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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase two : anemotaxis
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第45話 Fresh blood and the autumnal tints

 鳴鳥の故郷に似た星、ジャポーネ。アリーチェとの約束を果たす為に彼女とジルベルトと、そしてこの機に敵の尾を掴まえる為に鳴鳥とコンラードはジャポーネを訪れていた。

 途中、ジルベルトとアリーチェと別れた鳴鳥とコンラードは甘味茶屋にて二人を待っていた。程なくしてジルベルトから連絡が入ったと鳴鳥に言われ、コンラードは共に店を出る。化粧室から戻ってきた鳴鳥に違和感を覚えたコンラードは人通りの多い場所を避け、彼女に手を引かれたまま歩き続ける。やがて人波から解放、行き交う人は疎らになり、更に人気のない裏路地に連れ込まれた。陽の光が届かない暗がりで二人きり。本物の鳴鳥ならばどんなに嬉しいだろうかと思うコンラード。胸は高鳴るが、これは彼女とこの場に居るからではない。それは目の前にしている者が敵かも知れないという緊張からだった。

 一応は騙されたフリをして隙を窺うコンラードに対し、鳴鳥は急に振り返って顔を、身体を近づける。先程まで包むように握られていた手は指と指を絡める様に、熱っぽい視線を向けられて壁際に追いやられた後に左手がそっと胸板に触れる。妙に色っぽい仕草に理性はぐらつきかけるが、惑わされてなるものかと己を奮い立たせる。


「ナトリさん、待ち合わせは―――」

「あの二人だって楽しんでいるんです。私たちも楽しみませんか?」

「そうっスね。そうしたいのも山々っスが―――」

「―――っ!?」


 絡ませた指先にグッと力を籠め、意識を向けさせたところで腕を掴み捻って後ろ手に回し、壁に身体を押し付けた。


「コ、コンラードさんっ!痛いです…っ、どうしてこんなことを―――」


 振り向きながら涙目で訴える彼女の姿に気持ちは揺らぎかけるが、相手は何度も襲撃を仕掛け、その上戦争を起こした者達であるかもしれないと思うと油断はできない。コンラードは気を緩めることなく、尋問を始める。


「どういうつもりっスか?」

「何のことですか?コンラードさんがこんな酷い事をするなんて思いませんでした…」

「とぼけないで欲しいっス。もし俺を引き離してナトリさんを狙うつもりでいるのなら残念だったっスね」

「…!?…どういう意味ですか?」

「彼女の元には仲間に向かって貰っています。ここにもじきに―――」

「…クスクス。ただの犬っコロかと思いきや、意外とやるわね」


 肩を震わして笑う鳴鳥。纏っていたものが粒子に、その姿は一瞬にして別の姿、長い銀髪をワンサイドアップにした黒衣の少女に変わる。その少女は予想通り、敵の一味であり、名をデクセプと言う者であった。

 愛らしい容姿の少女であるが、彼女のこれまでの行いを考えれば拘束の力を緩める事は出来ない。寧ろ力を強めてからコンラードは問い質す。


「ナトリさんを狙うのは何が目的だ!?」

「さぁ?アタシ達には知らされていないしー」

「理由も知らずに悪事を行うのか!?」

「マスターが望むのだから、それに従うのは当然よ」

「そんなのは馬鹿げている…っ!」


 見た所鳴鳥と差ほど変わりない歳に見える少女は、さも当然と言わんばかりの冷めた表情であり、コンラードを驚かせる。これまでふざけた態度ばかりを取っていたデクセプだが、目的に関しては揺るがない意志が感じられた。




          第45話 Fresh blood and the autumnal tints




 デクセプ達には指示を出す者が居る。その情報を得られただけでも一歩前進かと思われるが、拘束を解くわけにはいかない。このまま連行したい所だが、少しでも力を緩めればこちらの身に危険が及ぶ。援軍が来るまではと現状を維持するが、デクセプは不利な状況にも拘らず、余裕の笑みを浮かべていた。


