第23話 Purple and green aurora
「痛っ…!は、放して下さいっ!」
ジルベルト達と別れ、コンラードと行動し、人探しをしていた鳴鳥であったが、彼女は思わぬ場所で探し人と出会う事となる。事前の情報では、女好きのチャラチャラした外見と性格であると知らされていたが、声を掛けてきた彼は別人のようであった。実際に目の前にした彼は派手な衣服を着ているものの、性格は穏やかで頼りなく、物腰も柔らかであった。財布をスられて困っていた彼は助けを求め、声を掛けてきた訳だが、不自然に思わなかった。背は高いが、細身であり、大人しそうな彼は、この辺りに居る屈強な男達に声を掛け辛くて、話しかけ易そうな自分を頼りにしたのだろう。そう考えた鳴鳥は彼を疑う事は無かった。だが、その彼が捜していた当人だと知り、鳴鳥は驚いた。と、同時に情報は間違いであったと決めつけ、迂闊にもジルベルトの名を出し、それが何故かフラヴィオの癇に障ったようだ。これまで優しげであった彼はジルベルトの名を聞いた途端、表情を崩し恐ろしい形相へ、鳴鳥から通信機を取り上げ、腕を引き、裏路地へと向かう。その力は強く、通信機を握られている為、鳴鳥は抵抗できずにいた。もしもの時は容赦なく銃を使えとジルベルトは言ったが、恐ろしい形相に身体が竦んでいて、なお且つ利き手を引かれている為銃に手が伸ばせない。
第23話 Purple and green aurora
裏路地の奥、月明かりだけが照らす薄暗い建物と建物の間でフラヴィオは鳴鳥の手をようやく放した。しかし彼はいまだに通信機をその手に握っていて返そうとしない。強く握られていた腕がジンジンと痛むが、銃に手を伸ばそうとした。今度こそ、迷い無く撃ち、自分で危機を脱すると誓うが、それは叶う事は無かった。
「あっ…!」
銃を握った途端、グンと近づいて来たフラヴィオが鳴鳥の手を握り力を込めて上にあげる。すると指先から力が抜け、ガシャンと音を立てて銃は地面に落ちた。すぐさま彼はその銃を蹴り飛ばして遠ざけた。狼の獣人の血を引くだけあって彼の身のこなしは素早い。壁際に追いやられた鳴鳥の顔のすぐ横に彼は手をダンっと叩きつける。そして鋭い視線で睨みつけながら、低い声で問いただした。
「可愛い顔して軍人だとはな。すっかり騙されたぜ」
「だ、騙すつもりなんて…!それに私は軍人ではありません…っ」
「嘘吐くな。あの銃は連合軍支給の物で市場には出回っていない」
「あれは…その…。と、とにかく私は軍人ではありません。今は任務に協力しているだけで…」
「ほう…。ならあのクソ野郎とどういう関係だ!?」
クソ野郎と言われて鳴鳥には思い当たる節が無い。けれどもフラヴィオの恨みと怒りに満ちた表情に先程の事を思い起こした。彼は何故だかジルベルトを憎悪している。どう答えてよいか悩むが、今更嘘を吐く事は自分の身に危機が訪れるであろうと感じた。
「…ジルベルトさんは命の恩人で、今は彼の任務に協力をしているんです」
「恩人?クククっ…そうか、そうか」
その返答は取り敢えず間違ってなかったようだ。これまでの恐ろしい表情を崩し、彼は声を上げて笑いだした。ひとしきり笑った彼は何やら企むような笑みを浮かべて優しく問いかける。
「親しい仲…。恋人なのか?」
「い、いえ、違います!ジルベルトさんは私の貧相な身体には興味無いって馬鹿にしていますし」
「ほう…」
これも事実である。だがその言葉でフラヴィオはニヤっと笑い眼鏡を外して煩わしそうにフードを下ろした。そこにはピンと立つ赤毛の耳があり、彼が探し人であるのだと再確認した。
