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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase one : geotaxis
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第20話 Gloomy conference room

 聖王星テレンティアでの任務を終え、鳴鳥達を乗せた戦艦ニーヴァレインは惑星アストリアの起動エレベーターにあるドックに入港する。

 任務中、鳴鳥は地球と共に亡くしたと思っていた人物、想い人であった久城と再会を果たした。だが、彼は以前の優しい彼ではなく、明らかな殺意を鳴鳥に向けてきた。一時は自分は久城に死を以って償うべきだと言っていた鳴鳥であったが、ジルベルトに過去の罪を告白し、そしてこれからどうするべきなのかを彼に諭され決意を新たにする。




     第20話 Gloomy conference room




「皆さん、ご苦労様です。無事なようで何よりです」

「みんなお疲れ~!」


 ドックで出迎えたのは星団連合議会の議長、ミリアムと彼女の身辺警護の兵士数名、星団連合本部直轄ARKHED(アルケード)研究機関、通称SARの所長であるカルラ、そして鳴鳥が見知らぬ大柄で初老の男性であった。カルラにぎゅうっと抱きしめられふかふかの胸に埋められつつ鳴鳥はその初対面の初老の男性を見ると彼の元にアリーチェが駆け寄る。大きな身体できらびやかな衣装に身を包みライオンの様な頭をした彼は笑顔でアリーチェを抱え上げた。


「ただいま戻りましたわ!お父様!」

「よく無事に帰ってきた!我が娘よ!」

「バルニエールの名を語るからにはこの程度の任務、余裕ですわ!」


 危機的状況があったにも拘らず、アリーチェは事もなげに言う。その様子に満足なのか、初老の男性はガハハと大声で笑った。その後誰に宣言しているのか、我が娘は宇宙一の器量だとか何とか、愛娘の自慢をしていた。その光景が初見なのは鳴鳥一人だけのようで、皆は各々に挨拶を交わしていたり、身体を休めようと宿舎に向かおうとする。


「あら?ナトリちゃんはあの親馬鹿と初対面?」

「あ、はい。カルラさんはご存じで?」

「ええ、ARKHED(アルケード)の研究と兵器開発は縁があるからね。もう分かっていると思うけどあの人はアリーチェの父親でバルニエール商会会長のバジーリオ・バルニエールよ」


 不思議そうな視線に気づいたカルラは鳴鳥を解放し、説明をする。堂々とした態度と身に付けている物からそれなりの地位の者だとは分かったが、アリーチェの父親という部分はにわかに信じられなかった。仲は良さそうであるが、二人の容姿は似ても似つかない。母親がアリーチェ似なのだろうかと考えを巡らせていると、アランが説明をした。


「アリーチェさんはバジーリオ会長とは血の繋がりはないそうですよ」

「え?と言う事は奥さんの連れ子ですか?」

「いえ、バジーリオ会長の奥さんは何十年も前に亡くなられています」

「そう、ですか…」

「アリーチェさんがARKHED(アルケード)に乗ったまま漂流していた所をバジーリオ会長が救助したことが切っ掛けらしいです」

「…漂流」

「記憶を失っていたんです、彼女は」


 天真爛漫、その言葉が良く似合ういつも元気なアリーチェが、そのような過去を抱えていた事を初めて知った鳴鳥は驚き声を失う。アランは事もなげにアリーチェの過去を明かしたが、当人はどう思っているのだろうかと気になる。鳴鳥は人を見た目で判断しないよう気を付けてきたつもりだが、まだまだ甘い事を反省した。どんな人でも何かしら抱えている、それを肝に銘じておく。けれどもそんな心配は必要なかったようで、アランは笑いながら言った。


「ほら、彼女なら心配ないようですよ」

「あ」


 アランの目線の先にはこそこそとこの場を後にしようとするジルベルトが居た。その姿に目を付けたのは彼だけでなく、バルニエール親子も目を光らせた。


「おお、ジル坊。話は聞いたぞ、一人でARKHED(アルケード)を六機も相手にしたそうじゃないか」


 任務の報告書と戦闘データなど収集した情報は前もって転送されている。その内容に協力者の権限で彼も目を通したのだろう。バジーリオは面倒事から逃げようとしたジルベルトを捕まえわしわしと頭を撫でつける。鳴鳥にとってはジルベルトは凄い大人な感じがしていたが、バジーリオ相手では彼は子どもの様な扱いであった。無遠慮に撫でつけられ、ジルベルトは心底うんざりとした表情を浮かべるが、バジーリオは気づいていないようだ。ガハハと笑い、まるで我が子の手柄のように褒め称えた。