「アタシ達の行動原理が馬鹿げているって言うのなら、アンタ達はどうなの?アンタ達を動かしている奴は信用できる奴なのかしら?」

「連合はお前達のように混乱を招いたりなどしない!」

「ふーん、ずいぶん信用されているのね、あの子」

「…あの子?」


 つまらなさそうな顔をするデクセプが呟いた言葉。それはコンラードが所属する組織の上層部に知っている者が居るかのような口ぶりである。全てを鵜呑みにするのは危険であるが、ことごとくこちらの動きを見抜いているかのような敵の行動に思い当たる節があり、内通者が居てもおかしくはないと思う。

 コンラードが彼是と考えていると再びデクセプは笑い声を上げる。


「アンタの大事な子は本当に大丈夫なの?」

「動揺を誘うつもりかもしれないが無駄だ…!ナトリさんの元には―――」


 そこでハッと気づく。彼女を拘束してどのくらいの時間が経っただろうか?既に何かしらの連絡や、連合かジャポーネの警備隊が駆け付けてもおかしくはない。まだ焦りを感じるほど時間は経っていないと思いたいが、デクセプの嘲笑う姿に胸騒ぎを感じる。異常を感じ取って程なく、それは起こった。人が行き交う大通り、そこから響くただの喧騒とは違う声。明らかに何か起きている、そう感じた時には遅かった。

 カランと響く音、小さな金属でできた筒状のそれが落ちたかと思うと白い煙に辺りが包まれる。


「煙幕!?」

「それじゃ、バイバーイ」


 怯んだ隙を敵が見逃す筈もなく、思い切り足を踏みつけられる。不意の攻撃に思わず手を離してしまい、敵は逃れ、煙が消えて視界が良くなる頃にはその姿は跡形もなくなっていた。すぐさま匂いを辿り、大通りへと駈け出すが、そこで起きていたことにコンラードは目を疑う。


「ナトリ…さん?」


 先程まで大通りは観光客で賑わっていた。しかし今では混乱の只中にあり、別の意味で騒がしい。道行く観光客はこの土地ならではの衣服、着物を着用している者も多かった。しかし今では浅葱色のタイトなワンピースにオレンジ色の上着を着ている者が多い。その衣服は鳴鳥が着ていたものと同じであり、どうやらホロタイプを利用していた者達の姿が変化したようだ。

 コンラードのように鼻が利けば戸惑う事はない。けれども配備されていた兵士たちには効果てき面であったようで、混乱に拍車をかけている。視覚で駄目ならばと端末で位置情報を確認するも、ジャミングにより機能していないようだ。

 しばらく匂いを辿って追いかけていたコンラードだが、混乱した人混みの中は身動きが取り辛く、もたついている間にデクセプの姿も匂いも見失う。これ以上は無理であると見切りをつけ、一先ずコンラードは皆に合流するよう今度はマリアン達の匂いを辿った。






 コンラードと甘味茶屋を出た鳴鳥は彼の異変に気づく。けれどもそれは自分が失礼な態度を取っていたからだと勘違いし、本当の事は見極められていなかった。そんな無防備である彼女に対し近づく彼はニヤリと笑みを浮かべて手を伸ばそうとした。


「ナトリ…っ!」

「マリアンさん!?」


 鳴鳥に危機が迫る中、駆けつけたのはマリアンとスティング、そしてアランだった。

 マリアンはコンラードに向けて銃を構えて容赦なく放つ。先程まで彼が居た場所に紫電が走り、鳴鳥は驚き腰を抜かして尻餅をつく。すかさず彼女とコンラードの間にスティングが割って入り、胸ぐらを掴み高々と持ち上げた。


「皆さん!?どうして―――えっ?!」


 何故仲間に対しこんな行動をとるのか、理解できていない鳴鳥の前でコンラードの姿が変わる。フードを目深にかぶった深緑の髪の少年のような青年から、長い金髪をワンサイドアップにした黒衣の少女へ。その少女は鳴鳥を狙っている者達の内の一人、デクセスと言う名の少女であった。

