第29話 With the end of a light brown wilderness
決定的な決め手が無いまま、ジルベルトとフラヴィオ、ラウナはテレンティアのセルベリア、デクセス、デクセプと無人機を相手に立ち回っていた。拮抗した状態にセルベリア達は楽しげであるが、ジルベルトは焦りを感じる。そんな彼の元に入った戦況報告、それは更に彼を追い詰める内容であった。クランドがソフィーリヤとクヴァルの包囲を突破し、本陣に近づいているという状況にジルベルトの手元が狂う。
「ぼさっとしてて良いのかい?」
「クッ…!」
セルベリアの長槍は機体の操縦席のすぐ傍を掠める。彼女との近接戦は厄介である為、距離を取ろうとするが、残り三機に追い込まれてしまう。フラヴィオとラウナもそれぞれ撹乱と足止めをしようと戦うが、一機差があるだけでこちらの連携は崩される。
不利である状況が続いていたが、彼らの元に駈けつけた一隻の船があった。
「船長!お待たせしました」
「その声は…!」
第29話 With the end of a light brown wilderness
他の戦艦よりも速いスピードで航行する船舶、藍色の元貨物船アルヴァルディからはレーザー砲の砲台にミサイル射出口が向けられている。ジルベルト達の元にはレーザーの照射範囲が知らされ、そこに敵を誘い込むように回避する。
「撃ち落としてやるぞ、この羽虫共がっ!!!」
ハスキーボイスの怒鳴り声、マリアンの叫びと共にレーザー砲とミサイルが発射される。通常兵器でARKHEDにダメージを与えるには膨大なエネルギーと搭乗者の不意を突くかが重要である。アルヴァルディの攻撃は不意打ちになったようで、レーザーによりセルベリアの機体は押しやられ、着弾したミサイルでデクセス達は散開した。楽しんでいた戦場を邪魔したアルヴァルディに対し、セルベリアは怒りを露わにする。
「邪魔をするなぁぁぁーーー!!」
セルベリアは割り入ったアルヴァルディに向かい槍を突き立て突撃する。他の戦艦より小回りが利くとはいえ、アルヴァルディはARKHEDのスピードに対処しきれない。だが、怒りに我を忘れたセルベリアの背後には青白い光を放つ剣を構えたジルベルトが居た。彼は容赦なく斬り伏せ、咄嗟に振りかえったセルベリア機の両腕を斬り落とす。スパッと綺麗な断面を見せた彼女の手は宙に浮かび、機体の損傷は彼女の脳に負荷を与える。
「おのれェェェェェ!!!」
「まだだっ!」
光剣は腹部へ、どうにかコックピットを免れたが、胴体部分に突き刺された光剣を両手で握り、ジルベルトはセルベリア機を振り回し、追いかけてきたデクセス機へと打ちつけた。
「なっ…!!」「デクセス…!」
金色と銀色の機体、二機が怯んだ所にフラヴィオが無数の銃弾を撃ち込み、ラウナも挟み討つように銃弾を浴びせた。三機の動きを封じ込めたことで気が緩んだのか、ジルベルトは無人機に背後を取られてしまう。
「…っ!」
「任せるっス!」
ジルベルトの危機を救ったのはコンラードが操縦する深緑色のARKSであった。彼が放った銃弾は見事に命中する。だが、ARKSの武器では威力が足りず、無人機であるARKHEDはすぐさま邪魔者を排除しようとコンラードの元に向かって来ていた。慌てて逃げようとした時、彼の目の前で敵機の腹部が真横に、上半身と下半身真っ二つに離れた。
「助かった、コンラード」
「い、いえ。こちらこそっス!」
