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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase one : geotaxis
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第28話 The power of the mind is a green light

 星団連合本陣、大戦艦ブリューナクの甲板で鳴鳥はミリアムと共に戦況を見守る。ジルベルトとラウナとフラヴィオは前線にてテレンティアのARKHED(アルケード)四機と戦っている。その一方で敵のARKS(アークス)と戦艦は他の星への侵攻を進めていた。

 ミリアムは随時入る情報を元に指示を出す。


「(ジルベルトなら一機増えた所で後れをとる事はない。けれどもこのままでは敵の勢いを抑えられない。ならばここは―――)」


 本陣にはクランド機が向かっているとの情報を得ている。テレンティアのARKHED(アルケード)は残り一機、ここは進軍しつつもクランド機を確実に叩き、攻撃を受けた星へと兵力を割くべきだと判断した。


「ソフィーリヤ・ソルニエール少佐、敵のARKHED(アルケード)は本陣に向かって来ています。クヴァル機を向かわせますのでそれまで堪えて下さい」

「了解しました。ここから先には進めさせません!」


 本陣の前方でソフィーリヤは盾を構えて了解した。彼女のARKHED(アルケード)は防御力に特化している。ジルベルトよりも劣っていたというクランドの戦闘力ならば彼女が足止めをするのは容易いであろう。彼女が守り、クヴァルが攻撃。そのコンビネーションもまた完成されたものであり、クランド一人ならば止められる所か撃破も見込める。クヴァルが抜けた右翼は火力の高い戦艦、ニーヴァレインがカバーする。


「(久城センパイが…ここに向かって…?)」


 彼とは戦う前に話をしたい。今度は逃げずに面と向かって想いを伝えたい。鳴鳥はそう願っているが、それは懸命に戦う皆を危険な目に晒す我儘である。目をぎゅっと瞑り、首を横に振って雑念を払い、前を向く。今はジルベルト達の無事を祈る事だけだと言い聞かせて戦況に意識を集中させる。




第28話 The power of the mind is a green light




 ARKS(アークス)同士の戦いは拮抗している。だが、一つの星と多くの星が連なる連合とでは戦力に差がある。今はなんとか一歩一歩進軍しているテレンティアの兵だが、抑え込まれるのも時間の問題である。

 機体を破壊され起こる爆発、飛び交う銃弾にレーザービーム。それらをかいくぐり、猛進する機体が一機ある。それは鳴鳥の命を狙うクランドが搭乗するARKHED(アルケード)であった。どうにかその勢いを止めようと連合のARKS(アークス)が立ちはだかるが、それらはまるで存在すらなかったかのようにいとも容易く消される。そう言葉通り消される(・・・・)のだった。クランド機は戦闘機形態で突き進むが、その機体の衝撃波に触れたARKS(アークス)は抉られたように消える。戦艦すらも彼の機体が通った後に大穴があき、その後爆破して沈む。


「皆は下がって!」


 本陣前でクランドの前に立つのは大盾を構えたソフィーリヤ機である。彼女はARKS(アークス)では歯が立たないと言う事を悟り、皆を下がらせて自身が前に出る。そして止まることなく突っ込んでくるクランド機を受け止めた。


「退け!お前に用など無い!!」

「ここは何としても守り抜くわ!」


 ソフィーリヤ機が構えた大盾は機体を後ろに押されつつもクランド機の勢いを削ぎ、その場へと押し留めた。多くのARKS(アークス)を消した衝撃波も、ソフィーリヤのARKHED(アルケード)には効果が無かったようだ。

 クランドはこのまま進む事は叶わないと悟ったのか、一度後方に引き下がり、戦闘力の高い二足歩行モードに変形する。その機体が構えているのは緑色の光を放つ剣であった。


「退けどけどけどけどけぇッ…!!!」

「何故そこまでナトリさんにこだわるの!?」

「お前には関係ない!!」


 クランドは何度も何度も光剣を振るい斬撃を繰り返す。だがそれらはすべてソフィーリヤの構える大盾に防がれていて、彼女の機体に届く事はない。けれども彼の強い憎悪の籠った攻撃はソフィーリヤに直接伝わる。鳴鳥とクランドとの関係をジルベルトから聞き及んでいるソフィーリヤは、今目の前で光剣を振るう彼の言い分が理解できない。鳴鳥を責める理由などありはしないと咎めるが、彼は聞く耳を持たずにひたすら攻撃を仕掛けてくる。

