修行する場所
すでに【かんてい】のスキルでシヴァニのステータスは見ているけれど、「【鑑定】スキルを使って、ステータスを確認させてもらってもいい?」と、事後承諾?は得ておく。ごめん。
「うん」
シヴァニが頷くのを確認してから俺は、鑑定したふりをして、うんうんと頷いた。
「職業は――神官か。だったら……」
「師匠、どこの迷宮に行くんだ――行くんですか?」
敬語の必要はないと言っているのだが、本人は気にしているようだ。まあ、彼女はこういったことに慣れていないことが分かるぐらい年相応には見えるから、俺からすると言い間違いも可愛らしく見える。
「うん。行くのはエァフズマイズ迷宮にしようと思う。そこで修行しよう」
「はっ?」
シヴァニが、素の状態で変な声を出した。
「エァフズマイズ迷宮って――――あのエァフズマイズ迷宮?」
「そう、そのエァフズマイズ迷宮」
「…………」
シヴァニは完全に固まってしまった。横では、セシリアが不思議そうな顔を見せている。
「ルイ。シヴァニがびっくりしているけれど、エァフズマイズ迷宮ってどんなところなの?」
「スヴァルタルにある、特級迷宮だよ」
「スヴァルタル? って、シヴァニの故郷?」
「そう。ダークエルフの国。ちなみに特級迷宮は、スヴァルタルの中で最高難易度の迷宮のこと」
ダークエルフの国であるスヴァルタルでは、出現する魔獣によって迷宮のランク付けがされており、一般迷宮、下級迷宮、中級迷宮、上級迷宮、そして特級迷宮の5段階に分けられている。
特級迷宮は2つあるけれど、その一つがエァフズマイズ迷宮と呼ばれる迷宮だ。スヴァルタルではもっとも難易度が高い迷宮となっている。
「……し、師匠」
ようやくシヴァニが声を出した。
「エァフズマイズ迷宮は無理。それに時間も……」
「ああ、時間は大丈夫。【転移】スキルを使って向かうから」
「え? 【転移】スキル?」
「一か月で黄角を目指すなら、経験値をしっかり獲得できないと無理だからね」
「…………」
「ルイ、その迷宮って、どんな魔物が現れるの?」
「ゴースト系かな。だからシヴァニにはもってこいの迷宮だと思うよ」
エァフズマイズ迷宮は300階層の大迷宮だ。もちろん、今回は深部に潜るつもりはない。せいぜい20階層ぐらい?
それでも、Sランクの魔獣は現れるから、十分な経験値を得られるだろう。そして、シヴァニの今のステータスなら、300を越えれば俺の補助がなくてもSランクの魔獣を倒せるようになるはずだ。
シヴァニの職業は【神官】だ。今のところ、聖属性は【結界】のスキルしかないが、レベルが上がれば、エンチャント系のスキルも入手できるはず。
ゴースト系が主体のエァフズマイズ迷宮ならば、聖属性付与ができれば、【剣技】で十分攻略できる。
もちろん、最初は俺が聖属性を付与するから、安心・安全なレベリングができるだろう。
今回は、シヴァニが迷宮攻略の中心だけれど、取得経験値が増やせる【けいけん】のスキルは、セシリアにもかけようと思っているから、少しはレベルアップもできると思う。
「……師匠、エァフズマイズ迷宮は特級だから、オレは入れない、です。メリディナル家からの申請では半年以上かかるし……」
「大丈夫、大丈夫。任せておいて」
このボンヌでは、迷宮に潜るのは自己責任という意識が強いから、どの迷宮でも入り口で待つ「吟味役」の御眼鏡に適うことさえできればステータスに関係なくフリーで入場できる。しかも「吟味役」に勝利する必要はない。一定の力を示して、認めてもらえればそれでよい。
だが、ダークエルフの国では、ステータスによって迷宮の入場に制限を設けている。
特級の迷宮に入場するために必要なステータスは、攻撃力、魔力、防御力、精神力のどれか一つでも5,000を越えていなければならない。
また、ダークエルフ族以外が入場するためには国の許可を事前に求める必要がある。今の鬼人族の姿なら申請はできるが、人族の姿に戻ったら申請すら受付けてくれなかったはずだ。
シヴァニは名前を見る限り、「メリディナル家」の子女だと思うけれど、ダークエルフの国で鬼人族の扱いは高くない。というか、ダークエルフ族以外は、皆同じだ。
だから、鬼人族の一族であるシヴァニが、迷宮への入場を家の力で申請しても半年はかかるというのも仕方がない。
でも俺は、正規の手続きでも不正規の手続きでも入場はできるから大丈夫だ。もちろん今回は時間がないから、不正規の手続きでの入場になるが、誰も気がつかないはずだから問題はない。
「そ、そう……ですか?」
首を捻るシヴァニに、「ルイに任せておけば大丈夫よ。たぶん」と話しかけるセシリア。
たぶん、は余計と言いたい。
■□■□
その後、午前中はシヴァニの動きを一通り確認してから俺たちは宿へと戻り、昼には宿を発つことにした。
一週間分の宿代を先払いしていたのだが、女将は親切にも返金してくれた。
今後、国境の宿場町、ヴィルフロンに来ることがあれば、この宿を利用したい。
シヴァニが追い出された料理屋にも謝りに行かせた。すんなりと謝罪を受け入れてくれたのは、シヴァニがきちんと謝ったからだと思っている。決して、後ろで見ていたセシリアの白角のせいではない。はず。
そして、俺たちはこの街を訪れた時とは違う街道――スヴァルタルに向かう南の街道を歩き始めた。
「――師匠。どこまで行くんです?」
スヴァルタルへの街道は、フェへの東の街道とは違い、南からの特産物を曳く馬車も多く通っている。
「すぐ、そこ。人目がつかない場所まで、かな」
「は、はい」
どうもシヴァニは、俺の言葉に顔を引きつらせることが多い。それでも、嫌な顔をしないだけましか。
ちなみに、セシリアは泰然自若としている。落ち着かないシヴァニを見て自分だけじゃないことを安心したのかもしれない。
やがて――
「ここだ、ここ」
街道が長い森の中に入って、行き交う馬車の姿も見えなくなってから俺たちは、脇の小道へと入った。
「ルイは、この道を通ったことがあるの?」
「うん。この先には小さな遺跡があるんだ。せっかくだからそこを確認してからスヴァルタルに移動するよ」
「わかったわ」
「遺跡? ですか?」
セシリアは納得したようだが、シヴァニは不思議そうな顔をしていた。
「そう。ああ、まだ言っていなかったっけ? 俺たちは、各国の遺跡を見て回ろうとしているんだ」
「遺跡を見て回る? 何か探しているんですか?」
おう、鋭い。
「ちょっとね」
言葉を濁したが、シヴァニはそれ以上、突っ込んではこなかった。
そのまま、人気がない小道を黙々と進む。木々が繁る道は、ほとんど獣道に近いが、不思議と道は塞がっていなかった。
やがて――
陽がかなり傾いたころ、俺たちは木々が途切れた場所に出た。100メートルほどの空間が広がっている。
「あれは……?」
セシリアの視線の先には、中央にポツンと立っている祠があった。