「任務ってのはなんだ?」
「…!」
体制は追いやられたままだが、フラヴィオは話を聞いてくれるらしい、その優しげな眼差しと声色で鳴鳥は怯えて震えていた身体から緊張が解けていくのを感じる。ゴクリと生唾を飲み込み、彼女は今回の任務を彼に説明した。
「あの…テレンティアの事はご存知ですか?」
「ああ、あのカルト教の星か。それがどうした?」
「えっと、その星と近いうちに戦争になるかもしれないんです」
「たかだか星ひとつ、連合ならスグに方を付けられるだろう」
「そうもいかないんです…!」
鳴鳥はテレンティアの五機のARKHEDの脅威と連合の戦力差を彼に説明した。専門的な知識は無いが、大方の事態は伝わったようだ。このような真面目な話を、人々の危機に関する話をされるとは思わなかったのだろう。フラヴィオは驚いた様子であったが、スッと冷めた表情をして鳴鳥の、と言うより連合からの要請を断った。
「数的には後二機居るじゃねぇか」
「ミリアム議長は立場ゆえに前線に赴く事は…。もうひと方は詳しくは分かりませんが乗れない事情があるそうです」
「気に食わねぇな。お偉いさんは高みの見物かよ」
「そんな事はありません…!ミリアム議長はとてもお優しい方で―――」
「俺は誰かの下で働くとかが大嫌いだ。だからARKHED持ちだが軍属にならない為にレースで稼いで大金を収めているんだぜ」
「そう…なんですか」
「自由に飛ぶ事を邪魔されたくはねぇ」
奔放なようでいて、フラヴィオもまた自由の為に対価を払っていた。彼は彼なりに連合に協力しているのだと言われれば何も言い返せない。けれども彼の主張は戦う力がありながらも戦わず、己の事だけを考えているようにも取れる。戦いたくても実力が追いつかない鳴鳥は悔しさを感じた。
「戦う事自体は出来るんですよね?」
「まぁ専門ではないが、汎用機よりはマシだろう。だが俺は―――」
「このまま戦禍に連合の属する星々が巻き込まれれば、この星でのレースも無くなるのではないでしょうか?」
「…!!」
鳴鳥の言う事には一理あり、フラヴィオは動揺する。確かに彼女の言う通り、テレンティアが辺境の星を滅ぼしたというニュースが入った後からレースは規模が縮小されつつあった。だがそんな事如きでは彼の心は折れない。逆に都合が良いとせせら笑った。
「連合が無くなれば俺は自由だ。本当の自由を得られて何処までも飛べる!」
「…そんな!自分以外はどうなっても良いと言うんですか!?」
「ああ、構わない。俺は俺さえ幸せならそれで良い」
その言葉に鳴鳥は憐れむような、悲しそうな顔をした。彼には守りたい人が居ないのか、どうして此処まで自分だけを守るようになってしまったのか。当人はそれで良いと言い切るが、鳴鳥はその孤独な生き方を悲しく思った。
鳴鳥の感情、それとは逆に、フラヴィオは彼女の表情を疎ましく感じた。そこで気が付く。今は復讐を行う絶好のチャンスなのではないかと思い付いた彼はニヤッと笑い犬歯を剥き出しにした。
「…ハァ。わかったわかった、お前がそこまで言うなら力を貸さない事も無い」
「本当ですか…!」
「ただし条件がある。命を掛けるからには当然だろう?」
「そう…ですね。なんですか?その条件は」
途端に表情を明るくする鳴鳥にフラヴィオは内心笑いが止まらない。これから出す交換条件に彼女がどのような顔をするのかが見ものであった。
「お前の身体を捧げて貰おうか?」
「え…」
想像していた通り、鳴鳥は驚き固まる。その言葉の意味が素直に受け入れられないのか、目線を泳がせていた。そして聞き間違いであって欲しいといった様子でもう一度確認をする。
