第90話 It falls in darkness
セルべリアとの一騎打ちに勝利したジルベルト。これでドナート達に危機が及ぶ事も無く、ジルベルトが辺境宙域に来た目的も果たされる。エルンストの居城、アドミニストラードの情報をセルべリアから聞き出そうとするも彼女は口を割らず、強硬手段へ。電子線にてコントロールを奪い、機体から情報をサルベージしようと目論んでいた所、ジルベルトの背に迫る者が。大きな影を落としたのは他のARKHEDの二倍近くの大きさである複合機体。ヴァレリー機が手にするのは黒い光を放つ光剣で、その刃はジルベルトの機体を貫いた。
「クキャキャ!無様だなァ、観測装置…!」
「ヴァレリー…っ!貴様…―――」
「何だァ…?助けてやった者に対しての態度がなっていないようだなァ?」
戦場ならば不意打ちも当然としてある。ヴァレリーの取った行動は何一つ咎められる謂れが無いのだが、セルべリアはキツイ視線で睨み付けた。一騎打ちを終え、その力を目の当たりにして、心の底から負けを認めた後でこの事態。セルべリアにとっては許し難いことだったのだろう。
「クソ…っ、ここに来てこの様とは…っ」
ヴァレリーの攻撃をまともに受けたジルベルト。コックピットを狙って突き立てられた光剣はジルベルトの脇腹を掠め、身を抉る。幸いにして自己治癒力が働いていて、傷は徐々に塞がるが、有利であった状況は覆されてしまった。この場をどう打開すればよいのか、痛みに耐えながら考えあぐねていると、黒い光剣が機体より引き抜かれ、そして再び突きつけられる。今度こそは外しはしないと、そう狙いを定められ、再び切っ先がこちらへと向かう。
「待て!ヴァレリー…っ!!」
「木偶人形が!何故止める…?」
「そいつは私をここまで打ち負かした。…ここで潰すには惜しい」
「ほう…。そうだな。今は戦力を蓄えるべきか…。ならば…―――」
剣の代わりに振るわれた物、それはヴァレリー機のアームで、拘束するかのようにがっちりとジルベルト機の頭部を掴む。一先ず再起不能までに痛めつけられることは避けられたが、穴の開いたコックピット内ではけたたましいアラート音が鳴り響き、警告表示の赤い光が点滅していた。電子戦の攻撃を受けている。そう気が付いた時には遅く、応戦しようと意識を集中させるが、先程の負傷とセルべリアとの戦いで精神力を消費し過ぎたが為に防ぎきれなかった。
「…っ!―――…こ、これは…っ!?何を―――」
機体のコントロールを敵に奪われた。それだけならまだしも、敵の意のままになったジルベルト機は異常な事態に、コックピットの操縦席に搭乗者が拘束を、何処からともなく現れた拘束具によって身動きの取れない状態にさせられてしまった。完全に自由を奪った所で止めを刺すつもりか、そう覚悟を決めたジルベルトだが、予測は大きく外れる。彼の身に起きた事、まずは頭部にヘッドセットを装着されて視界を閉ざされ、それから程なくして頭に激しい痛みを感じだした。脳内を掻き回されるような不快な痛み。己の身に何が起こっているのか戸惑う所だが、直ぐに思考を支配されつつあるのだと気付く。
ヴァレリーの目的。それはジルベルトを洗脳し、支配下に置くことで、拘束された状態のジルベルトには抗う術がない。真っ暗な視界と同様に塗りつぶされていく感情。最後に思い浮かべたのは愛しく想う者の姿で…。彼女の、鳴鳥の事だけは忘れ去りたくないと願うが、その願いは虚しく消え去り、塵となってしまった。
第90話 It falls in darkness
