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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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【閑話】通過点



 side ラヴィン



 ルイが私を見つめているのが分かり、つい視線を外してしまった。


 顔が赤らむのを自覚する。


 年齢だけを素直に数えれば、私はもう老婆と言えるのに、なぜ胸がときめくのだろう?


 もちろん、スキルの誓約によりこの星の「世界樹」としての役割を持つ、トネリコの木へと姿を変えた私は、もう人としての幸せを自分の手に掴むことが叶わないことを分かっている。


 分かっている。分かっているのだけれど…………


 最初にルイを見つけたのは、いつものように休眠から目覚めた直後のことだった。


「始まりの祠」に誰かが転移してきたことを知った。前回は、12回前の目覚めの時だから、千年以上が立っている。久しぶりだ。


 私は、そっと近づき、ドキドキしながらできるだけ驚かさないように注意して声をかけた。


 私がこの島で、トネリコの木として新たな生を得てから、祠を訪れてくれた人は何人もおらず、いずれも私の姿を見ると、制止する間もなく魔草原へと走り去ってしまった。

 他にも、私が休眠中にも転移してきた人はいるはずだが、この島で生存し続けることが容易い(たやすい)ことでないことは確かだった。


 というか、これまで祠に誰かが転移してきたことに気がついたのは、いつも覚醒直後。心の準備ができずに急いで会いに行ってしまったことも、みんなが逃げ出す原因だったのかも。


 だから今回、私は必要以上に気をつけながら祠の上に移動した。


 ルイが走り出さなかったのは、たまたまだったってことは分かっている。もしかすると、驚いて腰を抜かしただけなのかもしれないし。


 それでも、彼を家に招いたとき私に心を許してくれたことは、私にとってこれ以上ない、喜びを感じさせてくれた。



 ■□■□



「かんてい」のひらがなスキルで確認したら、ルイが地球での記憶を失い、そして新たな体に生まれ変わったことが分かった。


 この状況が示すのは、彼が「帰還を望む」転生者であること。


 この異世界に訪れる人々は、いずれも転移や転生を強く望んでいた人。もしもその望みと同等の想いを、元の世界に対して抱えている人は記憶を失うことになる。


 たぶん、それがルールなのだろう。


 だが、ルイが秘めている「帰還」を望む記憶を蘇らせてしまえば、そして目の前にぶら下がっていても決して手にすることができない「帰還」のためのスキルのことを教えてしまうと、彼の人格が壊れてしまう。


 なぜ、それが分かるのか?


 それは、私がそうだったから。


 地球での記憶を取り戻したとき、妹をこの世界に留めるための「選択の時」を提示された私は、「きかん」ではなく「すくう」のひらがなスキルを選び妹を救った。


 そして、その代償としてトネリコの木へと変貌した私は、魔力を回復する力を失うこととなった。

 おそらく「辛抱する」を意味する「しんぼう」のひらがなスキルを持っていなかったら、私も心を壊していただろう。


 まあ、それらは全て過ぎたことだ。今となっては、セピア色に彩られた埋もれた思い出に過ぎない。


 とにかく、私は自分でも不思議なぐらい、ルイに関わろうと決めていた。



 ■□■□



 百年に一度、休眠から目覚めて過ごす一か月の時間で使用する魔力は多くはない。たぶん100ぐらい。ひらがなスキルだけを使うならば、消費する魔力はたかが知れている。少ないときは10ぐらいしか消費しなかったこともある。


 だが、ルイと共に()()()()()()()()()今、残された魔力が10,000を切っていることを考えると、残された時間は約10年といったところだろうか?

「じったい」と「つうはん」で使う魔力は一日で2。これが最低限の魔力消費となる。


 今まで通りの休眠と覚醒を繰り返せば、まだこれから幾千年の時を超えることはできる。だが、すでに私は、手から零れた人との触れ合いを、もう一度、掴んでしまった。


 もう、これを手放すなんてことは、とても考えられない。


 特に、時間が経てば経つほど、ルイに対する淡い思いが膨らんでいるのがわかる。


 もちろん、彼に私に残された時間が有限であることを話すつもりはない。


 私が私の残された時間を好きに使うことを、彼はたぶん容認してくれない。


 いや、容認はおかしいか……


 ルイが、私が自身の消滅引き換えにルイと過ごす時間を選んだことを、心の重荷にするかもしれないことが心配なのだ。


 いや……それも違う?


 もしかすると、私の残された時間にルイが意味を見出してくれることを期待しているのかもしれない。


 ――悲しんでくれる?


 ――寂しがってくれる?


 それとも……


 まあ、いい。


 全ては、私自身が決めて実行するだけのこと。


 できれば、私が最後の時を迎える前に、彼をこの島から脱出させたい。


 いや違う。脱出させなければならない、だった。


 ルイが少なくない好意を私に向けてくれていることは気がついている。もちろん、その好意は男女の間というより親子の間で通う感情に近いと思う。

 そして、もしも私が消滅することをルイが知ったら、どう思うのか……


(ふふふ……)


 自分の抱える浅ましさに、少し笑いが漏れてしまった。


 間違いなく私は、ルイに悲しんで欲しいと考えている。その考えに向き合いたくはないけれど、私にとってそれは、多くのものを失ってきた私には心の安寧につながる。


 でも……


 だからこそ、ルイが私に向ける好意が分かるからこそ、ルイは、消滅した私ではなく、生きた私と別れを迎えることが必要だ。


 失う哀しみは、私が良く知っている。別れる前にルイにその想いを抱えさせて満足できるのは、ルイではない。私だけだ。


 一度、離れてしまえばこの島に戻ってくることは容易くはない。長い長い時間が必要になるだろう。そして、その長い時間を経ることは、想いを昇華させることに役立ってくれるはずだ。


