追憶(6)ぷらすわん?
確か、レベルが1上がると、攻撃力や魔力とかのステータスが平均で10~20増えると言っていたはず。一つだけが1ならまだ分かる。でも、横並びで全てのステータスの項目が「1」というのは、どうしても違和感を感じる。
もしかして1,000増えたらどうしよう、と呑気に考えたさっきの自分をぶん殴りたい。
間違いない。今、召喚士ブリュノが納得いかないような表情を見せたのは、俺のステータスの数値を手元にある板で見たからだ。
少し焦る。
次のスライムが目の前に置かれた。
さっきは青いスライムだった。今度のスライムは、少し黄色味がかっている。
俺は心の中で「クローズ」と呟きステータスが書かれたボードを閉じると、再び剣を持ち上げ、そして落とした。
ブスッ
再び体がじゅわんと包まれる。
急いで『ステータスオープン』と心の中で呟く。
名前:ルイ
種別:人族(異世人)
年齢:7歳
性別:男
職業:■■■■
レベル:2
攻撃力:2
魔力 :2
防御力:2
精神力:2
運 :2
スキル:ぷらすわん
(これって、まさか……)
ある仮説が思い浮かんだ俺は、さっきよりも焦った。
(まずいんじゃないか、これは?)
そう、最初は1しか増えなくても、例えば次は倍の2が増えて、その次はその倍の4と増えていく、それならばレベル10まで行けば少年と同じく合計で1,000を超えることになる。
そういうパターンがないかとかすかに期待したが、どうやら裏切られたようだ。
今回も増えたのは1だけ。
ということは……
「次だ、次!」
少し眉間が寄って、口調が強くなったブリュノの言葉に、慌てて次のスライムが運ばれてきた。
今度は、薄い赤色。
色の違いが意味するところはなんとなく分かるが、今はそれを考えている場合じゃない。
俺は今度は急いで剣を持ち上げ、そして落とした。
ブスッ
核に突き刺さった剣は、俺の体に三度じゃわんとした感覚を呼び起こす。
「むむむ!?」
さっきよりも険しい表情になるブリュノ。
俺もステータスを確認する。
(ステータスオープン!)
名前:ルイ
種別:人族(異世人)
年齢:7歳
性別:男
職業:■■■■
レベル:3
攻撃力:3
魔力 :3
防御力:3
精神力:3
運 :3
スキル:ぷらすわん
(ああ、やっぱり……)
なんとなく、こうなるとは思っていた。
スキルに表示されている「ぷらすわん」。
それは、ステータスを「1」プラスするというスキルということだ。
職業は文字化けしているせいなのか読むことができないし、スキルもカタカナではなくひらがなで表示されている。どう考えても、これはちょっとおかしな感じがする。
俺は、ブリュノの顔を見た。
冷ややかな視線が俺を見つめていた。
「……次だ」
――――そして……
(……ステータスオープン)
四度のスライムが俺に与えてくれたのは――――やはり「1」だった。
名前:ルイ
種別:人族(異世人)
年齢:7歳
性別:男
職業:■■■■
レベル:4
攻撃力:4
魔力 :4
防御力:4
精神力:4
運 :4
スキル:ぷらすわん
「……終わりだ」
ブリュノの言葉が、俺の心に突き刺さる。
このパターンって、追放される、ってことだよね?
転移の魔法とかを使って、「死」と名前がつく森やダンジョンにポィッと放り出されるやつだ。
俺の頭の中に、知識の中にある地球で読んだのであろう異世界の小説で、よく見られるパターンが浮かんだ。
記憶はなくても知識はあるから、大人の体ならまだなんとかなるかもしれないが、こんな子どもの体で、危険な外に放り出されたらどうなるのか、考えたくもない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……何か、言いたいことがあるのか?」
「スキル…………そうスキルが生えました!」
そう、さっきレベル10で生えると言っていたスキルが、俺の場合にはレベル1ですでに生えていた。
「ほう? まだレベル4なのにスキルが生えたと? それは、どういうスキルだ?」
「ぷ……ぷらすわん、です!」
俺の言葉を聞いたブリュノは、一瞬、表情を強張らせると、次の瞬間笑い出した。
「プラスワン! プラスワン? ……なるほど。だからか。だから、レベルが1上がるとステータスが1プラスされた、ということだな?」
むぐっ
俺と同じ結論を出している。まずい……
ひとしきり笑ったブリュノが真顔に戻って尋ねる。
「――ちなみに、其方の職業はなんだ?」
「職業ですか……■が四つです」
「は!!? なんだそれは?」
「(おそらく、文字化けでしょう。稀に異世人に現れます。不詳の職業です。過去、文字化けの職業を持った者は、戦闘よりも生活に関するスキルを多く手に入れて、例外なく役立つことはありませんでした)」
後ろから白衣の誰かがブリュノに小声で告げる。
(おい、聞こえているぞ!)
だが、言葉にすることはできない。ブリュノ周囲にいる兵士の雰囲気が変わったからだ。槍を持つ手に力が入ったのが分かる。変な動きをしたら、その槍で刺し殺されるかもしれない。
俺が動けずにいると……
「なんか、まずいことがあったんですか? 子どもだし、数値の上がり方が小さくても仕方ないんじゃないですか?」
(ナイス、勇者!!)
さすが人を救うための職業、勇者だ。俺のヘルプをしてくれている。
「ああ、そうだな。いずれ、大きくなれば活躍してくれるかもしれないから、もう少し検査をしておこう。其方たちはご苦労だった。まずは、体を休めて欲しい」
召喚士ブリュノの言葉に、後ろにいた槍を持った兵士が数名、少年少女に近づくと「どうぞ、こちらへ」と彼らを誘導し始めた。
「ま――――」
待って、と言おうとした俺の前で、ブリュノが手にした杖をトンと地面につくと、さっきのレベルアップの時とは少し違う上から押さえつけ得られるような風を感じ、体が動かせなくなった。
声も出せない。
少年少女は、もう一度、俺を見て何かを言いたそうにしたが、そのまま部屋を出ていく。
ブリュノが俺を見て、ニヤリと笑った。
(くそっ!)
さっきの杖ドンで、何かされた! 魔法? たぶんそうだ。
ブリュノが俺の側に近づいてくる。表情は、にこやかだが、その目が笑っていない。
(えっ? 殺される!?)
恐怖が体を走る。
「心配しなくともよい。ここで殺したりはせぬからな。こういった場合の模範解答は、過去の異世人が示してくれたから、それに倣おう」
(いったい、どうしようってんだ!)
でも、声が出せない。ブリュノを睨む。
「睨むな。睨んでも状況は変わらぬぞ? 何、人気がない場所でゆっくり暮らしてもらうだけだ」
(それって……やっぱり追放じゃん!)
そして……俺は、頭から黒い袋のようなものを被せられ、誰かに担がれていた。
(扱いがひどい!!)
シンナーのような匂いは、たぶん袋に塗られていた薬品なのだろう。意識が薄れていく中、俺はなぜか、命の心配よりも、雑な扱いを憤慨していた。




