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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase one : geotaxis
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第18話 Golden wheat field

 どうしてこうなってしまったのだろうか。地球は滅ぼされ、鳴鳥は帰る場所を失った。何故地球は滅ぼされなくてはならなかったのか?その疑問を解消するまでは家族や友人、好きな人を失った事を受け入れられずにいた。

 聖王星テレンティア、そこには地球を滅ぼしたARKHED(アルケード)の操縦者が居る。彼は、鳴鳥の良く知る人物に似ていた。そう、他人の空似であって欲しかった。しかし現実は残酷で、彼は鳴鳥の幼馴染であり、想いを寄せる者であり、後ろめたい気持ちを持つ相手である久城蔵人であった。自分以外にも生き残りが居た、しかも彼は想い人である。

 本来ならば運命的な再会を果たして喜びを分かち合う所であるが、彼が地球を滅ぼしたという事実を前にそのような甘い幻想は打ち砕かれる。彼との再会はその絶望的な現実を突きつけられるだけでなく、過去の過ちを思い起こさせた。躊躇なく放った弾丸。それは彼が鳴鳥を殺そうという意志の現れである。

 由利亜の一周忌前日に再会した時は穏やかな様子で、鳴鳥の危機も救ってくれた。しかし彼はその時点でどす黒い感情の片鱗を覗かせていた。それは不良達を制圧した時と、彼らの処遇について話をした時だ。

 彼は失望していた。地球の全てに。そして彼の怨みの対象に鳴鳥も含まれていて、彼をそこまで追い詰めた一因は彼女にあった。




        第18話 Golden wheat field




 涙で歪み、ぼんやりとした視界の先、前の席でジルベルトはARKHED(アルケード)を操作し、戦う。相手は鳴鳥の良く知る人物、久城…クランドが搭乗しているARKHED(アルケード)である。光の剣と剣がぶつかり合う接近戦、鍔迫り合いでパチパチと光が弾かれていて綺麗な火花を上げているようだが、これは殺し合いである。クランド機が防御に徹している所を見ると、ジルベルトの方が優勢であると分かる。現役軍人であるジルベルトが相手なのだから当然の状況と言えるが、クランドが劣勢なのは彼が絶えず語りかけているせいかもしれない。彼は鳴鳥を責めるような、追い詰めるような言葉を口にする。


「どうして君が生き残ったのかなぁ。真っ先に死ななきゃならないのは君じゃないか。なのに惨めったらしく生にしがみ付いてさ、由利亜に申し訳ないと思わないの?まぁ正義の味方ぶっている君のオツムじゃそんな賢明な心掛けは出来ないか。ああ、だから由利亜の事を見捨てたんだよね」

「わ…、わたし…は…」

「そうか…!これはきっと神の導きだ。聖王の言葉じゃないけれど、神は言っているんだよ。僕が君を直々に断罪せよ、とね。ああ、どんな死刑が良いかな?君には由利亜の味わった苦しみを感じて貰わないと。そうだな、まずは下卑た男共の忌み者になると良いよ。その後は―――」


 ブツンと通信が途絶え、クランドの声は聞こえなくなった。胸糞悪く感じたジルベルトが通信を遮断したようだ。コックピット内ではARKHED(アルケード)の動作音と剣と剣がぶつかる音と鳴鳥のすすり泣く声が聞こえていた。


「奴はイカれている。そんな奴の言葉を鵜呑みにするな。もしかするとARKHED(アルケード)と契約した枷の影響かもしれん」

「…ちが…ちがい…ます…っ。彼の…言う…事は……間違いない…です」

「いや、違わない。奴は星ひとつ、それも母星を滅ぼした。そんな奴が正気である筈がない。…身勝手な理由で周りに当たり散らしているガキと同列だ」

「ジル…ベルトさん…。私を…降ろして…下さい」

「寝言は寝てから言え」

「でも……私は…罪を……償わなきゃ…っ」


 ジルベルト機のひと際力強い一振り、クランド機はよろけて体勢を崩す。その間に距離を取り、ミサイルを数十発容赦なく撃ち込む。誘導弾は吸い寄せられるようにクランド機に着弾する。立ち込める煙の中に見える影にジルベルト機は勢いを付けた光剣を突き立てる。防御フィールドを張り、ミサイルに耐えたクランド機は続けざまに繰り出された剣撃を受け止める事が出来ず、機体を黄金色の麦畑に叩きつけた。


