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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase three : phototaxis
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第89話 The duel place where the orange sunset sinks

 敵を捕捉する為、監視衛星のデータの書き換え作業を行っていた第13部隊。八カ所目となる作業を終えて帰還しようとしていた所、敵の襲撃を受けた。ジルベルト達の前に現れた者。それはかつて何度も刃を交えた事のある者、長槍の使い手セルべリアと、見慣れぬ黒いARKHED(アルケード)が複数機であった。


「ここは俺に任せてお前達は―――」

「よし!行くぞ野郎ども!」「了解」「アイアイサー!」


 ARKHED(アルケード)相手にARKS(アークス)が敵う筈もない。直ぐに退くべきだとドナート達に言い放ったジルベルトだが、彼らは全く聞く耳を持たない。それどころか進んで敵の方へ、戦う気満々のようである。絶えず退くようにと呼びかけるジルベルトの声を無視し、ドナートは単騎で特攻を仕掛けた。


「馬鹿な真似は―――」


 距離を取るのではなく、懐に潜り込むよう近づくドナート。大胆な行動ではあるが、不意を突けたのは一瞬で、すぐさま銃撃の雨での応酬が繰り広げられ、あわや蜂の巣になりかける。そう思われたが敵の弾は相殺されるように撃ち落とされた。それはドナートに追随するカリナの機体が放つ銃撃で、素早い身のこなしでドナートの援護をこなす。彼らの特攻を敵がただ棒立ちで見守る筈がない。銃撃で応じるだけでなく、散開して背後を取ろうとするが、それらを撃ち落とそうとするのは極太のレーザー砲を放てるひと回り大きなARKS(アークス)、マグヌス機であった。




          第89話 The duel place where the orange sunset sinks




 三人の連携は見事であった。ARKHED(アルケード)相手にも十分に通用するようであったが、それは立ち回り方のみで、やはり威力は乏しい。黒いARKHED(アルケード)の懐に完全に潜り込んだドナートは光剣を振るうものの切れ味はいまいちのようで致命傷には至れない。黒いARKHED(アルケード)数機に引けは取らないようだが、そこにセルべリアが絡めば話は違う。彼女の相手はジルベルトが引き受けるが、ドナート達も完璧ではない。カリナが取りこぼした弾もジルベルトが対応し、目の前の相手に集中は出来ない。


「どうした…!以前より攻撃にキレが無いようね」

「分かっていて聞くか…っ!」


 嘲笑うセルべリア。どうにか現状は凌いでいるものの、ドナート達の連携が崩れるのは時間の問題だろう。彼らが搭乗するのがARKHED(アルケード)ならば余裕さえある程に圧倒できただろうが、ARKS(アークス)では越えられない壁がある。


「(こいつ等を一人でも捕えて、居城まで案内させようとしたが…。見誤ったか)」


 敵のARKHED(アルケード)操縦者は五名。こちらは本拠地を探ろうとする者達であるが、たかだかARKHED(アルケード)一機を相手に全戦力を投入するとは思えない。せいぜい多くて二機程度と目算し、一人で何とかしようと目論んでいた。だが現れたのはかつて相対した事の無い機体で、しかも数は四機と多い。機体の扱いに関してはセルべリア以下だとも思われるが、数で押されれば分が悪い。

 苦虫を噛み潰すように目の前の相手とドナート達のフォローに回るジルベルト。このままでは自分のみならずドナート達まで巻き込んでしまう。彼らはそうなる事も覚悟の上で敵に銃を向けたようだが、無下に命を散らすのを見過ごしは出来ない。


「私との戦いにおいて心ここに在らずとは、良い度胸だわ」

「…っ!」


 無数の突きが機体を掠める。一対一ならば後れは取らない。寧ろセルべリア相手では数ある戦いを重ね、その攻撃を見切ることが出来ただろう。だが今は、ドナート達の事もあり、目の前の敵に集中できずにいた。