ジルベルトに切り伏せられた無人機は修復に時間を要するようで、戦力になりそうにも無い。セルベリア達三機も手酷くやられている。だが、まだ戦う意志は削がれていないようで、デクセプ機は体勢を立て直して飛び、セルベリア機の腕と握られた槍を掴み持ち主へと投げつけた。セルベリア機を支えていたデクセス機はそれを受け取り修復しようと切断面を結合する。
「(どうにか持ち直せた…だが…!)」
ようやく倒せたと思ったセルベリアを再起させる訳にはいかないとジルベルトは光剣片手に突っ込む。その動きに呼応するように、フラヴィオとラウナも攻撃に移る。ARKHEDは三対三、その内セルベリア機は損壊個所を修復するのに手間取り直ぐに戦える状態ではない。そして連合側にはアルヴァルディとコンラードも居る。形勢は逆転した。
このまま勢いに乗り、押し切りたい所ではあるが、本陣での戦況報告に耳を疑う。クランドを押し留めていたミリアム、アリーチェであったが、合流したソフィーリヤが戦闘不能に近い状態。現在クランドは鳴鳥を追っているとの事だ。
「(ナトリ…!!)」
デクセス機を斬りつけ、片腕を飛ばしたジルベルトは敵機の事よりも鳴鳥の状況に意識が囚われていた。彼女とはここ数日間訓練をこなした。だが、自分でも止める事が叶わず、ミリアム達も抑えきれなかったクランドの実力に不安は拭えず、焦燥感が募る。
彼の苛立ちを感じ取ってか、次に狙いを定めたデクセプ機に斬りかかろうとした瞬間、一足先にフラヴィオが銃撃を放つ。ラウナもまた、ジルベルトに手を掛けさせないように立ち回り、コンラードとアルヴァルディも二人の動きをサポートした。
「言葉にしなきゃわかんねーのかよ!?」
「とっとと行きなさい」
「だが…っ!」
この場は彼らに任せて問題はないだろう。だがすぐにこの場を離れられない原因が他にあった。それは鳴鳥が危機的状況にあると同時に入った情報、テレンティアの最後のARKHEDを一刻も早く倒さなくてはならないという事だ。恐らくその機体はこの先のテレンティア付近に陣を敷く本陣に居るのだろう。多くの人を救う為ならば進むべき道は正反対だ。
「(俺は―――)」
先刻のクランドの言葉が脳裏で反芻する。自分がどの道を選びたいのか、鳴鳥は自分にとってはどんな存在なのか、答えは出ているが、あと一歩が踏み出せない。
「(らしくない…だが…)」
「任せたぞ」と言い残し、ジルベルトは自陣に向かって機体を飛ばした。今でも迷いはある。だが、見知らぬ者達の命よりも鳴鳥を失う事が何より怖く感じた。
「(不思議なものだ…)」
出逢った頃はどうにも目が離せない危なっかしさで、自分より他人の心配をしてばかりで、少しからかうと頬を膨らませて抗議をして、泣いたり笑ったりとにかく表情がコロコロと変わって、辛い事があったにも拘らず立ち直って、絶望に追いやった筈の久城を赦して救う事を願って…。相手にするのも最初は煩わしく感じていたが、今や彼女の存在はかけがえのないものへと変わっていた。その感情に気づいた時、鳴鳥の境遇と自身の過去の過ちを重ねた贖罪なのだと決め込んでいた。だが、今ではその言い訳も意味が無い。
「(それでも…この気持ちは…違う)」
その感情は決して恋などではない。それは最後の一線。ジルベルトが絶対に越えてはならないボーダーラインであった。
贖罪でも、恋でも無い気持ち。その感情を上手く受け止められないが、ジルベルトは先を急ぐ。と、そこで戦闘機形態のピンク色のARKHEDとすれ違った。互いに全速力を出しているせいか、その間は僅かであった。いつもならばアリーチェは陽気でうざったい程のラブコールを送ってくるが、今日はいつもと違った。戦場であるせいかとも思われたが、情報交換の為繋いだ通信画面に映る彼女の表情はどこか寂しげである。
