追憶(4)パワーレベリング
召喚された部屋から俺たちが連れていかれたのは、壁に覆われた室内運動場のようなスペースだった。
すでに少年少女は、「確認の作業」を終えている。
最後の順番だった俺は、今、手に剣を持たされて、50メートル四方ぐらいの運動場のように見える場所の中央に立たされていた。
「よし、構えるのだ」
すぐ側で、手にタブレットのような板を持った召喚士ブリュノが、俺に命じる。
(というか、これって……?)
■□■□
先に終えた少年少女の様子を見る限り、これから俺が行うのはパワーレベリングだ。
少年少女は、目の前にスライムを置かれて(愛嬌のある雨粒のようなスライムじゃない。ベターっとしたアメーバーのようなスライムだった)、それを剣で刺すことを命じられた。
二人とも最初は若干の抵抗を示していたが、それも最初だけ。
まず最初にパワーレベリングを行ったのは少年だった。
ゼリー状の体の中に見える丸い核を剣で刺せば倒せる(殺せる、と言わない。ちょっとずるく感じた)と言われ、何度か繰り返しているうちに高揚感を感じたのか、最後は、顔を火照らせてまるで作業のように続けていた。
まあ、相手はヒト型でないし、元の世界なら害虫を退治するような感覚に見えたからな。
毎回色が違うスライムを少年が倒した回数は、全部で10回。
1回倒すごとに、召喚士ブリュノが手に乗せているタブレットのような板で何かを確認しながら「よし次だ」というと、新しい色の違うスライムが運ばれてきた。
そして――
「よし、レベルが10に上がったな」
10回目が終わってどうやらこのパワーレベリングの作業が終了したようだ。
「素晴らしい!」
「何が、ですか?」
少年が尋ねる。
「ほとんどの項目が4桁まで上昇したぞ。レベルは10にも関わらず、攻撃力が1,250、魔力1,100、防御力1.760、精神力1,380だ」
「「「「おおおおおお」」」」
取り囲んでいる白衣を着た男女から感嘆のような声が上がった。
「それって、すごいの?」
少女が尋ねる。
「今、倒したスライムはそれぞれ種類が違う。種類が違うと強さも変わる。10匹を倒せば、誰しもがレベル10まで上げることができるように調整されたスライムなのだ」
そして説明してくれたのは――――
・魔物を倒したり、何かの特別なことをすればレベルが上がる
・レベルが上がれば上がるほど、次のレベルに上がるためには強い魔物を倒す必要がある。レベル10までは比較的簡単に上がるが、それ以降は次のレベルに上がりにくくなる。ゲームのRPGを想像すれば良いか。
・この世界の人々のレベルは、一般人で生涯20~30。魔物を倒すことを仕事にしている人(騎士とか冒険者とか)はレベル100ぐらいまで到達することがある。
・特別な職業を持つ人は、さらにレベルを上げることができる。レベルが500を超える人もこの大陸には何人かいるらしい。世界を探せば、もっと高い人がいるかも。
・初回はレベル10到達時にスキルが生える。以降はレベル20、40、60といったように、レベル20ごとに何かのスキルを手に入れられるチャンスがある。手に入る確率はレベル100までが20ごとのチャンスのたびに60%程度、以降はかなり低くなる。
・攻撃力、魔力、防御力、精神力のステータスは、通常はレベルが1上がることに平均で約10~20ほど増える。多いと100以上増える人もいる。
・レベルは、ステータスを上げたり、スキルを手に入れるための指標。強さそのものは、レベルではなくステータスで現される。一般人のステータスは生涯で各項目が300まで達しない人がほとんど。。
この世界の強者と呼ばれる人のステータスは1,000以上。10,000を超える超人もごく少数だがいる。
・これらは、人族が中心のこの大陸内でのこと。異種族が居住する他の大陸では、レベルやスキルの上がり方が異なることが分かっている。
ざっくりの説明では、こんな感じ。よくあるレベル制の異世界、といった感じか。