一刻も早くジルベルトの元へ。そう強く願う鳴鳥はARKHEDで宙を駆ける。あと少し、もう少しのところでようやくジルベルトのARKHEDの反応を拾う。ホッと息を吐くのも束の間で、ジルベルトの傍には味方ではない機体の反応が、そして彼らが居る星の手前では惨たらしい惨状が広がっていた。大破したARKSの数々、撃沈した船舶。生存者はいないのかも知れないと絶望を感じさせていたが、セリアが調べた所、生体反応を拾えることが出来、そしてノイズ交じりの通信も繋がった。
応じたのは色付きのサングラスをかけた中年男性。彼は額から血を流していて、とても無事とは言えない状態であった。
「…ようやく救援が…――って、一機だけか…―――ん…?お嬢ちゃんの顔は何処かで―――」
「第13部隊の方ですよね!?怪我の具合は…っ、皆さん無事なのですか…!?」
「お、おう。負傷している奴も居るが、何とか皆一命は取り留めている…。しかしやっぱりお嬢ちゃんの顔をどこかで見たような―――」
「ドナート!その子っ!ドナートの…っ!!」
「んぁ!?どうしたカリナ?そんなに慌てて…」
「ノーズアートの…娘だな」
「な…っ!?」
ドナートとの通信に割入ってきたのは青髪でショートカットの女性で、彼女も片腕を抑えつつ、具合が悪そうであったが、鳴鳥の姿を見て慌てた様子であった。更にもう一人、大柄の、額に対の角を生やした男が努めて冷静に、カリナの言いたかったことを代弁する。するとドナートは目を見開き、コンソールに噛り付くよう顔を近づける。
「な…っ、てことはだ。お嬢ちゃんはあの生意気な奴の女って事か!?」
「そ、そうです、けど…!ジルベルトさんは…っ」
鳴鳥が現れた事に驚いていたドナートだが、ジルベルトの所在を問われた途端、顔色を曇らせた。ジルベルトはこの先に、青い星に降り立っているようだが、皆と合流していない上に敵と思しき者達の反応と共に捕捉されており、やはり事態は良くない方向へと転んでいると思われる。鳴鳥はドナートの返答を聞かぬまま、急いで降下を始め、文明が滅んだ青い星へと降り立つ。
「ジルベルトさん…っ!!」
ずっと待ち望んでいた彼との再会。それは陽が沈み切って、夜空に星が輝き始める頃に果たされた。
海底に眠る古代都市。その一部である斜めに海面から出ている石柱に佇む黒いARKHED。激しい戦闘が行われた後なのか、胴体部分は破壊されており、起動しているのが奇跡な位に思われたが、こちらのレーダーに反応があった事、今もなお、ボディに刻まれた青いラインから光が放たれていることから、搭乗者の無事が窺える。
「ジルベルト…さん?」
彼は無事であった。けれども彼の後方には見覚えのある機体、緑色のARKHEDと他の機体より大きな黒いARKHEDが、セルべリア機とヴァレリー機が控えており、更にその後方には先程倒したのと同様の無人機ARKHEDが数機控えていた。
「ジルベルトさん…っ!無事…なんですよね?」
先程から、この星に降り立った頃から鳴鳥は呼びかけていた。だが、ジルベルトは一言も応えない。通信を繋ごうとしてもモニターに浮かぶのはエラー表示ばかりで、彼の姿さえ見ることが出来ない。
何故答えてくれないのか。敵を背にして何をしているのか。疑問が尽きない鳴鳥であったが、答えは直ぐに、残酷な形として表れる。
「いけない…っ!逃げて…!!」
セリアが叫ぶ中、鳴鳥は茫然としていた。目の前には信じ難い光景が。銃を構えたジルベルトの機体が。それは彼の背後に居る者達、敵に向けられたのではなく、鳴鳥に向けられており、そして容赦なく引き金が引かれた。
浴びせられる銃弾に無抵抗であった鳴鳥。現実を受け止めきれずにいた彼女に代わり、ARKHEDを操作するのはセリアで、彼女は寸での所でかわして見せ、鳴鳥に呼びかける。