 守りに集中している分、ソフィーリヤ機は攻撃をする手段を取れない。ARKS(アークス)が援護をするが、汎用機の攻撃は大したダメージにならず、逆に五月蠅い羽虫を落すが如く蹴散らされた。

 このままでは無駄に兵を消耗するだけだと焦りを感じていたソフィーリヤの頭上を一線のレーザー砲がが通過する。


「遅くなって済まない!」

「クヴァル…!来てくれて助かるわ!」


 到着したクヴァルはソフィーリヤの後方から狙いを定めてレーザー砲を放つ。クランドはそれらをひらりとかわしつつ飛び退くように下がった。二人ならば完全にクランドの勢いを封じられる。そう確信したが、クランド機から響いたのは降参ではなく笑い声であった。その様子に何が可笑しいのかとクヴァルは目くじらを立てる。


「随分仲が良いようだが、貴女は理解しているのか?そいつが背を預けられる者かどうか」

「…!」

「…それは、どういう―――」


 クランドの意味深な言葉にクヴァルは言葉を詰まらせる。その様子を目の当たりにしたソフィーリヤは動揺し、言葉の意味を問う。だが、クランドはその迷いに乗じて銃撃を放った。その攻撃はソフィーリヤの盾を貫く。ARKHED(アルケード)は思念で作動する。心に迷いが生じればそれが綻びとなり、強固な守りも崩れる。クランドはその瞬間を見逃さなかった。


「どういう意味かはそこの者に訊ねてみればいい」

「…!今はそんな事を言っている場合ではないわ!」

「あ、ああ、そうだ」


 幸い攻撃を受けた範囲は小さい。ソフィーリヤはすぐさま気持ちを切り替えて守りに徹した。しかしクヴァルの方は動揺を隠せないようで、攻撃の手が緩んでいる。先程より威力と精度が落ちたレーザー砲を容易く避け、クヴァルの弱みをクランドはひたすら責める。


「君には良心ってものが…。ああ、そうだった、君達には無いんだったね」

「クソっ!黙れ…!!」

「へぇ…怒りの感情はあるのか」

「いい加減に…!!」

「落ち着いて、クヴァル!」

「しかし奴は…!」


 ソフィーリヤがクヴァルを落ち着かせようと声を掛けた瞬間、クランドは遠方から数十発もの弾を撃つ。それらはすべてソフィーリヤの大盾で防いだが、広範囲の爆発で辺りには煙が立ち込める。その爆煙に乗じてクランドはニ機の間をすり抜ける。精神的な攻撃と同時の不意打ちにクヴァルとソフィーリヤは突破を許してしまうが、すぐさま後を追う。煙から脱け出した戦闘機形態の三機はもつれるように進む。その間にもクランドはクヴァルに対し揺さ振りを掛ける。


「セルベリア、…本当の名はセスと言うが、彼女は言っていた。自分達には目的があると。その為にARKHED(アルケード)の契約者を観測するのだと」

「…クッ…!あの女…!」


 現在、クランドからの通信はクヴァルだけに繋がれている。それは自身の素性をこれ以上知られたくはないとクヴァルが操作した結果であるが、クランドにとっては攻撃の要である彼さえ押さえられればどうとでも良かった。

 これ以上余計な事を言われたくないと焦るクヴァルの額にはじっとりと脂汗が浮かび、ハンドグリップを握る手も震える。動揺は機体の機動力にも影響し、追尾するが後れを取っている。


「(あの女は何を考えている…?対象に対して此方の素性を明かすなどと馬鹿げた事を…!…これまで上手くやってきたつもりだが…。ソフィへの説明はどうする…?)」

「クヴァル…っ!」

「―――っ!!」


 怒りと恐れに囚われていたクヴァルはクランドのレーザー攻撃をまともに受けそうになるが、咄嗟に割り入るソフィーリヤの盾に防がれた。二足歩行形態に変形したソフィーリヤ機と不意の攻撃に推進力を落したクヴァル機はその場に留まり、クランドはニ機から距離を離す。これ以上離れてはなるまいと後を追うが、中々距離は縮まらない。


「見つけたぞ!あぁ、もうすぐ君に会えるね、鳴鳥」


 本陣中央の大戦艦ブリューナク、その姿をクランドは捉えるが、連合の所属機や艦は道を開けるように退いた。


「射程範囲内に居る者は総員退避!」


 ブリューナクのブリッジより通達された直線状、小さな艦を丸ごと破壊し尽くす程の特大のレーザー砲がクランド機を目がけて迫る。回避する間はなかった。誰もが「やった」と思ったが、ARKHED(アルケード)の機体性能は計り知れない。


