追憶(22)しゅうのう
(師匠は、何が分かっていない、と言っているのだろう?)
「ひらがなスキルは、基本的に生活スキルか補助スキルになるって話はしたわよね?」
「はい」
「じゃあ、例えば火山に行ってマグマを収納して、それを敵の上で落としたら?」
「……燃やせますね」
「あるいは、大きな流れ星を見つけて時間停止させて収納すれば、運動エネルギーもそのままだから、収納から出せば、そうね、ルイのイメージだと『メテオ』になると言えば分かるかしら?」
(そうか……)
「これは、『しゅうのう』に限らないんだけれど、生活スキルである『ひらがなスキル』も使い方によっては、強力な攻撃スキルになりえるということよ。それこそ、私の『おんがく』も、音を極端に大きくすればちょっとした兵器並みのダメージを与えることができるわ。『あかり』というひらがなスキルは、1億ルクスの灯りを灯すこともできるわ」
「1億ルクス?」
「核爆弾が爆発した瞬間の閃光ね。目を閉じていても失明するレベルになるかしら」
おお…………それは、すごい。
「『しょうどく』を使えば、皮膚の常在菌も腸内の細菌も全てを消滅させられるし、もしも『かんそう』というひらがなスキルが手に入れば、たぶん体の全ての水分を蒸散させることもできるんじゃないかしら」
「そ、それって……」
すごい、じゃなくて、やばいんじゃないか、そこまで出来ちゃうと……
「消毒も乾燥も、普通のスキルとしてあるから、たぶん生えてもおかしくはないと思っている。もちろん、私は持っていないし、本当にそこまでの力があるのかは分からないけれど、地球の知識を参考に使った場合、ひらがなスキルなら出来てもおかしくはないのよ」
「ということは……効果は一定じゃないって、ことですか?」
「ええ。スキルや魔法は、どこまでイメージできるのかが効果に直結するから。なんとなくわかるでしょう?」
「魔法はイメージ」という意味合いは、俺にも分かる。
「とにかく、ひらがなスキルの中には、使い方によって、ものすごい力を秘めたものがあるということ。普通の『収納』スキルでも、似たようなことはできるけれど、マグマや落ちている最中の隕石に触れるのは簡単じゃないし、時間経過は僅かでもあるから、入れっぱなしにしておくと効果がなくなってしまうわ」
「それが、ひらがなスキルの『しゅうのう』だと……」
「ええ。視界に入れば、簡単に収納できるし、座標が分かるスキルが手に入れば、見えない場所のものでも収納できるの。例えば、太陽のコロナも燃えたままの状態で収納できるし、深海10万メートルの海の水も水圧がかかった状態で収納できるわ。それがどれくらい強力か……分かるでしょう?」
「……はい」
「まあ、いいわ。これからいろいろと収納を繰り返してみましょう。ルイなりの特別な使い方が発見できるかもしれないし」
「頑張ります」
俺の地球での知識は、確かに「しゅうのう」の特別な使い方を脳裏に思い浮かべさせていた。
ただ、そのためにはあのスキルが生えないとダメだ。
それでも、可能性が広がったのは確かだ。
そういえば……
「師匠」
「どうしたの?」
「なんで、『格闘』じゃなくて、『しゅうのう』がスキルに生えたんでしょうか?」
「うーん、分からないわね。私も『格闘』が生えると思っていたし……20レベルが上がるたびに、普通のスキルとひらがなスキルを交互に獲得できるのかもしれない。あるいは、ランダムなだけかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「剣の修行中に『剣術』のスキルが生えやすいように、本人が必要としたときに生えるという説もあるらしいから、もしかするとルイが収納のスキルを望んだんじゃないかしら?」
「俺が望んだ?」
そういえば、「収納」のスキルが手に入ればレベルアップがスムーズになるのに、と考えたことがあったな。
俺が今、こうして魔草抜きチャレンジをしている一番の理由は、「強くなる」ことを願っている。もちろん、スキルがたくさん生えるのは嬉しいし、それも目標だ。
でも、スキルが生えるのはレベルアップがあってこそ。
ということは、レベルアップ=魔草を一本でも早く抜くことが、俺にとっての今の一番の望み、ということなのだろう。
(よし!)
「師匠……一つ、お願いがあるのですが……」
「何かしら?」
「『しゅうのう』に魔力ポーションを入れて、魔草抜きチャレンジで使ってみてもいいですか?」
「そうね……」
前に、持って行ってよいかを尋ねた時、即答でダメと言われたが、今回は考えてくれている。
「ルイ。一つだけ、約束できるかしら?」
「はい」
「魔力ポーションを『しゅうのう』に入れて持っていくのは、保険の意味合いにもなるから賛成するわ」
「あ、ありがとうございます!!」
よし、師匠からOKが出た!
「ただ、これだけは約束して。ルイが、どれだけ大丈夫と思っても、私が戻ってと言ったら、途中で中断して戻ってくること。できる?」
「はい! 大丈夫です!」
師匠の言葉は絶対。
「――――油断しない人が油断するときって、どんなときか分かる?」
「…………いえ」
「その人にとって、当たり前のことが起きているときなの。いつもと同じことだから、いつもと同じ結果に結びつく、それが何度も繰り返されて無意識の中で当たり前と考える結果に結びつくはず、という時に起こるイレギュラーを油断と表現することがあるの。分かるかしら?」
「はい」
いつもと同じ始まり、そしていつもと同じ終わり。途中経過もいつもと同じ。それが、いつしかルーチンのように自分の中で捉えられてしまい、イレギュラーな出来事に対応できない、ということか……
言っている意味はよく分かる。
「忘れないでね。『しゅうのう』でできることは限られている、ということを。『しゅうのう』があるから大丈夫、ではないことを」
「……分かりました」
難しい顔をしていた師匠が、にっこりと笑う。
「確かに、魔力ポーションを持っていけば、今よりも倍以上、魔草抜きチャレンジが進むわ。いいわ。それで頑張りましょう」
俺のことを何より一番に考えてくれていることが分かった俺は、黙ったまま深く頭を下げていた――