「ナトリさん!気を確かにっ!ジルベルト君は操られているのよ!」
「操られて…?」
「ええ。彼の背後、ヴァレリーの仕業のようね」
「そんな…っ!私、どうすれば…―――っ!?」
銃撃を放ちつつも距離を詰めてきていたジルベルト。彼は途中で光剣を構え、そして躊躇いも無く振り下ろす。無論、このままやられるわけにはいかないと、セリアは光剣を手に応戦する。
「呪術なら私でも解呪も出来るけど…っ、ヴァレリーのは…。一度無力化するか、もしくは…―――」
ARKHEDを破壊すれば攻撃をされる事が無い。タガが外されたように猛攻を繰り広げるジルベルト相手にセリアは余裕で立ち回っている。手加減しつつ倒す事も可能なようだが、それは彼の背後に居る者達が許さないようだ。
こちらの思惑に気づいてか、操られたジルベルトと連携を取るよう、ヴァレリーも銃を手にして鳴鳥達へと攻撃を始める。一人増えただけでも厄介であるのに、更には無人機ある黒いARKHEDも動き出し、あっという間に鳴鳥達は包囲されてしまい、逃げ場を失う。
「お願い…っ!ジルベルトさん…。こんなこと止めて…!!」
「無駄よ!いくら呼びかけようとも、今の彼には声が届かない…っ」
「そんな事って…」
「ともかく、今はここを脱するしか―――」
正気を失ったジルベルト。それは今回が初めてではない。以前彼は、軍学校に在籍していた時、同期の者に陥れられ、実地訓練中に自我を喪失させた。その際はクヴァルがARKHEDにて暴れるジルベルトを押さえ、その間にソフィーリヤが彼を救った。解毒薬と決死の想いでの呼びかけ。それによりジルベルトは目を覚ましたが、今回はそうにもいかない。ジルベルトの元へと近づこうにもヴァレリー達がそれを許さず、更には今のジルベルトを押さえる者も居ない。
敵が包囲する中、何とか逃げ惑う鳴鳥機。檻に閉じ込められるよう、徐々に包囲は狭まり、囚われるのも時間の問題であった。
「(こんなに近くに居るのに…。どうして…―――)」
己の無力さに打ちひしがれている鳴鳥。あれ程再会する事を望んで、ようやく会うことが出来て、それなのに愛しく想う者を救えはしない。やはり自分には何も出来ないのだと、誰かを救う事など出来もしないのだと分からせられ、愕然ともする。
この窮地をどうにかしようと立ち回るセリア。彼女は敵の弾を避けつつ、剣を受けとめつつ、一つの答えを出そうとしていた。
「ナトリさん…。上手くいくかは分からないけど、私に考えがあるの」
「セリアさん…、考えって…―――」
「私が投降するわ。それならばジルベルト君を解放してくれるかもしれない」
「…っ!だ、駄目です!そんなの絶対に駄目です…!!」
「このまま追いつめられて、貴女達まで囚われたり、下手をしたら貴女達は殺されてしまうかもしれない。そうなるよりはマシでしょう?」
「で、でも…、セリアさんは…―――」
「もうそれしか方法が無い。―――という訳よ、私達の会話を聞いていたのでしょう?」
それは相談ではなく、結論を告げただけで、鳴鳥の言葉は聞き入れず、セリアは交渉を始めてしまう。
交渉はアッサリと交わされてしまった。ヴァレリー達としてもセリアさえ手に入れば他はどうとでも良いらしく、こちらの申し出に嫌な顔一つせずに応じてしまう。ジルベルトを洗脳して操るなど卑怯な真似をする者を信じて良いのか。慎重に事を運ぶべきところなのだが、今は追い詰められた状況で疑ってかかる場合ではない。
「良い心がけだ、セリア・ストレイス。さぁ、こちらに来てもらおうか」
