目標
「あ、ありがとう、、、ございました」
息も絶え絶えになったシヴァニが、修練場の地面に大の字で寝ころんだまま、小さく頭を上げていた。
寝たままで首だけ捻りながら上げるとは、器用な奴だな。
横ではなぜかセシリアが満足そうに頷いている。
「で、納得した?」
「ああ、いや……はい」
立ち会ったのは一時間ぐらいか。剣を振る際、もっとも疲れるのは「空振りが連続した時」だ。
俺はそれを知っていたから剣は合わせずに、回避し続けた。
途中で、シヴァニの顔色が青くなり始めたのは気がついていたが無視。
たぶん、ストレスも相当たまっただろうに、それでも剣を振り続けた気力だけは大したものだ。
やがて……
しばらく呼吸を整えてから「ふぅ」と小さく息を吐いたシヴァニは起き上がり正座した。
そして、俺を真っすぐに見てから、正座したまま頭を下げた。
「師匠、オレを弟子にしてください」
「は?」
目が点になる。
「俺は黒角だけど?」
「関係ありません。強さは必ずしも角の色に現れない、と昔の偉人が言ったそうです」
「ゑ”」
変な声が出た。
(昔の偉人? って、俺?)
そう、昔この国を訪れた時、偉そうに説教してきた白角の強者を叩き伏せたときに俺が言った言葉だ。
確か……ルフという戦士だったっけ。そういえば、このボンヌの国の国王の名前もルフだったけど、ルフと言う名前は珍しくないし、偶然だよね?
「ルイ、いいんじゃないかしら。角の色で決めつけないのは伸びしろも多いと思うわ」
セシリアが頷いている。どうやらシヴァニの言葉が、勇者の気質のどこかに響いたようだ。確かセシリアは、「勇者」として苦労したことがあったようだから、似たような経験があるのかもしれない。
「弟子になるなら、セシリアの方がいいと思うけれど?」
「いえ。オレは師匠がいいです」
真っすぐに俺を見つめるシヴァニ。
俺の目的は、誰かを鍛えることじゃない。この大陸に残した俺の師匠の足跡をセシリアと共に辿ることだ。
とはいえ、時間の縛りがあるわけじゃないことは確かだ。
(まあ仕方がないか……)
真っすぐなその心根は見所があるし、セシリアも望んでいるようだし。
「じゃあ……とりあえず剣闘会までの限定なら……」
「ありがとうございます!!」
しっかりと丁寧語になっているシヴァニ。たぶん、これは強いものに従おうとする鬼人族の性質なんだろうな。
■□■□
翌日。
「それで? 目標は?」
昨夜は、シヴァニも同じ宿に泊めようかと思ったのだが、「師匠と同じ宿に泊まるなど恐れ多いです」と本人に固辞された。
まあ仕方がないか。
結局、近くの他の一般宿で宿泊したシヴァニは、朝から俺たちの宿に押しかけてきたので、セシリアを連れて街の外へと向かうことにした。
昨夜の修練場を使ってもいいのだけれど、特に剣闘会が迫ったこともあるので、日中は観客も多いらしい。俺は黒角だから、あまり目立つことはしたくないからね。
なので、まずはシヴァニの目標を聞いて、それに見合うプランを作ろうと思っている。
歩きながらシヴァニにその目標を尋ねると……
「オレは、決勝トーナメントには出たいです」
どうやら彼女は、はっきりとした目標があるみたいだ。
ちなにに「天下無双剣闘会」は、まず予選が行われて18名の決勝トーナメント出場者を選ぶ。
予選はAブロックからFブロックまでの6つのブロックに分かれて、各ブロック3名が残るまで戦うバトルロワイアル戦だ。
仮に1人しか残らなかったら、2名の出場枠は不戦敗枠となる。全員が倒れたら不戦敗枠が3つ。
あとは、序列10位までの選手を加えて28名での決勝トーナメントが実施される。
序列10位の予選免除者のうち、序列1位から序列4位まではシード枠になる。
したがって、この決勝トーナメントは1回戦、2回戦、準々決勝、準決勝、決勝の最大5試合を勝てば優勝だ。
そして優勝者は最後に、最終戦となる召喚された魔獣、羅刹と戦う「羅刹戦」に勝てば「天下無双剣闘士」の称号を得られることになる。
なお、魔獣羅刹は、ステータスが呼び出す優勝者と同じとなるため、スキルを十全に使える勇者の方が圧倒的に有利だし、過去、羅刹戦で負けた優勝者は、決勝戦で大けがを負った者が数名と、ほんの僅かしかいない。
もしも、優勝者が羅刹戦に敗れたとしても、羅刹を封印できる「勾玉」があるから問題はない。羅刹戦に勝てないと「天下無双剣闘士」の称号は凍結されるけれど、優勝者は体調を整えてから再戦することもできる。
少なくとも俺が知る限りでは、翌年の「天下無双剣闘会」まで羅刹戦に勝利できなかった優勝者はいなかったはずだ。
どうやらシヴァニは、この決勝トーナメントに出場することを目標としているようだ。
「序列戦の出場枠獲得、じゃないの?」
「緑角で、それは無謀かと」
決勝トーナメントで予選を免除された序列者に勝利した者は、その後に開かれる「序列戦」への参加が認められる。
この「序列戦」では、序列50位までを加えた戦士たち、下位から上位の戦士へと順番に戦い、勝った相手の序列を奪うことができる。
この序列戦へは、他にも出場枠があるので、最終的に出場者は101名。
つまり、100人組手のようにもしも100連勝ができれば晴れて序列1位を手にできるというわけだ。
この「序列戦」への出場者は、最低でも黄角が必要とされている。人族の冒険者ならBランクといったところか。
まあ、確かに「緑角」の強さなら、ステータスは一般的に1,000前後だから、序列戦はもちろん、本当なら「天下無双剣闘会」の決勝トーナメント出場も無理だろう。
最低でも各ステータスが3,000近くないと、決勝トーナメントに勝ちあがるのは難しかったはずだ。
(ステータス、3,000か……)
まあ、無理ではないか。
「セシリアはどうする?」
「え? 出てもいいの?」
ムズムズしていたし、セシリアが出たがっていたことはわかっているからね。
「構わないよ」
「じ、じゃあ出てみようかしら」
仕方ないわね、と言ったセリフと嬉しそうな表情が合っていないところが可愛い。
「よし、じゃあシヴァニはまず黄角を目指そうか?」
「黄角?」
「そう。間に合うならオレンジまで行けるといいかな」
「え?」
俺の言葉に、シヴァニが目を丸くしていた。
「とにかく、まずは迷宮に潜ろう」
「今から?」
「そう。今から」
「なんの準備もしないで?」
「準備? 体一つあれば大丈夫」
「…………」
少しシヴァニの腰が引けているように見えるのは、たぶん気のせいだろう。
読んでいただき、ありがとうございます。
更新日ですが、次話より、毎週、火・木・土の3回にさせていただきます。
次話は、9/8(火)となります。
少し仕事が詰まってきているので、すいません。
よろしくお願いいたします。