 いち早く、連合軍よりも誰よりも早くエルンストの元へ。一度は膝を屈したが、今度こそはと単身、敵の居城へと至れる道を探る為に辺境宙域へと、転属願いを出して自ら危険な任務に就くことを願い出たジルベルト。それはひとえに枷から解放されたいという願い故に。エルンストを倒す以外にも方法が無かった訳ではない。当人、枷を填めた観測装置オブザーベイションシステムであるアリーチェが己の命を以って罪を贖うと申し出たが、当然として受け入れられなかった。ならば諦めてこのままでいるのか。それも当然として受け入れられない。散々考え抜いた末に出た結論に従い、今に至る訳だが、僅かな望みも、エルンストに相対する前に消えてしまいそうであった。


「(…こんな所で潰える訳にはいかない。だがこのままでは―――)」


 自分一人ならば問題は無い。だが、この場にはドナート達が居て、エアヴェルメンも応戦している。どうにかこの危機を乗り越えようと、せめてドナート達だけには被害が及ばぬよう考えを巡らせ、隙が無いか探りつつセルべリアの槍撃をかわすが、最悪な結末しか見えなかった。


「諦めるのかよ!」

「…っ」


 問いかけてきたのはドナートで、数機のARKHED(アルケード)相手に立ち回っている彼は額に汗を流しながら叫ぶ。僅かでも気を許せばやられてしまう。そんな最中にドナートは諦めを感じ始めていたジルベルトを叱咤する。押し負けていて、いつ致命的な攻撃を受けるか分からない戦況で、戦力差に絶望して今すぐにでも自分を見失ってもおかしくない状況下で、彼は未だ諦めを抱くことなく、僅かにでも敵に攻撃を喰らわせられるように立ち回る。


「アンタ達には巻き込んですまなかったと思っている」

「何を言いやがる。寝言は寝てから言えっての!」

「いや、今からでも遅くは無い。俺がどうにか時間を稼ぐうちに逃げてくれ」

「そいつは聞けねぇ願い出だな」

「死ぬ気でいるのか…!?」


 馬鹿な真似はこれ以上止めるよう、ここは自分一人に任せるべきだと進言するが、ドナートは聞き入れない。それどころかカカッと笑い飛ばし、配慮は必要ないと言い張る。明らかな戦力差を前に死に急いでいるとしか思えない判断だが、ドナートは決して死ぬ気でいる訳ではなく、生きてこの窮地を乗り越える気でいた。


「俺達はこんな所でやられたりはしねぇ。なぁ、そうだろう?」

「当たり前でしょ!」「ウム…」


 ドナートの問いに答えたのはカリナとマグヌスで、彼らもまだ諦めているようではなく、当然のように言い放つ。返答だけは実に頼もしいのだが、やはり根性と気力で戦力差を埋められはしない。ARKHED(アルケード)ならば精神力が尽きぬ限り起動し続け、残弾数もエネルギー残量も尽きることは無い。それに比べてドナート達が搭乗するARKS(アークス)は真っ先に弾切れを起こし、エネルギーを切らして無防備な様を晒すことになるだろう。そうなるとただの動かぬ的で、全滅は免れない。どうにか冷静になって状況を見極め、ここは退くべきであると理解させたい。けれども今のジルベルトには説得する余裕も、言葉も持ち合わせてはいなかった。

 己の命を顧みないドナート達。無策で、無謀で、無茶苦茶で。その諦めの悪さは心配を通り越して呆れる所であって。それでもジルベルトは彼らの強さに心を動かされ、折れかけていた気持ちが持ち直り、そして一つの打開策を見出す。


「―――…セルべリア、いや、本当の名はセスと言ったか」

「あら?まだ話せる余裕があるのかしら」


 セルべリアの槍撃をかわしつつ、ジルベルトは通信を繋いで彼女に呼びかける。圧倒的に有利であるからか、セルべリアは涼しい顔で応じた。

 絶望的な戦力差に、目の前の攻撃を避ける事でいっぱいいっぱいで気づきにくかったが、この状況にはおかしな点がある。ジルベルト達は防戦一方であるのに対しセルべリア達は余裕を見せていて、黒いARKHED(アルケード)数機に関しては様子を窺う様である。彼女らの主、エルンストは現在星団連合に身を置くセリアに常軌を逸した執着心を見せていて、今すぐにでも攻め入り彼女の身柄を手にしたいだろうと思われる。だとすればこの状況には疑問符が浮かぶ。エルンストの手駒であるセルべリアは何故、こうして余裕をもっているのか。思いつくのは一つの仮定であり、ジルベルトは問いかける。