武器を下したジルベルト機。無人機も続いて武器を収め、一応は手を出さずにいるようであるが油断はならない。もう一度考え直すよう鳴鳥はセリアに呼びかけるが、彼女は頑なで、考えを改めようとしない。
まずはジルベルトの解放だと言うセリアに対し、ヴァレリーは深く頷き、要求を呑む。傍目では分かりにくいが、ジルベルトの機体は待機状態へ切り替わり、直ぐには動き出せない様子からどうやら洗脳は解けたようだ。コックピット内の彼の様子は目を閉じて力なくシートに身を預けていて、気を失っている。
次はセリアが投降する番だと言わんばかりにヴァレリーは下手な真似をさせないよう銃を向けてこちらに来るようにと呼びかける。未だ納得がいかない鳴鳥はどうにか考え直すようにと言うが、セリアの決意は固まっていて、聞く耳を持たない。
「…約束は果たして貰うわよ」
「ええ。…私は約束を守りますとも」
ヴァレリー機から伸ばされたアーム部分に乗るセリア。キッと睨み付けて交渉の条件を再度確かめるが、彼女の身柄を手中に収めたヴァレリーは口端を歪める。彼の表情の変化に気が付いた鳴鳥は叫ぼうとするが、時は既に遅く、間に合いはしなかった。
ヴァレリーの手に渡ったセリアは拘束され、首筋に麻酔薬を打たれ意識を手放す。それと同時にヴァレリーは高笑いを、そして量産型に命を下す。邪魔者は排除するようにと。
「や、約束が違います!!ジルベルトさんは…―――…っ!?」
停止したはずのジルベルト機。だが今ではヴァレリーの命により再び起動し、剣を構える。先程の気を失った様子も全て見せかけだったのだと、騙されていたのだと気付かされた鳴鳥は奥歯を噛みしめ光剣でジルベルトの攻撃を受けとめる。
「こんな…。こんな事って…」
ジルベルトが敵に回っただけでなく、セリアも敵の手中に収まってしまった。こうなってしまったのも全部自分のせいだと鳴鳥は自責の念に駆られるが、むざむざと殺されるわけにはいかない。自分とジルベルトの為に己が身を犠牲にしたセリアの為にもここで屈する訳にはいかなかったが、どうにか逃げ回るので精いっぱいで、更には追い詰められるのも時間の問題であった。
「もう…ダメ…っ。ジルベルト…さん…―――」
行く手を阻むよう立ちはだかる量産機。もうお仕舞だと、どうせ死ぬならジルベルトの手にかかる事だけは避けたいと、そう願っていた鳴鳥。窮地に追い立てられた彼女。誰もがもう終わりだと思っていた矢先、空から二つの光が大地に突き刺さるよう真っ直ぐに下りてきた。
ジルベルト達の事を鳴鳥とセリアに任せた久城とアリーチェ。彼らは何度か相対したデクセスとデクセプと刃を交える。彼女らの連携は相も変わらず完璧で、互いの隙を補い合い、中々勝機は見いだせない。初めて組む事となった久城とアリーチェだが、気を配れる久城がアリーチェに合わせるよう立ち回り、どうにか敵の一方的な攻撃が続く場面は避けられているようだ。
光剣を手に特攻を仕掛けるデクセス。彼女の背を守るよう銃撃を放ちながら立ち回るデクセプ。それに対して久城は臨機応変に光剣を振るい、銃も手にし、アリーチェは自在に操る小型遠隔機で敵を翻弄させるよう、そして自機でも銃を構えて火力で圧す。
「それにしても!出来損ないの68番が敵になるとはね」「ホント。使えないどころかマスターに逆らうなんて…。バッカじゃないの?」
「フン…。ただの操り人形であるアンタ達にとやかく言われたくないわね」
「何ですって…っ!?」「生意気な…っ!!」
挑発をしたつもりが逆に言い返され、目くじらを立てるデクセス達。彼女らは口汚くアリーチェを罵るが、彼女はどこ吹く風のようである。