「やはりワシが見込んだだけの事はある。お前にならワシの愛娘を任せられるわい」

「あらお父様、アタシが駆けつけなければジルは危険な目にあっていたのよ。ね?ジル」

「まぁ…確かにそうだが」

「うふふ!なら報酬も上乗せね」

「アリーチェ。いっそのこと祝言を挙げるというのはどうだ?」

「やだ、お父様ったら!こんな皆の前でそんな大胆な!」

「…」


 当人を置いてきぼりで話を進めるバルニエール親子にジルベルト以外の人達も苦笑いを浮かべる。

 血のつながりは無いが、バジーリオとアリーチェは紛れもなく親子であるようだ。

 任務を終え、その結果が大手を振っての帰還ではなかったが、彼らバルニエール親子のお陰で場は和やかなムードに変わった。だが、後から艦より降りてきた難しい顔をする男、グェンダル大将は彼らのやり取りを見て大きな溜息を吐く。


「相も変わらず騒がしい奴らだ」

「おお、グェンダル。久しぶりだな!そちらのお嬢さんは娘っ子のソフィーリヤちゃんか。久しぶりに顔を合わすがべっぴんさんになったのう」

「お久しぶりです、バジーリオ会長。ご健在であられるようで何よりです」

「相も変わらずよく出来たお嬢さんですな。いやーこの男の娘だとは信じ難い」


 バジーリオはソルニエール親子とも親交があるようだ。しかし、満面の笑みを浮かべるバジーリオと対照的にグェンダルは忌々しげに顔をしかめた。娘を褒めつつも自分を小馬鹿にするのだからよく思わないのは当然であるだろう。バジーリオはそんなグェンダルの苛立ちを無視しながら話を続けた。


「言っておくがジル坊はワシの娘の許婚だ。いくら良く出来たソフィーリヤ嬢ちゃんと言えども譲れはせんぞ」

「フン。そのような男なんぞ、こちらから願い下げだ」

「おお、そうだったのう。お宅のお嬢さんとは上手くいかんかったのを忘れておったわい!」


 ガハハと勝ち誇ったかのように笑うバジーリオにグェンダルは頭を抱える。隣に居るアリーチェも同時に私の方が上よと腰に手を当てふんぞり返っていたが、ソフィーリヤは困ったように笑っていた。バジーリオにがしっと肩を抱かれたジルベルトは一刻も早くこの場から逃げ出したいと視線を彷徨わせるが、誰ひとり彼を助け出そうとする者は現れなかった。

 その後も二人は下らない事で言い争いを続けていたが、見るに見かねたのか、ミリアムが二人の元へと近づいて手をパンパンと叩いた。


「その辺にしておきませんか、お二人とも」

「ミリアムか」「ミリアム議長、私は別に…」

「皆、気を張る任務に戦闘もこなしており疲弊しています。今日の所はゆっくりと休んで頂きましょう」


 議長という立場ゆえにか、ミリアムには頭が上がらないようで、二人の諍いは彼女の一声で収められた。

 ミリアムの言葉通り、彼女とカルラは己が職務の待つ場所へ、任務に携わった各々は身体を休める為の場所へと向かう。戦艦ニーヴァレインの面々、ソフィーリヤとグェンダルは久々に実家へ帰省し、クヴァルは連合の宿舎へと戻る。アリーチェはバジーリオと共にエーデル・シュタインへの航行。アルヴァルディの面々も宿舎に戻ろうとした。そこで、一人だけ足を止めて立ち止まる者が居る。それは行く先の無い鳴鳥であった。どうするべきかと表情を曇らせて戸惑う彼女に対して、ミリアムが声を掛ける。