「あの機体は…量産型か!?」

「フフ…、ご明察。こうして遊んでいるのは運用テストという訳よ」

「遊び…か」


 敵が手を抜いている事には気が付いていた。けれどもそれを遊びだと称されれば、命の危機を感じていた側にとってはとてつもなく癇に障る。今も尚、敵が浴びせる弾を決死の覚悟で掻い潜り、徐々にすり減らされていくエネルギー残量で精神的に追い詰められているドナート達に対しての侮辱に、ジルベルトは苦虫を噛み潰すように顔を歪めさせた。

 怒りに囚われそうになる所だが、ここで自分が正気を失ってはそれこそ敵の思う壺であり、ドナート達にも更なる危機が及ぶ。努めて冷静に、攻撃の手を休めないセルべリアと対峙しながらジルベルトは呼びかける。


「運用テストと言うのならば、奴らは相手をしなくてもいいだろう…っ。ARKS(アークス)相手ならばテストをするまでもない!」

「確かに。あの程度のガラクタ、相手をするまでもないが、お前との戦いにおいて邪魔はされたくないからね」

「俺とサシの勝負を望むのか…?」


 以前より、その兆候はあった。観測装置オブザーベイションシステムであると言えども、セルべリアにも意志は存在する。彼女にとっての一番は主であるエルンストの命であるが、幾度となく対峙して、その槍捌きと戦いに臨む姿を目の当たりにして、使命を果たす以外の感情が構える切っ先に見えもした。それは戦いを楽しむ思い。デクセスやデクセプにもそういった感情が見られもしたが、彼女らは痛めつける事を快楽とした嗜虐思考で、セルべリアとは違う。彼女の場合は戦うことそのものを好いているような、所謂戦闘狂というものなのだろう。だとすればジルベルトにもこの窮地を脱する手立てはあると、一つの賭けに出る事にした。


「…確かに。これまでサシで戦うことは無かったな。だがアイツらに手を出されては俺も集中は出来ない。アンタは全力でない相手を討って満足か?」

「それは挑発のつもりか?―――…まぁいい。このままジワジワと追いつめていても興が冷めると言うものだな。有難く思え、その言葉に乗ってやろう」


 まさかここまで上手くいくとは思いもしなかったジルベルトだが、この機を逃す訳にはいかない。一対一での一騎打ち。ドナート達には必要以上手を出さない。これ以上無い程にジルベルトにとって良い条件なのだが、それだけセルべリアには己の腕に自信があるのだろう。

 戦いの舞台は場所を変え、近くの未開惑星へ。二機は崩壊した文明の跡が残る星へと降り立ち、武器を構える。

 折れた石柱。沈む夕日のオレンジ色に染まる海底に眠るのは古代都市。水面に波紋を広げる二機は静かに佇み、互いの出方を窺う。一騎打ちを望んだからには戦場に臨む礼儀というものだろう。ジルベルトの機体の手には青く光る光剣が握られていた。


「―――おい…っ!どうなってやがる…っ」


 静寂を破ったのは対峙する者達ではなく、遥か上空にて黒いARKHED(アルケード)を相手に立ち回っていたドナートの声であった。彼はジルベルトとセルべリアが離脱した瞬間に状況が変わって驚いていたのだが、何が起きているのか大体を察しているようだ。ジルベルト達が降り立った星を守るよう配された黒いARKHED(アルケード)。こちらからの攻撃はいなし、反撃をしない様子は異様であって、この先で何かが起きていることは明白であって、ジルベルトが一身に引き受けたのだと感付いたようだ。


