偶然?それとも……
「それにしても……ルイは、いろんな力を持っているのね」
「そうかもしれません。俺の力のことは、後で話します。まず先に、現況を確認しましょう」
「そうね」
セシリアは、それ以上、突っ込むことはなかった。
「今の状況ですが――さっき迷宮の中でセシリア様が予想した通り、」
「ちょっと待って、ルイ」
「はい?」
テーブルを挟んで座るセシリアが、ぐいと体を乗り出してきた。
しばらくの間、じーっと俺の目を見つめている。
(な、なんなんだ?)
見つめられる理由が分からない俺の額に汗が浮かび始めた。
「ねえ、いつまで、私をそんなよそよそしい呼び方で呼ぶの?」
「え?」
「ルイの方が、勇者の私よりも力を持っていることはもう分かっているわ。もしかすると、ルイは長命な種族で、本当は私よりも年上なんじゃないかって思っている」
す、するどい。
「だから、もっと普通に話して。お願いだから」
長年、この世界で暮らしてきた俺は、どちらかというと身を潜めて生きてきた。そのため、こういう下手に出る話し方の方が相手を見極めやすいこともあり楽なのだが、どうやらセシリアは、それが気に入らなかったようだ。
まあ、それもそうか。
たぶん、セシリアは俺のことを気にかけてくれている。俺も、仲良くしたいと思っている相手からこうした話し方をされば、一歩引かれているように感じるだろう。
「……わかった。じゃあ、セシリア。これでいいかな?」
「うーん、もっと砕けてもらっていいんだけれど……まあ、今はそれでいいわ」
うん、と頷き、少し満足げな表情になるセシリア。
俺は自分の心が、少しドキドキしたのが分かった。我ながら……青い。
「あとで貴方のこと、もっと教えてくれるんでしょう」
「うん……そのつもり」
とはいえ、さてどこまで話して良いのかは、今のうちにじっくり考えておこう。
俺はそっと、思考を分割できる【並列思考(★★★★★)】のスキルを発動して、どうすれば良いかを【かんぱ】を交えて考察しておくことにした。
よし、これでいい。
こっちは、まず、現在の状況とこれからの行動を決めなきゃ。
「話を戻すけれど…………この状況は、間違いなくこの迷宮の外にスタンピード中の魔物たちが現れて、討伐されずに消滅したんだと思う」
「それが、この瘴気ということね?」
「そう。最初に現れたバトルシープが、スタンピード何日目でここに現れたのかは分からないけれど、薄っすらと、今、確認できるアンデッドたちの状況からすると、スタンピードが終了してまだ24時間は経過していないと思うんだ」
「そうなのね?」
「うん。アンデッドの数もまだ多くないし、ランクも低いからね。それに、おそらくこの広場が終焉を迎えた場所なんだけれど、まだ亡骸が残っているから24時間以内であることは確かだと思う」
「ふーん。この大陸にある7カ所の禁則の地は、私も一通り巡ったけれど、その中心地は誰も見たことがないはずなんだけれど?」
「ほ、ほら、俺にはこの【かいてき】のスキルがあるから」
少しジト目になるセシリアに、少し言い訳気味に答えると、彼女はクスッと笑った。
「ふふふ。冗談よ。じゃあ、ここはこの大陸の8番目の禁則の地になった、ということね」
禁則の地とは、スタンピードが討伐されずに終焉を迎えた地のことだが、瘴気が消滅するまでは誰も足を踏み入れることができない。
そして、瘴気が消滅したあと、その地は完全な更地になる。
再び、植物が生えて魔物たちが根付くまで、見渡す限り地面しか見えない。それが砂漠の地か、岩山なのかは、その場所によるが、生き物の気配が満ちるにはかなりの時間を要することになる。
「そう。これから何世代もの間、この地は沈黙することになるかな」
もちろん、俺のスキルを使えば、この場所を覆う瘴気を払うことはできるけれど、世界全体を見れば瘴気にも意味があることを【かんぱ】に聞いて知っていたから、それはしない。
「沈黙、ね」
セシリアは周囲を見渡した。
すでに陽が落ちたこともあり、瘴気の淀みが星の光を拒絶しているせいで、【灯り】のスキルで照らされた範囲以外は、漆黒の闇に覆われている。
「この場所で、私たちが――いえ勇者の私ができることは何かあるのかしら?」
「どうだろう。この禁則の地は、時間が問題を解決してくれるのを待つしかないと思う。でも、これから発生する、アンラビフォン迷宮のスタンピードがこの場所で重なると、どんな状況が生まれるのか分からないから、その討伐はしておきたいと思っているけれど」
そう、複数のスタンピードが同じ地で同時に発生した事例を俺は知らない。【かんぱ】に尋ねても、比較的、近い場所で複数のスタンピードが発生したことはあっても、そのスタンピードが重なったことはないと聞いている。
「ルイだったら、アルファクラスのスタンピードを討伐できるのね?」
「うん。最近だったら、ペイノール迷宮で起きたスタンピードも討伐したし、この大陸以外でも、何度か経験があるから大丈夫かな」
俺がこれまで経験したスタンピードは、今回を除くと他の大陸で経験したものを含めて全部で14回。一番、直近で経験したのが、ペイノール迷宮のアルファクラスのスタンピードだ。
「え? ペイノールのスタンピードって……あの52年前の? え? 他の大陸?」
「……うん?」
不思議そうなセシリアの表情を見た俺は、首を傾げた。
(何か、あったっけ?)
「まあ、他の大陸の話はあとで教えてもらうことにして、そう……ペイノールのスタンピードが6日目で魔物たちが消滅して瘴気を残さなかった謎は、ルイが討伐していたから、ということだったのね!」
(謎? そういえば……)
あの時、俺はいろいろあったけれど、ペイノールで発生したアルファクラスのスタンピードを、王都ノールカピタルを襲う直前で討伐したんだっけ。
召喚された異世人たちの手に負えずにいたから、仕方なく、非常時の手段で、【しゅうのう】に収めていた数万しかない【かそく】のスキルで加速したミスリル球も使ったことを思い出した。
一応、誰かが討伐したという話を広めたつもりだったのだけれど、どうやらそれが上手く広まりきらなかったようだ。
「まあいいわ。確認なんだけれど、今回はどこかで起きた2つのスタンピードの魔物たちが、たまたま転移ポイントのようなものを使って、この場所に同時に現れたってことね?」
「うん、そうだと思う」
「それって――――偶然なのかしら?」
そう、それが俺も気になっていた。