 茫然とする鳴鳥の傍にアランが駆け寄り助け起こす。いつの間にかすり替わっていた事に鳴鳥はようやく気が付いた。


「ナトリさん、大丈夫ですか?」

「アランさん…。えっと、助けて頂きありがとうございます。その、これは…」

「コンラードから連絡を貰い、駆けつけた次第です」

「そう、コンラードさんは!?」

「彼も一応軍人ですし、連合やジャポーネの警備隊が動いているので大丈夫ですよ」

「は、はぁ…」


 アランの笑顔は危機的状況にある中でも健在で、動揺していた心を落ち着かせてくれる。コンラードも無事であると聞かされ、ホッと胸を撫で下ろす鳴鳥であったが、ふと顔を上げるとピリっとした空気を感じて息を呑む。彼女のすぐ近くには敵である者が居て、スティングとマリアンは恐ろしい形相で尋問を開始していた。


「さぁ、たっぷりと聞かせて貰いましょうか、貴女達がナトリを狙う事、それから先の戦についてもね」

「フン、誰がアンタみたいな厚化粧に答えるもんですか」

「ぬぁんですって!?」


 スティングに掴まれたままのデクセスは余裕の笑みを浮かべてマリアンを煽る。見事に挑発に乗り、銃を突きつけるマリアンに対してもデクセスは憶する事が無い。ここで気を失わせて連行しても良いが、スティングが掴まえている為、銃は迂闊に使えない。先に拘束をすべきだとスティングにも言われ、苛立つ気持ちを抑えつつマリアンが拘束具を取り出す。

 後ろ手に拘束されてもデクセスは慌てるそぶりを見せずに落ち着き払っている。何か企んでいるのではないかと思われるため、マリアンは銃を向けたまま見張っていた。その間にアランはコンラードやジルベルトと連絡を取ろうとするが、ジャミングによりできなかった。

 ジルベルト達ならば問題は無いだろう。今はそう信じるしかなく、一先ず捕えた者を連行しようと歩き出した矢先、大通りからこちらに向かってくる一人の男が居た。


「皆、無事だったか」

「ジルベルトさん…!」


 鳴鳥達の元へと駆けつけたのはジルベルトであった。連絡が取れない事に不安を抱いていた鳴鳥であったが、彼の相変わらずの仏頂面に安堵した。敵の事よりも何より真っ直ぐに鳴鳥の元へとジルベルトは歩み寄り、すぐ傍で無事であることを再確認する。鳴鳥はその事を嬉しく感じる一方で先程までベッタリとくっ付いていたアリーチェが居ない事に気付く。


「あの、アリーチェさんは…?」

「アイツなら安全な場所に居て貰っている」

「そうですか…。お二人とも無事なようで良かったです」

「お前もな」


 あと無事が確認できないのはコンラードだけである。ジルベルトは敵の身柄と鳴鳥の護衛を引き受け、マリアン達にコンラードを探すように命を下す。

 これまで散々やられた相手に一人で大丈夫かと心配するマリアンに対してジルベルトは首を横に振る。


「一人じゃないだろう。そうだよな、ナトリ」

「え…?あ、はい…!」


 ジルベルトが自分の事を戦力として見てくれている。まさかの言葉に鳴鳥は驚くが、彼の期待に応えるよう深く頷いてキリっと真剣な眼差しを向けた。微笑ましくもあるその光景にマリアンは納得したのか、肩を落として呆れつつもこの場を二人に任せて去って行った。

 三人は大通りへ、コンラードが居るであろう場所を目指して歩きだす。彼らに続いて、鳴鳥はジルベルトと共に捕えたデクセスを連れて一番近くの連合支部を目指そうとした。けれども立ち止まったデクセスが肩を震わせて笑い出した途端に状況が一変する。