「やはり、通常兵器では傷を付ける事は叶いませんか」


 ミリアムは白く光る光剣を両手に構えて前進する。彼女の見据える先にはレーザー砲を真っ二つに割きながら此方に向かうクランド機が居た。ダメージは与えてはいないが、機体の進むスピードは確実に下がっている。だが、レーザー砲も永遠に放ち続ける事は不可能だ。威力が弱まるまでは幾ばくの時間も無い。ミリアムはすぐさま次の手を打つ為に通信を繋いだ。


「アリーチェ・バルニエール、本隊へ今すぐ合流して下さい」

「了解!」

「クヴァル、ソフィーリヤとわたくしで挟撃します。ナトリさんは下がっていて下さい!」

「は、はい…」


 クランド…久城が此方に向かって来ているのは自分を殺す為だという事、その結果周りを巻き込んでいる事、何も出来ない自分、それら全てが鳴鳥の心に重くのしかかる。か弱い少女の見た目であるミリアムすらも戦う姿勢を見せているのに、自分は守られているばかりである。悔しく感じるが、皆の足を引っ張る真似は出来ない。


「(…私が、殺されれば。もう、久城センパイは…こんな真似をしなくなるのかな)」


 それが最も皆を巻き込まない方法だと思うが、そう考えた瞬間、鳴鳥の脳裏にはジルベルトの姿と声が過る。彼は「死ぬな」と言った。だが、久城は「殺す」と言う。食い違う言い分、どちらの声に耳を傾ければよいのか、どちらを信じればいいのか、未だに迷いは晴れない。


「(…私は…っ…私は……!)」


「ようやく君の所まで来られたよ、鳴鳥。待たせて済まなかったね、さぁ処刑を始めようか…!」

「そうはさせません!」


 レーザー砲を打ち破り、急速に向かって来たクランド機はブリューナクから放たれる砲撃の嵐を掻い潜り甲板に形状変化して立つ。その手には緑色に光る光剣が握られていた。一直線に鳴鳥に向かってその光剣を突きたてようとするが、ミリアムが間に入り、二本の光剣で受け止める。


「アストリアの議長か。こんな所で油を売っていていいのですか?」

「どういう意味ですか!?」


 激しく剣を交えつつ一進一退を繰り返す二機。目の前に標的が居るにもかかわらず、クランドは焦りを感じることなく、平然としてミリアムに意味深な発言をする。クランドの相手は押し留めるだけならば容易い。けれども彼の言葉でその余裕はなくなる。


「鳥籠の鳥に餌を与える番人、それは信用できる者なのか?」

「…!」


 これまで押し返していたミリアムの力が弱まる。それはクランドの言葉に動揺した証拠であった。

 敵は連合の膝元にまで入り込んでいた。ならば最悪の場合、彼の元に敵が向かっている可能性も絶対ないとは言い切れない。厳重なセキュリティの先に『彼』は居るが、多忙な職務に追われる自分に代わり身の回りの世話をする者が居る。信用に足る人物であるという自信はあるが、現状を踏まえれば不安は募る。


「彼を誰だと思っているのですか…?三下にやられる程、彼は老いてはいませんし、わたくしは信じています…!」


 自分に言い聞かせるように、キッと睨みつけてミリアムは宣言する。それはただのハッタリではない。彼女は迷いを振り切るように光剣を振り下ろし、クランドに向かう。

 相手が精神的な揺さぶりに動じないと知ってか、クランドは一旦距離を取り、どう出るか探る。ミリアムも相手がどのような手段を隠しているか分からない状態で飛び込むのは危険だと察し、剣を構えたまま相手の出方を窺う。


「待たせたわね!」


 こう着状態を破ったのは六機の小型遠隔機を従えたピンク色のアリーチェ機である。彼女は遠隔機でクランド機を取り囲みビームを放つ。だが、その攻撃は全て消失した。正確に言えばクランド機の周りに発せられたバリアフィールドに攻撃が当たった瞬間、消え失せた。