「こっちは任せなさい!」
「あ、ああ。頼んだぞ」
それでもアリーチェは無理に作ったような笑顔を浮かべて任せろと言い、テレンティア本陣へと向かって行った。彼女の様子も気にはなる所だが、今この場で振り返る訳にはいかない。ジルベルトは鳴鳥の元へと急いだ。
枯れた草と木が点在する荒野、そこには円塔状の岩山がそこ彼処にそびえ立つ場で、砂埃を巻き上げながら鳴鳥は久城に立ち向かう。と、言っても正面切ってではなく、常に遮蔽物に身を潜めながらの戦いであった。
鳴鳥は久城に銃を向けると決断した時、ジルベルトの言葉を思い出した。
「テレンティアでクランドと戦った時に感じたんだが、奴は直情型のようだ」
「ちょくじょう?えっと…。以前はそんな事は無かったのですが…」
「まぁARKHEDによって性格が変わる事もあるし、お前に見せていた姿が奴の全てではないかもしれんしな」
「そう…ですか」
これまでの久城の優しさが偽りであったと思うと鳴鳥は悲しく感じ、肩を落とした。さすがに言い過ぎてしまったと反省したジルベルトはわざとらしく咳払いをして傾向と対策を語る。
「ともかく、戦術スタイルは真っ向勝負、小細工などせずに突き進むタイプだろう」
「卑怯な事はしないって言うのなら、何となくセンパイらしいなと思います」
「…あのなぁ、命を賭ける場で卑怯もクソもあるか」
「そ、そうですよね」
戦場を軽んじている事よりも、鳴鳥が未だに久城の事を信頼しているような言動にジルベルトは苛立ちを覚え、眉を潜めて言い切る。彼の想いは伝わっておらず、彼女は不謹慎であったと感じ、考えが甘かったと思いなおす。
「ともかく、なりふり構わず突っ込んでくる奴には罠を使う。近接では直ぐにやられるだろうからな」
「罠…ですか?」
一定の距離を保ちながら岩場と岩場の間を移動する鳴鳥は岩の柱に爆弾を設置して行く。それもARKHEDの能力で出現したもので、遠隔爆破出来るが、鳴鳥は素人と言う事もあり、センサー作動となる。
鳴鳥の後を追う久城は目論見通り、センサーに引っ掛かり爆撃を食らう。ARKHEDに対して威力はそれ程でもないが、その衝撃は設置された岩の柱を破壊する。爆発だけでなく、崩れ落ちる大岩も久城の機体に襲いかかる。
「小賢しい真似を…!!」
足止めをした所で、鳴鳥は迷わず引き金を引く。連続して放たれた弾は爆発の煙と砂埃の向こうに居る機体に着弾した。だが、緑色に光る剣を振って巻き起こる風に煙はかき消され、その先には無傷の久城機が佇んでいた。汎用機ならば生き埋めとまではいかないが、傷が一つくらいついていないとおかしい状況であるが、ARKHEDはそう簡単にいかない。鳴鳥が操作する機体もARKHEDであり、意志の力で威力が左右されるものであり、如何に彼女が本気で倒す…殺したいと願っていないかが分かる。決して手加減をした訳ではないが、心の奥底では躊躇う気持ちが存在しており、それは威力に反映される。一方久城もここで死ぬ訳にはいかないという強い意志で鳴鳥の攻撃を弾き、防ぐ。
再び荒野の岩場を飛び交う二機。鳴鳥の甘さを露見させた先程の攻撃に久城は苛立ちを覚えたようで、彼女に対し怒りを露わにする。
「相変わらず、君は甘い。僕が憎くないのか!?君の家族や友人を殺した僕がっ!!」
「憎くなんて…ないとは言い切れません。でも、これ以上はもう止めて下さい!いくら罪人だからって―――」
「家族を殺された君になら僕の気持ちは分かるだろう?僕の事、許せないんじゃないのか!?」
