銀色の精霊石
ゴッドシープの魔石のような変わった色だが、鈍い銀色ではなく輝くような銀色だった。
「これは?」
「ピクシー族に古くから伝わる精霊石よ」
「精霊石? 何かの精霊が宿っているということ?」
「いえ、精霊が宿っているのではなく、太古の精霊族が使っていたものね」
太古の精霊族が使っていた魔石と言うと、何か神秘的なものを感じる。俺は、何気なく試しに魔力を、ほんの少しだけ流し込んでみた。
スーッ
吸い取られる感覚があるから、どうやら魔力に反応はしている。ということは、魔石のような役割を持っているようだ。
「この石って、どんな効果が?」
「分からないわ。伝承では、光ると何かが起こるらしいけれど、光ったことがないから」
「ちょっと、鑑定してもいいかな?」
「ええ、もちろん」
俺はさっそく、鑑定してみた。
『【かんてい】!』
■■ error ■■
(なるほど……)
表示されない、ということは何かの意味があるということも示している。
『【かんぱ】、この石で何か分かるかな?』
『留、記録は参照できません』
『わかった。ありがとう』
【かんぱ】が「留」と答えて、参照できないということは、「記録がない」ということを示唆しているのではないということだ。おそらく、【かんぱ】が持つアカシックレコードへの閲覧権限が足りないのだろう。
「――わかった。じゃあ、今回の謝礼としてこの石を預からせてもらうよ」
「ううん、預けるのではなく、ルイにあげるわ」
「……え?」
「ええ。私の手元にきてからもう一万年以上の時が経ったから、一度、手元から離してみたいと思っていたの。ルイなら安心して渡せるわ」
「そうか……わかった。じゃあ、遠慮なく受け取っておこうかな」
「そうしてちょうだい」
女王が俺に微笑んだ。
俺はとりあえず、素直に受け取っておくことにした。
もしも、この石が持つ効果が判明して、それがピクシー族に必要だったら、そのとき返しにくればいい。
「ねえ、ルイ」
隣で静かに俺と女王の話を聞いていたセシリアが、声をかけてきた。
「この銀色、って何か意味がないのかしら?」
「銀色?」
「ええ。魔石に銀色はないでしょう?」
「うん」
たぶん、それは間違いない。もちろん、俺たちが知らないだけで……ということはあるかもしれない。実際、ゴッドシープの魔石は鈍い色だけれど、あれは確かに金色でいい。でも、俺が知る各大陸で見聞きしたことの中でも、金色や銀色の魔石が見つかった例はなかった。
「ゴッドシープの魔石って金色だったじゃない?」
「うん」
「この二つの石で何かできないのかしら?」
「……なるほど」
あまり考えていなかったけれど、確かに何かが起こりそうな気もする。
もっとも、何をすればよいのかが分からないけれど……
さっそく、試しに銀色の精霊石と金色の魔石を近づけてみたが、何も反応はしない。
「何も起きないな」
今度は、大きな金色の魔石の上に銀色の精霊石を乗っけてみた。けれど無反応。
「うーん……」
魔力を流し込むと、何かが変わりそうだけれど――特に、銀色の精霊石は俺の魔力を吸い込んだからね――ここで行うのはちょっとまずいだろう。
「ルイ、一緒に持って行っていいわよ。その魔石」
俺が考えこんでいると女王がひらひらと手を振った。
「え? これは依頼の品になると思うけど?」
そう。迷宮の異常について調査を依頼されたわけだから、そこで得られたものは依頼者に渡すことが筋だ。
「そうね。じゃあそれで依頼完了、ということで。そして私からルイへの報酬よ。これも」
「……分かった。じゃあ、これもとりあえず預かっておくことにするよ」
「もしも、何か分かったら教えてね」
「うん」
金色と銀色――その片方は10,000年以上前からこの世界に存在していることが確かなものだ。ゴッドシープについては何も分からないが、この二つが出会ったことは、何かの意味があるように思える。
俺は、二つの魔石を手に取り、しばらくの間、考えていた。
■□■□
「【へんしん】!」
虹色の光が、俺とセシリアの体を包みこむ。
周囲には篝火が炊かれており、その揺らめく火が虹色に混ざり込もうとしているのが見えた。
「「「「「おおおおお!」」」」」
俺たちを見ていたピクシー族から、低い歓声が響いてくる。
そして――――
七色の光が消えると、そこには二人の鬼人族が立っていた。
セシリアは、額に生えている二つの角を興味深く触っている。
「見事ね」
「まあね」
「じゃあ、これを渡しておくわ」
女王から渡されたのは小さな木札。その手形は、フェの国に居住する鬼人族を証明してくれている。
「ありがとう」
「礼を言わなきゃいけないのは私の方よ。迷宮を元に戻してくれたんだし」
女王が笑った。
「それよりも、また尋ねていらっしゃい」
「うん。そうする。何かあったら連絡して」
「ええ。そうさせてもらうわ――セシリアさん」
「は、はい」
突然、女王から声をかけられたセシリアが自分の角から手を放して、急いで姿勢を正した。
「ふふふ。そんな畏まらなくても大丈夫よ。それよりも、ルイと一緒に行動するなら頑張るのよ。先を見る目は、必ずしも今を見る目の延長線上にあるわけじゃないわ。でも今を見る目は先を見る目の前に必ず存在しているの。分かるかしら?」
(先を見る目? 今を見る目?)
言っている言葉は分かるが、そこに何の意味を持たせようとしているのかが分からない。だが、セシリアは女王の言葉で何かに気がついたようだ。
僅かに逡巡したあとで、しっかりと頷いた。
「ありがとうございます。頑張ります」
俺には、何を頑張ろうとしているのか分からないが、セシリアが満足そうな顔をしているから、まあいいか。
「じゃあ、女王様。何かあれば連絡を」
「ええ、そうさせてもらうわ。ルイとセシリアも、平穏な旅が続けられることを祈っておくわ」
そして俺とセシリアは手を振って、館をあとにした。
■□■□
ルイとセシリアの姿が、夜明け前の暁の中に溶け込むように消えていくのを見送った女王は、ふと小さなため息をついていた。
「めぐり逢い……ね」
その言葉には、まず「周囲を巡って出会う」という意味がある。おそらくルイは、それを目指しているのだろう。
だが、「あれこれと遍歴したあとで思いがけず出会う」というもう一つの意味があることを彼は知っているのだろうか?
女王は、ルイがこの大陸を最初に訪れた時のことを思い出していた――――




