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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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【閑話】王都に雪は降るか?(前編)


 side フローレス侯爵



 朝早く、王から招集の呼び出しを受けていたフローレス侯爵は、足音がだけが響く洗練された廊下を一人で歩いていた。


 ――何があったのか?


 先日の会議で、突然現れた5頭のバトルシープをセシリアが討伐した話を聞き、驚いたことが思い出される。

 今、娘は従者を連れて迷宮内の調査に入ったはずだ。


 フローレス侯爵にとってセシリアは、難しい立ち位置にある娘だった。


 嫡子ではないが、生まれた当初は、それなりの愛情をもって接していた。


 だが……


 セシリアの母が早くに病気で亡くなると、本妻の実家である公爵家からの申し出が増えることになった。

 廃嫡とまではいかなくても、フローレス家から遠ざけるようにしろという、そのほのめかしがなければ、もう少し違った親娘の関係が築けていたのかもしれない。


 だが、フローレス侯爵は公爵家の意向に逆らうことができなかった。


 実質上の育児を、フローレス家に長く仕えてくれているアルバートに任せきりにしてしまった。


 一年、二年、三年と過ぎる中で顔を合わせることが年に一度もなくなり、さらにセシリアが「勇者」であることが分かると、これまで疎遠していた理由が自分の側にあることを認識していたフローレス侯爵は、より一層、娘との距離を取るようになっていた。


 今は、もう親子の愛情は少なくともフローレス侯爵の中にはなかったといってよい。

 セシリアに対しては、フローレス家に「勇者」の肩書を使ってどのように役立ってくれるのか、それだけを期待していた。


 会議室の扉の前には、二人の衛兵が立っていた。

 フローレス侯爵が近づくと、敬礼してドアを開く。


「フローレス侯爵が入室します!」


「入れ」


 どうやらリッカル宰相は、先に来ていたようだ。


 中に入ると、シュドルワ王と宰相の二人しかいない。大テーブルの上座には王が座り、その右手に宰相が座っている。


「侯爵、座ってくれ」


「はっ」


 宰相に促され、王の左手、宰相の向かい側の席にフローレス侯爵は座った。

 王は黙ったまま目を閉じている。


「早速だが……問題が発生した」


「問題、ですか?」


 リッカル宰相の言葉に、フローレス侯爵は首を傾げた。

 王国内で王城に報告が必要な問題は、別に珍しくもなんともない。

 だが、少なくとも王や宰相が問題の解決に当たらなければならない場合、必要な人員が招集されるのが常だ。王や宰相が最前線に立つことなどないのだから。


 しかし、この場には自分しか呼ばれていない。

 少なくとも政治、軍事の両方の分野において、フローレス侯爵は国の第一人者という立場ではなかった。

 しいて言えば、勇者であるセシリアを身内に抱えているぐらいか。


 いったい、どんな問題起きたのか?


「アンラビフォン迷宮で――再び、魔獣が出現したそうだ」


「なんですと! どんな魔獣が迷宮から出現したのでしょうか?」


 リッカル宰相の顔色が悪い。前回はバトルシープ。SSランクの魔獣だった。今回は、それ以上のランクの魔獣が出現したのだろうか?迷宮から現れたとすると、セシリアはどうなったのか?


 ――――まさか……


 だが、フローレスの侯爵の嫌な考えは当たっていなかった。


「出現した魔獣は1頭。ファイヤーシープだ」


「ファイヤーシープ?」


 フローレス侯爵には聞き覚えがない魔獣。名前から言うと、「炎の羊」といった感じだろうか?


「魔獣のランクはSSS、ちなみに出現したのはアンラビフォン迷宮内ではない」


「ですが、さっきアンラビフォン迷宮で再び魔獣が出現したと?」


「そうだ。アンラビフォン迷宮前の広場だ。だが、ファイヤーシープは迷宮の中から現れたのではない。いきなり広場に出現したのだ」


「なんと! では、娘、いや勇者セシリアは? 庭師を従者に連れて迷宮に潜ったと聞いていますが?」


「その通りだ。迷宮に潜った勇者が、ファイヤーシープと戦闘に入ったという報告は受けていない。今も迷宮の中にいるはずだ」


「では、そのファイヤーシープは誰が討伐したのですか?」


 だが、宰相は首を湯子に振った。


「残念だが、ファイヤーシープには誰も手が出せていない。突然現れたファイヤーシープは、広場にいた冒険者たちを蹴散らして迷宮街アンラビに突入、そのまま二日間かけて隅々まで蹂躙したそうだ。その後、迷宮街の中に留まっているという情報が入っている。生存者は僅かで、今、アンラビフォン迷宮には誰も近づけない」


「では、今はスタシーが襲われそうになっているのですか?」


 アンラビフォン迷宮がある山を下りれば、もっとも近い都市はスタシーとなる。なぜ、そのファイシャーシープが迷宮街を襲って居座ったのかは分からないが、魔獣としての本能の中に人を狩るというものがあるならば――スタンピードで魔獣が都市を襲うのは、人の魔力や魂を狙うためでは、という研究報告書をフローレス侯爵は読んだことがあった――次に狙うのは大都市スタシーに違いないと思っていた。


「いや、現れた魔獣は、さっき話したように迷宮街アンラビ内に留まったままだ。だが、ファイヤーシープがいつアンラビから離れるかは分からない。それに――」


「それに?」


「今は、山頂付近にあるアンラビフォン迷宮、迷宮街アンラビには近づかないようにして、山の周囲から監視しているが、感知スキルを持つ者の話では、いくつもの魔物か魔獣の魔力が、山頂付近に次々と現れているそうだ。その数は、報告を受けた数時間前の時点で30を超えた。今も増え続けている」


 しばらくの間、フローレス侯爵は絶句して固まっていた。


 自然界の中には、魔物が出現する魔素だまりのポイントがあることは知られているが、魔物たちはそのポイントに溜まった魔素を消費することで生み出される。そして、一度消費された魔素だまりに、再び魔物を生み出すための魔素が溜まるまでにはかなりの時間が必要になる。

 特に、SSSランクの魔獣を生み出したとするならば、その時間は週や月単位ではない。


 やがて……


「……その増え続けている魔物とは、どのランクか分かっているのですか?」


 フローレス侯爵は、なんとか声を絞り出していた。


「残念ながら、近づくことができないので【鑑定】のスキルや魔道具が使えないから判明していない。ただ、感知できている魔力の大きさからは最低でもSランク以上ではないかと推測しているそうだ」


「アンラビフォン迷宮を中心に、いったい何が起きているのですか?」


「分からない。いや、迷宮の外では魔獣が出現していることは分かっているが、迷宮内の現況は全く分かっていない」


 宰相の言葉にフローレス侯爵は、言い知れぬ不安が浮かび上がるのを感じていた。



※後編に続きます

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