「アハハハっ!もうダメ、可笑し過ぎる!」

「な、何がそんなに…」

「一番の演技派女優はアンタだったとはね」

「演技…?」


 ケラケラと笑うデクセスは鳴鳥の背後に涙目を向ける。ゾクッと背中に嫌な気配を感じるが、鳴鳥の後ろにはジルベルトが居るだけであり、恐れを抱くことは無い。そう思いたかったが、振り返った彼女が見たものは信じがたい姿、笑みを浮かべているが目が笑っていないジルベルトであった。咄嗟に離れようとするが腕を掴まれて強い力で捕えられる。大声で助けを呼べばと思い声を出そうとするが、その前に鳩尾に衝撃が走る。鳴鳥が意識を手放す寸前に見た姿。ジルベルトだと思っていた者はエメラルドグリーンのショートカットの女性、セルべリアであった。






 古びた屋敷を抜け、中庭に出たジルベルトとアリーチェ。最初は二人きりになれた事もあり、はしゃいでいたアリーチェであったが、彼女の口から零れた不安と共に頭痛を訴え倒れかかる。ジルベルトは咄嗟に彼女を支えるが、緊急の知らせも入り、その上彼ら目がけて刃が振り下ろされようとしていた。

 風変わりな鎧を纏った骸骨が握っていたのは錆びた刀であり、お化け屋敷の作り物であるため殺傷力は無い。それでも振り下ろす威力は強く、光剣で受け止めなければ打撲を負っただろう。

 ジルベルト一人ならば怪我を負っても直ぐに回復する。それどころかこの程度の相手など簡単に叩き伏せられる。けれども今はアリーチェを守りながら戦わなくてはならない。

 カタカタと音を立てつつ迫りくる骸骨は何度斬っても起き上がってくる。数は五体と大したことは無いが、無限に湧くような感覚に焦りが募る。


「クソっ!これも奴らの仕業か!?」


 自分達の元に異変があるという事は、直前に来た連絡も嫌な知らせであることは間違いない。鳴鳥の身にも何か起きたのだろうと思うと居ても立っても居られなかった。こんな所で手をこまねいている訳にはいかないと腹を括ったジルベルトは、先の分からぬ出口ではなく入り口に向かうよう進路に立ちはだかる敵を切り伏せる。間を置かずアリーチェを抱え上げ、行く手を阻むものが居なくなった一点を突き進む。

 入口へと引き返す途中にも攻撃の手は止まない。次々と襲い掛かり、衣服が破れて傷を負うが、アリーチェの身は傷つくことなく、どうにか陽の光が浴びられる所まで辿り着けた。入口は他の空間より多少狭く、振り返ったジルベルトは一番近くに迫っていた骸骨二体を斬り倒す。バラバラになったそれらは足止めになったようで後に続く者達は前のめりに、次々と押しかけ入り口で詰まった所で銃を向けた。機械式のそれらは最大限の電撃を浴び、ショートしてプスプスと煙を上げる。どうにか追手は倒せたが、ここで終わりではない。息つく暇もなくアリーチェを近場に居た兵士に任せ、鳴鳥の元に向かおうとした。


「…ジル…っ!」

「アリーチェ、すまない…。直ぐに戻るからお前はここでじっとしていろ」


 ジルベルトの上着の裾を掴むアリーチェの力は弱弱しく簡単に離れてしまう。こんな状態で残していくのは彼女を苦手とするジルベルトでも気が引ける。それでも鳴鳥はこうしている間にも敵の手に落ちるかも知れない。そう考えるとここでもたつく訳にはいかず、背を向けて駈け出す。


「(…行かないでなんて言えない。だって私は―――)」


 遠ざかる背中にアリーチェが伸ばしかけた手は力なく落ちる。今が引き留められる事態でないことは知っている。それでも彼の向かう先に居る者の事を考えれば胸が苦しくなった。






