向かってきた冒険者たち
「セシリア様、この階層にいる冒険者たちの一部が、こっちに向かっています」
「冒険者たち? ポイズンドラゴンと、どっちが先になりそう?」
「それは、ポイズンドラゴンです。冒険者たちは何かのスキルを使っているようで移送速度は速いですが、ポイズンドラゴンとの会敵後になりそうです」
こちらに向かってきている冒険者の数は5名。一つのパーティだろう。たぶん、ポイズンドラゴンの気配を察知できるスキルを持つ者がいるのだと思う。
移動速度はかなり速いが、それでも到着するのはセシリアがポイズンドラゴンを倒した後になるはずだ。
「じゃあ、とりあえず冒険者たちのことは気にせず戦いましょう」
「分かりました」
砂煙が近づいてくるのを見ながら、俺は少し考えていた。
(それにしても、セシリアは俺のことを受け入れるのが早いよな?)
すでに、いくつかのスキルを使うところは見せたけれど、俺は自分の見た目が強そうじゃないことは自覚している。
それに、偽装していた俺のステータスを、勇者小隊の隊員が【鑑定】した結果も知っているはずなのに、その【鑑定】で現れていなかったスキルをポンポン使っている俺をなぜか受け入れてくれている。
もちろん、師匠の影をセシリアに重ねている俺にとって、それは嬉しいことだ。
ただ、勇者なのに他人を受け入れるのが早すぎるのは、少しどうかとも思う。
(まあ、いいか……)
この騒動が落ち着いたら話せる範囲を考えたうえで、セシリアに事情を伝えるつもりでいるから、今はスタンピードもどきで現れている魔獣たちを倒して、そしてセシリアのレベルをアップしてもらおう。
ドドドドドドドドド
僅かな振動が地響きに変わると、紫色の巨大な魔獣が砂煙の中から現れた。
「「「「「グォオオオオ!!!」」」」」
俺たちの姿を確認して威嚇の大声を上げるポイズンドラゴンたち。スピードは落とさずこちらに突っ込もうとしている。
30メートルの高さがあるSSSランクのドラゴンが10頭まとまって向かってくる姿は、普通の冒険者でも腰を抜かしそうだ。
だが、その威嚇の声も、【まもる】のスキルをかけたセシリアには届かないから大丈夫。
距離は300メートル。
数が多いから、さっきよりも少し手前で止めてしまおう。
「セシリア様、1.5ヤドの距離で止めます!」
「分かったわ!」
「【ていし】!」
ドカン!!!!!
見えない壁にぶつかったような巨大な音が重なり合う。
「いくわ! 【縮地】!」
そして、停まったポイズンドラゴンたちに、セシリアは【縮地】のスキルを使って、躊躇うことなく突っ込んでいった。
攻撃力が20倍となったセシリアが、★4の【縮地】のスキルを使って走る姿は、目で追うことは簡単じゃない。
ヒュン、ヒュンという耳慣れない空気の音と共に、その姿がポイズンドラゴンたちの前で一瞬だけ現れ、「ザン!」という乾いた剣戟の音が聞こえたかと思うと、セシリアの姿は、次のドラゴンの前へと移動していた。
全てのポイズンドラゴンを斬り終えたセシリアが戻ってきたのは、走り出してからちょうど10秒後。
ビュン、パチン
大きく剣を振り、血糊を飛ばしてから鞘に納める音が聞こえた時――――
ドン、ドン、ドン、ドン……
動けないポイズンドラゴンの首が、ズレるように地面に落ちた音が重なった。
そのままさっきと同じように、ポイズンドラゴンの亡骸は黒い粒となって、大気の中へと溶け込んでいく。
「おい!!!」
その時、後ろから男性の叫び声が聞こえた。
こちらに向かっていた冒険者であることを分かっている俺たちは、ゆっくりと振り向いた。
■□■□
「いったい何があった!」
「魔獣です。ポイズンドラゴンが現れました」
詰め寄って来た冒険者たちに、セシリアの前に立った俺が応える。
「「「「え!?」」」」
冒険者たちから一斉に声が上がった。
まあ、気持ちは分かる。
「ポイズンドラゴン、だって! 嘘だろう? ここはアンラビフォン迷宮だぞ?」
おそらくリーダーなのだろう、額に細いヘッドバンドを巻いた剣士風の男性が驚いた声を上げた。ちょっと興味を持ったので、ヘッドバンドを鑑定してみる。
■ヘッドバンド
ダークスネークの皮で作られたヘッドバンド。精神力を100上昇させる効果を持つ魔道具。
やはり、魔道具だった。
魔物や魔獣と戦う際には、精神力は意外と重要だ。異常状態のスキルを使われた際、かかるかどうかは、精神力のステータスを参照することになるからね。
もっとも、この前、バトルシープが放った【フォーススリープ】のように、精神力が5桁に到達している魔獣が放つスキルだと、防ぐのは大変だけれど。
そして剣士風の男の後ろには、三角帽子を被った魔導士風の女性、真っ白な神官服を着た女性、そして盾を持った大男と、弓を持った細身の男性が立っていた。
ほぼ攻守が揃った典型的な冒険者パーティだ。足りないとすれば、格闘を担当する拳士だろうか。
「でも、確かに私が感知したのは、かなり強いランクの魔物か魔獣の気配だったわ」
「だが、ポイズンドラゴンと言えば、確か最北の迷宮に出現するSSSランクの魔獣だったはず。そんなのがこの迷宮に現れたなんて、ちょっと信じられないぞ?」
「ちょ、ちょっと待って。あれを見て」
神官風の女性の次に、今度は魔導士風の女性が声を上げると、冒険者たちは魔導士風の女性が指差した方角を見た。
「あれって、魔石じゃない?」
100メートルほど離れた場所に、セシリアが倒したポイズンドラゴンが残した魔石が何個か転がっているのが見える。離れた場所からも見ることができる紫色のその魔石は、大きいことが一目で分かる。
「ということは、ポイズンドラゴンの魔石か。大きいな――――まさか!」
何かに気がついた剣士風の男が目を丸くした。
「あんたは誰だ?」
俺の後ろにいるセシリアを睨むように見る。
まあ、いくら俺が前にいても、庭師の恰好をした少年と、剣を手にした騎士の恰好をしたセシリアと、どちらが主役なのかは一目瞭然だ。
「私は、セシリア。勇者をしている。この迷宮の調査にやってきた。君たちは?」
「え? 勇者様?」
勇者の装いでセシリアが返事をすると、剣士風の男は一歩後退った。もちろん、もう睨んではいない。
慌てて、敬礼をするように片手を上げた。