己が招いてしまった悲劇。ジルベルトを苦しめた事を後悔するアリーチェであったが、彼やセラフィーナとの接触により人の強さを知ることが出来て、更には記憶を封じ込めた事によりバジーリオの娘となって、幸せを感じ取る事もできたと言う。そして自身が何よりも大事だと思っていた使命。人の人生を狂わす様な、弄ぶような真似である行為を今では恥じていると、ハッキリと言い放つ。
「やっぱりバカだ!アンタはバカよ…っ!使命以外にアタシ達の存在意義は無い」「そうよ!アタシ達はマスターの手によって生を受けた。使命を果たさないのは恩知らずだって事が分からないの!?」
「間違いを犯すことは恩義じゃないわ!正しき道を示す方が恩義に報いる事だと私は気付いた」
同じ者の手で作り出された観測装置。けれども出会う人によってここまで考えが変わるのか、どこまで行っても平行線で、交わる事の無い者達の姿を見て久城は敵を憐れみさえする。主であるエルンストの命に忠実であるデクセスとデクセプ。駒としては優秀なのかもしれないが、人としては…悲しくもある。当人たちはこれが当然だと、戦い、相手を痛めつける事が愉しいのだと言い張るが、虚勢を張っているようにしか見えなかった。
「減らず口を!叩き潰してくれるわ」「アタシ達に逆らった事、後悔させてあげる!」
より一層激しくなる攻撃。それは自分達こそが正しいのだと、間違っていないのだと主張するようで、間違っている方、アリーチェを倒す事で証明したいのだろう。
ここで彼女らに屈する訳にはいかない。寧ろこちら側が性根を叩き直してやるんだとばかりにアリーチェは更に火力を、機体から大量の追尾ミサイルを放つ。彼女が操作する六機の小型遠隔機も周囲を飛び交うのは敵にとって厄介らしい。まずは五月蠅い羽虫を叩き落とすかのように小型機を落とそうとデクセプが目論むが、アリーチェの操作は敵を弄ぶかのようにひらりひらりと舞い、中々撃ち落とされない。段々と苛立ちを感じ始めたのか、デクセス達の連携に綻びが、ようやく生まれた僅かな隙を久城は見逃さなかった。
「デクセス…っ!」「クッ…!」
追尾ミサイルから逃れるように飛んだ先、そこには小型遠隔機が待ち構えており、放たれたレーザービームを寸での所でかわした所、待ち構えていた久城が光剣を振るう。綺麗な断面を見せて飛ぶのは片腕。どうにか致命傷は免れたが、形勢は一気に傾く。立て続けに浴びせられるのは小型遠隔機のレーザーとミサイルで、デクセプがカバーしきれる威力ではなかった。
「一気に畳みかけます!」
「え、ええ…」
この機を逃すまいと、止めを刺そうとする久城。一方でアリーチェは同胞を討つことに多少なりと引っ掛かりを覚えるのだろう。その表情には僅かだが迷いの色が見えていた。
ミサイルが着弾して煙る視界。けれどもARKHEDのレーダーならば位置を捕捉するのは容易い。久城はレーダーを頼りに光剣を突き立てるよう突入するが、刃先は敵に届く事が無かった。
振るわれた剣を受けとめた者。それは先程鳴鳥が全て撃破した筈の無人機で、驚く久城を押し返す。異変を感じたアリーチェはすぐさま煙を晴らそうと衝撃波を放ち、クリアになった視界の先に驚愕する。
「さっきあの子が倒した筈じゃ…っ」
「増援が駆け付けたという訳ですか…」
黒いARKHEDが五機。先に現れた五機が倒された事により、救援を寄越したのだろう。久城達が有利だったのはひと時で、増援の到着により一気に形勢は逆転へ。防戦へと転じる事となる。
一気に戦力が増えた事により、高笑いを始めるデクセス達。これまでの借りを返すのだと言い放ち、猛攻を繰り広げる。
