迷宮への入場
俺は、アンラビフォン迷宮入り口で、セシリアと一緒に並んで受付の順番が来るのを待っていた。
迷宮に潜る者たちは、例え誰であろうと、入場の際に名簿に名前を書かせられる。王であろうと奴隷であろうと関係ない。
名前の横には二つの並んだ空白蘭。
左側、一つ目の空白蘭には、入場の日付が記録される。
その横の空白は、退場の日付が記録される欄だ。
ただし、ここアンラビフォン迷宮では、入場から一か月を過ぎた場合には、退場の空白蘭には「認定死亡」の赤い文字が記される。
アンラビフォン迷宮は20階層しかないが、一階層はだだ広く、二階層に続く階段を見つけられる冒険者はEランクの力が必要になると言われている。
Eランクの冒険者が、この一階層をくまなく探索するのにかかる時間が約一か月。その時間が、この迷宮での公認の生存時間として認定されている。
この生存期間は、迷宮ごとに異なる。俺が知る限りでは、最短は二日、最長は100日だ。
ちなみに、この大陸の冒険者たちは、大陸の各国共通の組織である冒険者ギルドに加入している。冒険者ギルドに加入していない者だけで、迷宮に立ち入ることは許されていない。
■□■□
冒険者ギルドは、登録時はGランク。そこから順に上がっていて、Aランクの上には、Sランク、SSランク、そしてSSSランクが存在している。
Gランクは見習い冒険者で、一端の冒険者として扱われるようになるのはFランクからだ。
冒険者のランクは、おおよその強さも現わしている。
Gランクの冒険者のステータス目安は攻撃力、防御力、魔力、精神力が各100未満だ。いわゆるレベルが10未満の者たち。そのランクで登録するのは子どもたちだ。
Fランクは各ステータスの目安が100~200、Eランクが200~400、Dランクが400~600、Cランクが600~1,000、Bランクは1,000以上と言われている。もちろん、これは絶対ではない。レベルが1上がった場合のステータスの上昇度は、個人差があるから。一般的にはレベルが1上がると、各ステータスは10~20上がると言われている。
セシリアは勇者だったから、レベルが1上がった場合のステータスの上がり幅は100前後。俺の場合は、【ぷらすわん】のギブスキルの影響で、レベルが1上がっても、各ステータスの上がり幅は1だけだった。
まあ、俺のことは言い。俺の場合、レベルが上がる条件が、「どんな魔物でもいいので、一匹の魔物を倒すと無条件でレベルが1上がる」だから、他の人と隔絶しているからね。
普通は、レベル10までは比較的スムーズに上がるが、それ以降はレベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要な経験値が多くなる。一生を冒険者で終える人たちでも、レベルが4桁に届くことはない。
そして、各ステータスの値が、冒険者の力を絶対値として表していない理由は、そこにスキルの力が加わることで、各ステータスの値は変化することになるから。
例えば、同じ攻撃力を持つ者がいて、片方が剣技のスキルを持っていれば、その剣技のスキルを持たない者は、剣で戦えば勝つことが難しくなる。
なので、各ステータスは目安でしかないが、それでも攻撃力が100の者が、防御力1,000の者を倒すことは基本的にできない。100の攻撃力を10倍以上にするためには、おそらくセシリアが持つ【限界突破】のような特別なスキルが必要になる。
ということで……
多くの冒険者たちはCランクで、冒険者の経歴を終えることになる。
各ステータスが1,000を越えて、Bランクに上がれる冒険者たちは、全体の10%程度。
さらにAランクとなると、ステータスの目安は5,000以上が必要となり全体の1%を切ることになる。
Sランク以上は、国で何人もいないランクになるし、冒険者全体で見れば0.001%以下、数十万人に一人のレベルとなる。
このランクに到達するためには、各ステータスが高いだけでは足りない。冒険者の場合は、戦闘に関する特別なスキルも必要になる。
そのスキルは、何も攻撃だけではなく、支援や回復といったスキルも大きな意味を持つ。
セシリアは「勇者」の職業を持っているし、各ステータスは5桁に届こうとしているので、冒険者ランクはSSランクだ。
その冒険者のランクは、どこかの異世人が作った「ギルドカード」により証明される。この「ギルドカード」は、冒険者ギルドだけでなく、商業ギルド、聖職ギルド、薬師ギルドなど、いろいろなギルドで使われている。
異世人が作ったカードの読み取り装置の関係で、偽のカードを作ることはできない。ただ、俺の場合、本物のカードに偽のステータスを書き込ませることはできるけれどね。
ちなみに、今の俺の冒険者ランクは――――持っていない。
正確に言えば、昔は持っていたこともある。
だが、俺は【かいしゅん】のスキルを使って、幾度も若返りを繰り返してきた。
もちろんだが、若返りしたらその時の身分はなくすことになる。
老齢の侯爵が、ある日、幼い子どもに変わりましたと言っても、普通は信じてもらえないし、信じた場合、相手によっては「若返り」という力を求めて、俺を支配しようとする者も少なくなかった。
なので、今の俺に冒険者のカードはない。昔作ったカードなら、【しゅうのう】の中に何枚もしまっているけれど、それを提示したら大騒ぎになるから使えない。
一応、俺が持っていた最高のランクはSSSランク。黒歴史に近いから、あまり詳しくは話せないけれどね。
■□■□
迷宮の入り口で、セシリアが冒険者カードを見せると受付の職員が立ち上がって敬礼をしていた。
さすが勇者。いや、さすがSSランク、といったところか。
今の俺は、冒険者ギルドに登録していないので、今日はセシリアの付き添いとなる。SSランクの冒険者ランクならば、同行者は一般人であろうとも大丈夫。
これが、Cランクが同行者を連れて行こうとすれば、保証金が必要になる。もしも同行者を守れず、連れて帰ることができなければ保証金は全額没収、プラス、犯罪が行われていないかの取り調べを受けることになる。
今回は、セシリアの執事はエストルアの兵士の引き渡し処理の対応があるようで、迷宮に潜るのは俺とセシリアの二人きり。
「ルイ。向かうぞ」
「はい、セシリア様」
どうやらセシリアは、人前では男性の言葉で話すのが当たり前になっているようだ。別に男装をしているわけじゃないけれど、麗人のようでカッコいい。
先日、バトルシープに吹き飛ばされたはずの入り口は、僅かな時間で復旧が終わっていた。
魔法とスキルが使えるこの世界ならでは、といったところか。
職員が、金属で作られた10メートルの高さを越える大扉の横にある普通サイズの扉を開けてくれたので、セシリアの後ろに続いて俺は、迷宮へと足を踏み入れた。
今は、冒険者登録をしていない俺だったが、スキルを使えば入場は簡単だ。というか、すでに最下層まで踏破済みだしね。
それでも、正式な迷宮への入場は、それも気になる勇者と二人で潜る迷宮の入場は、俺の心を少しワクワクさせてくれていた。




