いろいろいろいろいろいろ……
「――ということは、バトルシープも、ポイズンドラゴンも、スタンピード中のどこか他の迷宮で生み出された魔獣たち、ということでいいのかしら」
「一つの可能性として、ですが」
「SSランク、SSSランクの魔獣たちが現れる迷宮のスタンピードということは――まさか、アルファクラスのスタンピードが起きている迷宮と繋がったということ?」
自分の考えに、驚いた表情を見せるセシリア。
「あくまで可能性です、セシリア様。アルファクラスではなくベータクラスかもしれません。もっと違う理由があるのかもしれません」
「まあ、いいわ。何も分からない不明な状況よりも、可能性で良いから一つの道標が示されたなら、まずはそれが否定されるまでは、その前提の対策を行う方が良いわね」
どうやら、セシリアは現実を見つめて対応するタイプのようだ。
「できれば、一度、迷宮の外に出て爺に話をしておきたいのだけれど、どうやらそれは無理なようね」
「すいません」
「え? ルイが謝ることじゃないわ。それに、強い魔獣がこれから溢れてくるかもしれないんでしょう?」
「たぶん」
「だったら、爺も状況を察して、一番ベストな対応をしてくれるから大丈夫」
自分に「大丈夫」を言い聞かせているセシリア。本当は心配なんだろう。
うん、いざとなれば、なんとかしよう。
迷宮の外に直接出られるスキルは持っていないが、一階層の入り口までは【転移】スキルで戻れるからね。
気がつくと、セシリアがじっと俺を見つめていた。
「ルイ?」
「はい?」
「ルイには、いろいろいろいろいろいろ尋ねたいことがいっぱいあるのだけれど――」
いろいろ、の部分を強調するセシリア。少し可愛い。
「それはひとまず置いておいて、これから10頭のポイズンドラゴンが来るのよね?」
「はい」
「私は、まだ【限界突破】がクールタイム中だから使えないけれど……」
セシリアは、それでいいのかしら、と言いたいのだろう。
ここまで来たら、一蓮托生、とまではいかないけれど隠すつもりはもうない。
「大丈夫です。セシリア様の経験値として得られる部分は持っていって欲しいので、最後の一太刀はお任せしたいと思いますが」
「え? ルイが倒せるなら、ルイが全部持っていくべきでしょう?」
「いいんです。僕は少し特異体質があって、仮にSSSランクのポイズンドラゴンを倒しても、得られる経験値はGランクの薄青色のスライムを倒した場合の経験値と変わりがありませんから」
本当のことは言っていないけれど、嘘も言っていない。それに、今のステータスを考えれば、今さら経験値は必要ないからね。
「ふーん……まあ、いいわ」
納得はできていないようだけれど、セシリアが頷いてくれた。
「最初が1頭、次が10頭。ということは、第三波があるのなら100頭も考えておいた方が良いかもしれません」
「ひ、100頭? SSSランクの魔獣が?」
さすがにセシリアの顔が青ざめる。
「いえ、あくまで可能性の話ですから。最初はバトルシープで5頭でした。そして今回は、ポイズンドラゴンが1頭出現後、すぐに10頭が現れました。もしも、さっき僕が話したように、他のスタンピード中の迷宮とつながっているなら、過酷さが増す方向に向かうのは避けられないと思うんです」
「そ、そうね」
「まずは、これからの戦いが苛酷になることを考えて、セシリア様のレベルを上げておきましょう」
「え? 私のレベル?」
「そうです。ということで、とりあえず僕のスキルを使って、セシリア様の攻撃力を上げておきます。防御力はさっき上げたのをまだキャンセルしていないので大丈夫ですから」
「攻撃力? 防御力? 私の?」
「はい。じゃあ――」
そして、まだセシリアが少し戸惑っているのを分かっていたが、構わずひらがなスキルを発動させた。
「【ふやす】!」
■【ふやす】使用魔力:1
対象の項目を任意の値に増やす。魔力を1消費する。
対象は、セシリアの攻撃力。値は20倍でいいかな。
「え? ふやす? って増やすなの? さっきも確か、守るって言っていたけれど、そんなスキル、聞いたことがないわよ」
うっすらとした光を身に纏ったセシリアは、不思議そうな顔で自分の体を見つめていた。
「ルイ、いったい何を増やしたの? 力が溢れてくるのは分かるのだけれど……」
「えーっと……攻撃力?」
「ちょ、ちょっと待って。いえ、なんで疑問形なの? 攻撃力を上げるって、バフを私にかけたの? どれくらい上がったの? 1.2倍くらい?」
立て続けに質問してくるセシリアは、少し焦っているように見えて可愛い。
「慌てなくても大丈夫です。パフのようなスキルですよ。効果時間は一時間ぐらいでしょうか?セシリア様の攻撃力を20倍にするスキルです」
「え!」
さすがに20倍は驚いたのか、セシリアが唖然とした表情になった。本当は、100倍くらいに倍率を上げれば、ポイズンドラゴンを紙人形のように切り倒せるはずだが、体が慣れていないとバランスを崩したりするからね。
【限界突破】で10倍アップは慣れているようだから、20倍アップなら大丈夫なはず。
「ちょ、ちょっと待って、ルイ。あなたは、そんな無茶なバフをかけることができるの? しかも一時間? 私の【限界突破】よりも強力なスキル?」
「はい。慣れてください」
「な、慣れるって……」
少し呆れた顔になるセシリア。
でも、それは我慢して欲しい。
少なくともセシリアの伏字となっている【■■■■】が、何のスキルなのかが分かるまるで、俺はセシリアの側にいようと考えているし、せっかくのチャンスだ。
「セシリア様」
「何?」
「スタンピードは、防ぐことができなければ脅威でしかありませんが、簡単に倒せるなら脅威ではなく――――」
「脅威ではなく?」
「レベルアップのチャンスなんです」
「え?」
「詳しくはあとで話しますが、僕はあることをきっかけに、似たようなレベルアップのチャンスを手にしました。せっかくだから、ステータスを6桁にしましょう」
「え? え?」
「ほら、来ましたよ」
もう一度、目がぐるぐるしだしたセシリアを見ながら、少し可笑しくなった俺は微笑んで、そして砂煙を立てながら疾走してくるポイズンドラゴンたちを指差した。
「さっきと同じように、僕が止めますから、切り倒してください。」
「え? う、うん」
さすがに敵が来るのを確認したセシリアは、目に光を取り戻して剣を構えていた。
その時――
【まっぷ】に、2階層へ上がる階段のところにいた冒険者たちが、こちらに向かおうと動き始めたサインが現れた。