「ナトリさん、今後の貴女の身柄ですが、テレンティアとの全面戦争になるまでは星団連合預かりとなります。それまではそうですね…こちらで宿舎を用意しましょうか」

「それなら私のとこに帰なよ~。毎日可愛がってあげるわ!」


 ミリアムの提案を遮るようにカルラが二人の間に入ってくる。けれども彼女の申し出はあっさりとミリアムに却下される。


「ダメです。貴女、ナトリさんが居るとなると仕事に身が入らなくなるでしょう?」

「そんな事はないわ!寧ろモチベーションが上がるってものよ」

「この間の会食の際、早めに切り上げたという言葉を耳にしましたが?」

「…ぐぬぬ。アイツら…!」


 たった一度くらいなんともないでしょうがとカルラは駄々を捏ねるがミリアムは首を縦に振らない。それよりも彼女は鳴鳥がどうしたいのか察しているようだった。

 二人のいざこざを前に鳴鳥はチラリとジルベルト達、アルヴァルディの面々の姿を見る。すると立ち止まっていたジルベルトと視線が合った。彼は鳴鳥の気持ちを汲んでか、やれやれと肩を落としつつ、ミリアムの元へと近づき申し出る。


「差支えが無ければ我々の船で預かる事は出来ませんか?」

「ジルベルトさん…!」


 ジルベルトの言葉に鳴鳥はパァっと顔色を明るくし、その様子にミリアムも笑顔で頷いた。


「それでは、追って沙汰を下します」

「えぇ!?なによそれー!?あっ、ちょっと!」


 あっさりと承諾し、ミリアムは星団連合本部へと戻る。そのついでにゴネていたカルラを警護の者に運ばせていた。ずるずると引きずられながら遠ざかる彼女はひらひらと手を振り鳴鳥に対して「暇な時ご飯に行きましょ~!」と叫んでいたが、ミリアムに「仕事が終わらぬうちには駄目ですよ」と釘を刺され項垂れていた。鳴鳥はカルラに手を振った後、ジルベルトに向き直り、頭を下げる。


「あの…また、ご迷惑掛けてしまいましたね」

「お前が使っていた部屋はそのままだから構わない。それに、開戦までに少しでも鍛えないとな」

「トレーニング、協力して下さるんですか?」

「乗り掛った船だ、致し方ない」

「…ありがとうございます!」

「おう」


 短く答えたジルベルトはドックに停泊してあるアルヴァルディに向けて歩く。その背中を追いかけるように鳴鳥は後に続いた。彼女の様子にスティングは口角を少しだけ上げて笑みを浮かべ、コンラードは鳴鳥の事を歓迎し、マリアンとアランはジルベルトが鳴鳥に優しくする様を見てニヤニヤと笑っていた。後者二人の馬鹿にしたような視線に気づいたジルベルトは二人の首を絞めに掛る。その様子に鳴鳥は自然と笑みを溢していた。


「(私…ここに居ても良いんだよね)」


 鳴鳥が心の中で訊ねると、アルヴァルディの面々が自分の方を向いて笑顔で頷いてくれた。






 星団連合議会議長ミリアム・ウーヌ・アストリアには休息が限られていた。現状は聖王星アストリアの聖王エドアルド・エルカーン12世が、自星民にのみ宣言した事だが、開戦の意志を窺わせる発言をした。それによって連合としては早急に対応策を練らなくてはならない。ミリアムは任務を終えた者達への激励を済ませた後、移動の車の中で昼食を取りながら、午後からの緊急連合会議の資料に目を通す。


「(相手は星ひとつ、ですが…)」


 ジルベルトが交戦した六機、それらが全てARKHED(アルケード)という事が懸念要因であった。ARKHED(アルケード)の機動力ならば、数機で掛かれば大型戦艦ニーヴァレインを沈める事は造作も無い事だろう。こちらのARKHED(アルケード)保有機の中で前線で戦う事が出来るのはジルベルト、ソフィーリヤ、クヴァルの三機のみであり、鳴鳥はまだ実戦に出せるかどうか分からない。アリーチェの機体はエーデル・シュタインの籍であるが、ジルベルトの名を出せばこちら側に付くであろう。連合所属の機体は後二機あるが、片方は訳あって所有者が戦える状態ではない。もう一機は自機、ミリアムの所有機であるが、立場上前線で戦う訳にはいかない。


「(望みは薄いですが、彼と彼女にも応援を要請しましょうか)」


 もう二機、連合所属の星が保有する機体があるが、所有者が少々癖のある人物で、軍に属する事を嫌い、基本的に戦闘には参加していない。けれども彼らが戦列に加われば戦える状態ではないとある契約者と自分が前線で動かなくて済む。上に立つ者が保身に走り他者を利用する。それはそのとある契約者が一番嫌ったやり方であるが、彼を守る為には致し方ない。幸いの所、その人物は外部と遮断された場所に居るので情報は操作できる。