「なっ!なんですと!?」


 アリーチェの攻撃は初見で無い上に威力が弱いからか、容易く見切られ防がれてしまった。それでも二対一、ミリアム達の方が有利であり、そこに更にニ機、味方が現れる。


「遅くなりました!」

「お手を煩わせたようで申し訳ありません」

「いいえ、よく来てくれました」


 突破された事、ミリアム議長に剣を抜かせた事を謝罪し、ソフィーリヤとクヴァルも駆けつける。これで四対一。四面楚歌であり、絶望的な状況であるにもかかわらず、クランドは怯む事が無い。隙あらば鳴鳥の元に近づこうとする勢いは削がれない。無論ミリアム達も易々と通す筈も無く、一刻も早くこの戦を終わらせようと四機でクランド機を攻撃する。


「ちょ、ちょこまかと!」

「落ち着け、ここは素人には…」

「うっさい!アタシに不可能はない!」


 アリーチェの操る六機のレーザービームを避け、クヴァルの遠距離砲撃もかわし、クランド機は光剣で斬り込んでくる。その斬撃をソフィーリヤが大盾で防ぎ、背後をミリアムが狙うが、寸での所でクランドは避ける。


「これが…意志の力…!」


 上手く連携は取れている。それでもクランドの勢いは抑え込めても倒すには至らない。それは彼の意志がいかに強いかが分かる動きであった。それまでにも鳴鳥の死を望むその姿にミリアムは恐れを感じる。本来なら使いたくない手ではあるが、彼女はクランドを倒す為にある手を使う。それは何も出来ないと歯がゆく感じていた鳴鳥の力を借りる事であった。


「ナトリさん、見ての通り、わたくし達では彼を止める事は出来ても倒す事は出来ません…!このままここで手をこまねいている訳にも参りませんので、どうか力を貸して下さい…!」

「は、はい…!」


 全てを説明されずとも鳴鳥は了解する。彼女が出来る事、それは一緒に戦う事ではない。ARKHED(アルケード)は思念で作動する。意志が強ければその分力を増す。つまり精神が乱れれば出力は弱まる。鳴鳥の役目とは、彼に語りかけ心を乱す事である。それは説得で無くても良い。兎に角動揺するように、精神を攻撃するような言葉を選べば良い。


「久城センパイ…!」

「あぁ、鳴鳥。君に会いに来たというのにこの歓迎ぶりは何なんだろうね!…全く、無粋な奴らだ」


 ARKHED(アルケード)の能力で鳴鳥とクランド…久城は対話を果たす。皆の為とはいえ、かつて好きになった人であり、後ろめたい思いを感じる相手である久城を前にし、鳴鳥は辛そうな顔をしている。一方彼はせせら笑い、どこか楽しげな様子でもあった。この状況に心を痛めているのは鳴鳥だけであり、かつての優しかった久城はそこに居ない。


「どうしてこんな事…っ。これが久城センパイの望んだ結果なんですか!?」

「ああそうさ。罪を犯した人間などこの世に存在してはならない」

「だからって…どうして地球を…。皆が皆罪を犯した訳じゃないのに…!」

「由利亜を見殺しにした世界など許せる筈がない!」

「その由利亜ちゃんが今の久城センパイをどう思うと思いますか!?」


 死者の弁を語る。それは復讐人の行動を咎める常套手段だ。けれども鳴鳥の言葉では彼に届かない。決して安っぽい上辺だけ取り繕った言葉ではない。だが、久城にとっては鳴鳥も由利亜を見捨てた罪人であり、許す事など出来ない。彼女の言葉は陳腐なものに感じているようで、考え改めるどころか、火に油を注ぐ結果となる。


「由利亜を見殺しにした君が彼女の言葉を語るなっ!!」


 激しい怒りと共に繰り出されたクランドの斬撃はソフィーリヤを吹き飛ばす。彼を突き動かす衝動、それはこの世界に対する怒りが原動力になっている。鳴鳥の言葉や存在が、更に彼の力を高める結果となり、心は乱れるどころか益々強くなる。


「(もう…私の言葉は届かない…)」


 テレンティアで銃を向けられた時から気が付いてはいた。けれども認めたくはなかった。いくら過去を悔もうが、許しを請おうが、彼の怒りと絶望は抑えられない。伝えたい想いは沢山あった筈だが、それらは全て霧散する。

 鳴鳥の言葉は届かない。そう悟ったミリアムは彼女には頼らず、次の手を打つ。時間は充分に稼げた。大戦艦ブリューナクのレーザー砲は充分エネルギーを充填させており、後は射程圏内に誘い込むだけだ。先程と同様の結果に終わるかもしれないが、極大レーザー砲は足止めに使える。そこを四人で挟み討ちにすればARKHED(アルケード)と言えども打ち倒す事が可能である。