 大通りは相も変わらず人に溢れ、この中から人を探すのは難しい。通信端末が使えればすぐにでも合流できるが、それも使えなくなっていた。端末が使えないとあって民間人の間でも騒ぎが起きており、配備された兵士たちも対応に追われているようであった。そんな混乱の只中にあっても、二メートルを超えるスティングは目立つようで、その姿を頼りにジルベルトはマリアン達と合流する。状況を確認しようとするが、彼らは怪訝な表情でこちらを見ている。何故そのような顔をされるのかと問いかける前に、マリアンが腰に手を当て目を吊り上げて睨み付けながら言う。


「ちょっと、船長!こんなところで何をしているのよ!?」

「ハァ?こんな所って…俺はナトリを探して―――」

「まさか!?あれだけ大見得きっときながら手放したの!!?」

「待て待て、何の事だ!俺は今までアリーチェと共に居て、ナトリとは会っていない!」

「まさか…っ!」


 噛み合わぬ二人の言動に状況を察したアランが割って入る。いつものへらへらした態度ではなく真剣な表情の彼は柄にもない大声を上げ、手短に現状を整理する。


「先程僕たちの前に現れた船長が偽物かもしれません!」


 その言葉で察したマリアン、スティングは元来た方へと駈け出す。それに続いてジルベルトとアランも走り出した。だが、その瞬間、大通りに異変が起きた。思わず足を止めた一行の前で行き交う人々の姿が変化する。色取り取りの華やかな着物から浅葱色のワンピースとオレンジ色の上着へ。それは鳴鳥が着ていた衣服と同じものであり、突然の事に着ている者達だけでなくジルベルト達も驚き周囲を見渡す。


「小賢しい真似を次々と…!」


 もしかすると鳴鳥はこの中に居るかも知れない。しかしジルベルト達には見分ける術が無かった。






 見事出し抜き、ターゲットを得たデクセスとセルべリアは繁華街を抜け、赤く紅葉した木々が埋め尽くす森林公園へと向かっていた。建造物の最上階でARKHED(アルケード)を呼び出せば直ぐに存在を知られる。ここまで距離を置いたのはその為であった。

 黄色や橙色、赤に茶色の落ち葉で敷き詰められた開けた場所。そこでセルべリアは小脇に抱えていた鳴鳥をドサリと放る。荒々しい扱いだが、鳴鳥は気を失ったままで目を覚まさない。


「ま、アタシ達が本気になればこんなモンよ」

「…フン。遊び足りないと言った顔だな」

「そりゃそうよ、やっぱコソコソするのは合わないわー…―――っ!」


 余裕をかましていた二人を狙う銃撃。制圧用の電撃銃とは違い、遥かに殺傷力の高いレーザー銃を構えるのは黒衣を纏ったプラチナブロンドの青年であり、その姿を目にしたセルべリアはギリッと奥歯を噛みしめた。


「またお前か、クランド!」

「やだ、元カレ登場?別れるときには後腐れ無くしなきゃダメだよ」

「戯言はいい。フン…、いい機会だ、遊び相手には不自由しないぞ」

「それもそうね!」


 デクセスは銃を、セルべリアは槍を構える。それらに対し、久城は右手に光剣を、左手に銃を持ち立ち向かう。太い木の幹を易々と抉るレーザー銃を避け、素早い突きを繰り出す槍撃を光剣で捌く久城の姿は鮮やかで、二対一であるのにも拘らず、彼は悠々と立ち回り、引けを取らない。

 デクセス達は鳴鳥の身柄を渡さないためにも動きが制限される。その隙を見逃すことなく、久城はデクセスの懐に入り込み、容赦なく斬りつける。すかさず身を守る為に出した手に握られていた銃が綺麗な断面を見せた。後方に飛び退いたデクセスは、役に立たなくなった銃を投げ捨てて光剣を構える。