「(また、貴方の力を借りる事になるでしょうね、ジルベルト・ジャンディーニ。そして今回は、ナトリ・ナナツカにも働いて貰わねばならぬようです)」


 『心』は痛むが、背に腹は代えられない。大切なものを守る為には犠牲なくしては成せない事もある。


「(私もヒトと同じように成れたという事でしょうか…?)」


 無機質で洗練された近未来的な町並みは自分の非常な考えを写したかのようで眺める事が辛く感じる。窓の外の風景から目を逸らすように資料が表示されたタブレットへと視線を落とすが、この先起こるであろうことを考えたくはない。ミリアムは仮眠をとる振りをして瞳を閉じた。

 ミリアムを乗せた車は程なくして連合本部に到着する。そして会議室にそのまま直行する。

議会は大体想定通りに進行。前回の議会と同様に穏健派は残っていたが、アランが記録した聖王の宣戦布告とも取れるミサでの言動と、ジルベルト機の交戦記録の映像を流すと穏健派の者達がざわめく。強硬派の者達も一機に対して六機で襲いかかる容赦無い攻撃に恐れおののき、より一層危機感を露わにし声を上げる。

 会場は進行が困難になる程パニックに陥っている。あらかじめ資料は配布しておいた筈だが、半信半疑であった者も多いのだろう。恐怖は伝染するかのように議会の空気を淀ませる。六機のARKHED(アルケード)が相手となると自分の星の防衛力を不安視してしまうのか、次はどの星が狙われるのかと憶測まで飛び交う。

 どうにかこの場を収める為、ミリアムは木槌を叩いて発言を慎むよう呼び掛ける。


「静粛に。我々がここで取り乱してはかの星の思惑通りとなるでしょう。今は手を取り合い堅牢なる砦を築くべく協力すべきです」


 理想的で綺麗な言葉を並べて結束を呼び掛けるが、不満を口にする者が現れる。


「アストリアは良いでしょうなぁ、連合軍本部もあり、ARKHED(アルケード)が手元に在るというだけで心配はいらないでしょう」

「それを言うなら私兵を囲うヴィルト・ルイーネの方が良い状況ですな。任務でARKHED(アルケード)が離れる事もありませんし」

「いやいや、我々の星の所有機ではありますが、彼らはこちらの言う通りには動きませんし、ただの名ばかりですよ」


 再び会場はざわめきだして収拾がつかなくなる。ARKHED(アルケード)を保有しない星から文句が出るのは仕方ない事である。その不満を解消する狙いで、ソフィーリヤ機とクヴァル機は常にアストリア外の任務に赴くように配備し、ジルベルト機はアルヴァルディで星団連合の星々を巡っている。連合所属のとある人物の所有機は動かせぬ状態で在るが、ミリアム機は迂闊に起動できない代わりに抑止力としての機能は果たしていた。それでも一機も保有していない星からすると不安はぬぐい去れないのだろう。他人事だと思われていた辺境の星の消滅。それは今や自分達に迫る身近な恐怖として疑心が募る。

 しかしこのままここで不安を口にしていても話は進まない。危機は身近に迫っているのだと焦る者は声を荒げる。


「議長の言う通りです…!このままここで言い争いや腹の探り合いをしていても埒が明きません。ここは一刻も早くかの星を無力化する事が先決ではないでしょうか?」

「そうだ!無抵抗な星を一方的に滅ぼす星など生かす価値は無い」

「滅んだ辺境の星の生き残りが新たなARKHED(アルケード)操縦者だそうではないか。その者に御旗を立てさせれば我々の大義名分となる」


 ミリアム議長は徹底抗戦するとは一言も口にしていないが、話は戦う方へと転んでいく。口々に戦うように声を上げるが、その様子をミリアムは心の中で冷めた目で見ていた。彼女は気を取り直し、議題を先に進める。


「テレンティアは六機のARKHED(アルケード)を保有しています。それに対して我々は前線で戦う事が出来る機体はたったの三機、エーデル・シュタインのバルニエール商会の力を借りて一機、ヴィルト・ルイーネのニ機を合わせれば全部で六機となります」