「一人で全部背負おうだなんて許さねぇぞ!」

「生憎だがもう許しを請うつもりは無い。元々俺一人で十分だからな」

「減らず口を…っ!今すぐ戻ってこい!船長命令だ!」

「人の心配より自分の身を考えろ。敵が情けを下している間に退いてくれ」

「テメェ…っ。船長命令を無視した挙句に何て物言いを―――」

「…カリナ、マグヌス副船長、後は頼みました」

「りょ、了解」「…船長の事は任せろ」

「おいコラ!テメェら!長年連れ添った上官よりアイツの言う事を聞くのか―――」


 カリナは心配しつつも、ジルベルトへ全てを託しても良いと判断したのだろう。同じくマグヌスも後は任せるといった風に視線を向け、そして喚くドナートを無理やりに、アンカーフックで縛り上げ、強制的に退却させた。

 これで邪魔は入らない。そう分かった途端、空気はまたピンと張りつめたものへと変わり、ジルベルトは息を呑む。なんとかドナート達の安全は確保できた。この状況も星団連合軍本部には伝わっていて、じきに救援が駆け付けるだろう。

 多くのARKS(アークス)や戦艦が飛び交う戦場とは違って、目の前の相手だけへ集中できる一騎打ち。セルべリアを相手にしてはこれまで優位に立つこともあったが、それは自分一人だけの力ではない。その上これまでの彼女が本気を出していたのかもまだ分からない。自分の力に自信が無いわけではないが、気軽に挑める訳ではない。自分の身やまださして離れていないドナート達の命が掛かっているというのもあるが、ジルベルトには何より譲れない願いがあった。


「(またとない機会、失ってたまるか…っ!)」


 先に踏み出したのはジルベルト。彼は己を縛る枷という名の鎖を断ち切る為に剣を振るう。






 沈黙を保ったままであった敵、エルンスト達。彼らはついに動き出したようだが、姿を現したのは敵の居城を捕捉する為の任務に就いている特務部第13部隊、ジルベルトの所属する部隊の前にであった。

 緊急通達を受け、久城とアリーチェはARKHED(アルケード)に搭乗し、ジルベルト達が戦う辺境宙域を目指すが、彼らの前に立ちはだかる者達が。それは幾度となく対峙した事のある者達、デクセスとデクセプで、彼女らの背後には見慣れぬ黒いARKHED(アルケード)が数機控えていた。

 圧倒的な戦力差。それでもここを退く訳にも、ここで足止めをされている訳にもいかない。一刻も早くこの窮地を突破しなくてはと焦る久城達の前に、それは闇を貫く一筋の光を纏って現れる。

 穢れを知らないような白いARKHED(アルケード)。それはかつて戦場とは無縁であった少女が搭乗していたもので、今は本来の持ち主であるセリアの手へと戻っていた機体であった。


「まさか…っ、鳴鳥…なのか?」

「はい…っ!あ、でも、私一人ではないのですが…」


 久城の呼びかけに応じたのは鳴鳥で間違いなかったが、応答した彼女の後方、後部補助座席にはセリアの姿もあった。

 白いARKHED(アルケード)。敵の手より取り返したその機体をセリアは鳴鳥が搭乗する事を望んでいた。内に秘められた意志の力。それを鳴鳥に見出し、彼女に機体を譲ろうとしたセリアだったが、鳴鳥は素直に受け入れられず、首を縦に振れずにいた。それは自分自身に自信が無いからで、セリアの言う力を抑え込んでいる原因、敵を本気で倒そうと思えないという事があって。未だに戦う事を恐れていないとは言い切れないが、今の鳴鳥には立ち止まっている暇が無かった。