「奴とお前との間に何があったのか俺は知らない。だがお前は俺に言ったよな、死に急ぐなと」

「それは…」

「奴への償いは死ぬより他は無いのか?」

「私は…」

「…寧ろ、何十億もの無関係な人間を殺している奴になんざに従う必要はない」

「ジルベルト…さん?」

「お前の面倒を見るのもイラつくが、奴はそれ以上だ。大量殺戮の罪状があるのだから俺が裁いても問題はないだろう」


 目の前に居る敵、クランドに過去の自分を重ねて嫌悪し、自己犠牲に走る鳴鳥の煮え切らない態度に苛立ちを覚え、彼女をここまで追い詰めたクランドに怒りを露わにするジルベルトは再び光剣を構える。

 汎用機であるARKS(アークス)ならば、欠損した場所から黒煙と火花を上げ、停止して当然の攻撃をジルベルトは与えたが、ARKHED(アルケード)はそう簡単に倒せない。搭乗者の意志が尽きるまで機体は稼働する。クランドの意識はまだ途絶えていないようで、機体は体勢を整えつつあった。


「…貴様ッ!!クソっ!!!」

「ガキが、大人しく投降するのはそっちだろうが」


 ジルベルト機はクランド機が起き上る前にその機体の頭部を掴み、体躯を再び地面に叩きつける。馬乗りになりながらコックピットに光剣を宛がう。そして通信回線を繋ぎ、悪態を吐くクランドに乱暴な物言いで降伏を促した。

 この状況は覆せない、そうジルベルトは思っていたが、クランドはニヤっと笑う。何故余裕で居られるのか問いただそうとした所、背後からの殺気に気づき飛び退いた。ザンっと突き刺さる一投の槍。それはジルベルト機の頭部を狙ったものであり、クランド機の頭部スレスレの地面に突き刺さっていた。


「あぁ~惜しい!」「ちゃんと狙いなさいよね」


 クスクスと笑う少女二人の声。ジルベルト機がクランド機から離れて振り返る先、そこには四機のARKHED(アルケード)が空中に待機していた。一番手前には緑色に黒いラインが入った機体。その構えから、恐らくこの機体が槍を放ったのだろうと推測される。後ろには金色と銀色の機体、それぞれ黒いラインが入っているものと、他の機体の二倍の大きさの黒いフォルムに金色と銀色のラインが入った機体がジルベルト機の様子を窺っていた。

 形勢逆転、否、それ以上に状況が悪くなる。クランド機に止めを刺していないのでこの場は一機対五機。クランド相手では余裕で立ちまわれたが、他の四機の戦闘力は計り知れない。仮にクランドと同等だとしても数が上まればこちらは不利である。

 ジルベルトはチラリと後ろに居る鳴鳥の様子を確認する。彼女もARKHED(アルケード)の所有者だが、とても戦える状況ではなく、この精神状態で無くとも彼女は戦力にならない。一瞬でも鳴鳥を頭数に入れようとしたジルベルトは相当追い詰められているのだろう。


「(どうしたものか)」


 アラン達から連絡はない。貨物船ロスメルタ号に連絡を入れてもロクな兵装をしていない船ではただの的だ。寧ろこのまま自分たち以外は逃がしてしまった方が良いだろう。選択肢は一つしかない。


「フン!敵前逃亡かい?」

「やだ、だっさい!」「ウケる~」


 凛とした女性の嘲笑う声と少女二人の小馬鹿にする物言い。なんと言われようと構わない。ここは鳴鳥が生き残るような選択肢を選ぶ。無論、敵がおめおめと逃す筈も無く、五機はジルベルト機を追いかける。逃走経路は貨物船が停泊しているドックとは逆方向、首都を目指す。戦闘機モードに変形しているジルベルト機は放たれる弾を避けつつ市街地上空を駆ける。建造物スレスレに飛行すると弾数は減り、上空からの攻撃も無い。ドッグファイトに民衆は驚くが、聖王の忠臣である騎士たちにエールを送っていた。


