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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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追憶(29)述懐



 side ラヴィン



 この世界にきたとき、私と妹は、二人とも記憶を失っていた。お互いが姉、妹いう存在であることだけは覚えていたけれど、それ以外の記憶は一切なかったの。いつ生まれたのか、二人でどうやって過ごしていたのか。


 私たちが「双子の姉妹」という知識だけが残されていたわ。


 ええ、そう。ルイも分かると思うけれど、記憶を失い、知識だけ持っていたという感じね。そして、姿かたちも、日本人とは思えない容姿になっていたわ。


 私と妹が召喚されたのは、妖精族たちが住む「ユヌフェ大陸」のエルフたちが住まう国だった。

 召喚された理由は、ルイと同じダンジョンのスタンピード対策のため。


 この世界では、どの大陸でも、どの種族でもスタンピード対策として召喚で異世界から誰かを招いて対策してもらうことがスタンダードになっているみたい。


 え? ドラゴンはどうか、って? さあ、どうからしら? ドラゴン族の事情は私も知らないわね。


 まあ、いいわ。


 それで、いろいろあってスタンピードを防いだ私たちは、そのまま冒険者として旅に出たの。


 エルフ族は、たぶんルイが想像するような耳が長い種族だった。でも私たちは、人族とエルフ族のハーフのように、エルフ族を示すその「長耳」を持たなかったわ。


 ほら、今、私がひらがなスキルの【じったい】で作り出している姿が、この世界での私の姿だから。耳は普通でしょう?


 それでも、「ひらがなスキル」を持った私たちは、妖精族が主体のユヌフェ大陸の中でも有数の冒険者として名を馳せることができたわ。


 そんな中、依頼を受けて訪れたあるダンジョンで、私たちは試練に向き合わされることになった。


 そのダンジョンの最下層にいたダンジョンボスは強力で、私たち姉妹以外の冒険者は全滅、妹も瀕死となって、それでもなんとかボスを討伐することができた。


 そしてダンジョンボスを倒したとき、私は地球での記憶を取り戻し、同時に「選択の時」を提示されたわ。


 え? 選択の時とは何か、って?


 その前に、ルイ。覚えておくのよ。


 この世界を訪れる転移者は、基本的に元の世界との繋がりを断った、いえ断てる者だけが選ばれるわ。そして、その繋がりが断てない者は記憶を失い、転生者としてこの世界に訪れることになる。


 ああ……そう、その通りよ。ルイもそのことは気がついていたのね。


 そう、私も地球での記憶を取り戻したとき、自分たちが帰らなければならないことを悟ったわ。私たちが二人で一緒に、ね。

 でも、妹は目の前で死にかけていた。妹に残されていた時間は、たぶん数分だった。


 そんな私の前に提示されたのは「きかん」と「すくう」という特別なひらがなスキルの選択だった。「きかん」が帰還で、「すくう」は救う、ね。


 つまり「選択の時」とは、この世界に召喚で招かれた者たちが、帰還できるスキルと、その時に必要としているスキルの、どちらか片方を選べというこの世界が私たちに示す、言ってしまえば悪意のようなものだったのよ。


 悪意? そうよ、分かるでしょう?


 元の世界で残されていたものが何かを知り、なおかつ、この世界で必要としているものも知ったとき、どちらかを選べ、というのは悪意以外の何物でもない、ということが。


 だったら、元の世界の記憶を取り戻さないようにしてくれれば、憂いなく選択ができたのに、しかも、元の世界に帰るという選択が何を失うことを意味しているのか――私にとって、妹を失うことは、半身を失うようなものだったわ――それを知りながら、選択を迫るなんてどうしても納得ができなかった。


