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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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バトルシープ


「アメデ! 展開しろ!!!」


 セシリアが勇者小隊隊長に向かって叫び、そして両手を空に向けて掲げると、その手の中に光が溢れ、次の瞬間、直線の機能美が見事な威厳を備えた剣が現れた。


 勇者のみが装備できるとされる、聖剣だろう。


「ルイ!私の後ろに!」


「は、はい」


 ルイは、できるだけ怯えた表情を見せながら、セシリアの背後に回った。


 吹き飛んだ迷宮の入り口を見ると、土煙の中に5つの大きな影が見える。


 やがて――――


 土煙が収まっていくと、大きさに多少のばらつきはあるが、体長が5メートル、体高が3メートルほどの大きさがある黒い毛に包まれた羊がゆっくりと広場にその姿を現した。


 立ち止まった5頭の羊たちは広場全体を見渡す。かなり知能は高いようだ。


「ま、まさか……ば、バトルシープ!」


 勇者小隊の隊員から、引きつった声が聞こえる。


(バトルシープか……)


 ルイは、念のため5頭の中で、もっとも大きな魔力を纏う1頭を【かんてい】を使って鑑定した。



 種別:バトルシープ

 レベル:588

 攻撃力:8,055

 魔力 :5,336

 防御力:3,209

 精神力:10,380

 運  :38

 スキル:【フォーススリープ(★★★★★)】、【アタック(★★★★)】



 ふむ。【フォーススリープ】は強制睡眠のスキルで、【アタック】は角でかち上げるスキルか。

 やっかいなのは、フォーススリープだな。

 精神力が10,000を越えているので、レジストするためにはそれ以上の精神力が求められる。確実にレジストするには100,000以上が必要だ。


(眠らせてからアタックを使って蹂躙するタイプの魔物か……)


 状態異常が強力だから、かなり強力な防具かアイテムを持っていないと、Aランクの冒険者でも簡単に惨敗する相手だ。


 セシリアと勇者小隊を【かんてい】を使って、防具かアイテムを持っていないかを確認するが、防具は防御力と精神力を5割アップできる優良品だが、状態異常を完全に防げるアイテムは持っていない。


 セシリアなら、精神力が5割アップすると強制睡眠のフォーススリープにも対抗できそうだが、それでも15,000弱ならレジスト出来る確率は6割ぐらいか。

 5頭が一斉にスキルを使えば、おそらく防ぎきれない。防いだとしても、多少なりとも影響は受けてしまうから、フラフラになる。


 一方、勇者小隊は、精神力が防具で嵩増し(かさまし)されて、ようやく5,000に届くかどうかだ。話にならない。

 レジスト出来る確率は数%程度しかないから、1頭だけなら奇跡は有り得ても、5頭のスキルを同時に防ぐのは絶対に無理だな。


 念のために、広場で目を見開いたまま固まっている冒険者たちも確認してみるが、レベル100を超えている者が誰もいなかった。


 手にした酒はテーブルに置くか、さっさと迷宮街アンラビの中に逃げ込んだ方がよいかと思うが…………もう間に合わない。


 ここまで、バトルシープの姿が現れてから、ほぼ一瞬の出来事だったが、思考を分割できるルイにとっては余裕だった。


 バトルシープが5頭並んで、一斉に頭を下げる。


【フォーススリープ】だ。


「「「「「メェエエエエエエエエ!!!!!!」」」」」


 上を向きながら鳴くその爆音の羊の声は、耳をかき回すように響き、そして――――


 バタバタバタバタ……

 バタバタバタバタ……

 ガシャン!