「それでも…わたしは…っ」
逃げ込むように、人工的に作られた遺跡の中に鳴鳥の機体は進む。レースのコースとなっているだけあって、その遺跡は数代の機体が充分通れる程広い通路である。規則的な天井を支える柱には模様が彫られ、地面には石畳が敷かれていた。それらが久城の放つ銃撃によって破壊されるが、歴史的価値はない為、鳴鳥は逃げる事に専念でき、久城は容赦なく攻撃を仕掛けられる。もっとも、重要文化財に指定された場だとしても、今の鳴鳥には気遣う余裕はなく、久城にもそんな配慮が出来る程冷静では無かった。
「…っ!(しまった…!)」
コース上だというのに、行きついた先は行き止まりで大きなホール状になっていた。そこには巨大な羽の生えた女神像が正面にあり、観客席もある。どうやらここはARKSのレースコースのスタート地点であり、ゴールのようである。壁を破壊して脱出を、と考えるが、大きな岩山の中に作られた遺跡は簡単に破壊出来ない。正確には壁を破壊している間に背後から斬り殺されるだろう。これまで全速力で追いかけていた久城は追い詰めたと察すると、光剣を手にゆっくりと近寄る。そして彼は鳴鳥に語りかける。この世の不条理さを、自身の想いを。
「君はおかしいと思わなかったのか?あの星の、有様が!何も罪を犯していない由利亜が死に追いやられ、追い詰めた者達は罪の意識など感じずに生きている。由利亜だけじゃない!未成年だからだという理由で罪が許されたり、権力を笠に罪を無かった事にする者もいる。あの星は腐敗していたんだ!だから消した!」
「それでも…地球には懸命に生きている人も、罪を償おうとしていた人も居るんです。それを貴方は―――」
「罪を…由利亜を見殺しにした社会も腐っていたんだ!」
「そんな事…無理です。人が生きていく上で、誰も傷付けないなんて、そんなことは不可能です!私だって、皆が思いやれる世界があればと願います。でも…現実は…皆、自分が大事で、相手を想っても伝わらないことだってあります」
「不可能ではない!!」
強く断言した久城は容赦なく光剣を鳴鳥の機体に突き立てた。胴体部分を貫かれ、女神像の足元に磔になる鳴鳥機。彼女に向かって久城は銃を構えて叫んだ。
「この力で、世界は正しく在れる!」
「力で支配する世界で貴方は幸せなんですか!?」
俯いた鳴鳥の瞳からはぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちる。それは殺される前に命乞いをして涙を浮かべているのではない。どう足掻いても、どんな声を掛けても、もう久城に想いは伝わらない。その事が悲しくて涙した。
鳴鳥は殺される前に一つだけ、と願い出た。久城は銃を構え、険しい顔をしたまま発言を促す。涙を拭った鳴鳥はコックピットを開き、手を上げ、抵抗の意志が無い事を示した所で最後の言葉を伝える。
「私を…。せめて私で最後にして下さい」
「約束はできない」
「私は…もう久城センパイの手が穢れていくのが嫌なんです!」
「秩序の為ならば、死刑執行人は不可欠だ」
「それでも…私は…私が好きだったセンパイに…戻って欲しい…」
「好き…だと…?」
久城は目を見開き口を半開きにしていた。これまでどんな言葉でも動じなかった、寧ろ火に油を注いでいた鳴鳥の言葉が初めて彼に衝撃を与える。死を覚悟していた鳴鳥も、まさか秘めていた気持ちで彼が動揺するなんて思ってもみなかったようで驚き慌てる。
「あ、えっと…その…っ」
「何時からだ!」
「えっ!?」
「何時からだと聞いている!!」