 でも結局、私が選んだのは、「すくう」という妹を救うことができるスキルの方だった。


 私だけが帰還しても、帰還する意義は半分しか達成できないことは分かっていたし、何より妹を失うことは許せなかったわ。


 そして妹を救うことができた代わりに、私はその「すくう」のスキルを選択したことによる誓約を受け、この島でトネリコの木として生き続けることになったのよ。


 強い力を揮うための代償が必要、ってことは、昔話からよくあるでしょう? それと同じ。


 ふふふ。そんな悲しい顔をしないで。


 この「トネリコの木」はね、ルイのイメージで言うと「世界樹」のようなものなの。大気中を漂う魔素の中から、不純な部分を昇華させてこの世界を「正しい魔力」で覆えるようにすることが私の役割なの。


 もちろん、その役割は私が意識してい行うものではなく、私が宿ることになった「トネリコの木」が勝手に行ってくれるわ。この「トネリコの木」はこれまで、私がいなくても、その役割は十全に果たしてきたわけだし。ただ、管理者として私が宿ることで、イレギュラーの発生率を防ぐことができたのよ。


 え? イレギュラーって何、って?


 元の地球で言うと、酸素を人々が利用して、二酸化炭素して放出、それを植物たちが光合成で酸素に戻していたのは知っているわね。

 でも、植物たちが二酸化炭素を酸素に変換するためには、水と太陽の光が必要だわ。そして、もしも太陽の光がなければ、植物たちや酸素を吸収して二酸化炭素を放出することになる。


 私はね、大気中の魔素を、生物が正しく使えるようにトネリコの木が変換できるよう「太陽の光」の役割をしているようなものなの。


 もちろん、この世界で消費された後の魔素を、もう一度消費できる魔素に変換する働きは他にもいろいろなものが行っているわ。でも、トネリコの木が行っている、この魔草原の中で大気中から蓄積された魔素を地中を伝って取り込み、そして変換できる量はこの世界で最大なのよ。


 もしも、私の役割が滞れば、いつかトネリコの木は――そうね、千年くらいは大丈夫だと思うけれど、それ以降は、どこかのタイミングでイレギュラーを起こし、「正しい魔素」を使って消費済みの魔素を作り出すようになるわ。

 それが1,001年後か、10,000年後かは分からないけれど……


 だから、この世界においてトネリコの木に宿る私のような存在は、定期的に入れ替えられながら求められたのよ。そして、私はたまたまその役割を担わされただけ、というような感じかしら?


 でもね、ルイ。私は、ここでトネリコの木として役割を与えられたことを、今は喜んでいるわ。


 なぜかというと――それは、あなたと出会うことができたから。


 救うことができた妹も、今はもう鬼籍に入ったわ。エルダーエルフのように特別なエルフでも寿命は数千年だし、ハールエルフの寿命は普通のエルフと同じ千年ぐらいだから。


 だから、あなたと出会う前の私は、ただ代償として与えられた役割を黙々と続けていくだけの存在だったの。


 それが、あなたと出会えて、初めてこの世界に訪れることができたことを感謝することができたわ。


 え? それは俺も同じだって?


 ありがとう、ルイ。


 だからこそ、分かるでしょう? 私があなたを私の元に留め続けることができない、ということも。


 え? 分からないって?


 じゃあ、あなたが私の立場だったらどうするのかしら?


 本当に大切な愛しい人の将来を、ただ過ぎる時間だけの中に留めておくことは苦しくならない?


 ふふふ。ごめんなさい。ちょっといじわるな言葉を使ってしまったわ。


 ただ、これだけは知っておいて欲しいの。私の元に留まることは、今は良くてもルイの未来を考えたとき、決して正解にならないことを。


 ルイの知識なら分かるでしょう?


 ヒトと言う動物は、いくつかの本能に縛られているわ。特に生存本能や生殖本能は、一時的に人が留まることを許容することはあっても、それが永遠に続くことを許してくれない。


 …………いいのよ、ルイ。ほら、泣いちゃダメ。


 一時的な別れは、永遠の別れじゃないわ。それに私は、あなたが成長してくれることに大いなる意義を感じているわ。いえ、喜びを感じるといった方が良いかしら。


 それに――今の私はただの「木」よ。ずっと遠くからあなたの活躍を見守っていてあげる。


 ……ええ。私もあなたのことが大好きよ、ルイ。



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