「あの…その…身体を捧げると言うのは…」
「言葉通りだ。その程度で俺様が戦列に加わってやろうって言うんだ。大サービスだぜ」
そう言いながら頬に触れ、親指で柔らかい唇をなぞる。こういった事に慣れてはいないのか、カタカタと震えるか細い身体と恐怖心に満ちた揺らぐ瞳に浮かぶ涙に加虐心は煽られる。耳元で囁くとビクンとひと際大きく身体を震わせた。あぁ…虐め甲斐があるなと快感がゾクゾクとフラヴィオの身体を駆け巡った。
「覚悟は決めたか?」
「(…私一人が我慢すれば…多くの人が助かるんだよね?)」
これから行われる行為に恐怖するが、これ以上無関係な人々を喪いたくは無い。自分さえ我慢すれば彼は協力してくれる。ならば戦う力を持たない鳴鳥は彼に身を捧げるしかない。覚悟を決めた鳴鳥は声に出すことなく、小さく頷いた。するとフラヴィオは嬉しそうに笑みを浮かべる。
契約を交わしたのち、フラヴィオは鳴鳥の通信機をその場に残し、彼女の身体を軽々と抱え上げた。
「しっかり掴まっていろ!」
「え!?は、はいっ!…わっっ!」
地面をタンと蹴るとフラヴィオは高く飛び上がり、壁を伝い建物の天辺に立つ。そして彼はARKHEDを呼び出し、鳴鳥を抱えたまま搭乗する。そして補助席に彼女を座らせるのではなく、操縦席にフラヴィオが座り、その彼の膝の上に彼女を乗せた。
「お前にも見せてやるよ、自由に飛ぶって事をな」
鳴鳥が危機的状況にある中、ジルベルトは頭を悩ませていた。目の前に居る少女はジトっとした目線を向けて睨みつけている。空色のロングヘアをツインテールにして、真っ黒でフリフリな衣服を身に纏った少女、彼女こそが捜していた二人のうちの一人、ラウナなのだが、彼女とは思わぬところで出逢った。
ジルベルトが居るのは歓楽街の酒場の前である。マリアンは人当たりの良さを生かして女の子が沢山いる店で聞き込み、スティングは厳つい見た目を生かして裏路地で暗躍する者たちに聞き込み、ジルベルトは普通の酒場を巡っていた。今のところマリアンから何軒か常連であるという店を回ったが、今日は顔を見せていないらしいという情報が入ってきていた。
「聞いたところによると、一度食べた女の子とは喧嘩別れが多くて、この辺りのお店の子とはほとんど済ませちゃったらしいわ」
「そうか…なら観光客も訪れやすい酒場の方が合える可能性が高いか」
「…奴が女を連れて宿場エリアの路地裏に入って行くのを見た者が居た」
「スティング、それは良い情報だ。アラン、大体の位置を把握できるか?」
「監視カメラを解析します…。―――見つけました!路地裏ですから大体の位置情報になりますが、転送しますね」
「よし、三方から徐々に範囲を狭めるよう包囲する」
「りょーかい」「了解」
三者は宿場エリアに向かおうとしたが、ジルベルトはぐいっと上着を後ろに引かれてその場に留まる。何事かと後ろを振り返ると、そこにラウナが居たのだった。
「契約者の気配…」
「(ARKHEDの契約者だと分かるのか!?)」
「貴方、フラヴィオの居場所、知らない?」
「…ま、迷子なのか?」
「迷子はフラヴィオの方。明日は朝一にレースあるのに…」
「そうか、それは大変だな」
彼女の方と先に出会ってしまった事は誤算であったが、事前情報と違い、ラウナは普通の少女のように思える。寧ろ、人違いであったにも拘らず、未だにジルベルトの上着から手を離さない所を見ると、見た目相応の性格の様だ。
「思い当たる節があるが、一緒に来るか?」
「貴方、見た目に反して親切なのね」
