報告が入り、ますます勢いづく。

 エルンストの配下はセルべリア一人となったが、彼女は諦める事も無く、味方の不甲斐なさに憤りを感じる事も無い。彼女の目的はただ一つ。目の前の敵を討つことで、自らを刃と化し、敵を追っていた。


「いい加減、降伏する気にはならねぇのか?」

「戦わずして敗北を認めるなど出来る筈もない!」


 そう返されると分かっていたものの投降を呼びかけたフラヴィオ。彼は案の定の返答に苦笑いをし、そして操縦に集中する。

 どこまでも追いかけて来るセルべリア。フラヴィオの方がスピードは勝っており、距離を取っては攻撃を仕掛ける。と言っても集中して攻撃が出来ない為、着弾したとしても威力は低いようで、セルべリアの勢いは止まらない。


「(このままじゃ埒が明かねぇ…。どうするべきか…)」


 セルべリアを倒せばエルンストの手駒は無人機のみとなる。そして他の者は既に敵を討ち果たし、ここに駆けつけてくるかもしれない。このまま時間を稼ぎ、援軍を待って数で押しても良い。寧ろその方が安全で、確実に敵を仕留められるだろう。だがフラヴィオは一人でケリを付けようと打って出る。セルべリアのプライドも高いようだが、フラヴィオにも譲れないものがあるようだ。


「どうした…?攻撃は諦めたのか…!?」


 ひたすら逃げる事ばかりに徹するフラヴィオ。彼は小惑星群の宙域に突入し、巧みに避けながら突き進む。まったくスピードを落とさずに小惑星を避ける業は人並み外れていて、徐々に距離は離れて行った。見失う程の距離でもないが、追う事を諦めてもおかしくは無い程の距離が開くが、セルべリアは一度狙いを定めた獲物を逃しはしない。彼女は進路上に在る小惑星を破壊しながら先へと進む。


「…これは…!?」


 肉眼ではその姿を捉えられなくなった頃、レーダーを頼りにセルべリアはフラヴィオを追っていた。だが暫くして辺りは真っ白に、煙幕弾により視界は真っ白になり、続いて機体の反応が一つ、また一つと増えていき、本物を見失う。小惑星群の中に配されたデコイと煙幕。それによりセルべリアはフラヴィオの姿を完全に見失う。


「小賢しい真似を…!」


 戦闘機形態を解除して二足歩行形態へ。槍を構えて神経を尖らせ、敵の出方を窺うセルべリア。今の彼女は死角が無いと言って良い程で、それほどまでに気配を察知していた。けれども彼女の読みは正しくない。フラヴィオは何時までも打って出ることは無く、ただ立ち尽くすばかりである。そんな彼女に向けて一筋のレーザービームが放たれた。


「この程度の攻撃、避けるのは容易―――…なに…っ!?」


 攻撃は避けた。だが、そのレーザービームはセルべリアの背後に在った小惑星へと当たり、そして爆発を起こした。さほど威力の無いような攻撃で起きる爆発ではない。そう感じた時には遅く、爆発は連鎖し、セルべリアは大爆発に巻き込まれる。

煙が晴れた場所。そこには粉々に散った小惑星の数々とボロボロの、かろうじてコックピットが残されたセルべリアの機体が在った。


「…見事に誘い込まれたか。卑怯な戦法であるが、これもまた戦略というもの。軟派な見た目に対し、意外と頭が回るのね」

「ハハッ。…戦女神に褒められるだなんて光栄だな」

「…戦女神?私がか…?」

「ああ。アンタの戦う姿は勇ましくて…敵ながら美しい」


 近づいて来たフラヴィオは抱き留めるようにセルべリア機のコックピット部分を抱える。まだ歯の浮くセリフを並べ立てるフラヴィオに対し、セルべリアはこのような男に負けた事が恥ずかしくもあるが、元々、この戦に赴く前に勝敗は決していると内心思っていた。あの時、ジルベルトに負けた時に彼女はもう、勝敗を見極めていたのだった。


「…しっかり拘束はしなくて良いのか?」

「また暴れたら組み敷くまでだ」

「…フン。お前という奴は何処まで行っても軽薄だな」

「どうせならフェミニストだと言って欲しいんだがな」


 フラヴィオはセルべリアに勝利した。これでエルンストの配下は全て討ち果たし、後は無人機を掃討するだけである。

 そしてついに敵将と、エルンストと会い見える事となるのだが、ジルベルトを回収したアルヴァルディでは、その場に居合わせた者達が息を呑んでいた。




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