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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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18/22

追憶(16)先生!



 午前中、魔草抜きチャレンジを予定通り2クール終えた俺は、部屋に戻った。ちなみに、今日は昨日よりも進歩したのか2クールの合計で30回をクリアした。目標の1時間20回まであと少しだ。


「??」


 今朝までいつもと同じリビングだったはずの部屋は、なぜか教室になっている。


(深く考えちゃいけないな……)


 俺は、顔に出さないように気を付けながら、部屋の中央に一つだけ置かれていた椅子に座った。


 正面には黒板があって教壇には師匠が立っていた。なぜか、スーツ姿で眼鏡をかけている。可愛い。


「今日は最初の授業ね。まずはこの世界のことから話をしましょうか」


「はい、先生」


 先生という言葉に、師匠の目が丸く大きく見開かれた。


「……(いいわね、これって)」


 小さく呟いた師匠、聞こえてますよ。


「まず、この星のことから話すわね」


「星! やっぱりここは星だった!」


「ええ。平面世界ってわけじゃないわ。この世界の物理的な法則のほとんどは、地球の知識で考えて大丈夫よ。ただ、地球とは科学に必要な『材料』が異なるのだけれど。ルイは確か、知識はあるのよね?」


「はい」


「それで――まず、この星の大きさなんだけれど、地球の知識に置き換えると太陽の直径を5倍くらい大きくした星と考えれば良いかしら?」


 師匠が、大きな丸と小さな丸を黒板に書いた。


「太陽? って、この星はものすごく大きいってことですよね?」


「ええ。そうよ。直径は人体比で2,000万キロ、一周が6,000万キロの天体、といったところよ」


 大きい。すごく大きい。


 でも……


 俺の知識が、何かを否定している。


「でも……それって、重力がめちゃくちゃ凄いのでは?」


 そう、それだけの大きさの天体で地面があるということは、星の密度もかなりしっかりしているはず。ということは、たぶん対地球比での重力は1,500Gぐらい、と俺の中に眠る知識がすぐに計算結果を出していた。


「だから人体比で、ということよ」


「人体比?」


「地球で蟻と象の体重を比較すると、どれくらいだったか覚えている?」


「えーっと……」


 蟻の体重がグラムで象がトンで表されることは僕の知識が教えてくれたけれど、体重までは分からない。グラムとトンで比較すると1:1,000,000になるから……


「1千万倍くらい?」


「違うわ。蟻が数ミリグラムで象が数トンだから、約10億から30億倍ぐらいの差があるの」


 ワオ! それは凄い。


「でも、蟻も象もその身で受けている重力は人と同じ1G。骨格とかの影響もあるのだけれど、蟻が重力で押しつぶされることはないわ」


「はい」


「この世界で私たちのサイズは、蟻と同じサイズと考えれば良いかしら。この星のサイズは、私たちから見れば、膨大な大きさに見えるけれど、1日は24時間だし、1年は360日で、私たちを蟻と思えば、天体のサイズはほぼ地球と同じと考えてよいのよ」


「じゃあ、ここを地球と考えると、俺たちは蟻のサイズの大きさで存在しているってことですか?」


「そう、その通りよ。月は三つあるし、大気圏の範囲も地球と比べて一千倍以上の高さになるけれど、ここは平面世界なんかじゃない、ってことだけ覚えておくといいわ」


「なるほど……」


「そして、この星には7つの大きな大陸と、数多くの島々がある。各大陸ごとに住人の多くを占める種族が違っているの」


 7つ、と聞くといくつかの知識が浮かんできた。


 七つの大罪、七つの美徳、七福神、七曜、ラッキーセブン……まあ、大陸とは関係ないか。


「ルイが召喚されたボクゥゲンス大陸は人族が中心になるわ。世界で三番目に大きい大陸よ」


「召喚されたとき、横幅が5万キロ、縦幅が3万キロと聞きました」


「そうね。地球で言うと、場所はアメリカ大陸の位置と考えるとよいかも。アメリカ大陸と形は違うけれど。そしてボクゥゲンス大陸には38の国があって、ルイが召喚されたルウェスト王国は大陸の西に位置しているわ」


「人族以外の大陸もある、ってことですか?」


「ええ。人族の他には、魔人族、獣人族、妖精族、亜人族、ドラゴン族がそれぞれ集まっている大陸があって、あと一つの大陸は全ての人種が入り混じっている大陸ね」


「亜人族にドラゴン族……?」


「ルイの知識で言えば、亜人族はゴブリンやオーク、オーガといえば分かるかしら? ドラゴン族は、巨大なドラゴンたちよ。竜人もいるけれど、ドラゴン族じゃなくて魔人族の仲間になるわ」


「亜人族って、人族と交流ができるんですか?」


「亜人族は魔物と人族がミックスした種族で、ちゃんと社会を構築できているわ。ルイは女性を拐して凌辱したり繁殖に利用するといったイメージを持ったのかもしれないけれど、それは地球でも近代での創作話よ。異性に不埒なことをしようとする個体は、どの種族にもいるのは分かるでしょう?」