「いや、しかし我々の所のARKHED(アルケード)操縦者は先ほど申し上げた通り、とても戦列に加えられる状況では―――」

「説得はこちらで行います」

「我々としては連合に名を連ねている以上、協力は惜しまないつもりですが、あの者達を説得など出来るのでしょうか?」

「任せて下さい」


 揺ぎ無い自信を見せるミリアムの言動にヴィルト・ルイーネの代表者は頭を垂れてお任せしますとARKHED(アルケード)操縦者の処遇の全権を譲渡した。


「それでは各星は防衛の強化を、テレンティアとの距離が近しい星には連合軍から防衛部隊を派遣いたします。それから、テロも起こらないとは限りません、交通機関、並びに主要施設、公共機関など人の集まる所での警備を強化し、充分注意して下さい」


 何かあれば些細なことでも報告を上げるようにと付け加え、議会は閉幕した。


「(ヒトは戦う事を望んでいる…?)」


 薄暗い議会室。広いその室内にただ一人佇むミリアムは先程のこの場に集った者達の顔を思い出す。脅威に恐れおののく顔、不安要素は早急に取り除けと焦る顔、戦の気配を感じて高揚する顔。全てが全て前向きに戦いを望んでいる訳ではない。


「(戦わざるを得ない状況、だから。そう、決してヒトは殺戮など望んでいない)」


 未だにヒトを守るべきなのか測りかねてはいる。議会に集まる者達は醜悪なものに見えるが、希望へのきざはしを見いだせる者達も居る。彼らに頼り切りな現状は決して良いものとはいえない。けれども多くの者を守るには致し方ない。そう、言い聞かせながらミリアムは次の手を打つべく部屋を後にした。






 遠くに光り輝く星々、近くには青い星や土色の星、氷の欠片で形成された輪を持つ星、様々な天体が漂う宙域を一機の白いARKHED(アルケード)が凄まじい速さで駆ける。その一機を追うように追いかける三機。黒い三機は散開しては左右からの挟み撃ちを行う。銃弾の嵐を避けつつ、反撃の機会を窺う。何度か銃を構えてみるが、狙いを定めている内に背後に回り込まれて邪魔をされる。


ARKHED(アルケード)に弾数制限はない、一発ずつ狙いを定めて撃つんじゃ無く味方が傍に居なけりゃ連射すればいい」

「りょ、了解!」


 白いARKHED(アルケード)のコックピットに座りハンドグリップを握るのは、ひと月ほど前までは普通の女子高生であった奈々塚鳴鳥である。彼女は制服ではなくピッタリとした浅葱色を基調としたスーツ、連合軍規定のパイロットスーツに身を包んでいる。眼前のモニターに映されたのはぼさぼさっとしたグレーの髪を束ね、無精髭を生やした男、ジルベルトである。彼は戦闘中の鳴鳥に指示を出す。そして彼女はその指示に従って行動を移す。

 狙いを定めずに放った弾は敵機の内一機に命中し、撃たれた機体は爆発四散した。指示通りに敵を撃破した筈だが、ジルベルトが鳴鳥をよくやったと褒める事は無い。逆に彼は怒鳴り声を上げる。


「一機撃破した所で油断するな!常に気を張れ」

「は、はいっ!…あぁ?!」


 忠告は一足遅く、背後からの銃撃を受けた鳴鳥の機体は大きく揺れ、眼前が真っ暗になった。そしてけたたましく鳴るブザーと赤く光る状況終了を伝える文字が浮かび、戦闘は終了した。

 開かれたコックピット型の機械から出てきた鳴鳥は肩を落としながら溜息を吐いた。落ち込む彼女に近づくのは眉間に皺を寄せているジルベルトであった。

 任務を終えた次の日、鳴鳥とジルベルトは現在、星団連合本部直轄ARKHED(アルケード)研究機関、通称SARに併設されているARKHED(アルケード)の戦闘シミュレーターが置かれている訓練場に来ていた。

 任務中、衝撃的な出来事に見舞われ、再起不能に陥るかと思われた鳴鳥だが、彼女は前を向いて進もうとしている。上からの指示が無い間は自由に過ごしてよいのだが、休息を取ることなく少しでも強くなれるように訓練をしている。普段のジルベルトならば一銭の得にもならない事をする筈がないのだが、鳴鳥が強くなりたいと相談した所、協力を申し出た訳だが…。


「お前、撃墜した時に目を瞑っていただろう」

「え、あ、あはは…。その、すみません…」


 ARKHED(アルケード)での戦闘経験が殆ど無い鳴鳥はやはり素人同然であるので苦労に絶えない。それでも持ち前の運動神経の良さと前向きな思考、軍人であり、ARKHED(アルケード)の操作に長けたジルベルトが指導するおかげか、徐々に乗りこなしつつあった。だが、すべてが順調に進むわけではなく、敵の攻撃を避けていくのは上達が早かったが、撃破するのにはどうしても上手くいかない。


