脳筋……じゃない!?
俺は、朝早い時間、眠い目を擦りながら、集合場所へと向かっていた。
昨夜は、会食後にもう一度、迷宮内に潜ってみた。一階層から二十階層まで、順番に巡ってみたが、【まっぷ】に表示される魔物や魔獣に特に変わった様子は見られなかった。
強化された特殊個体もいたわけじゃない。
もちろん、スタンピードの兆候を示すサインは、何も現れていない。
おかげで昨夜は、ほぼ「完徹」になってしまった。まあ、本当は別に数日寝なくても、スキルを使えば平気なんだけれどね。回復させるためのスキルもあるし、【てつや】というひらがなスキルも持っている。
■【てつや】使用魔力:1
起きていても、睡眠中と同じ状況を作り出すことができるスキル。魔力が一定の割合で回復する。一回の使用で効果は24時間持続する。なお、このスキルを使用している最中は、睡眠中と同じくステータスの一部が1/10に下がる。一回の使用で魔力を1消費する。
俺は、このスキルが生えるまで、睡眠中はステータスの一部、これは攻撃力のステータスだが1/10に低下することを知らなかった。
まあ、寝ている最中は攻撃できないから、知らなくても当たり前なんだろうけれど…………いや待てよ? もしかすると【反撃】と言ったスキルがあれば、睡眠中も攻撃ができることがあるのかもしれない。俺が知らないだけで。
とにかく俺は、これまでこの【てつや】のスキルを使ったことは一度もなかった。
攻撃力のステータスが1/10になっても、どうってことはないが、使う必要性が見いだせなかったからね。もしかすると、将来、ものすごく役に立つことがあるのかもしれないけれど……
おっと、話が随分と逸れてしまったが、一晩寝なくても問題ない俺だったが、眠たさを我慢しながら迎賓館へと向かっていた。
「おはよう、ルイ」
迎賓館の前では、馬車が準備され、その横でセシリアが執事と共に立っていた。
こんな朝早い時間なのに、俺を待っていてくれたことは少し嬉しい。朝一で目にする、セシリアの美しい姿は眼福以外の何物でもなかったし。
「おはようございます。セシリア様」
「ルイ、そんな堅苦しい口調でなくても良いわよ」
笑っているセシリアに、俺は慌てて首を横に振った。
「め、滅相もありません!」
セシリアの斜め後ろで立つ執事が、興味深そうな目を俺に向けているのが分かる。
「まあいいわ。じゃあ、迷宮へと向かいましょうか?」
「ちょ、ちょっと待ってください、セシリア様。小隊の皆様は、今日はご一緒されないんですか?」
そのまま平然と歩きだそうとしたセシリアを俺は慌てて止めた。
「勇者小隊は、避難計画を進めてもらっているの。今日は、私と爺――アルバートで迷宮を少し探ってみようと思って。ルイも一緒でいいでしょう?」
「それは構わないのですが……」
もともとステータスが勇者よりも低い勇者小隊が、勇者を護衛する意味合いが少ないことは分かる。
「大丈夫よ。スタンピードが始まったら別だけれど、今の迷宮内にいる魔物や魔獣は、私と爺で何とでもなるから」
「わ、分かりました」
本当にこれでいいのだろうか、と少し考えながら俺は、迷宮に向かうため、セシリアに続いて馬車に乗り込んだ。
■□■□
「セシリア様、一つお尋ねしてよろしいでしょうか?」
パッカパッカと、のんびりした速度で馬車が進む中、俺は向かい合って座るセシリアに声をかけた。
ちなみに馬車の御者は、執事が務めている。なので、今、馬車の中は俺とセシリアの二人きりだ。
「セシリア様は勇者様ですよね?」
「ええ、そうよ」
「勇者様は、こんなに自由に行動して良いのですか?」
そう、普通に考えれば、国を代表する戦力と言える勇者が、ほぼたった一人で何かに立ち向かうということが少し信じられない。
もちろん、過去、いろいろな国で、この大陸以外でも幾人もの勇者に出会ったことがある。だが、その勇者は通常、仰々しく敬われているのが普通だった。もちろん、そこに勇者の意思が関係していたことは少なかったが――中には我がままな勇者にも出会ったことはあるが――所属する国の意向を受けて行動する以上、監視、いや報告のための人員は必ず同行するのが常だったのに…………
「ええ、爺、アルバートは小隊の所属ではないけれど、私の剣の師匠でもあるから戦闘力に問題はないわ」
「は、はあ……」
もしかすると、セシリアは脳筋なのかもしれない。
俺が聞きたいのは、国の中での立場があるのに、個人行動で大丈夫?ということだったのに、どうやら敵と戦う際の戦闘力を心配されたと思われたようだ。
「ふふふ。私は脳筋じゃないわよ」
(!!!!)
考えを読まれた!!
「ルイは、考えが顔にそのまま出るのね」
「そ、そうですか……?」
嬉しそうなセシリアを見ると、あまり反撃はできない。
「勇者として行動するとき、私は爺と二人のことが多かったの。勇者小隊は、ある意味、私のお目付け役のようなものだから」
少し寂しそうに言うセシリア。
「セシリア様……」
「ふふふ。別にだからといって、私は不幸と言うわけでもないわ。それに私にとって大切な人を守るためには、私自身の側にいてくれることがベストだから」
「アルバート様は、セシリア様にとって特別な方なのですね?」
「そうね。特別と言うか……私にとっては父と言って良いかもしれない。生みの父は他にいるけれど、育ての父はアルバートで間違いないわ。そういえば――――」
真っすぐに俺を見つめるセシリア。
「私は今回のスタンピードの対応を国に命令されたとき、不思議と恐怖を覚えなかったの」
「恐怖を?」
「ええ。バトルシープのようなSSランクの魔獣がスタンピード前に出現したから、もしかするとルイも気がついているかと思うけれど――」
「何をでしょうか?」
「今回のスタンピードは、アルファクラスのスタンピードなの」
うん、知っていた。でも、ここは驚いた方がよいだろう。
「え! アルファクラスって……本当ですか!」
「ふふふ。ルイは驚かないのね」
(いや、驚いただろう今?)
だが、セシリアは俺が驚かずに受け入れたと思っているようだ。