「(…一言余計だな)」
「早く、案内して下さる?」
「はいはい、分かりました、お嬢様」
ジルベルトとラウナはフラヴィオが居ると思われる宿場エリアに向かう。二人は最初、並んで歩いていたが、足の長さで歩幅が違うせいか、ラウナは時々はぐれそうになっては、タタタと駆け寄るように追いかけて来る。彼女のペースに合わせていると探し人を逃しかねない。ジルベルトは離れ離れにならぬように手を引いて歩こうかとするが、差し出された手の平はスルーされた。彼は行き場を無くした手で首の後ろを掻きながらお伺いを立てた。
「…手が駄目ならお抱えしましょうか、お嬢様」
「結構です。汚らわしい手で触れないで下さい」
「…そうですか」
終始冷ややかな表情のラウナはあしらうようにジルベルトの申し出を断った。ジルベルトもあまり愛想のよい方ではないが、ここまでの拒否を示されると、可愛げが無いと感じた。可愛らしい見た目に反して毒を吐くような物言い、何を考えているのか分かりづらい表情、思っていたよりも楽に接する事が出来るかと思いきや、気苦労は絶えない。
ラウナのペースに合わせつつ、宿場エリアに向かう途中、ジルベルトの元に通信が入った。相手はコンラードである。正直なところ、コンラードと鳴鳥には期待をしていなかった為、一番探し人が居無さそうな場所を割り当てた。交渉の場では鳴鳥が必要だが、そこまで漕ぎ着けるには二人では難しい。
小型端末通信機に映されたコンラードは深刻そうな顔をしていた。
「どうした?何かあったのか?」
「それが…ナトリさんとARKSのパーツ屋を見て回っていたんっスけど、自分がちょっとトイレに行っている間に困っている人を助けるんだとかでどこかに行ってしまって…」
「…はぁ、またか」
「少し待ってて欲しいとメールが来ていたんっスけど、戻ってくる様子もなく、通信機も応答が無いんっス」
「応答が無い…?」
何やら胸騒ぎがするジルベルトは鳴鳥の端末の在りか、居場所を突き止める。そこはARKSのパーツ屋が軒を並べる所からさほど離れていない裏路地である。すぐさまアランにその近辺での鳴鳥の動きを探って貰いながら、彼女の通信機から信号が発せられた現場へと向かおうとする。
早歩きになるジルベルトに対しラウナは声を掛けて引き留める。
「ちょっと、何処に行くの?」
「すまない、連れを迎えに行かなければならなくなった。フラヴィオなら宿場エリアの裏路地で目撃情報があった。あとは自分で探してくれ」
「…任務より、その子が大事?」
「…!今何て…」
動揺して強張るジルベルトとは違い、ラウナの表情は今まで通りの冷ややかなものだ。彼女の口振りから察するに、こちらの思惑はお見通しであるようだ。こうなった以上、隠す必要はない。ここで変に取り繕っていては後々の交渉に支障をきたしかねない。そう判断したジルベルトは彼女の質問に答えた。
「放っては置けないからな」
「…そう。それは愛情?」
「そんなものではない。俺がアイツを助けるのは…贖罪だ」
「死んだ者には何も出来ないからね」
「そうだな…」
「私にとって、フラヴィオは大切な人なの。だから彼の願いは絶対の事」
「…そうか」
「それを邪魔する者は許さない」
ハッキリと宣言したラウナの表情はこれまでと変わらぬ表情であったが、彼女の気迫が伝わる。ジルベルトには二人の仲を邪魔するつもりなどないと言い、こちらの考えを包み隠さず簡潔に伝える。
「俺達は星団連合から来た者だ。フラヴィオ・フェデーリとラウナ、二人に協力をして頂きたく思うが、強いるつもりはない」