今、少年が倒したスライムたちは、レベルを10まで上げることができる経験値を持つスライムのようだ。倒すたびに違う色のスライムが連れてこられていたけれど、強さが違うのだろう。
そして一番の特徴は、レベルが指標でしかなく、基本的に強さはステータスで表されるというところか。
簡単に言えば、レベル50で攻撃力が1,000の人よりも、レベル20で攻撃力が2,000の人の方が強いらしい。
普通はレベルが1上がるとステータスの値も平均で10以上は上がる。でも今少年は、レベルが10上がってステータスはいずれも1,000以上、上がっていた。つまり、レベルが1上がることに、各ステータスが100以上、上がったことになる。
さっきの説明を聞く限り、少年はレベル10の段階で、すでに「強者」と呼ばれる人たちの仲間入りをしたことを意味している。
召喚士ブリュノによると、少年のステータスの上昇度から、単純にこの世界の人々の10倍以上の強さを持つことが分かるそうだ。
そして、少年は、この上昇ペースを見る限り、レベルが100になればこの世界で「超人」と呼ばれる人が示す、ステータスの値10,000を超えることが見込まれているらしい。
なるほど。レベルと強さが直結していない、という意味合いは理解できた。
ということは、レベルが1上がることに、もしもステータスが1,000上がるようならばとんでもない強さが見込まれる、ということか。
「其方の職業は?」
召喚士ブリュノが少年に尋ねる。
「職業、って何ですか?」
「ああそうだったな。異世人はレベルが1になったとき、ステータスを確認できるようになるのだ。ステータスを見たいと念じてみるとよい」
(おお! まさしく、よくある定番の異世界だ。しかし……ステータスオープン、という呪文じゃないんだな)
少し残念に思ったら、少年が「ステータスオープン」と口にしていた。
(うん、仲間だ……)
グータッチしたくなる。
しかし少年が目を向ける空中には、何も見えない。
どうやら、自分のステータスは本人しか確認できないようだ。もしかすると「鑑定」のようなスキルとか、ステータスを確認できる魔道具があっても不思議ではないが……
俺も心の中でステータスオープンと呟いたが、何も起きない。俺はまだ、レベルが0なのだろう。
そして一つ分かったことは、召喚士ブリュノが持つ、ステータスを確認するための魔道具のようなものは、職業が確認できないようだ。ステータスの一部のみが見られる、といった感じかもしれない。
「――ああ、なるほど」
何もないところを見ていた少年が頷いた。
「僕の職業は『勇者』のようです」
「「「「「おおおおお!!!!」」」」」
白衣の人たちから再び感嘆の声が上がる。その声は、さっきよりも大きくなっている。
「やはり、勇者が召喚されたのか」
「これで、今年のスタンピードも防ぐことができたな」
「ああ、助かった」
交わされている言葉から、「勇者」という職業はイメージ通り、特別なものらしい。
一緒に見ている少女の目もキラキラしているのが分かる。
たぶん、あれだ。少年が勇者なら、この少女は「聖女」なんじゃないかな。
じゃあ、俺は……? 「賢者」とか「戦士」とか「僧侶」とかかな……
「では、スキルは何を取得した?」
「えーっと……『生殺与奪』でしょうか?」
「ふむ。聞いたことがないスキルだな。今度、『鑑定』のスキルを持つ者に見てもらうとするか」
生殺与奪、とは確か、生かすも殺すも自由自在といったような意味だったはず。
――と考えた俺は、少し笑いが込み上げてきた。
相変わらず、意識せずとも多くの知識が浮かんでくる。前世では(たぶん)今の姿の年齢でなかったことだけは確かなようだ。
その俺の知識が正しいならば、「生殺与奪」はどう考えても普通のスキルには思えない。勇者が持つスキルに相応しいように思う。
そして――次にパワーレベリングを行った少女は、やはり「聖女」だった。
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いよいよ俺の番がやってきた。