「いや、弱いもの苛めなのに何だこれは」


「もう!うろちょろして鬱陶しい!」「いい加減止まんなさ―い!」

「クキャキャ!ならば我らの力を見せて進ぜようではないかァ!」

「了解、行くよデクセプ」「OK、行こうデクセス」


 しわがれた声の男が指示を出すと金色と銀色の機体が左右に別れて飛ぶ。三方からの挟み打ちを画策しているようだが、ジルベルト機に追いつくのがやっとである。


「アイツ、ムカつく!」「早過ぎ~!」「早すぎる男は嫌われちゃうよん」「やーい早漏!」


「(クソっいつか叩きのめしてやる…!)」


 安っぽい挑発に苛立ちは募るがここでムキになってはならない。悔しさを胸に仕舞いこみ、逃げる事に集中した。幸いに過去の経験からジルベルトは戦闘機で障害物を避けつつ逃げるのに長けている。追いつく様子はないし被弾する事も無い。しかし油断は禁物だ。どのような兵装を隠し持っているか分からない。


「ヤレヤレ、致し方ない」

「…っ!」


外れた弾が前方で爆発、それは辺りに煙を巻き散らかす。煙幕弾のようだ。視界は煙に覆われている為低空飛行が難しい。建物にぶつからないよう少しだけ高度を上げる。敵影は視認できないが、モニターには捉えられていた。このまま進めば煙幕を抜け出せる、そう考えていたが開けた先には一機のARKHED(アルケード)が待ち構えていた。


「なっ…!レーダーには確かに五機を捉えていた。この機体は新手か…!?」


 スピードを緩めることなく、上空に逃げる。しかしそこには緑色の機体が待ち構えていた。槍を掲げ突き立てるように降下するその機体を間一髪で避けた所で、今度は下に居るクランド機からの集中砲火を浴びる。弾丸の嵐を避け、次に襲いかかるのは金色と銀色に機体の左右同時攻撃。逃げ場は上空しかない。更にもう一機、黒いフォルムに銀のラインが入った機体が待ち構えていた。徐々に狭められる包囲網。六機に囲まれつつあるジルベルト機は追撃されるのも時間の問題であった。唯一勝算があるとすれば精神力、敵のARKHED(アルケード)を稼働する力が尽きれば逃げ切れるが、追い詰められた状況下ではジルベルトが不利である。


「(こんな所で…死なせる訳にはいかない)」


 ジルベルト一人だけならばこの身体は不死身であるからここまで必死になる必要はない。今は守らなければならない者が居る。アラン達と一緒にタクシーに乗せるべきであったかと考えるが、クランドの狙いは鳴鳥であるから乗せなかった判断は正しかっただろう。ならば班分けかとも思い直すが、荷の受け渡し程度では彼女はこの星の現状を知る事は出来なかった。だが、彼女をミサに連れて行ったのは間違いであった。敵の正体を知らなければこうなる事はなかった。何処で間違えたのか、どうするべきだったのか、後悔が渦巻く。それは操縦を鈍らせた。


「終わりだ…!」

「…っ!」


 いつの間にか前方にはクランド機が光剣を構えて待ち構えていた。寸での所で避けるが、右翼はもがれる。バランスを失い傾く機体。破損個所は時間を有すれば回復するが、それには多大の精神力を消耗する。機体損傷のダメージは脳に響く鈍い痛みを与えた。地面が近くなるが、無関係で無抵抗な民を巻き込む訳にはいかないので、どうにか市街地を離れる。敵も同様の考えらしく、獲物を落すなら人が居ない所をと言う風に止めを刺さず追尾する。


「すまない、ナトリ。俺の傍を離れるなだなんて言っておきながら、傍に居ても何も出来なかった」

「ジル…ベルト…さん」

「いや、まだ諦めるには早いか。どうにかお前の命だけは助かるよう交渉しよう」

「良いんです…私は…」

「おい、俺がどんだけお前を生かそうとしているのか分かっているのか?」

「…すみ…ません」


 八方ふさがりの状況に自暴自棄になったジルベルトは笑いながら言った。彼が鳴鳥を守ろうと必死だったのは先程からの戦闘で理解できる。だが鳴鳥にはもう生きていく気力がない。想いを寄せていた者が死を望んでおり、そう願う権利を彼は有している。ならば抵抗することなくこの身を捧げれば良い。どうせもう帰る場所も無い、家族も友達も居ない。失うものは何一つ無い。そう鳴鳥は全てを諦めていた。