「もう、何なのよアイツ!前より強くなっていない!?」

「ヒトとはうつろうもの。フフ、面白いじゃないか!」


 光剣がぶつかり合う音、レーザー銃が地面を穿つ音、少女の笑い声。意識を取り戻しかけ、混濁した中で耳にした音に鳴鳥は一気に現実に引き戻される。目を見開いた先にはデクセスとセルべリア相手に一人で立ち回る久城の姿があった。

 敵は久城一人を相手に手こずっているせいか、鳴鳥が意識を取り戻した事にまだ気が付いていない。気取られないよう細心の注意を払いながら鳴鳥は腰のポーチに仕舞ってある銃に手を伸ばそうとした。


「邪魔しないでくれるかな~」

「あぐっぁ…っ!」


 鳴鳥が伸ばしかけた手はデクセスに思い切り踏みつけられる。痛みに悶え振り払おうとするが、喉元に剣を向けられ身動きが取れなくなった。鳴鳥の危機的状況に久城はセルべリアの攻撃をいなして駆け寄ろうとする。しかしその足はデクセスの叫びで止まってしまう。


「それ以上近づかないでくれる?じゃないとこの子がどうなるか…分かるわよね?」

「…っ」


 鳴鳥の腕をグリグリと踏みつけながらデクセスは笑う。久城の足を引っ張ってはいけないと思う鳴鳥は痛みに耐えようとするが、意志に反して悲鳴が上がってしまった。

 守るべき者が剣を突きつけられている以上、久城は下手な真似は出来ない。これまでの勢いが無くなり、何もできずに立ち尽くす彼の姿をデクセスとセルべリアは嘲笑う。


「生きていればいいのだから、少しぐらい傷つけるのは良いわよね?」

「ああ、そろそろ奴らが気づいてもおかしくは無い。遊びは終わりにしようか」


 そう言うやいなや、セルべリアは手にした槍を久城に突きつける。頬を掠めた槍撃は浅い傷を残し、ハラハラと髪を散らせる。普通の人間ならば驚き腰を抜かすところだが、久城は動じることなく鋭い視線を向けた。ここまで追い詰められておきながら反抗的な態度にセルべリアは満足げに頷き提案する。


「許しを請い、我らに従うならば命までは取らないでやろう」

「…断る」

「何故だ!?お前の願いは潰えたのか…!」

「僕の願いは…お前たちと共に居る事では叶わない」


 スッと冷たくなる視線。申し出を断った久城に対し、セルべリアは構え直した槍を振るう。自分の事など気にせず逃げて欲しいと願い叫ぶ鳴鳥の前で、久城の右腕からは真っ赤な血が滴り落ちる。切り付けられた手からは光剣が離れ、傷口を押さえるために左手も塞がる。武器を手放した状態の久城に対し、セルべリアは容赦なく蹴り倒し、顔目がけて槍の切っ先を突きつける。

 鳴鳥が倒された久城の元に近づこうとも、腕を踏みつけられ、剣を向けられた格好ではどうしようもない。涙を流し、声を震わし乞い願おうともデクセスは聞き入れることなく、寧ろその状況を楽しむように笑っていた。


「やだ…っ、こんなの…!お願い!久城センパイには手を出さないで…!!」

「あれ~?アンタって確かあの子に故郷を滅ぼされたんでしょ。それなのにどうして庇うの?」

「久城センパイは…。どんなことがあっても…私にとって大切な人…なんです!」

「鳴鳥…」


 嘘偽りのない言葉を、ありったけの力を込めて鳴鳥は叫ぶ。その想いは強いものであるが、デクセス達には届かない。セルべリアの冷め切った瞳は蔑むものであり、デクセスの細められた目は嘲笑うものである。どれだけ訴えようが彼女らに届くことは無い。それでも久城は諦めず、痛みに耐えつつ叫ぶ。


