動いてから後悔したい
実は、俺は自分の判断に絶対の自信と言うのを持っていない。
なぜなら、さっきも考えた通り、行動したあとで失敗した経験があるから。
それも一回ではない。
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つい最近も……と言っても100年以上前になるが、ある都市の領主によって子を捉えられた銀龍がいた。
その銀龍とはとある縁があって数百年前に知り合っていたのだが、我が子を助けようとその都市に攻め入ろうとしていた銀龍を俺が抑え、同時に街から銀龍の子を救い出して返したことがある。
その領主は自分の娘の病気を治すために、銀龍の子の心臓を求めていた。
銀龍の子を助け出した後、俺はそのことを聞き、そっと領主の館に侵入、娘をスキルを使って治癒させた。
だが…………
力ある者がその力を示したとき、その力を手に入れようとする権力者や勢力を幾度も見てきた俺は、全てを秘密裏に行ってしまった。
領主の娘を救いたいという希望も、銀龍の我が子を救いたいという希望も、いずれも叶えられたと俺は思っていた。
しかし、それは俺の勘違いだったことがのちに分かる。
俺がその街を去ってから一年後。
領主は回復した娘の状況を喜んでいたのだが、神殿から再発の危険性があることを聞いたことで、再び、銀龍の子を狙い始めた。万一のために備えて。
だが、その領主に再発への対応を進言した神殿のトップは、自分の私欲のために銀龍の鱗を得ようとしていた。領主の力を使い、銀龍を討伐するために嘘を告げていたのだ。
そんなことを知らない領主は、騎士団を率いて銀龍が住む山に向かった。その戦いは三日三晩に及び、激戦を繰り返したのちに、家宝の魔道具を使うことで領主軍は銀龍を討伐することに成功した。そして、銀龍の子を捕獲して街へと連れ帰った。
しかし、討伐した銀龍は母親だった。
父の銀龍は遠方で暮らしていて、妻である銀龍が討伐されたことを知ったのは、銀龍の子から心臓が取り出された後のことだった。
『ウォオオオオオオオオオオオオンンンンン!!!!!』
その夜、山から悲しみに満ちた咆哮が一晩中、街に鳴り響いていたという。
銀龍の父は、当然だが街を襲撃した。
憎悪が怨念へと変わった銀龍の父は、街を壊滅。そのまま怒りを抑えきれずに、その国の蹂躙を始めた。
銀龍の父の各ステータスは500万を超えていた。
この世界で、上から数えた方がよい強者の攻撃を防げる者は誰もいない。その国は、ゆっくりと崩壊していった。
俺がそのことを知ったのは、銀龍の父がその国の王都を襲撃する直前だった。
目の前に現れた俺を見た銀龍の父は、泣いていた。
妻と子を無残にも奪われた悲しみと苦しみが、本来、情に厚いはずの温厚な銀龍を狂わせていたが、自分が手にかけてしまった無関係の人族に対する後悔も心の中で渦巻き、その向かう方向性を失った怨嗟は銀龍の正気を奪っていた。
もしも、娘が完全に治癒したことを、俺が領主に告げていてれば……
もしも、神殿のトップが私欲により銀龍の鱗を欲していたことに気がついていれば……
全ては「if」の中にしか求める答えはないが、結果的に俺は失敗した。正しく言えば、俺が力を揮える範囲内のことだったのに、気がつかずにいた。
知古の銀龍を、懊悩の中で俺はこの手にかけた。
銀龍が復讐を遂げる相手は、すでにこの世界に魂を残していない。
そして、銀龍が手にかけるべきでなかった人々の魂も同じく失われている。
神殿のトップも、領主も、その娘も、街で暮らす人々も、悪人も善人も(俺にとって、という意味だが)全ては哀愁の彼方へと去っていった。
もちろん、俺のひらがなスキルを使えば、銀龍を正気に戻すことはできた。
だが、俺に、過去を書き換える力はない。死んだ人々を蘇らせる力もない。
争いを嫌い、穏やかな日々を願った銀龍の明日を、俺は取り戻すことができなかった…………
■□■□
後悔は、この一度限りではない。
だが、それを覚えている限り、同じ轍は踏みたくなかった。
俺は、大きく息を吸って、そして吐き出した。
「ふぅ」
(よし)
責任は俺が負う。
「セシリア様――このまま地上に向かいましょう」
「分かったわ」
間髪入れずにセシリアが返事を返してきた。
「……いいんですか?」
さっきセシリアは、自分ならば、三つ目のここでしばらく待つという選択肢を選ぶ、と言っていたはずだけれど……
「そんな変な顔をしないで、ルイ」
だが、セシリアは笑っている。
「私は待って後悔するなら、動いて後悔したいの」
セシリアの笑顔がまぶしく見える。
「後悔は結果だわ。待って後悔する状況を変えるには動くしかない。そして、動いて後悔する状況を変えるには――――もっと動けばよいのよ」
「…………」
とにかく動いて解決しようと、まるで脳筋のようなことを言うセシリアを、俺は笑うことができなかった。
俺は、セシリアの魂に師匠の影を映し出していたのかもしれない。
「……分かりました。じゃあ、向かいましょう」
「ええ。大丈夫よ、ルイ」
「えっ?」
セシリアが、俺の手を取り握る。俺の様子を見て、何かを感じたのだろうか?
「今、あなたは一人じゃない。私がいるわ」
その言葉を聞いた俺は目を閉じた。
(師匠)
心の中で、師匠に呼びかける。
俺は、誰かと行動したことがあっても、いつも最終的に一人になっていた。
俺と一緒に、不老の時を選べた者は誰もいなから。
若返りするための【かいしゅん】のスキルを、誰かにかけたこともあるが、俺以外にはスキルが発動することがなかった。何度か発動しないことを経験してから俺は、自分以外に使うことをしなくなった。
スキルが発動しなかったときの、誰かの絶望する顔を見たくなかったから。
だが、セシリアならきっと、もしも【かいしゅん】のスキルが発動しなくても、本心から微笑んでくれるような気がした。
「……ルイ?」
数秒の間、目を閉じていた俺は、セシリアの呼びかけに目を開けた。
「ありがとうございます。セシリア様」
もう言葉はいらない。必要なのは行動することだけだ。
そして、俺はセシリアに向かってしっかりと頷き、【転移】のスキルを発動させた。
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「こ、これは!」
迷宮から地上へと踏み出した俺たちが見たのは――――黒く焼け焦げて全壊した、迷宮街アンラビの外壁だった。
そして――
「爺!!!!」
悲鳴を上げたセシリアが駆け出していった先に、俺も見知った人の骸が横たわっていた。