 足りない自信。それをどう埋めるのか。それは誰かの手を借りる事で。自分の思いに振り回してしまう形となるが、セリアは深く頷き、鳴鳥のサポートに当たる事となった。


「そうか…。やっぱり君はここに、戦場に来るんだね」

「久城センパイ…。ご心配をおかけするようですが私は大丈夫ですので。絶対、足は引っ張らないようにします…っ!」

「…その言葉、信じているよ」


 迷いの晴れた鳴鳥の瞳は真っ直ぐで、敵の目前だというのに臆した様子は無い。

 鳴鳥達が駆け付けたが戦力差は覆せそうにもない。余裕を感じているのか、デクセス達は一人駆けつけたところでどうなるのかと高笑いをしていた。


「駆けつけたのが一番弱いアンタじゃ話にならなくない?」「そうそう、今からでも遅くないから、後ろにいる人と操縦代わって貰えば?」


 デクセス達の言う事はもっともである。だが、操縦者が代わる必要は無いのだと、セリアはハッキリと告げた。


「貴女達、エルンストの命でここへ来たのよね?彼の命なら私を傷つけてもいいのかしら?」

「う…っ、そ、それは…っ」「少々痛めつける位ならマスターも許してくれる筈…っ」

「そうかしら?あの人はそこまで生易しいとは思えないのだけれど…」


 ぐぬぬと悔しそうに唸り声を上げるデクセス達。セリアの指摘通り、彼女達はセリアに対して手を出せないのだろう。それは大きなアドバンテージであるが、彼女達ならば手加減も可能であり、セリアを捕えれば万々歳である。まったく退く気はなく、むしろ好都合だと言い張り光剣を構える。

 やはりタダでは通してくれないと、敵が臨戦態勢に移行した事により、久城達も武器を構え直す。先手を打つのはどちらか、互いに出方を窺い睨み合いが続く中、セリアは久城とアリーチェに秘匿回線を繋ぎ、指示を出す。


「―――そんな、相手は五機も居るんですよ!?」

「…アタシは構わないわ。アナタの言葉を信じる」

「…頼みました、アリーチェ、クランドさん」


 二人に指示を出したセリアは最後に鳴鳥へとアドバイスをする。彼女の言葉はにわかに信じ難いことだが、言う通りならば鳴鳥にとってこの上なく良いことである。敵を前にして強張っていた表情は一旦落着き、そして最優先事項であるこの場を突破するという事へと集中できるようになった。


「い、行きます…っ!」

「了解!」「こっちは任せなさい!」


 先陣を切ったのは鳴鳥であった。まさかこの中で一番ARKHED(アルケード)の操作に長けていない者が飛び出すとは思いもせずにデクセス達は驚くが、それは一瞬の事。直ぐに迎え撃つよう、返り討ちにしてくれるとばかりに、デクセスは光剣を構え、デクセプは射撃にてフォローに回る。

 最速で、最短で、真っ直ぐに敵の元へと向かう鳴鳥。先制攻撃をデクセス達にくらわすのかと思いきや、間合いに入った所でひらりと身を翻すように、デクセス達の迎撃をかわしてしまう。


「なぁに?大口叩いて逃げる気!?」「口ほどにもな―――…っ!?」


 直ぐに踵を返そうとしたデクセス達だが、彼女達の行く先には久城とアリーチェが立ちはだかる。この場は二人に任せ、鳴鳥達は先へと、ジルベルト達の元へと向かうのかと思いきや、彼女らには別の目的があった。

 構えるのは赤く光る剣。デクセス達よりは反応が鈍いのか、はたまた不意を突いたからか、黒いARKHED(アルケード)は懐に入る事をいともたやすく許し、そして振り抜かれた光剣によって一刀両断。上半身と下半身部分が真っ二つに分かれて爆発を起こした。


「な…っ?!」「何で…!?」


 鮮やかな手並み。それだけでも驚くべきところだが、デクセス達が呆然とする中で鳴鳥は次々と黒いARKHED(アルケード)を倒していく。予測以上の動きで敵を翻弄するかのように立ち回る鳴鳥。無論、黒いARKHED(アルケード)は棒立ちである訳ではない。けれども撃った弾は掠めるどころか何もない場所へ、振るった剣も剣で受け止められ、押し返され、怯んだ所で重い一撃を打ち込まれる。


「本当に。人相手ではないのなら全然違うのね」

「…め、面目ないです」

「責めている訳ではないのよ。その調子で、後一機、来るわよ!」

「は、はい…っ!」


 デクセス達が従えていた黒いARKHED(アルケード)五機は全て無人機だと、瞬時に見抜いたセリアの助言で鳴鳥はここまで立ち回れた。

 敵であるデクセス達が鳴鳥の動きに驚かされる所であるが、久城とアリーチェも、かつて見てきた鳴鳥の姿との違いに驚いていた。

 無人機相手だからここまで立ち回れるのかとも思われるが、アルヴァルディの皆と離れている間、鳴鳥は軍学校にてARKS(アークス)に搭乗し、危険種の相手や対人戦も行ってきた。ARKHED(アルケード)とは比べ物にならない相手だが、戦場における経験は無駄ではない。積まれた経験に、躊躇う事も無い相手、そして今の鳴鳥にはいち早くこの場を脱さなければいけない理由もあり、それらは力と成って振るわれる。


