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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第三章 天下無双剣闘会

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【さげる】


「コーーーーッ」


 空気が抜けるような音を出しながら現れたのは、王冠を被ったリッチ。エルダーリッチだ。

 3メートルはあるだろう骨の巨体は、豪奢なマントを背負い、襟が高く設計されたガウン・チュニックには金糸が使われているのが見える。


 俺は、急いで二人が眠るテントを叩いた。


「セシリア、シヴァニ、敵だ! 起きろ!」


 ガサゴソという音とガシャンという音は、慌てて何かをひっくり返したのが分かる。


 エルダーリッチは、ゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。


「コーーーーッ」


 距離は70メートルほど。まるで俺たちが戦闘態勢に入るのを待つかのように急がずに近づいてくる。


「敵って!」


 最初に飛び出してきたのはセシリア。しっかりと鎧を身に着けて戦闘態勢が出来上がっている。

 続いてシヴァニ。顔が少し青くなっているのは寝起きをいきなりたたき起こされたからだろう。たたき起こしたのはセシリア。彼女はこうしたときに遠慮がない。

 というか、敵の急襲に遠慮を見せているのではダメだが。


「あれは!」


 エルダーリッチが近づてい来るのに気がついたセシリアは、剣を構えた。


「エルダーリッチ。この迷宮のボス」


 そう、目の前に現れたエルダーリッチは、本来はこの迷宮の最下層で冒険者たちを待つはずのボスだ。

 なぜ、こんな途中の階のモンスターハウスに現れたのかが分からない。


 しかも、今、このモンスターハウスはデュラハンを一掃して魔素をいったん散らした状態だ。俺たちが全員、この部屋から退場しない限り、魔物や魔獣を生み出すための魔素が蓄積を始めないはずなのに…………


「ぼ、ボス?」


 セシリアの隣で剣を構えたシヴァニだが、その手が震えているのがわかる。


 それも仕方がない。



 種別:エルダーリッチ

 レベル:800

 攻撃力:8,000,000

 魔力 :8,000,000

 防御力:8,000,000

 精神力:8,000,000

 運  :10


 スキル:【暗黒弾(★★★★★)】、【無効(★★★★★)】



 SSSランクを軽く上回るその力は、50倍にブーストさせたセシリアのステータスよりも高い。

 シヴァニにいたっては、まともにぶつかれば瞬殺されるのが間違いない。


 しかも――


 やっかいなのは、そのスキル構成。


 まず【暗黒弾】というスキルが★が5つ。魔力を固めてぶつけるスキルだが、これを防ぐためには「防御力」と「精神力」の二つが重要になる。

 だが、ブーストさせてようやく魔力が60万、精神力が120万のシヴァニはもちろん、魔力が600万台、精神力が700万台のセシリアでも、仮に【限界突破】を使って今のステータスを10倍にしたところで、★5のスキルを防ぎきるのは難しいだろう。


 こちらからの攻撃も、やっかいなことに★5の【無効】スキルを持っている。【限界突破】を重ねたセシリアの「剣聖」を使った剣技でようやくダメージが届くかどうか、といったところか。


 ただ――――


 まともに戦ったなら、勝ち目を探すのが難しいエルダーリッチだが、俺の【まもる】のスキルが生きている以上、負けることもない。

 俺が使うひらがなスキル【まもる】は、俺の50兆以上のステータスを参照している。

 エルダーリッチの「攻撃力」「魔力」との差は数百万倍。言ってしまえば、エルダーリッチがレベル1しかない子どもの攻撃を受けたらどうなるのか、という世界だ。もちろんエルダーリッチが傷一つつくことはない。


 それと同じだ。


 ただ、だからといってこちらからの攻撃が通じなければ、勝つことも難しい。


 なので……


「よし、頑張れ!」


 俺は、二人に発破をかけた。


「え?、で、でも……」


 シヴァニの腰は完全に引けている。というか、震えが止まらない状態だ。

 セシリアはさすがに引くことはないが、力差は分かっているのだろう。唇をかみしめている。


「ルイ、どう戦えば良いの?」


「大丈夫。いつも通りで」


「え? いつも通り?」


「うん」


 そして俺は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるエルダーリッチにスキルを発動させた。


「【さげる】!」


 エルダーリッチが半透明の空気に包まる。

 慌てたのか、急いでその空気を振り払おうとするエルダーリッチ。


 まあ、もうスキルはかかってしまったから無駄なんだけれどね。


「【さげる】? もしかして?」


 ボイズンドラゴンを討伐する際に使った【ていし】と【さげる】のことを、セシリアは覚えていたようだ。


「うん。前にボイズンドラゴンにかけたあれだよ」


「そ、それって?」


 震える手で剣を握りながらシヴァニが尋ねてきた。


「デバフの力を持つスキルかな。全部のステータスを下げるスキルなんだ」


 そう、俺が今かけたスキルは、ステータスを下げるひらがなスキルだ。稀に自分に使うこともあるが、ほとんどの場合は戦う相手に使う。


「ところで、どれだけ下げたの?」


「えーっと……千分の一?」


 俺の言葉を聞いたセシリアが「えっ?」と呟き、振り返った。


 ここで手加減して、万が一のことがあったら困るからね。

【かんてい】で見ても、特殊なスキル、例えば攻撃した相手に呪いをかけるようなスキルは持っていないことを確認しているけれど、イレギュラーには気を付けたい。


「…………エルダーリッチの元のステータスは?」


「オール800万」


「で、今は?」


「オール8千」


「そ、そう……確かに、千分の一、ね」


 もちろん、ステータスが8,000というのは、今のセシリアとシヴァニから見ればもう敵じゃない。でも、本当はステータスが8,000と言うと、Sランク一歩手前の強さだから、決して楽に倒せる相手じゃない。


 それでも、数十万、数百万にブーストされた二人にとっては楽に倒せる相手と言って良いだろう。


 つまり――――


 経験値の「かもねぎ」だ。

 なぜ、ここに突然、この迷宮のボスが現れたのかは不思議だが、二人のレベリングを考えれば、これ以上においしい話はそうないだろう。

 もしかすると、ボスのクローンのようなものかもしれないが、倒せばその経験値は、ボスの千倍分が手に入る。


「ほら、シヴァニももう平気だから」


「え?」


「ほら、じっくり見て」


 俺の言葉にエルダーリッチを睨むシヴァニの手はもう震えていなかった。


「平気みたい、です」


 ステータス差で無意識のうちに威嚇されていたのが、ステータス差が逆転したことで平気になった。

 もちろん、【暗黒弾】の★5が減ったわけじゃないから、攻撃は相変わらず脅威なんだけれど、それも【まもる】があるから問題ない。


「とにかく頑張って。二人とも」


「「はい!」」


 二人が剣を握る手に力を込めると、その返事を待っていたかのように、エルダーリッチが急速にこちらに近づいてきた。



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