 なるほど。確かに、異性を襲う個人は地球でも普通にいた。妙な知識で偏見を持つことは危険だな。


「じゃあ、エルフやドワーフなんかもいるんですか?」


「いるわ。エルフ、ドワーフはどちらも妖精族の種族ね」


「神族とか悪魔族は?」


「神族と悪魔族はいないわね。ルイが何をイメージしているのかは想像できるけれど、この世界では、常に世界を滅亡させようとしているような危ない種族はいないわよ。もちろん、宗教的な考えで、そういった危険な思想を持つ団体は世界の各地にいるけれど、その危険な考えは、種族特有の性質ということじゃないわ」


「魔人族も?」


「ええ。角と牙を持つ人族と思えばいいかしら。獣人族なら耳と尻尾、妖精族なら背が低くて髭が濃かったり、耳が少し長い人族って感じね」


「どこかの種族が、世界を征服しようとはしていないってことでいいんですか?」


「そうね。社会を構築している種族は、いずれも争いはあっても秩序を守ろうとしているわ」


「じゃあ、世界を滅ぼそうとする魔王もいないんですね」


「ええ。魔人族の王は『魔人王』と呼ばれているけれど、ルイが考えるような超常的な意味での『魔王』はいないわよ」


 なるほど。この世界は、意外と平和みたいだ。


「ルイのイメージだと、種族の違いは宗教の違いと考えればいいかもしれないわね。もちろん、力で比較すると獣人族が一番強いし、魔力は魔人族、魔法や鍛冶は妖精族といったように、種族ごとの特徴はあるけれど」


「地球でもいた『悪人』は、いるんですよね?」


「もちろん。争いが皆無ということはないし、種族ごとの争いもある。同じ大陸内では、各種族ともしょっちゅう戦争を起こしているわよ。でも、本格的な大陸間同士の紛争が起きない一番の理由は、テリトリーが完全に区分されていて、そしてテリトリー間の移動が簡単じゃないから、と思えばいいわ」


「そういえば、召喚された国がある大陸から一番近い大陸までは、地球の単位で言うと50万キロあるって言っていました」


「そうね。この世界の移動方法で考えると、大陸間の移動は年単位が必要になるわ。地球の感覚だったら、他の大陸に行くのは月に行くのと同じぐらい大変と考えてちょうどいいわね。しかも空も海も魔獣が回遊しているし」


 なるほど。他の大陸を侵略しようとすると、数年単位で軍隊を移動させ、しかも魔物が巣くう海原を越えていかなければならないということか。ちょっと無理だな。


「そういえば、この島は、世界のどのあたりにあるんですか?」


「地球のイメージで言えば、太平洋のど真ん中と考えればいいわ。一番近い大陸まで500万キロぐらいかしら? 滅多に人が来ないのが分かるでしょう?」


 500万キロ!! 地球だったら月までの距離を10倍したよりも遠い。


 うん、無理だな。というか、滅多でも人が来ているなら凄いと思う。


 数年どころか十年以上かかりそうな場所にある島、しかもようやくたどり着いたら魔力を奪われて死にそうになる島を目指す人が誰もいないのは当然だろう。


 移動のための超強力なスキルを持つ誰か、あるいは魔力を使わない移動手段、例えば超高速、あるいは長距離の移動が可能な科学的な動力で動く飛行機のような手段が作れるなら、また違ったのかもしれないけれど……


「ルイが、何を考えたか分かるけれど、この世界に訪れた地球人の中には科学文明を定着させようとした人もいるの。でもそれは実現しなかった。なぜだか分かる?」


(いたんだ、飛行機を作ろうとした人。でも無理だったってことか。なんでだろう?)


「動力を生み出すための、石油や原子力といった燃料がこの世界にないからよ。太陽光は使えるけれど、リチウムが見つかっていないから地球の技術で効率的な蓄電池は作れなかったわ。それに、蓄電池を使わない、例えばソーラープレーンは、地球でも旅客機として運用するのは無理だったし、何より空中は魔獣が襲ってくるわ」


 どうしても俺は、地球の知識を基盤に物事を考えてしまうけれど、それを前提にするための材料がこの世界には整っていない、ということだな。

 最初に師匠も、「この世界の物理的な法則のほとんどは、地球の知識で考えて大丈夫よ。ただ、地球とは科学に必要な『材料』が異なるのだけれど」と言っていた。その「異なる材料」というのが、石油だったりリチウムだったり、ということなのだろう。


 気を付けよう。


「じゃあ、あとはボクゥゲンス大陸の各国について説明して、午前中の授業は終わりにしましょう」


「はい、先生!」


 師匠の頬が赤くなる。可愛い。


 やはり、師匠は「先生」と呼ばれることが嬉しいみたいだ。



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