「…っ!全機撃破ですって!?」「と、とんだポンコツだったのよ!」


 五機全てを倒した鳴鳥。信じ難いとデクセス達は否定するが、これは現実であり、幻覚などでは無い。呆気にとられる所だが、鳴鳥の事ばかりにかまけている暇は無い。デクセス達は久城とアリーチェを相手にしなくてはならない。こうしている間にも久城は緑色に光る剣を振るい、彼を援護するようアリーチェの小型遠隔機が飛び交う。


「鳴鳥…!後は任せてくれ!」「ジルの事、頼んだわよ!」

「お二人とも…―――。はい…っ!!私、行ってきます…っ!」


 デクセス達の相手は久城とアリーチェに任せ、白いARKHED(アルケード)は戦闘機形態へ。一筋の光となって彼方へと消えた。


「鳴鳥…。君ならきっと…」


 テレンティアに降り立ち、潜入捜査をしていていた頃、戦えないと弱音を吐いていた時とは違う姿。まだ危なっかしくもあるが、その光を纏う姿は頼もしくもあり、全てを託しても構わないとさえ思えた久城。


「あの子なら…きっと…」


 鳴鳥の後を追おうと目論むデクセス達に向けられる無数のレーザービーム。アリーチェが放った小型遠隔機から発せられるビームはデクセス達の行く手を阻む檻のようで、彼女達を留めさせる。

 ジルベルトの元へと駆けつけた所でどうなるかは分からない。けれども鳴鳥ならばきっと奇跡さえも起こしてくれるのでは…と。そう希望を抱いたアリーチェは自分の役目をここで果たすべきだと、今こそが贖罪の時なのだと心に決める。


「かかってきなさい!この身を以ってアタシはアンタ達を止めて見せる…っ!」






 沈みかけた陽を背に散る火花。それは青く光る剣と鋭い切っ先が触れて放たれる光。

 一進一退の攻防。一騎打ちに臨んだジルベルトは長槍の使い手、セルべリアと対峙する。

 彼女が得意な槍捌き、無数の突きは目にも留まらぬ速さで、人の力で繰り出せる域を遥かに超えている。それは彼女の搭乗するARKHED(アルケード)の力によるものでもあるが、彼女自身の力でもある。機体は彼女の手足のように動き、ジルベルトの機体を掠め、その命を隙あらばと狙う。無論、そう簡単にくれてやる義理も無ければ理由もない。臆することは無く、その切っ先が向かう先を見極め、光剣で捌き、何とか懐へと入り込もうとするジルベルト。距離を取り、銃器を駆使すれば形勢は傾くかもしれないが、あくまで近接攻撃スタイルを崩さない。


「フン…。態々私に合わせなくとも、好きな武器を使っても構わないのだぞ」

「いや、この手にする剣だけで十分だ」

「…そうか。ならばこっちから攻めさせて貰おう!」


 肩慣らしは充分だと。セルべリアは一際力の込めた突きを繰り出す。けれどもそれは容易に見切られ、隙を生んでしまった。またとない機会を逃す筈もなく、ジルベルトは懐へ、光剣を振り抜こうとするが、違和感を覚えて寸での所で留まる。以前相対した時、テレンティアとの戦において彼女は槍の刃先を飛ばし、鎖にて絡め取るという戦法を取った。今回もその手で来るかと思い身構えるが、咄嗟に構えた剣で防いだのは大きく鋭い刃先であった。


「この形状は…鎌か!?」


 長槍は大鎌へ。刃先を形状変化させたセルべリア。何とか剣で防いだものの、命を刈り取るような刃先は油断できない。一旦打ち返し、距離を取り、出方を窺おうとするが、セルべリアは暇を与えず攻めてくる。