「…そう、フラヴィオが納得するなら私は彼に従うわ」
「…感謝する」
「あら?説き伏せる自信があるの?」
「まぁ可能性はゼロではないしな」
「…そうね」
ジルベルトはまた後ほどと言い残して駆けだそうとした。と、そこでアランからの通信が入る。いつも穏やかであるアランが慌てた様子で伝えたのは驚くべき事であった。店の前の監視カメラの映像、そこには鳴鳥と長身で赤毛の男が映されていた。その男の顔をズームアップすると、フードを被っていて眼鏡をしているが、捜していた人物に似ていた。この画像だけでは確証は得られないと思いたかったジルベルトはラウナにその画像を確かめて貰う。
「これは…フラヴィオに間違いないわ」
「…っ!!クソっ!」
「な、何をするの!?」
ジルベルトはラウナを小脇に抱えて走りだした。彼女はじたばたと抵抗しているが、男の、それも軍人として鍛えているジルベルトに敵う筈もなく、途中で諦めて身を預けた。
「お前も奴を捜しているんだろう?」
「ええ、そうだけれど……待って!あれ…!!」
「ん?空がどうした―――あれはっ!!?」
ラウナが指差した先、空には一機のARKHEDが飛び立つのが見えた。それは黒いボディに紫色のラインが入った機体、フラヴィオの機体で間違い無かった。
ジルベルトはすぐさま開けた土地に移動し、自機を呼び出す。そしてラウナも自機である紫色のボディに黒いラインの入ったARKHEDを呼び出した。
「ひゃあああああ!!!」
「アーハッハッハッ!!」
鳴鳥の視界の先は目まぐるしく変わる。渓谷では岩の柱にぶつかりそうになり、間欠泉が絶え間なく噴出する中に飛び込んだり、木々が生い茂る中を掻き分けて進んだり、大声で笑い声を上げるフラヴィオのARKHED操作は滅茶苦茶であった。とにかく速く、景色は流れて行き、時々危機的状況直前に見舞われ、それをひらりと回避する。それは操作が下手である訳で無く、スリルを楽しんでいるようだ。
鳴鳥は怖い思いをもうしたくないと目を瞑っていたが、首筋に湿り気を帯びたものが這うのを感じて驚き、目を見開いた。彼女が振り向くと舌を出しているフラヴィオが笑っていた。
「前、見てみろよ」
「前って…でも怖くて…っ」
「エーデル・シュタインの遊園地よりもスリリングだったろ?」
「スリリング過ぎます!」
「今は大したスピード出してねぇから見てみなって」
「…うぅ。……って…これ…?」
恐る恐る振り向いて閉じられていた瞳を見開いた先には雪原が広がり、空には紫色と緑色の二色のカーテン、オーロラが輝いていた。フラヴィオの言った通り、今はゆっくりとしたスピードでARKHEDは空を飛んでいる。美しい景色を前に、鳴鳥は先程までの怖がっていたのが嘘だったかのように、見惚れていた。
「この星、良いだろ?景色が良くって」
「はい…。ここ以外はまともに見れませんでしたが、素敵だと思います」
「まぁここでレーサーになって随分経つから、そろそろ他の星に行きたいんだが…。そうだ!お前の母星はどんな所だ?」
「私の母星は……」
楽しそうに景色を眺めていた鳴鳥の表情が曇る。彼女は口を閉ざしたが、フラヴィオは特に追及する事も無かった。不幸自慢をしたい訳ではないが、自分が何故、テレンティアと戦う事を決めたのかを知っていて欲しく感じて、鳴鳥は自ら閉ざしていた口を開いた。
「詳しくは聞かないんですね」
「…まぁ戦争で星を追われたりなんて事は普通にあるしな」
「そう…ですか」
「辛い事を聞いたのなら悪かった」
「いえ、良いんです。私の母星は…その…、テレンティアのARKHEDに滅ぼされた星なんです」