 だから……


 ルイと()()()()()別れるために必要な最終手段、「転移石」は私の「しゅうのう」の中でいくつも保管している。

 私が、100年に一度、覚醒するたび、情報を得るために現身(うつしみ)を故郷である「ユヌフェ大陸」に転移させていたが、それがこんなことで役に立つとは思わなかった。


 ただ、気になることがあるとすれば、その転移先のことか。


 妖精たちが住む「ユヌフェ大陸」は、人族にとって優しくない。普段は、他の大陸との行き来は年に数回しかないから、一部の集落以外で人族に会うことはない。それに、ユヌフェ大陸に住む人族は、妖精族と対立していない。

 だが、歴史では幾度も、人族と妖精族は戦火を交えてきたことを考えると、ルイがユヌフェ大陸を訪れたとき、素直に受け入れてもらえるかが分からない。


 だが、ルイは「ぷらすわん」という信じられないスキルを持っている。


 すでに手にした各1,000ものステータスがあれば、そして私がスキルを譲渡すれば、エルフやドワーフ、鬼族たちの中で過ごすことも難しくはないはず。


 だから、ユヌフェ大陸に転移させる方法は、この島から脱出するための他の手段が見つからなかった場合の保険として、用意しておくことにしている。

 もっとも、手元にある転移石を使ってユヌフェ大陸へ安全に転移させるためには、三つの月が全て満月で揃う夜を待たねばならない。最大で、約3か月の期間が必要になるから、そこは注意が必要だろう。


 そして私は――残された約10年の時間を、ルイと過ごす時間として使い切るつもりだった。



 ■□■□



 ルイが私に尋ねてくる。


「それで――師匠、もう一度尋ねますが、どこまでステータスを伸ばせばよいでしょうか?」


(どうしよう……)


 もしもルイが望むなら、しっかり準備をしてから転移石を使ってユヌフェ大陸に送り出すことはできる。ちょうど、一週間後には三つの月が揃って満月を迎えるタイミングだ。

 それにすでに、この世界で生きていくための最低限の知識は教えている。


 でも――


「ステータスを伸ばす目標、ね……」


 私は、空を見上げた。頬に赤みが差してくる。


(ダメ……)


 心の中にむくむくと、渦巻くような何かが沸き上がってきたのが分かった。


(まだ、ルイと離れたくない)


 年長であるはずの私が、まだ子どもの姿であるルイに向けても許される感情でないことは自覚している。


 それでも――


 私の、苔がこびりついたような魂が、ルイのキラキラと輝く魂を、強く求めていた。


 温かく優しい、光に満ちたような日々は、私の心を確かに若返らせていたようだ。


 そんな私が口にしたのは――――


「そうね。次は1万――――いえ、5万にしましょう!」


(ちょ、ちょっと、何を言っているの、私!)


「5万?」


 不思議そうな声で、ルイが言葉を返してくる。


(しまった! 5万じゃ、少なかったかも……)


 当たり前だ。「ぷらすわん」のスキルを持つルイなら、5万のステータスは決して難しい課題ではない。

 今のところ、ルイが一日に抜ける魔草の数は約20。それでもあと半年も経てば、ルイのステータスは5,000までに増え、そうなれば一日に抜ける魔草の数は100や200では効かなくなる。


 もっとも、ここは曲がりなりにもダンジョンだ。不測の事態を招かぬよう、一日に抜く魔草の数は50に制限するとルイには伝えているが…………


 一日のステータスの伸びを50までに制限すれば、5万に到達するまで約3年ほど。


(足りない。さっき考えた10年にはぜんぜん足りない!)


 自分でもびっくりするぐらい、ルイと離れたくないと考えている。


 冷静に考えれば、それはルイのためではなく、自分のための願いであることがよくわかっているが、どうにも言葉を止めることができなかった。


「そ、そうよ。1,000あれば確かに弱くはないけれど、強いというわけでもないわ。もしかすると、ど、ドラゴンと戦うこともあるかもしれないでしょう?」


 ない。ドラゴンと戦うことなど、普通はないことを私はよく知っている。


 ドラゴンたちは彼らが住む大陸「ヴイーヴル大陸」を離れることはまずなく、こちらから敵対の意図をもって訪れない限り、戦う機会などあるはずがない。


 だが、私の言葉をどう受け取ったのか、ルイが「????」と首を捻ったのを感じていた。



 ■□■□



「分かりました、じゃあ師匠。5万を目指して頑張ります!」


 キラキラした瞳で私を見つめるルイ。


 ズキリと一瞬胸が痛んだが、ルイ言葉は私の胸に、温かな何かを広げてくれていた。私は、ただ透明な心を意識しながら「ふふふ」と小さく笑った。


(ふぅ……)


 我儘であることは分かっている。


 でも……


 そう、何をどうあがいたとしても、ルイにとって私は「通過点」に過ぎない。

 そもそも、「スキルの誓約」に縛られている私は、ルイの側に寄り添い続けることはできないし、許されない。


 それでも、色褪せたはずのこの世界を再び鮮やかに彩らせてくれたルイには感謝を込めて、これから生きていくための糧を与えてあげたい。


 私は、この一時(いっとき)の時間を共有できたことだけで満足すべきだろう。それ以上を望めば、絶対、ルイに負担を与えることになる。

 ルイのために何をしなければならないのか……


(そのためには……)


 私が「通過点」で、いずれ忘却の彼方に置き忘れてよい存在であることを、どうやって自然な形でルイに伝えられるのかを、私は必死に考えていた――――



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