通信映像に映し出された久城の姿。彼は俯いた顔を片手で覆い、表情が読み取れない。けれども問いただす声には動揺している様子が良く分かり、どう答えるべきかと鳴鳥も迷いつつ、しどろもどろになりながら答える。
「き、気付いたのは…地球を離れてからで…。で、でも今思えば、昔から…で。私の初恋は…久城センパイで…。でもでも、由利亜ちゃんの事があるから…好きになんかなって貰える事無いって…」
「もういい…」
久城は深い深い溜息を吐いた。そしてその後、乾いた笑い声を上げる。
「それならば、間違っていたのは僕じゃないか…」
「久城…センパイ…?」
か細い声で呟かれた後悔の言葉。よく聞き取れなかった鳴鳥は聞き返そうとするが、それは叶わなかった。
青白い光剣が鳴鳥の見据える先で一閃を放つ。不意打ちを食らった久城の機体は胴と脚部が離れ、バランスを崩して地に落ちる。突如現れた機体、それは黒いフォルムに青いラインが入ったARKHEDであった。搭乗者は久城の機体に銃弾を浴びせて追い打ちをかけつつ鳴鳥の機体の傍に寄る。
「無事か!!ナトリっ!」
「ジルベルトさん…っ!」
「貴様…っ!!」
手酷くやられた久城はジルベルトの機体を睨みつける。だが、視界に入った鳴鳥の表情に抗う気は失せてしまった。彼女はジルベルトが助けに来た事を心底喜んでいるようで、柔らかな笑みを浮かべている。それは久城がよく知っていた本来の彼女の姿であり、今はもう自分に向けてなど貰えない表情である。そしてそうさせてしまったのは自分であると理解しながらも、現実を受け入れられなかった。
「罪を償うべきなのは…僕の方だ…」
鳴鳥の無事を確認したジルベルトは止めを刺そうと久城機のコックピットに狙いを定めて光剣を突き立てようとする。だが、彼の攻撃が届く前に久城が掲げた銃が放たれた。
「何処を狙って…―――っ!!?」
久城が撃った弾はジルベルトの機体を大きく逸れ、天井を穿つ。地に伏した久城の機体とジルベルトの機体、そこへ轟音と共に上空から崩れた大小様々な岩が落ちてくる。久城が狙ったのはジルベルトではなく、天井であり、この空間で生き埋めになるつもりであった。無理心中かと思われたが、鳴鳥の機体を磔にしていた緑の光剣がスッと消え、久城は彼女の機体の拘束を解いた。その事から自ら死を選び、鳴鳥の事を逃がそうとしているという意図が分かる。
何度も鳴鳥の死を望み、その手で殺そうとしていた久城が何故このような真似をしたか理解できない鳴鳥は真意を問い質そうとした。だが、彼が銃を撃ったのと同時に通信は遮断されてしまい、鳴鳥の機体から呼び掛けようとしても繋がる事は無かった。
どうにか通信ができないかと手を尽くす鳴鳥はこの場を脱しようとしない。ジルベルトはすぐさま岩の雨を避けて鳴鳥機を回収して離脱を図った。鳴鳥は久城を残しては行けないと抵抗を図るが、ジルベルトの機体に掴まれ、コントロールを奪われて身動きが出来ない。
「じ、ジルベルトさん…待って下さい!センパイが…っ!!久城センパイがまだ…っ!」
「奴は死んだ!」
「そんな…だってまだ…―――」
必死に呼びかけるが、ジルベルトは首を縦には振らず、落石を避けつつ出口を目指す。
鳴鳥の見つめる先、どんどん遠ざかって行く女神像のホール。久城の機体が墜ちた場所にひと際大きな岩が落下した。砂ぼこりにまみれ、涙で視界は歪み、前が見えなくなる。
「嫌っ…、こんなの…私………っ!!」
崩れゆく遺跡を脱け出し、ジルベルト機は鳴鳥の機体を抱えたまま宙に帰った。