「どうした?!腰が引けているようだが…!」

「ク…っ!」


 槍の動きに目が慣れてきた途端、変わる戦闘スタイル。無数の突きが繰り出されていた長槍は刃先が広い大鎌へ変化し、セルべリアの機体の周りをクルクルと回り、刃の壁を作る。一点集中の攻撃も厄介であったが、全方位の刃の舞も突破しにくい。下手をすれば一刀両断、スッパリと切り刻まれてしまうだろう。

 どう攻めるべきか、ジルベルトには考える暇もない。大鎌を振り回すセルべリアに攻められ、どうにか防ぐことで精一杯であった。


「銃を使っても構わないのよ。もっと、貴方の本気が見たいわ…!」

「そうだな…。それじゃあお言葉に甘えさせて貰うが―――」

「な…っ!?」


 ジルベルトが新たに手にした武器、それはもう一振りの光剣である。あくまで銃には頼らないという意思表示をした彼だが、単に騎士道を順守している訳ではない。距離を置いた所で今のセルべリアは直ぐに詰め寄り、例え銃弾を浴びせた所で全て撃ち落とされるのが目に見えているからだ。ならばここは近接戦に挑むべきだと、その為にもう一振りの剣を手にして構える。


「二刀流か…!面白い…!!」


 心底楽しそうに笑い、そして容赦ない攻撃を繰り出すセルべリア。大振りの攻撃であるようで隙は無い。けれどもジルベルトは片方の光剣で防ぎ、もう片方の剣で攻め込むなど、どうにか勝機を見出そうとしていた。


「フフ…こんなに満たされた想いは初めてだ」

「戦闘狂が…っ」

「何とでも言えば良い。私は戦場に在ってこそ輝ける…!」


 卑怯な真似など無く、姑息な手段も用いない真剣勝負。やはり闘争心こそが本能だと語るセルべリア。狂っているようだが、戦う事に喜びを見出す気持ちが全く分からないでもない。それでも彼女の刃先は何時ジルベルトの機体を切り刻むか分からない。賭しているのは命であるからして、ジルベルトも彼女と同様に楽しむなど、とてもできなかった。

 闘いを楽しむ者とこの闘いで得たいものがある者。どちらの想いが勝るのか、それは程なくして結果として現れた。

 バチバチと飛ぶ火花、譲れない想いを乗せた刃は出力を増し、そして打ち砕く。攻撃を防ぐ際も、打ち込む際も一点に集中させたからか、大鎌の刃先は中央で砕かれる。まさかの事態に気を取られたせいか、ようやく見せた隙をジルベルトは見逃さない。窮地に陥ったセルべリアは大鎌を元の形状、槍型に戻して応じようにも時は既に遅く、ジルベルトの光剣が振るわれる。右のアーム部分と左脚部、綺麗な断面を見せて飛ぶパーツ。体勢を崩しつつも片腕で槍を振るい足掻くが、アッサリと掴まれ、胴体部分に光剣が突き立てられる。


「…見事だ。お前の意志の力、充分に見せさせて貰ったな」

「…敵に褒められるとはな。…どうせ褒めるなら褒美が欲しい所だが」

「私に何を望む…?与えられるものなど何一つ持ち合わせていないと思うが…言ってみろ」

「…アドミニストラード、エルンストの居城まで案内して貰おうか」


 セルべリアとの戦いでジルベルトは疲弊している状態であるが、この機を逃せはしない。もう片方の光剣をセルべリアの居るコックピット部分に突きつけながら要求するが、彼女はせせら笑う。

 やはり手駒であるセルべリアは主を裏切れはしないのだろう。落胆しかける所だが、方法が無いわけではない。ここまで損壊しているARKHED(アルケード)が相手なら、電子戦で、相手の機体に潜り込んで情報をサルベージすればいいと、ジルベルトは接続を試みるよう意識を集中させようとした。


「―――っ!?」


 接続は完了した。だがそれと同時に落ちる影。がら空きであった背後に現れたのは他のARKHED(アルケード)よりも大きな機体。突如現れた黒い複合機は光剣を突き立てた。




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