「あの星のか…?ならお前は最後の生き残りなのか?」
「そう、だと思っていました。…でも、違っていたんです」
俯いた鳴鳥は今にも涙を溢しそうであった。何度泣いただろうか、久城の事を思い起こそうとすると悲しみが込み上げてくる。鳴鳥は泣きそうになりながらも久城の事と自分の決意をフラヴィオに打ち明けた。
「お前は…命を掛けてそいつを止めるつもりか?」
「はい…!これ以上久城センパイに罪を重ねて欲しくは無いんです」
「そうか…」
フラヴィオは溜息を吐いた。それは下らない事だと言う前の合図かと思い、鳴鳥は肩を落とす。所詮彼にとってはなんの関わりの無い事であり、自分のけじめを付ける為の戦いなどに巻き込まれたくは無いだろう。色好い返答は得られないと覚悟していたが、彼の行動は鳴鳥を驚かせた。
「ふ、フラヴィオさん!?」
不意に後ろから抱きしめられ、鳴鳥は振り返ろうとした。けれども彼の力は強く、身を捩る事は困難である。フラヴィオは自嘲しながら鳴鳥の耳元で話す。
「お前は強いな」
「え…?そんな事無いですっ!現に私は戦力には―――」
「力じゃない、心だ」
「心ですか…?それもどうでしょうか。泣いてばかりですし…」
「自分を殺そうとした者を赦して、助けようとしている」
「…ただの希望ですが」
「それでも、前を向いている」
フラヴィオは左手を鳴鳥の腰に回したまま、拘束を解き、顔を自分の方へと向かせてその輪郭を右手でなぞる。互いの額がそっと触れ、フラヴィオは鳴鳥の瞳を至近距離で見つめる。当然、異性とこんなに至近距離で見つめ合うのが初めてな鳴鳥は頬を赤く染め、視線を泳がせる。彼は鋭い目つきをしているが、顔立ちは整っている。掴みどころのない性格の彼に対して特別な感情を抱いてはいない、寧ろ裏路地では恐ろしいとも思っていた鳴鳥であったが、端正な顔立ちの者に見つめられれば頬を赤く染めて慌てふためくのも当然である。
「あのクソ野郎に目にものを見せる為にお前を犯してやろうかと思ったが、考えが変わった」
「え…?そ、それはどのように…」
「お前の身体だけでなく、心も欲しい」
「え…?えぇ…!?」
突然の告白に鳴鳥は開いた口が塞がらない。目をパチクリとさせていると微笑んだフラヴィオが額にキスをする。咄嗟に身を離そうと胸板を押して逃れようとするが、抱きしめられてはいない状態であったにもかかわらず、今度は左手で後ろ頭を掴まれて逃げ場を失う。額の次は閉じられた目蓋、その次は鼻の天辺、そして柔らかな頬。至る所にキスをするフラヴィオに鳴鳥は目眩を感じた。
「なななななんでですか!?わ、私なんか魅力皆無ですし!」
「あのクソ野郎は見る目無いようだな。こんなイイ女を放っておくとは」
「そんな…っ!私はそんな良い女じゃ…。ひぁっ…っ!」
フラヴィオは鳴鳥の右耳を舐め上げ、耳たぶを口に含んで甘噛みする。これまで味わった事の無い感覚に身体には甘い痺れが、口からは艶めかしい声が出る。その声が自分の口から出たものとは信じられず、鳴鳥は咄嗟に口を両手で塞ぐ。その様子にフラヴィオはニヤついていた。
「もしかして、こういう事、慣れて無いのか?」
「…あ、当たり前です!」
「んじゃまぁお兄さんと気持ちイイ事しようか」
「今の話の流れでどうしてそうなるんですか!」
「身体を差し出すんじゃなかったのか?」
「そ、それは…そうですけど」
「お前が俺の事を好きだと言うまでは、唇にはキスしないからさ」
「その他の事は…?」
「勿論ヤる」