「(私…最後まで…ジルベルトさんに…迷惑かけていた…な)」


 心残りと言えば前の席で最後の悪あがきをする彼、ジルベルトの事だ。思い返せば地球からフェルスボウデンに飛ばされ、最初に助けてくれたのは彼だった。仕方がないと言いつつも母星に帰れるよう手を貸してくれていた。その帰る場所を失った事を認められなくて飛び出した時は追いかけてくれた。その後も気を遣い声を掛けてくれた。全てが善意ではなく、軍人の職務で致し方ない部分もあるだろうが、迷惑を掛けてもこうして最後まで守ろうとしてくれている。もう彼には恩は返せないが、気持ちは伝えられる。


「ジルベルトさん…」

「…なんだ?」

「今まで、ありがとう…ございました…」

「いや、結局守れなかったんだ。礼を言われる筋合いはない」

「いいんです。…ジルベルトさんは…今まで、私の我儘に…付き合ってくれた。それだけで…うれしかった…」

「ナトリ…」

「…巻き込んで…ごめんなさい」


 そう言いながら目を細めて鳴鳥は笑みを浮かべた。

 未だバランスを失い傾いた機体は麦畑をスレスレに飛行する。敵機六機は銃を構えて一斉射撃をして止めを刺そうとした。


「―――そうはさせないんだからっ!!」


 突如振って湧いた叫び声。遠隔誘導小型機が敵を散らすようビームを撃つ。遅れて現れたのは派手なピンク色に黒いラインの入ったARKHED(アルケード)だった。

 危機を救われたジルベルトは普段ならその声を聞いた途端、うんざりする所であったが、今日ばかりは彼女が女神のように思えてくる。


「アンタ達!アタシのジルに何してくれちゃっているのよ!!!」


 ブチ切れたアリーチェを止められる者はいない。六機の小型機を自在に操り猛攻を繰り広げる。六本のレーザービーム砲に主機からのミサイル攻撃。圧倒的な弾幕に敵機はジルベルト機から距離を取らざるを得なかった。


「貨物船はどうにか脱したわよ。ジルの機体が急に飛び出したから少し手こずったけど、トカゲのお陰でなんとかなったわ。犬と眼鏡君はオカマがARKS(アークス)で回収して貨物船に到着している。後はジル達だけなんだけど…」


 ジルベルトのARKHED(アルケード)はとてもこの星を脱する事は出来そうにない。アリーチェ機が支えても良いが、それだと追手を撒けない。アリーチェの攻撃にも慣れつつある敵機は小型機を一機撃ち落とす。再び危機にまみえるのは時間の問題であるだろう。アリーチェは攻撃の手を休めずジルベルトに問いただす。


「ちょっと、そこにあの子が居るんでしょ?」

「ナトリの事か?」

「ええ、そうよ。二機ならばジルの機体を連れてこの星を脱出できるわ。だから早くARKHED(アルケード)を呼び出させて!」

「と、言われてもな」


 ジルベルトは振り返り鳴鳥の顔色を窺う。死を、クランドに殺される事を受け入れている彼女は、生きようとする意志が感じられない光の宿らぬ瞳であった。柄にもない事はあまりしたくないが、彼女を死なせる事に比べればどんな事でもできそうな気がする。ジルベルトは席を回転させ、向かい合うようにすると躊躇いがちに手を伸ばす。そして自分より小さく華奢な身体を、今すぐ壊れてしまいそうな心を抱きしめる。


「…ジル…ベルト…さん?」

「…」


 鳴鳥の身体はすっぽりと彼の胸元に埋まる。突然抱きしめられて彼女は驚くが、身じろぐ気力も無いようだ。それどころか温かく包んでくれるその身体にこのままずっと身を預けていたいとさえ思っていた。呼吸をすると微かに煙草の香りがする。父が吸っていた煙草の臭いは苦手であったが、何故だかジルベルトの匂いは嫌いになれなかった。顔を少しだけずらして彼の顔を確かめようとするが、首元に伏せられている為、その表情は窺い知れない。

 一方ジルベルトは考えなしで抱きしめてしまった事を少し後悔した。拒否られたらどうしようかと迂闊な行動を取った事を恥じていたが、鳴鳥は腕の中で大人しくしている。その身体は小さく、細っこいが女性特有の柔らかさがある。抱き心地は悪くない。そして鼻孔をくすぐるのは甘い香りだ。妙な気持になりかけるが、彼女が微かに震えているのに気づきハッとする。何だかんだと言って死に対する恐怖があるせいだろう。それを落ち着かせる為、優しく背中をさすると少しだけ震えは収まった。