「シミュレートだからか?危機的状況に置かれないと引き金が引けないか。テレンティアから脱出する際には躊躇いなどしなかっただろう」

「あ、あの時は無我夢中でしたので…」

「任務に付く前の射撃テストではそこそこの成績を出している。…怖くなったのか?」

「…」


 訓練場の隣、テーブルとイスが備え付けてある休憩所で身体を休めながら鳴鳥とジルベルトは先程のシミュレートの反省点を話し合っていた。彼の言う通り、鳴鳥は攻撃に迷いが生じていた。彼女はその原因は何故かという事が自分の中では分かっているが、口には出せなかった。言ってしまえばこれから成そうとすべき事が出来なくなる上に、協力してくれるジルベルトを非難しかねない。鳴鳥はボトルに入ったミネラルウォーターを飲んだのち、俯いて口をつぐんでいた。その様子に苛立ちを隠せないのか、ジルベルトはテーブルを人差指でトントンと叩きながら仏頂面で問いただす。


「お前がやる気無いのなら俺は降りるし、一緒の戦場に立つのは御免だと思う」

「…すみません。でも、私は…!!」

「何だ?言ってみろ」


 射抜くような、心の奥底を覗くような視線に耐えきれず、目線を再び下ろす。だがこのままではいけないと意を決し、膝の上に置かれた拳を握りしめながらポツリポツリと胸の内を明かしていく。


「テレンティアで、久城センパイと対峙して、相手のコックピットに人が乗っているんだと認識して。それで…」

「フェルスボウデンでは盗掘者相手に撃っていたじゃないか」

「あれは偶々なんです!ほら、ARKHED(アルケード)の思念作動で…」

「ああ、そうか」


 つまりは人を殺すという行為、他者の命を奪う事に恐怖しているのだ。そしてそのように感じるという事は、平然とやってのけるジルベルトに対し否定的であるとも取れる。不快にさせたかと思いきや、ジルベルトは特に気にしていないようで、どうすればその悩みが解消できるのか考えていた。


「あの…。折角付き合って貰っているのにこんな考えで迷ってしまってすみません」

「いや、少し前までお前は普通の暮らしをしていたんだ。民間人が人の命に手を掛ける行為を恐れたり嫌悪するのは至って普通だ」

「そう…ですか」

「寧ろクランドの方が異常だ。アイツには迷いが見えなかった。まぁ星ひとつ滅ぼしているのだからもう恐れる事など何もない、か」


 久城に対して辛辣な言葉を述べていたジルベルトは、鳴鳥の表情に陰りが見えた事に気が付き口を閉じる。いつもの彼ならば事実を述べて何が悪いなどと悪態をつきそうであるが、今の鳴鳥相手には棘のある言葉は言えない。首の後ろを掻きつつ申し訳なさそうに軽く頭を下げ、言い過ぎた事を素直に謝った。けれども鳴鳥は首を横に振る。


「良いんです。本当の事ですから…」

「…そうか」

「久城センパイは本気でした。だから私も…本気を出さないと」


 全ての相手を無効化しながら戦うなんていうのは無理な話である。ジルベルトなら可能かもしれないが、彼はそのような甘い考えを持たない。手加減をすればその兵士は再び新たな機体に乗って戦うだろう。すぐに止めを刺さないと味方が危機に晒される可能性もある。ならば躊躇いもせずに倒すのが一番であるだろう。

 理屈は分かるが、鳴鳥にはまだ覚悟が足りなかった。言葉ではなんとでも言えるが身体は追いつかない。そんな彼女の心情を知ってか、ジルベルトは気に病む事は無いと言う。


「もしもの時は俺が奴を倒す」

「…でも!私が…」

「そうならない為にも訓練を続けないとな」

「は、はい…!そうですね」

「まずはさっきのパターンのやり直しだな。それから近接攻撃の対応も覚えないといけない。やる事はまだまだあるぞ」

「お手数掛けるようですが…」

「…付き合うぞ。お前には借りを返して貰うまで生きていてくれないと困るからな」

「よろしくお願いします…!」


 これまで悩んでいた事を吹き飛ばすように、よしっと声を出し、頬を両手でペチペチと叩いて気合いを入れ直す。その様子にジルベルトはフッと笑みを溢した。




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