そう言って怪しげな笑みを浮かべたフラヴィオは、操縦席のリクライニングを倒した場所へ鳴鳥を押し倒した。馬乗りにされた所でなんとか抵抗を試みるが、彼の力が強いのと、協力しなくていいのかと言う脅し文句に力が抜ける。強引なやり口ではあったが、彼は丁寧に鳴鳥の衣服を脱がしていく。上着を脱がし、タイトなワンピースに手を掛けようとする彼に鳴鳥はどうすればよいのか慌てふためき目を回す。
「(どうしようどうしようどうしよう…!私が我慢すれば良いんだけど、やっぱり怖い…っ!)」
ただ単に快楽の為だけに身体を貪ろうとしているのではなく、フラヴィオからは優しさを感じる。唇以外に沢山落されるキスから愛しく思ってくれているのが伝わる。それでも彼の想いより、これから行われる事に身体は竦み上がる。ギュッと目を瞑って脳裏に浮かんだのは彼とは違う別の男性であった。
「(ジルベルトさん…!)」
「後方ヨリARKHEDガニ機、此方ニ向カッテイマス」
「ん?あぁ、ラウナの迎えか…。っともう一機は―――」
「―――無事かっ!?ナトリ!!」
「ジルベルトさん…っ!!」
通信画面に映されたのは切羽詰まった様子のジルベルトであった。彼の声と顔に鳴鳥は嬉しそうに声を上げるが、その表情にフラヴィオが顔をしかめる。そして彼は再び鳴鳥を抱えて操縦席に着くとハンドグリップを握る。
「―――おい、そいつは俺の連れだ。返して貰えないか?」
「テメェの女じゃねェんだろ?だったら俺様がどうしようとも勝手だろ」
「それは……そうだが…」
「そもそもコイツが言いだしたんだぜ?俺の女になるから協力してくれとな」
「…ナトリ、お前って奴は―――」
「ち、違います!そこまでは言っていません!!」
「んー?さっき身体を差し出すって言ったよな」
「そ、それは―――やっ!何処触って―――ぅあっ!!」
「お、おい…っ!」
驚き目を見開いているジルベルトの前でフラヴィオはニヤつきながら鳴鳥の身体を弄る。ハンドグリップを左手だけで持ち、空いている右手は衣服の上から鳴鳥の腰を撫でつけ、徐々に手は上へ。その手を退かそうと鳴鳥は抵抗するが、耳をまたもや舌で責められて力が抜ける。耳に与えられる甘い痺れと優しく撫でつける手、快楽を与えられている様子をジルベルトに見られているという状況で、鳴鳥は頬を紅潮させ、目を細めて涙を浮かべた。
「やだ…こんなの…見ないで…っ!!」
「嫌がっているじゃねぇか!いい加減にしろ、クソガキが!」
交渉相手に銃を向けるなど、本来ならばあってはならない事である。だが、ジルベルトはフラヴィオの暴挙に我慢が出来なかった。
これまでは戦闘機形態のフラヴィオ機を同様の形態で追いかけるのみであったが、ジルベルトは攻撃を開始した。まずは機体スレスレに威嚇射撃をするが、フラヴィオ機は更にスピードを増していて射撃射程に届かなくなる程に距離を離す。攻撃をする分速さに力を回す事が出来ないのか、はたまたフラヴィオの方が元々速かったのか、ジルベルトはどんどん距離を離していく。
「お姫サマを返して欲しければ捕まえてみな?」
「減らず口を叩けるのも今のうちだ!」
フラヴィオに煽られたジルベルトはまんまと乗せられた形となるが、彼には冷静さを保てなかった。
二機のARKHEDが空を駆けり戦闘を繰り広げるが、先行くその二機の後方を飛ぶARKHEDの搭乗者は溜息を吐いていた。紫のボディに黒いラインが入った機体はフラヴィオのマネージングを務めるラウナの機体である。彼女は先行くニ機を追いかけつつ、呟いた。
「…そろそろ時間ね。いい加減止めないと」
ラウナはハンドグリップを握る手に力を込めて彼らの元に追いつこうとする。