「僕がどうなろうと構わない!彼女を解放してくれ!」

「ざーんねんながらそれは出来ませんー!」

「今更頭を下げた所で望みを聞くと思うか?それに、あの女の身柄は主が欲している。私達にはどうしようもないな」

「私の事なら良いんです!それよりも久城センパイをこれ以上傷つけないで…!!」

「あーあ、ウザったい。なんかお互いを庇い合っているようだけど、意味ないからー」


 光剣を突きつけたままデクセスは鳴鳥の腹部に蹴りを入れる。彼女が悶え苦しむ姿に久城は怒りを露わにするが、セルべリアの槍は身動きを許さない。

 いたぶるのに飽きたのか、時間が訪れたのか、デクセス達はARKHED(アルケード)を呼び出し、この星から脱する手筈を整え始めた。

 空から舞い降りた機体は落ち葉を巻き上げる。ハラハラと舞う赤色に黄色、オレンジ色に茶色の落ち葉は美しいが、その光景を生み出した機体の成す事は非道な行為である。

 セルべリアは機体に乗り込むと再び槍を、地を這いつくばるような姿の久城に突きつける。生身で扱っていたサイズとは比べ物にならない程の大きさの槍は簡単にひと一人を潰してしまえるだろう。セルべリアが狙いを定めている間にデクセスは拘束した鳴鳥を自機乗せようとしていた。

 この場で抵抗するなど得策ではなく愚行に近しい。けれども鳴鳥にはこのまま大人しく従う訳にはいかなかった。


「大人しく従うから、久城センパイにこれ以上手出しをしないで!」

「…って言われてもねぇ」


 ニヤッと笑うデクセス。その瞬間、セルべリア機の槍が地面を穿ち、土煙と共に落ち葉が舞い上がる。

 認めたくない現実。それでも鳴鳥の見開かれた目は煙る中にある筈の彼の姿を探してしまう。力なく足から崩れてゆく鳴鳥の姿を満足げに見下ろすデクセスは高らかに笑った。


「裏切り者は処分しなくちゃ…―――なっ!?」


 土煙から飛び出した黒い影。それは久城を小脇に抱えた竜人の姿をした者、スティングであった。彼は敵の追撃を少しでもかわし易くしようと紅葉した木々の方へと駆け抜けて行く。

 この場に駆けつけたのはスティングだけでなく、デクセス機に影が差す。黒いフォルムに青いラインのARKHED(アルケード)はまだ搭乗し終えていないデクセス機に対し銃を向けて放つ。機体の傍に鳴鳥が居る事を知ってか、直撃ではない威嚇射撃であり、その役目は十分に果たした。不意の攻撃に気取られたデクセスに向かい、銃を放ちながら近づく二人、それはマリアンとコンラードである。目まぐるしい展開に茫然としていた鳴鳥だが、意を決してデクセスの元から離れるように駆け出す。久城という人質も無くし、無防備だった状態で二人から銃で狙われたデクセスは易々と捕えた鳴鳥を逃してしまった。

 マリアン達の元に辿り着いた鳴鳥。彼女の元へと駆け寄るのはアランであり、彼は慣れた手つきで電子式の手錠を解除する。


「皆さん…!ありがとうございます!」

「いえ、無事で何よりです」

「礼は要らないっスよ!」

「そうね、お礼なら後で。ナトリ、後は頼めるかしら?」

「はい…!」


 絶望からの一転、形勢は逆転した。マリアンの言葉に頷いた鳴鳥は小型端末に手を伸ばしARKHED(アルケード)を呼び出す。

 デクセスが機体に乗り込み、今はジルベルトが彼女とセルべリアを相手にしていた。だがそれも僅かな間であり、光の速さで舞い降りた白いARKHED(アルケード)によって戦況は変わる。


「ジルベルトさん…!すみません、私はまた―――」

「反省なら後でたっぷり聞いてやる。今は目の前の敵に集中しろ」

「は、はい!」


 青い光を放つ剣を構える黒いARKHED(アルケード)、そして赤い光を放つ剣を構える白いARKHED(アルケード)。二機は立ち並び、敵機に向かって行く。




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