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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第三章 天下無双剣闘会

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オレっ子


「おととい来やがれ!!」


 怒号が響く。


「う、うるさい……」


 地面に転がっているのは、どうやら若い女性のようだ。その額から生えている角の色は濃い緑色。人族の冒険者なら、Cランク相当。中堅どころといったところか。

 ただ、色が濃いし、角が生えている場所は額の中央ではない。


 なんとか立ち上がったその少女は、背も高くない。やせ細っているところを見ると、食い倒れなのかもしれない。


 ただ、腰に差している刀は、それなりの業物のようだ。


 そんな少女に怒号を浴びせたのは、茶衣着を着ているところを見ると店の店員なのだろう。腕を組んで冷ややかな目で少女を見下ろしている。


「紛い物(まがいもの)の黒い硬貨の出番はこの国じゃあ千年経ってもないぞ。とっとと国へ帰れ!」


「でも、このお金は使えるって……」


「誰に吹き込まれたのか知らねえが、ヴィルフロンじゃアッシュスキンでしか使えねえ金が通用するはずないだろう!」


 弱弱しい声でうつむいた少女の首筋を店員が掴んだ。


「どうするんだ!? 戸が壊れたのはお前のせいだ。どうやって弁償する? ああ、その黒い金はヴィルフロンじゃ誰も受け取ってくれないからな。女衒の請負でも呼ぶか?」


「そ、そんな……」


 なるほど。状況は分かった。

 アッシュスキンとはダークエルフ族に対する蔑称だ。ただ鬼人族とダークエルフ族はそれなりの交流もあったはずだから、この少女はそんな蔑称を口にするほどの何かをしたのだろう。


 たぶん、態度か。


 まさか本気で女衒の請負を呼ぶわけでもなかろうが、あまりヒートアップするのをこのまま見ているのも気分が良くない。


 俺が足を踏み出そうとしたその時――


「そこまで!」


 隣に立っていたセシリアが大きな声を上げた。


「なんだ! お前――――」


 振り向いた店員は突っかかろうとしたのだろう。だが、途中で言葉を止めていた。

 セシリアの白い角を見ている。


「何があったかは分からないけれど、少女に乱暴は良くないわ」


「い、いえ。ちょっと脅かそうとしただけで……」


 店員は、チラリと俺を見た。

 黒角の俺は、どこからどう見ても白角のお付きにしか見えないだろう。


 俺は小さくため息をついてから、こわれた店の戸に向かった。

 その店の周りには人が集まっている。店の奥からも人が見ているから、このままだと衛兵もくることになるから早く終わらせよう。


 俺はこわれた戸の前で、片手を上げた。


「【ふくげん】!」


 使ったのは、修理をしてくれるスキル。



 ■【ふくげん】使用魔力:1

 直したい対象を元の状態に直すことができるスキル。対象は非生物。魔力を1消費する。



 元の状態は、その壊れる直前の状態を指す。何度も壊れていた場合には、直近の壊れたところが直るだけだし、壊れていないものにはこのスキルは発動しない。


 そして、壊れて地面に散らばった戸が光に包まれると――光が消えるとそこには元通りになった戸が現れた。


「「「「「おおおお」」」」


 周囲で見ていた人々、そして店の中からも感嘆の声が上がったのが聞こえた。


 セシリアも一瞬だけ目を大きくしたが、すぐに平然とした表情に戻る。


「どうかしら、これで?」


 そして銀貨を一枚取り出して、唖然としたままの店員の手に乗せた。


「あと、これは彼女の飲食代。残るようなら迷惑料としてもらえると嬉しいわ。足りないかしら?」


「い、いえ! 十分です、これで。では、失礼します!」


 店員は急いでセシリアに一礼すると、店へと駆け込んでいった。



 ■□■□



「それで……名前は?」


 残された少女を【なおす】を使って治療した後、女将から紹介を受けた店へとやってきた俺たちは個室で夕食を食べていた。


 三枚の大皿を一人でぺろりと平らげた少女は、ようやく人心地ついたのか落ち着きを取り戻していた。


 俺が尋ねると、下を向いた少女が答えた。


「シヴァニ……です」


「無理に丁寧に喋らなくてもいいから。それで?」


「オレは、スヴァルタルで生まれ育ったんだ。ダークエルフの国じゃ、鬼人族は肩身が狭いから剣闘会で名を上げたくてボンヌに来たんだけど……」


 おう、オレっ子だ。


「持ってきた金が使えなかったと?」


「うっ……うん」


「それだけじゃないんじゃないか? あんなに怒らせていたのは?」


「…………」


「私たちは、シヴァニを責めることはしないから大丈夫よ」


 黙ったシヴァニに、セシリアが優しく話しかけた。


「だって……スヴァルタルじゃ、コメ料理は家畜に食べさせていたから……」


 ああなるほど。料理を頼んだら、コメ料理が出てきたから家畜の餌など食えるか、とでも言ったんじゃないかな。

 このボンヌの国ではコメは主食だ。食べ処ではさすがにそれは暴言になる。さらに、文句を言われて突き付けた金がスヴァルタルの硬貨だったから、話がややこしくなったのだろう。


「それで? お米の料理はおいしくなかった?」


「…………反省している」


 そりゃそうだ。大皿三枚分のチャーハンをペロリと平らげたんだし。

 それでもちゃんと、自分が悪いことをしたと理解して、謝罪の言葉を口にできるなら大丈夫だろう。


「オーケー、じゃあ後で、あの店にちゃんと謝ってくるように」


「う、うん」


「それと、お金が使えなくて困っているんだよね?」


「うん」


「じゃあ、俺たちが両替してあげよう。持ってきたお金はスヴァルタルだと、どれくらいの期間、生活できそうかな?」


「え?生活? オレが持ってきたのは……」


 ゴソゴソとあづま袋から、巾着を取り出した。


「うーんと、一人暮らしなら半年は生活できるかも?」


「わかった」


 そして俺は、【しゅうのう】から袋を引っ張り出した。

 中には、一人が宿に泊まりながらでも一年間は生活できる硬貨が入っている。


 ピクシー族の女王から、なんだかんだいいながら、旅立つときにこのボンヌで屋敷が買えるぐらいの報酬は貰っていたからね。これぐらいはどうってことない。


「これって……」


「大事に使えば、普通の宿に泊まりながら一年は生活できるよ。なくさないように気を付けて欲しいけれど」


「いいの?」


 少し上目遣いになるシヴァニ。

 こうして見ていると、只の可愛い少女にしか見えない。


「ああ。剣闘会までまだ少し時間があるから、出場するならしっかり訓練した方がいいな。それと――」


 俺は、シヴァニを鑑定した結果、一つだけアドバイスを渡すことにした。



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