ジルベルトが鳴鳥を救い出したと同時に、フラヴィオ達と戦っていたテレンティアのARKHED三機は撤退した。最後の一機は結局姿を現さぬまま、テレンティアの本陣には廃人同然の聖王、エドアルドが残されており、ARKHEDは姿かたちも無くなっていた。白い仮面の洗脳もARKHEDの姿が消えたと同時に効力を失い、地上では新たなテロが行われる事は無くなった。
戦争は長期化することなく終結した。ARKHEDを失ったテレンティアは無力であり、その事を自覚してか、直ぐに聖王の配下より降伏宣言がなされた。
勝利を収めた星団連合側であるが、全くの無傷であった訳ではない。失われた命は地上を含めると万単位、負傷した者はその数倍である。それでも脅威を打ち払えたとの事で生き残った者同士肩を組み、喜びを分かち合う。
ヴィルト・ルイーネから帰還の途に着いたジルベルトと鳴鳥、二人の間には会話が無い。
認めたくない現実に打ちのめされた鳴鳥はARKHEDを操作する意志の力が失われ、茫然としたままでジルベルト機にもたれ掛かる。連戦に疲弊しているジルベルトであったが、彼は文句を一つも言わず、彼女を支えたまま一番近い連合の船を目指した。
ジルベルト達の機体は戦艦ニーヴァレインに収容された。ハンガーに機体を収め、ジルベルトはコックピットから降りると、真っ先に鳴鳥の元へと向かう。閉ざされたままのARKHEDのコックピット部分をコンコンとノックするが返事は無く、鳴鳥が自ら出てくる気配が無い。ジルベルトは仕方なく自身のARKHEDを使い、強制的にコックピットを開かせた。俯いたまま此方を見ない鳴鳥は肩を震わしていた。
「ナトリ…」
「…っひっく……わた…わたし…は…」
彼女は泣いていた。死を願い、殺しに掛って来た者がどうしてそこまで大切だったのか、久城の死を悲しみ、涙を溢す鳴鳥の事をジルベルトは理解できない。寧ろ、死しても彼女を追い詰める久城が許せず、苛立ちが募る。
「もう、お前が苦しむ事はない。終わったんだ。いや、俺が終わらせた。恨むなら俺を恨んでくれて良い」
久城に対して腹は立つが、彼は鳴鳥にとって憎まれようが大事な人。その者に止めを刺したのは自分であるとジルベルトは言い聞かせ、鳴鳥は自分を責める事も悲しむ事も無いと諭す。
自分が悪人になり、全ての責を負う。それで良かった。彼女が立ち直れるならば、罪を背負う事を厭わないつもりであった。そう、決意していたが、彼女の笑顔がもう自分に向けられないとなると少し寂しくも感じていた。だが、彼女の想いは彼の予想とは違っていた。
「…ジルベルト…さんは…悪くなんて…ありません……。悪いのは…私…なんです…」
「は!?おい待て、どうしてそうなる!?」
「もっと早く…伝えていれば……こんな事に…ならなかったのかも…知れない」
とめどない涙を流し、後悔している鳴鳥はゆっくりと立ち上がるが、直ぐによろける。咄嗟にジルベルトは彼女の身体を抱き止めるが、そのまま縋りつくようにもたれかかる。
自分が駆けつけるまでに二人の間に何があったのか、聞きたい事は山ほどあるが、今はやめておくことにした。ジルベルトは未だ泣きやまない鳴鳥の小さな体を抱きしめる。ドックにはジルベルト達以外に兵士達も居て事後処理に追われていたり、二人の身を案じていた者もいた。冷やかしの視線がジルベルトの背中に突き刺さり鬱陶しくも感じるが、今この手を緩める気にはなれなかった。
戦いは終わった。鳴鳥は無事に、ジルベルトの傍に居て温もりが感じられる。けれども彼の腕の中に居る彼女は涙に打ち震えている。本当の意味で鳴鳥を守り切れなかったことにジルベルトは自分の力不足を感じていた。