「さっき俺に謝ったよな」

「…はい」

「まだお前にやって貰わなければならない事がある。俺達は無事にアストリアに戻って報告しなければならない」

「私を…置いて行って…下さい」

「いや、そうはいかない。お前の力が必要なんだ」

「私が降伏すれば…その間に―――」

「駄目だ」


 抱きしめる力を強め、ジルベルトは鳴鳥の言葉を遮る。逞しい胸板に顔を埋め、息苦しくも感じるが、彼の想いは伝わる。どうして自分にここまでしてくれるのか?優しくされる権利など無いと思い、そう鳴鳥は問いかけると彼は苦笑いを浮かべて言う。


「ここに俺のARKHED(アルケード)を残して行きたくないってのもあるが、お前には貸しがある。きっちり返すまで手放せないな」

「ジルベルトさん…」


 言い方は優しくないが、自分を必要としてくれている。例えその言葉が偽りだったとしても、何もかも失っていた鳴鳥にとってその言葉は自分の存在意義を確かめさせてくれるものであった。

 らしくない事をして気恥ずかしさで顔を合わせづらいが、ジルベルトは鳴鳥の背中に回していた手を離して両肩に手を置き視線を合わせる。


「力を貸してくれないか?」

「まだ、私に…出来る事、あるんですか…?」

「ああ、お前にしかできない事だ。頼む、ARKHED(アルケード)を呼んでくれ」


 真剣な眼差しに鳴鳥は小さく頷いた。まだ迷いはあるが、今は出来る事を、ジルベルトの力になりたいと思い、腰にあるポーチから通信機を取りだした。ARKHED(アルケード)を呼び出す事が出来る通信機、それを握りしめて願う。


「(久城センパイ…ごめんなさい…。私はまだ…!)」


 アリーチェ機から遠隔操作されている小型機がまた一つ破壊される。ジルベルトもARKHED(アルケード)を二足歩行形態に変え、地上から銃を構えて敵を散らす。クランド機に切断された部分はまだ修復されておらず、片足が失われたままだ。


「いい加減大人しくやられなよ」「そうよそうよ、やられちゃいなよ~」

「クキャキャ!良いじゃないかァ…!翼をもがれた羽虫をいたぶるのは楽しいねェ」

「まあそれも時間の問題のようね」

「鳴鳥、君の止めは僕が刺してあげるよ―――…っ!?」


 クランド達の攻撃は止まなかった。しかし彼らの元に、上空から弾丸が降り注ぐ。散開する彼らの機体の横を真っ白な機体が通り過ぎた。そしてその機体はジルベルトの機体のすぐ傍で停まる。

 自機のハッチを開いたジルベルトは鳴鳥を抱きかかえ、白いARKHED(アルケード)に乗り込む。そして彼女を前の操縦席に、自分は後ろの補助席に着く。戦闘に長けており、経験も重ねているジルベルトが操縦すべきなのだが、ARKHED(アルケード)は所有者しか操作できない。


「いけるか?」

「…はい!」


 敵は六機、その内の一機、クランドとは戦いたくない。自分はやるべき事を成し得る事が出来るのだろうかと恐怖を感じ、ハンドグリップを握る手が震えるが、後ろから身を乗り出したジルベルトが大きな手を重ねた。


「大丈夫だ、お前なら出来る。今まで何とかなってきたんだ。今回も何とかなるさ」

「ジルベルトさん…ありがとうございます…」

「礼はこの場を切り抜けてから言ってくれ」

「そうですね…!アリーチェさんっ、お待たせしました…!」

「ったく、手間をかけないで頂戴」

「は、はい…。すみません…」

「ほら、ぼさっとしてないで行くわよ!