この状況をどう覆すか。はたまた鳴鳥がジルベルトを救い出せたと信じて一先ず退くべきか。悩んでいる暇もないのだが、このままでは嬲り殺しになる結果が目に見えている。
「…運が尽きたようね」
「まだ諦めるには早いです。ここは退いて一旦体勢を立て直して―――」
「いいえ。アイツらから逃れるなんて芸当は出来やしない」
「貴女が折れてどうするんですか…!気を確かに―――」
「いいの。これで…」
後退しながら攻撃をかわし、時折反撃をしていた久城達。ジリジリと追い詰められつつあったが、何とか耐え凌いでいた。けれども急にアリーチェが、諦めの言葉と共に踵を返し敵の元へ。何を血迷ったのかと呼びかける久城の言葉を無視して単身敵へと向かって行く。
「アハっ!とうとうおかしくなっちゃった?」「飛んで火に入る何とかって奴かしら」
「クランド…!アナタは下がっていて…!!」
「アリーチェさん…!一体何を…っ!?」
浴びせられる弾を避けるのには限界がある。数発食らったが気にも留めず一直線に敵の元へと突き進むアリーチェ。脇目もふらずに飛んだ先、デクセスの間合いまで到達したアリーチェは当然のように光剣で切り付けられる…が、剣を受けとめる。
「な…!?何をする…っ」「バカじゃないの!?」
「ジルへの罪滅ぼしにおまけを付けてあげようと思ってね」
デクセスの光剣を受けとめたのは同様の剣ではなく、盾でもない。自らの機体の胴体部分に突き立てられるよう受けとめ、そして剣を手にしていたデクセスの腕を掴まえる。もう片方の腕は既に切り落としており、抵抗はしにくい。デクセプや無人機が引き離そうと攻撃を加えようとするも、遠隔小型機によって阻まれ、致命傷は与えられない。
「さよなら…ジル…。先に、セラフィーナの元へ行けると良いな…」
フッと笑みを溢したアリーチェ。彼女は持ちうる全てのエネルギーを放ち、周囲を巻き込んで爆ぜた。
セリアをみすみす敵の手に渡し、ジルベルトの洗脳を解くのに失敗した。唯一人残された鳴鳥は死をも覚悟していたが、彼女の元に二つの光が降り注ぐよう降りてくる。
暁の空を思わせるようなARKHEDと紫色のARKHED。鳴鳥の窮地に駆けつけたのはフラヴィオとラウナであった。
「ナトリちゃん!遅くなってすまねぇ」
「待たせたわね」
「フラヴィオさん…っ!ラウナさん…っ!」
空から浴びせた銃弾により鳴鳥に迫っていた機体は一旦距離を取る。フラヴィオは戦闘機形態で敵をかく乱するように、更には機体にエネルギー波を纏い、轢き倒そうと突っ込み。ラウナは杖を構え海中から氷撃による弾を浴びせた。無人機の何体かは彼らの手により鎮めることが出来たが、ヴァレリーともう一機、ジルベルトはフラヴィオらの攻撃をかわして反撃を試みる。
「お前…っ!ジルベルトか…!?何を考えてやがる…っ!!」
「フラヴィオさん…っ!ジルベルトさんは敵に操られているんです…っ」
「何だと…?!ハッ…!!情けねぇ姿を晒しやがって…」
フラヴィオはせせら笑うが、同じ戦闘機形態になって追いかけて来るジルベルトは非常に厄介である。追いつかれそうになり、至近距離での銃撃。フラヴィオは何とか背後を取ろうと翻したりもするが、中々思うようにはいかない。
ジルベルトに追われるフラヴィオを援護しようと試みるラウナだが、彼女の元へはヴァレリーが、気味の悪い笑い声を上げて迫りくる。
「どうにかならねぇのか!?ラウナ…っ」
「無理ね。…洗脳した者を手にかけない限り」
「そうか、ならば…!!」
攻撃対象はヴァレリーだと、目標を定めたフラヴィオは地上近くでラウナと対峙していたヴァレリー機に向かう。けれどもそう簡単には行かせまいとジルベルトと残っていた無人機が立ちはだかる。
