追憶(40)ある考え
まもなく19時になろうとする時間のときだった。
俺は、ひたすら【かそく】のスキルを使って魔草抜きチャレンジを続けていた。
本当なら、「ウラシマ効果」を鑑みてチャレンジは終了すべき時間だった。
だが……まだ、師匠を救えるスキルが生えていない俺に、その選択肢は選ぶことができない。
だから、俺は必死でチャレンジを続けていた。
もう何も考えない。確認するのは、新しいひらがなスキルが生えたかどうかだけ。レベルがいくつになったのかも見ることはしていない。17時すぎに確認したときは30億を超えていた。19時近い今なら、35億に近づいているだろう。
もちろん、3個目のひらがなスキルが生えることはなく、それでも俺は必死に走り続けていた。
染みついた動作が、潜在的なプロセスを幾度も繰り返していたとき――――
「【かそく】」
スキルをかけて海に向かい走り出した俺は、視界に何かを捉え、突然の違和感に急ブレーキをかけた。
「!!!!!」
千分の1秒単位で駆け抜けられるため、急ブレーキが反応した時、すでに俺は海上だった。
今までの場所よりも随分と海岸に近かったが、魔草原の影響範囲は越えているようで【ひこう】のスキルはきちんと働く。
(今、俺が見たのは……)
光速の99%という猛スピードなのに、それを視界に捉えたのは偶然の産物だったのか……
海上で浮かびながら、俺は背筋が寒くなった感覚を覚えた。
そう――――
俺が見たのは……「銀色の若芽」だった!
見間違いかもしれない。
だが、首筋から頭に向かうゾクッとした感覚は、確かに覚えがあった!
そして、もう一つ大事なことがある。
俺は――「銀色の若芽」を抜いていた。
何百万本の中の1本だが、左手にその感触は残っている。
俺は振り返り、今、踏破してきた道を見つめた。
すでに、辺りは夜の闇に包まれているはずだが、空には三つの満月が浮かんでおり、ぼんやりとした視界は確保されている。
「【かんぱ】、俺がさっき遭遇したのは銀色の若芽で合っているか?」
『是、正しくは緑島ダンジョン、階層ボス・グロー・マジックグラスです』
え? 名前があったんだ、あの銀色の若芽。
というか、【かんぱ】に聞くとそんなことまで教えてもらえるとは考えていなかったからちょっと衝撃。
でも、【かんぱ】がアカシックレコード(世界記憶)に接続できるスキルだとするなら、不思議じゃないか。
「【かんぱ】、師匠が言っていた金色の魔草については分かるか?」
『是、この緑島のダンジョンボス、ゴールド・マジックグラスです』
ダンジョンボス!!!!
俺は、体が震えるのが分かった。確かに、師匠もそんなことを言っていた。だが、起きていた時間は長くなくとも何千年とこの島で過ごしてきた師匠が一度しか見ていない魔物だ。
ダンジョンボスという断言はしていなかったから、俺もそこまで深く考えていなかった。
何より、ちょうど一か月前、俺は今【かんぱ】が教えてくれたこの緑島ダンジョンの階層ボス、「グロー・マジックグラス(銀色の若芽)」に敗れて死にかけた。
師匠からも、「銀色の若芽」と「金色の魔草」には近づくな、と言われていたから、出会うことがあれば真っ先に何も考えず逃げるべき対象だったのに……
俺は、その小ボス(ダンジョンボスが大ボスなら、階層ボスは小ボスだろう)を知らないうちに倒していたことになる。
(もしかすると……)
唐突に、ある考えが閃いた。
もしも金色の魔草を倒すことができたなら……
「【かんぱ】、もしかすると今の俺のステータスなら、金色の魔草も倒せそうか?」
『是、倒せます。ただし、マジックグラスのボスは割合で魔力を減少させますから注意が必要です。「グロー・マジックグラス(銀色の若芽)」が20秒、「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」が2秒で半減を続けます。ルイの現在の魔力を考えると、「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」と戦った場合、約1分で全損することになります』
なるほど。割合で減らすのか……
30億でも2秒ずつで常に半減されたら、確かに64秒で1を切ることになる。
「【かんぱ】、前に銀色の若芽に近づいたとき、体が動かくなったんだが、あれはなんだったんだ?」
『是、「グロー・マジックグラス(銀色の若芽)」は麻痺させるスキルを使うからです。もともと、ステータスの差は4万倍ほどありますし、さきほどは【無効】のスキルを発動させていましたので有効にはなりませんでした』
あれは、麻痺だったのか。
そういえば、異常状態のスキルは、レベルやステータスの差が大きいと有効にならなかったな。
あの時は、まだステータスが50,000台だったし、【無効】のスキルも発動させていたなかったから、麻痺してしまった、ということか。
(!!――まさか……)
その時、俺の脳裏にあることが思い浮かんだ。
「【かんぱ】、じゃあ、金色の魔草にも、魔力を減らす以外の攻撃があるのか?」
『是、「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」は即死させるスキルを使います。ただし、ルイの【無効】スキルは★5ですし、ステータス差が大きいので、【無効】や【がまん】のスキルを事前に発動させていれば、即死スキルが有効になることはありません』
「【かんぱ】、ちなみに、金色の魔草のレベルはどれくらいなんだ?」
『是、過去に出現した「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」のレベルは、2,155から2,330の間です。即死スキルの指標となる精神力のステータスは、870,090から891,225の間です』
確かに、俺の場合、レベルも精神力のステータスも30億オーバーだ。ということは、金色の魔草と戦った場合、俺が勝利する確率はかなり高いんじゃないだろうか?
「【かんぱ】、金色の魔草と戦った場合、俺が勝利する確率はどれくらいだと思う?」
『留、勝利確率は99.99%です』
100%じゃないこと、「是」ではなく「留」と答えたということは、絶対ではないということ。だが、リスクが完全にないことを望むのは間違っているし、そのリスクが0.01%程度なら十分だろう。
(これならいける!)
俺は、少し震えながら【かんぱ】に問いかけた。
「か、【かんぱ】、金色の魔草にはどうやったら出会える?」
『是、「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」は約777年ごとに一度、現れます』
「約777年って、じゃあ【かんぱ】、次に金色の魔草が現れるのはいつだ?」
『是、196年後です』
「くそっ!」
俺は、大きな声で舌打ちをしていた。
もしも、金色の魔草に出会えたなら、師匠を救う方法が手に入ったかもしれないのに……
そのとき、何か戸惑いを覚えたような声で、【かんぱ】が俺に話しかけてきた。
『…………留、「ゴールド・マジックグラス(金色の魔草)」と出会う方法は他にもあります』
その言葉に俺は飛び上がっていた。
――え? なんだって! 他にも金色の魔草と会う方法があるって!
「【かんぱ】、教えてくれ! お願いだ! その方法を教えてくれ!!!!」