「総員、配置を確認!」

「「「了解!」」」


 ミリアムの号令で四機はポイントまでクランドを誘導する。そしてそこには一直線のエネルギー波が迫った。


「二度も食らうと思うな!」

「…あぁっ!!」「ソフィ…っ!!」


 完全に行動を予測していたと思われるクランドはソフィーリヤ機を掴み、レーザーを受ける為の盾にする。思いがけない敵の行動に出遅れた皆はなされるがまま、ソフィーリヤはまともにレーザー砲を食らい、彼女を助けようと飛び掛かるクヴァルは片腕部分を斬り伏せられる。茫然としていたミリアムであったが、クヴァル機を守るように前に出て剣撃を二本の剣で受け止める。アリーチェは小型遠隔機で攻撃をしようとするが、ダメージを受けたソフィーリヤ機を盾に使われ、手を出せずにいた。

 四機のうち二機を手酷くやられ、ミリアムは焦りを感じる。切迫した場面であるが、彼女の元へ本部からの緊急通達が入った。それは更に彼女を追い詰めるものとなる。

 通信映像に映し出されたのは調査部部長のダニエルであり、激務に追われた彼はきっちりと纏めていた髪を乱し、慌てた様子で早口にまくし立てる。


「報告します…!暴徒はかつてテレンティアに渡航した者、そしてネットワーク上に存在する犯罪被害者による組織、社会に不満を抱えた者などで構成されており、純粋な信者ではない模様です。その者達に近づき啓蒙活動を行い、手駒にし、経典と共に配られたのがあの仮面であるようです」


 ダニエルの報告にミリアムは奥歯を噛み締める。管理体制の甘さと、不満を感じさせた政治手腕に己が情けなくも感じるが、他者の命を奪う事で憂さを晴らすなどという暴挙を許す訳にはいかない。彼の報告で暴徒の素性は知れたが、現状にはエイゼル教の言葉に耳を傾けぬよう呼び掛けるか、信者を捕縛するしか打つ手がない。

 目の前の敵と地上での混乱、二つの事を同時に考えなくてはならないミリアムの元に、更なる情報が舞い込んできた。相手はSARのカルラであった。普段陽気な彼女も今ではキリっとした真面目な様子である。現在ブリューナクのドックで損壊したARKS(アークス)の修理、換装を指示している彼女は暴徒が付けていた仮面などの装備品の解析も行っている。


「その仮面とスーツと経典にはARKHED(アルケード)とのリンクを確認したわ。ARKHED(アルケード)はそれぞれの機体に特化した能力を備えているの。敵の中に精神を支配するような機体はないかしら?それを叩けば少なくとも襲いかかっても大した力は出ない筈よ」


 暴徒は痛みに耐え、タガが外れたように暴れまわる。それらは全て彼らの身に着けていた物にARKHED(アルケード)からの精神支配が施されていると判明した。今の所交戦中の機体にそのような集中力の必要な動作をしている者は居ない。ならばもう一機、今のところ姿を現していない最後の一機が根源であるだろうと推測される。

 今すぐにでもその人物を探し出して倒す事が出来るならば、地上の混乱は収まるだろう。だが、ARKHED(アルケード)にはARKHED(アルケード)でしかまともに戦えない。今現在戦える機体は残されていない。


「(今は目の前の敵を…)―――っ!!」

「余所見出来るとは余裕なんですね」


 気を取られていたせいか、ミリアムは懐に入る事を許してしまう。ソフィーリヤ機を盾に、クヴァル機とアリーチェ機の攻撃を防いでクランドはミリアムに剣を突き立てる。一撃目はどうにか防いだが、二撃目にバランスは崩される。


「ここまでですね」

「ナトリさんっ!逃げて…!!」

「!」


 掴んでいたソフィーリヤ機をミリアムの機体に叩きつけ、弾を撃ち込む。威力は大したことないが、巻き起こる爆煙の中を迷い無く突っ切り、クランドは鳴鳥の元へと近づく。ミリアムの言葉で鳴鳥は咄嗟にその場から離脱する。