 バタバタバタバタ……

 バタバタバタバタ……


 広場にいる人々が一斉に倒れた。

 ガシャン、という音が混じっているが、酒が入ったジョッキが落ちた音か。

 おそらく、迷宮街アンラビ内にも、この声は響き渡っただろうから、この広場と同じ状況になっているはずだ。

 勇者小隊も、全員が倒れている。


「くっ!」


 広場で立っているのは、ルイを除くとただ一人。

 フラフラになりながらも、ルイをかばうように何とかセシリアが立っている。


(おお……)


 その姿は確かに、勇者に相応しい威厳を感じさせる。


 その時――


 ルイが倒れていないセシリアを感嘆の想いを込めて見ると、バトルシープが身を小さくしたのが分かった。


 今度は、【アタック】のスキルで広場全体を蹂躙する準備だ。


【フォーススリープ】で強制的に眠らせて、【アタック】でかち上げる。実に単純な二手だが、状態異常への完全な対応、そして8,000以上攻撃力を持つ物理攻撃を防ぐことができなければ、全滅が待っている。


(おっと……)


 このまま放置しておくと死人が出ると思ったルイは、瞬時に【しゅうのう】のスキルを発動させる。


 一瞬、キーンというソニックブームの音が聞こえたと思った次の瞬間――――


 ドカン!!!


 爆音と共に、バトルシープたちが爆散した。


 どうやら、【かそく】で光速の1,000分の1のスピードを保たせた直系1ミリのミスリル製の球が、しっかり仕事をしてくれたようだ。


 その時――――


 バタッ


 爆散したバトルシープたちの名残である煙が消えるのとほぼ同時に、セシリアが崩れ落ちた。


 ルイは慌てて、彼女が地面に倒れる前にその体を両手で支えて、抱きしめる。


 冷たい白い鎧に包まれた彼女の体から熱がルイの腕に伝わってきた――――



 ▼▽▼▽



 side セシリア



 ――まずい!


 セシリアは、突然、巨大な魔力が広場に出現したことを感知し、その迷宮の入り口から現れた魔力の主である「何か」を確認する前に、聖剣を呼び出した。


 光り輝く聖剣は、セシリアの意識を覚醒させる。


「ルイ!私の後ろに!」


「は、はい」


 土煙が消えると……そこに現れたのは5つの巨大な黒い塊。


「ま、まさか……ば、バトルシープ!」


 勇者小隊の誰かがいった言葉は、セシリアの身を凍り付かせる。


 バトルシープ。


 SランクからSSランクの強さを持つその魔獣は、死神と称される魔獣の一員になる。


 もしも、バトルシープの精神力が1万を越えていれば、強制睡眠をかける異常状態を防げるのはセシリアだけだ。防具の50%増強バフ効果でセシリアの精神力は15,000近くまで上昇するが、それでもレジスト出来る確率は100%ではない。

 しかも、出現したバトルシープは5頭。


 隊員たちは、バフ効果を見込んでも論外だ。


 その時――


 バトルシープたちが一斉に頭を下げた。


 ――くる!


「「「「「メェエエエエエエエエ!!!!!!」」」」」


 爆音にしか聞こえないその声に、意識が朦朧とさせられたのが分かる。


 ――ダメっ!


 何とか頭を何度か振って、意識が失われるのを防ぐが、周囲からは人々が地面に倒れた音が聞こえた。


 バトルシープが身を小さくしたのが見える。それが【アタック】のスキルを発動させる前段階であることをセシリアは知っていた。


 だが……


 体を動かそうとするが、力が入らない。何とか立てているが、限界が近い。


 震える手で握りしめている聖剣になんとか魔力を流し込もうとしたその瞬間――――



 ズドン!


 ドタッ


 低音の鈍い音が聞こえ、突進しようとしていたバトルシープが地面に倒れた。

 そしてすぐに、その黒い体は煙となって空中に溶け込んでいく。


 ――え? 何? まさか……


 そう、セシリアは、バトルシープたちの頭部が、いずれも爆発するかのように弾け飛んだのを見たのだ。


 だが……


 すでに限界を迎えていたセシリアの体は、そのまま後ろに倒れた。


 フワッ


 セシリアは、なぜか自分の体が地面に叩きつけられることなく、ふわりと浮いたことを不思議に思いながら、そのぼんやりとした意識の中で、「ああ、ルイが抱きしめてくれたのね」と思いつつ、意識を手放していた。



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