「はい!」


 近づいて来た敵機に向かい銃を撃つ鳴鳥機。アリーチェと二人でジルベルト機から敵機を離すと二機で停止した機体を抱えた。そして宙を目指して飛び立つ。しかしすんなりとこの場を脱する事は出来ず、敵機が行く手を阻む。


「退きなさい!三下がっ…!!」


 アリーチェは小型機を遠隔操作し、自分達の周囲を回転させながらビームを放つ。ジルベルト機を支える片手は塞がれているが、空いている右手で前方の敵を撃つ。鳴鳥も空いている方の手で銃を構え下方より追い上げて来る敵を迎え撃つ。


「男のくせに女に手借りちゃって恥ずかしくないワケ?」「そーよそーよ、だっさ~い」

「デクセス!デクセプ!奴らを逃がすんじゃねェ!!」

「もうそんなこと言っても無理よ!」「あのピンクの攻撃ウザ過ぎ~!」


鳴鳥達は雲を突き抜け成層圏へ、テレンティアから脱し、宇宙に辿り着くのはあと少しであった。ここまで来れば安心である、と言う訳にはいかない。これまで六機で一機を相手にしていたせいか敵の各機の消耗は少なくエネルギー切れを起こす気配はない。相手がARKHED(アルケード)六機であるのだから余裕なのは当然の結果であるだろう。どうにか技量で逃げ切れるかと思いきや、このままではいつまで経っても逃走劇は終わらない。


「…フン、無様だな、ジルベルト・ジャンディーニ」


 敵機の内の一機、緑色のARKHED(アルケード)が鳴鳥機達と距離を取るよう緊急回避をした。その機体が居たライン上に太いレーザービームが放たれる。すかさず金色と銀色の機体が数多のミサイルを放ったがそれらはすべて防御フィールドに阻まれた。

 ようやく辿り着いた先、そこには二機のARKHED(アルケード)、黄土色に黒色のラインが入った機体と黒色に黄土色のラインが入った機体が待ち構えていた。黄土色の機体はロングレンジライフルを構え、黒色の機体は大きな盾を構え、防御フィールドを展開している。そして更に後方には白銀の戦艦が控えていた。

 彼らの登場にジルベルトは切迫していた表情を崩して安堵する。モニターに表示された人物は鳴鳥も知る二人の人物であった。


「ソフィとクヴァルか。助かった」

「馴れ馴れしくソフィの名を呼ぶな!それから私の事はデクトリ大尉と呼べ!」

「無事なようで何よりだわ」

「むむ!デカ乳眼鏡女にその金魚のフンね。アンタ達何でこんな所に?」

「その呼び方、いい加減やめてくれないかしら…」

「バルニエールの小娘。我々はアラン・スミシー特務隊員からの要請で援護に来た。もともとミリアム議長の計らいでこの宙域付近で待機はしていたがな」

「まぁなんにせよ助かったわ」

「それよりソフィに対するその物言いは何だ!私を侮辱するには一向に構わんがソフィに侮蔑の態度を取るならば貴様も敵だと認識するぞ」

「…ハイハイすみませんでした~(相変わらず盲目的な慕いっぷりね)」


 敵機は六機、鳴鳥達側はまともに動けないジルベルト機を除き、クヴァル機とソフィ機を含めて四機。数ではまだ敵の方が勝っているが、アリーチェ達は冗談を交えつつ会話を交わす。それは鳴鳥達の後方に待機している戦艦ニーヴァレインのお陰であるだろう。かの艦の攻撃力はARKHED(アルケード)より高い。小回りが利かない為、接近されれば沈められてしまうかもしれないが、砲台を王都に向けられていては手の出しようがない。クランド達は追うのを諦めその場で留まる。


「逃げるのか…!鳴鳥っ!!」

「…久城…センパイ…」


 クランドの呼び掛けに鳴鳥は戦艦へ向かっていたが立ち止まる。ここまで来たが、やはり想いは振り切れず燻ぶっている。過去は変わらない、罪は消せない。クランドは鳴鳥を赦しはしないだろう。鳴鳥も赦しを請うつもりはない。裁きを受けるべきだと思うが、死ぬ事への恐怖はあった。


「ナトリ。奴は殺戮者だ。そんな奴の言う事など気にするな」

「ジルベルト…さん……私…!」

「外部音声を遮断しろ」

「…はい」


 敵の声を聞かぬように、鳴鳥は外部の音声を切った。そして振り返らずに戦艦に向けて機体を走らせる。クランドは追う事無く、鳴鳥機の後姿を睨みつける。


「君は必ず、僕が殺してあげるから…」


 怨嗟の込められたクランドの声は届く事はなかったが、鳴鳥は彼の事で苛まれ続ける事となった。




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