【閑話】めぐり逢い(前編)
side ラレーヌ(ピクシー族の女王)
「なんですって?」
ラレーヌは未明に飛び込んできた、ピクシーの衛兵の報告に、眉を上げていた。
「は! 幽玄の森に、人族が突然、現れてございます」
「人族が? どこから現れたというの? どうやって現れたというの?」
「分かりません。現れたのは少年です。また、敵対する意思は見せておらず、ラヴィン様の使いで来たと申しております」
――なんですって? ラヴィン様の使いですって?
思わぬ名を聞いたラレーヌは、少しの間、考えていた。
「――――ラヴィン様の使い、確かにそう言ったのね、その者は?」
「はい」
「……分かったわ。屋敷に連れてきなさい」
「は!」
確かに、幽玄の森に設置された祠は、ラヴィンの現身が転移で訪れる場所だ。
ただ、その来訪は100年に一度。前回、訪れてからまだ数十年しか経過していない。ラヴィンが呪いを受けて――そう、トネリコの木に変貌させられることなど、呪い以外の何物でもなかった――この大陸を離れてから、その来訪間隔が乱れたことなど一度もなかった。
なのに……なぜ?
いや、ならば「ラヴィン様の使い」を名乗る者が現れたのであれば、少なくとも話を聞く必要があるだろう。
ラレーヌは、優し気に微笑むラヴィンの顔を思い出していた。
■□■□
「ルイ、と言います」
――幼い
ラレーヌは、ルイの第一印象を、そう思った。
賢そうな顔つきだが、体が精神に追いついていない、とでも言えばよいだろうか……
だが、その目に宿る光だけは、年齢を感じさせない。
しばらくの間、ルイを見つめていたラレーヌは、やがてゆっくりとルイに声をかけた。
「――――ラヴィン様の使い、と聞きましたが?」
「はい。僕はある島で、ラヴィン様と出会いました――――」
そして、ルイと名乗る少年が語った話は、ラレーヌにとって信じられないものであったが、なぜか妙に納得はできた。
■□■□
「――――そう。ラヴィン様は身罷られたのですね」
「はい」
細かな部分についてはルイも口が重くなっているようだが、どうやらラヴィンは、ルイを助けるためにこの世界の輪廻に身を委ねたようだ。
異世人でなおかつ尋常ならぬ力を持ったラヴィンならば、いずれ、その魂は復活するのだろう。
そして、ラヴィンと同じ異世人であるルイも、その復活を待ち望んでいるように思える。
「ルイは、ラヴィン様から何を託されたのですか?」
「何も」
「何も? 託されていない?」
「いえ、師匠からは――ラヴィン様からはこの世界で生きていくための術を学ば差せていただきました。そして、師匠のこの世界の故郷であるこの大陸から世界をめぐりなさい、と」
異世人とはいえ人族はこの大陸では異質な存在だが、ラヴィンと彼女の妹は妙に妖精族たちに馴染んでいた。「世界をめぐりなさい」というその言葉は、ラヴィンが託す言葉らしいとラレーヌは思った。
「それで? ルイはどうしたいのですか?」
「俺は……師匠を――いえ、ラヴィン様の足跡を辿って世界をめぐろうと思っています」
「足跡をめぐる?」
「はい。ラヴィン様が残したものをこの目にしっかりと焼き付けておきたいと思っています」
「そう……ですか」
――めぐり逢い、ね
たぶん、人族の少年、ルイはラヴィンの魂を探し求めようとしているのだろう。
それは、叶うかどうかも分からない望みであることは確かだが、ルイに迷いは見られない。
めぐり逢える何かの確信があるのかもしれない。
ルイが姿勢を正す。
「女王様、一つ、お願いがあります」
「どんな願い?」
「この世界に慣れるまで、しばらく滞在をさせていただけないでしょうか?」
「それは、構わないけれど……ここは妖精族が暮らす大陸よ。あなたのような人族の暮らしとはかけ離れているわ。それでもいいのかしら?」
「はい、構いません。まず、師匠が暮らしていたこの大陸を隅々までめぐろうと思っていますから、この大陸の作法を学びたいと思っています」
「そうなのね」
ラレーヌは考える。
人族の寿命は長くはない。
おそらく、隅々どころか、簡単に主要な都市を歩き回ったとしても、この大陸の国を全て回り終える前にルイの寿命は尽きることになる。
だが……
少なくともルイは、本気で隅々までめぐろうとしているようだ。
――人族じゃない?
だが、ルイのステータスを、そっと【鑑定】のスキルで確認すると、人族であることは確かだ。
名前:ルイ
種別:人族(異世人)
年齢:13歳
性別:男
職業:剣士
レベル:101
攻撃力:2,054
魔力 :1,830
防御力:2,209
精神力:2,105
運 :23
スキル:【剣術(★★)】、【灯り(★)】、【回復(★)】
異世人であること、職業が剣士であること、剣術だけでなく回復のスキルも生えていることから、スタンピード対策で召喚された異世界人であることが分かる。
人族が行う異世界召喚は、勇者や聖女、賢者のような特殊な職業を持たないと、使えないと判断されるようだが、ルイもそれで省かれることになったのだろう。
もっとも、レベルが100を超えていて、ステータスも4桁に乗っているから、成長が乏しかったわけでもなく、おそらく召喚した異世人を、「職業」で判別しているのではないだろうか? 確かに、剣士という職業はありふれている。
ただ……
少し気になることがあるとすれば、ルイが纏う気配だ。
ステータスは低くはないが、現段階で強者のレベルに達してはいない。
だが、女王はなぜかルイを見ていると、冷たい汗が額に浮かぶのを感じていた。
最初は、偽装も考えたが、女王の【鑑定】のスキルは長年使ってきたこともあり、すでに★5のレベルだから、偽装できるとすれば、同じく★5に達した【偽装】系のスキルが必要になる。
だが、ルイのスキルにそれは生えていないし、また、仮に生えていたとしても、年齢からみて★5まで育てられるはずがない。
それに……
異世人に時々現れる特別なスキルもないようだし、そこまで偽装が可能なほどの能力があったならば、召喚された国から追放されることなどあり得ない。
――まあいいでしょう……
女王は、ルイの望みを叶えることにした。
「分かりました。ラヴィン様との関りもお持ちのようですから、あなたを我が国の賓客として迎えます。ゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
女王は、丁寧に頭を下げるルイを、じっと見ていた――――