「チッ…!おいテメェ…!!せっかく迎えに来たナトリちゃんに悪いと思わねぇのか…!!」
「無理です…。いくら呼びかけても今のジルベルトさんには…」
「そうかよ…。だったらナトリちゃんは俺様が頂いて行くぜ!!」
「フ、フラヴィオさん!?」
こんな時に何の冗談を言い出すのかと思いきや、フラヴィオ機は敵機から距離を取り二足歩行モードに移行し全弾を発射へ。辺りは煙に包まれ視界が悪くなるが、ARKHED相手に目くらましなどさして意味もない。そう思われていたが、フラヴィオが弾を放ったと同時にラウナがデコイを配する。
茫然としていた鳴鳥はフラヴィオとラウナの機体に両腕を掴まれ空へ。青い星から離れるよう宙を目指していた。
「フラヴィオさん…っ、どうして…―――」
「悪い、ナトリちゃん。今の俺達にはどうする事も出来ねぇ」
「ここは一旦退いて体勢を立て直しましょう」
「で、でも…、ジルベルトさんとセリアさんが…!!」
「振り返るんじゃねぇ…!今はこうするしかないんだ…」
悔しそうに顔を歪めさせるフラヴィオ。彼も出来ればこの場に留まってどうにかしたいと思っている。けれども今の戦力では突破できないと、ここでむざむざとやられる訳にはいかないのだと判断し、悔しさを押し止める。
普段なら無謀な考えで突っ込んでいきそうなフラヴィオであるが、大切に思う者達をこれ以上危機に晒せないと、戦場においては冷静さが働いたようだ。無論、彼が突進してもラウナが居る限りは無茶な真似は出来ないのだが、鳴鳥は納得ができなかった。
「ジルベルトさん…っ、ジルベルトさん……っ!!」
ボロボロと零れる涙は止めどなく溢れてくる。以前の別れ。何かを成そうとする想いで何も告げずに去った時とは違い、敵となっての別れ。それは置いて行かれた事よりも身を引き裂かれるような思いで、胸が苦しい。
結局何も出来やしなかった。それどころかセリアの身柄を引き渡してしまった。再び己を責めるが、責めた所でどうなる訳でもない。そう分かってはいても己の無力さに絶望せずにはいられなかった。
「大丈夫よ。彼はまだ生きている。生きている限りもう一度会える。だから泣かないで…」
「ラウナさん…」
「貴女がそんなんじゃ、彼も救われないわ」
今度は全勢力を以って立ち向かえば良いと言うラウナ。果たしてそれでジルベルトが目を覚ますのか。確かではないが、僅かな希望を胸に鳴鳥はジルベルトの元を離れた。
暗い、暗い海の底の様な場所。その場にたゆたうようにしている者が一人。
先には小さな光が見えているようだが、手を伸ばそうがもがこうが、辿り着くことは無い。
「ここは…、俺は…」
譲れない願いがあった。どれだけ辛くても最後にはその笑顔を見たいと、彼女の為になら一人で戦う事も厭わなかった。
「誰の為に…?」
愛する者が居た。お人好しで、へらへらと笑っていて、からかうと頬を膨らまして怒って、いつも誰かの為に在りたいと無茶な真似をして、彼女の作る飯は最高に美味しくて。思い浮かぶはずだが顔と声が定まらなくて、更には名前すらも思い出せない。
「…もう、終わりにしよう」
ここに来るまで何度も辛い思いをした。自業自得であるともいえるが、愛する者を失い、傷つけ、苦しめ続けているのにはもう耐えられそうにもない。ならばいっその事消えてしまおう。そう結論付けた途端、身体は沈んでいくスピードを増し、闇に飲まれる。そして最後に見えていた光も更に小さく、やがて闇に塗りつぶされて消え去る。
「ジル…!」
名を呼ばれた気がしたが、誰が呼んだのかは分からず、応える間もなく意識も黒に染められた。




