追憶(33)これからの目標
俺が考えた作戦は、「師匠を救えるスキルを自分に生やすこと」だ。
そして、その師匠を救うために必要なスキルは「ひらがなスキル」だと思っている。
具体的なことで言えば、回復しない「魔力」を回復させるためのスキルが手に入ればいい。あるいは、魔力が0でも死ぬことがないようにできるスキルでもいい。
この世界には、多くのスキルが存在しているが、死んだ直後は別にして、完全に死んだ人を蘇生させるスキルはないと聞いた。その完全に死んだかどうかの判定は、魂が肉体から離れたかどうからしい。
今の師匠は、いわば木の精霊といった感じの存在だから「消滅」という言葉を使ったのだと思うけれど、それはヒトで言えば「死」を指している。
問題は、その「死」が肉体的に迎えた「死」なのか、魂すらも消滅した完全な「死」なのか、ということだ。
この世界でも、死んだ直後なら――魂が肉体からまだ離れていない状態なら蘇生させることができる。
地球でも、心停止直後に、心臓マッサージや人工呼吸で蘇生させる方法はあったから、それをスキルで代用できるということだろう、たぶん。
そして、「ひらがなスキル」は、この世界の通常スキルの上位バージョンと言える。【蘇生】というスキルで救えない人も【そせい】というひらがなスキルなら救えるのではないだろうか?
実際師匠は、瀕死だった妹を【すくう】というひらがなスキルで救ったと言っていた。
だから、俺は「ひらがなスキル」だったら、魔力を失った師匠がこの世界に留まることができる奇跡が起きる可能性があるんじゃないかと考えている。
想像でしかないけれど、魔力を失っても死なない【ふめつ】、魔力が持ち直せる【ふくちょう】や【もちなおす】、あるいは今考えた蘇生を意味する【そせい】でもいい。
そんな「ひらがなスキル」が存在するのかどうかは分からないが、あっても不思議じゃないように思う。
幸い、俺はスキルレベルが20ごとに一つのスキルを手に入れることができる。
ステータスレベルが、今日の時点で54,314になった俺に生えたスキルは全部で2,716。その内、ひらがなスキルは全部で11。
ちなみに今日新しく生えたスキルは、生活スキルの【洗浄】。重複したスキルだ。まあ最近は、新しいスキルが生えるよりも、重複したスキルが生えることの方が多いんだけれどね。
現在の数字を見ながら単純に計算すると、ひらがなスキルが生える可能性は11÷2,716で0.4%。
約250個のスキルが生える中で、ようやく一つ「ひらがなスキル」にお目にか帰れるかどうか、といった確率だ。
魔草を1本抜くだけでレベルが1つ上がる俺の場合、250個のスキルを生やすために必要な魔草は5,000本。その気になれば、一時間という短時間で達成が可能な数字だ。
いいだろう。やってやろうじゃないか。
これから一か月、わき目もふらずに、魔草を抜いて抜いて抜いて、抜きまくってやる。
これまで一日50本という制限を師匠から受けていたが、「50本以上抜くと絶対危ないというわけじゃないわ。念のためよ」という話だったはず。
無茶な物事を成すためには、ノーリスクというわけにいかないことを俺は知っている。
もちろん、最大限のセーフティーは考える。そして、それを考えたうえで、俺は一日の目標本数を10,000本に置くことにした。
一日2回、「ひらがなスキル」をゲットできるチャンスが生まれれば、一か月で60個のひらがなスキルを得られる期待値となる。
そして50,000を越えた今の俺のステータスなら、魔草を抜くのに時間はかからない。
もちろん「銀色の若芽」、「金色の魔草」が触ってはいけない魔草ということは分かっている。だから周囲を最大限警戒しながら抜くことになるから、毎秒1本というわけにはいかない。それでも一時間に1,000本は余裕だろう。
なので一日の「魔草抜きチャレンジ」は、最初は10時間に設定する。
一日20時間も無理じゃないが、一か月後に師匠が目覚めたときに俺が死んでしまっていたら、それは本末転倒だ。
俺は、師匠を失う悲しみをこの身で分かっているからこそ、師匠に同じ想いをさせてはいけないことも承知している。
だから、当初の目標は10時間。
集中力を途切れさせず、その上で、リスクを最大限減らすことを考えるならば、10時間が限度だと思う。そしてもしも無理がないと判断できれば、時間を伸ばすし、無理があれば短くすればいい。
■□■□
これから何をするのか、いや何をしなければならないのかを噛みしめた俺は、部屋に戻った。
部屋は今朝、出ていったままの状態で保たれている。
寝室に入ると、「ルイ」と師匠が呼びかける声が聞こえたように思えた。
思わず、辺りを見渡すが、俺以外の気配を感じることはない。
俺は、ベットに座った。
師匠は起きている時間はだいたい空中に浮いていたけれど、寝ているときは別だった。
寝具に手を置くと、師匠の温もりが伝わってきたように思えた。
俺はしばらく間、目を閉じてから、そして「よし!!」と少し大きな声を出してパンパンと頬を叩き気合を入れた。
懐古の気持ちを持ち続けるのは大切だが、その想いにいつまでも囚われていたのでは前に進めない。
(師匠、俺、頑張りますね!)
昨夜は完徹したようなものだから、今日はこのまま体を休めようと思っている。
衣服を脱ぎ、【洗浄】のスキルで体をきれいにしてから俺はベットに潜り込んだ。
さっきは、師匠の温もりを感じたように思ったけれど、どうやら気のせいだったようだ。寝具は冷たかった。
俺は、これからのことを考えながら、いつしか眠りに落ちていた――――