「(逃げなきゃ…!皆の居ない所へ…)」


 殺意を露わにしているクランド…久城が迫りくる。殺される事への恐怖はあるが、何よりも恐ろしいのはこれ以上誰かが久城に殺される事であり、彼が更なる罪を重ねる事だ。

 アリーチェが後を追おうとするが、追いつけない。先程のミリアムの元に入った通信を聞いていた鳴鳥はアリーチェとミリアムに願い出る。


「私なら大丈夫です…!皆さんは地上の混乱を止めるべくもう一機の機体を…!」

「何言っているのよ!アンタみたいな素人に―――」

「今は彼女を信じましょう。アリーチェ・バルニエール、洗脳を施すARKHED(アルケード)の捜索、撃破を任せます」

「…っ、わ、わかったわよ!」


 ダメージを受けていたソフィーリヤ機を損傷したクヴァル機に預け、ミリアムは鳴鳥達の後を追う。そして入れ違うようにアリーチェはテレンティアの本陣へと向かう。

 指揮官はミリアムであり、彼女が本陣を離れるわけにはいかない。鳴鳥は自分なら平気であると気丈に振舞い、ミリアムを本陣に残るよう説得をして離脱する。彼女は皆に宣言した通り久城に追いつかれる事無く逃げ続けている。一見何も考えなしで逃げているように思えるが、確かな目的があった。危機的状況で思い起こされたのはジルベルトの言葉である。


「宇宙空間では右も左も、上も下も気を配らなければならない。ある程度はARKHED(アルケード)の能力で回避可能だが、相手もARKHED(アルケード)なら此方の感覚、俊敏性が頼りになる。もしARKHED(アルケード)とやり合わなければならない場合は何処でも良い、足場を探せ」

「地面に足を着ければ下方から狙われる事はない…ですね」

「ああ、そうだ。小惑星でもいい。できれば無人の星に降りて遮蔽物があれば更に良いんだが…」


 彼女はこれ以上誰も巻き込まないような、なお且つ自身の力で逃げられるようにとある星を目指していた。そこは緑と自然が溢れた星、多くの遺跡があるが、それらは全て歴史的価値はないオブジェクトである。その星の名はヴィルト・ルイーネ。ARKS(アークス)のレースが盛んな星で豊かな大自然は競技場コースである。アストリアからさほど離れていないその星に降下し、鳴鳥は円塔状の岩山が点在する荒野を駆ける。現在テレンティアと交戦中とのことでレースは行われておらず、この星の住人を巻き込む恐れも無い。


「こそこそと逃げ回るとは、君の狡さは変わらないな」

「私は…ずるくなんか…!」

「鳴鳥、君は随分皆に受け入れられているようだね。本当に取り入るのが上手い事だ」

「私はそんなつもりじゃ…!」

「許せない!僕は君を許せない…!由利亜は絶望しながら死んだというのに…。何故君は生きている!?生き残って新たな居場所を手に入れて…!!」

「…そんな事っ!」


 久城のARKHED(アルケード)が放つ銃撃は固い岩山を抉る。鳴鳥がいくら身を隠そうが居場所は捕捉されているので絶え間なく移動をする。その間に久城は攻撃を仕掛けてくるが、今のところ当たる気配はない。それでも久城の言葉は深く鳴鳥に突き刺さり、傷口を広げていく。


「(久城センパイ…。どうして…こんな事に…。私は…―――)」


 このまま逃げ続けて解決するのだろうか?また誰かに縋り助けを待つのか。そう考えていた瞬間、思い浮かんだのはグレーのぼさぼさ頭に無精髭の男、ジルベルトであった。彼なら助けに来てくれる。根拠のない自信があったが、その考えすらも久城に責められる一因であると思いなおす。


「(頼ってばかりじゃ駄目…!私も戦わなきゃ…!!)」


 この日の為にジルベルトと特訓したのだと思い返し、銃を持つ。けれどもハンドグリップを握る手は震えが止まらない。自分の攻撃が当たるとは決まっていないが、久城に対して銃を向ける行為そのものに恐れを感じる。

 殺されたくはない、けれども罪を贖う為なら死を受け入れなければならない、戦わなければ他の誰かが久城に殺される、彼を止めるのは自分の役目、否、そうありたい。様々な思いがせめぎ合う。散々悩んだというのに答えは出ず、流される様に逃げて、そして銃を向ける。


「(私が止めなくちゃ…!!)」


 そう言い聞かせた鳴鳥は弱さを振り切るように翻り、逃げるのを止めて久城の機体に向かって銃を構えた。そして引き金をひく―――。




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