修練場で
名前:シヴァニ・メリディナル
種別:鬼人族
年齢:16歳
性別:女
職業:神官
レベル:84
攻撃力:1,008
魔力 :1,092
防御力:991
精神力:2,016
運 :11
スキル:【剣術(★★★)】、【結界(★★)】、【灯り(★)】
名前には、「メリディナル」と名字がある。鬼人族の場合、名字は家名を現わしているから、ダークエルフ族の国であるスヴァルタルの中では、有力氏族なのかもしれない。
職業やレベルは、まあまあといったところか。緑角らしい数値だと思う。
特筆すべきは、精神力だろう。これだけが突出している。
防御力が低いからパラディンのようなガードタイプではないが、職業も神官だし、スキルに【結界】もあるから、守りを重視して斬る、といった戦闘スタイルが合っていそうだ。
「シヴァニは、どうやって戦っているの?」
「どうやって、って?」
「剣闘会に出るなら、何か得意技は?」
シヴァニは両手を握って、目の前で斜めに振った。
「オレは、こうやって、ビシバシと斬るだけだ」
ああ、なるほど。彼女は脳筋タイプだったわけだ。
「シヴァニは、守る力が強いはずだから、守って殴るという方法がいいかもしれないよ」
「守って殴る?」
「うん。守れるスキルを持っているんじゃない?」
「【結界】は持っているけれど、あれはあんまり役に立たないぞ」
シヴァニが首を捻る。
「【結界】のスキルは、どうやって使っているの?」
「普通に発動させえているだけだけど」
「そう。じゃあ、これからは三重にしてみたら?」
「三重?」
不思議な表情を見せるシヴァニ。これまで同じスキルを重ねる、ということをやったことがないようだ。
「【結界】のスキルって、箱型にしている?」
「なんだ、それは。【結界】は箱型以外で作れるのか?」
どうやらスキルのイメージが固定されているようだ。
「うん。例えば盾のように作ることもできるんだ。箱を重ねるのは難しいかもしれないけれど、盾なら簡単に重ねられるんじゃないかな」
「そうなのか?」
「うん。それと盾型にした結界は、できれば密着させるんじゃなくて、少しだけ空間を間に挟むと良いかも」
「空間?」
どうやら「衝撃の分散」というものが分かっていないようだ。
結界は、その結界の強度を上回る攻撃力であれば破ることができる。【結界】が依存しているのは、防御力じゃなくて精神力のステータスだから、2,000を越えるシヴァニの精神力なら、攻撃力のステータスが武器込みで2,000を越えない鬼人族の攻撃でも防げるだろう。
2,000を超えていたとしても、盾型で3枚も重ねればかなり粘れるはずだ。盾と盾の間に空間を設ければ、さらに強度も増すからね。
たぶん攻撃力が倍の4,000までのステータスを持つ者だったら、一撃で斬られることはないはずだ。ステータスのレベルなら200前後の強者でも相手にできる。
「そう。相手の初激をまず盾で防ぐ。剣を振り切ってしまえば、僅かな硬直時間が生まれるから、そこを後手で攻撃するんだ」
「でも空間を間に挟んだら、強度がなくなるだろう?」
「違う。結界を剣で斬ると、その衝撃は空間があると空間内で分散されるからね。もしも密着させていたら、最初の結界を斬った衝撃の全てが二枚目の結界にぶつかるから破れやすくなるんだよ」
「……それって、本当か?」
その時、セシリアが横から声をかかけた。
「ルイの言うことは聞いておくとよいわよ。私も、ルイのお陰で力をつけることができたのだから」
「そうなのか」
「ええ」
少しの間、シヴァニはセシリアを見ていた。
そして今度は俺の方を向いた。
「じゃあ、なぜお前は……いや、貴方の角は黒なんだ?」
言葉を丁寧にしたところを見ると、意固地ではないのかもしれない。
「角の色と力は必ず一致するわけじゃないからね?」
「…………一度、オレと手合わせをお願いしてもよいか?」
その目は力を得たいという願いが滲み出ているように見えた。
セシリアも俺を見て頷いている。
たぶん、シヴァニの願いに共感するものを感じたようだ。
まあ、仕方がないか。
■□■□
「じゃあ、やろうか」
「お、お願いします」
向かい合った俺とシヴァニが礼をする。
ここは、修練場。
鬼人族は、武の修練は日常生活の一部でもあったので、村であっても修練場は設けられている。
もっとも照明が常設された24時間利用可能な修練場は大きな街にしかないが、ヴィルフロンは大きな宿場町だったので、東西南北にそれぞれ一つずつの修練場があった。
今、俺たちがいるのは、南側の修練場。
夜間の修練場は空いている。日中なら見学者も多いが、この時間は酒のつまみで見ている者ばかりだ。
俺たちが手にしているのは、修練場に置かれている木剣だ。
「がんばれよ~」
観客席から、のんびりとした酔っ払いの声が聞こえた。
セシリアがチラリとその声の方角を向いたが、特に何も言わずに片手を上げて振り下ろした。
「はじめ!」
ちなみに、俺の【剣技】のスキルはもちろん★5。ひらがなスキルは直接攻撃系のものがないけど、シヴァニの【剣技】は★3だし、何よりステータスの桁が全く違うから勝負にはならない。
それでも、彼女の気づきに役立てば十分だ。
俺は、だらりと剣を下げる。
「やああああああ!」
気合を入れて突っ込んできたシヴァニの剣を軽く裁いて体勢を崩してから、こつんと肩を叩く。
「あ!」
一瞬で勝負が決したことに驚いた表情を見せたシヴァニだったが、「もう一度!」と叫び開始線に戻った。
「おいおい、黒角が勝っているぞ!」
「緑角が塗角しているんじゃないか? それとも黒角の方か?」
観客席で酒瓶に口をつけながら横になっている鬼人族の声が聞こえた。
塗角とは、角に色をつけて力を隠す方法だ。武人として下に見られることになるが、力が身分を現わすこの国においては行う者は多かった。
シヴァニも顔を赤くする。
「来い!」
だが、シヴァニの角が本当の力を示していることを俺は知っていたから、邪な想いに囚われる必要はないという意味を込めて真っすぐにシヴァニを見てから声をかけた。
「やああああああ!」
再び突っ込んでくるシヴァニ。
だが、さっきとは違い剣は腰だめのままだ。そして、横に跳ね飛んで下から斬り上げるように剣を振る。
俺は、上からシヴァニの剣を地面に叩きつけて、再び肩をこつんと叩いた。
「うっ」
少し強めに剣を叩いたせいか、シヴァニは剣から手を放してしまった。
俺は一歩も動いていない。
「どうする?」
「まだまだ!」
シヴァニが剣を拾い、開始線へと戻った。
セシリアは、黙って端の方に立って見ている。
とりあえず、シヴァニが満足いくまで付き合うしかないか。
俺は、再び剣をだらりとぶら下げて、彼女が向かってくるのを待った。




